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小説・クロスステッチ第2部 <完>
21.ふたつの鼓動 ~ 22.美しき花、あとがき


クロスステッチ 第二部 21.ふたつの鼓動 06

2010.12.10  *Edit 

 雅春はブレスレットとネックレスをドレッサーの引出しに
しまうと、涙ぐんでいる理子の隣に寝そべり、抱き寄せた。
「先生…、ひどい…」
 結婚したとは言っても、昼間は顔を見る事さえ叶わない。
 寂しいと感じた時、いつもブレスとネックレスが
理子の心を慰めてくれた。
 揺れるMと小さなダイヤに、ときめきと平安を感じていた。
「理子…、俺、君の悪夢の話しや今日の事を聞いて、
ふと思ったんだよ」
 雅春は低くて深い声で、理子の髪を撫でながら話しだした。
 いきなり当て身を当てられて、アバートの一室に連れ込まれ、
手足を縛られてレイプされそうになった。その事は確かに
酷くショッキングな出来ごとだったに違いない。だが、
撮影されたビデオで見た理子の様子や、その後の事情聴取の
話しを聞いていて、そんな抜き差しならぬ状況でありながら、
理子は冷静であった事を感じさせられた。
 それに、殴打はされたが、性的な行為にまでは及ばれていない。
渕田の事件の時の方が、余程、恐怖を感じていたと思うのだった。
 実際、目覚めた理子は思いの外、冷静だったし、恐怖心に
苛まれてはいなかった。それが徐々に苛まれるようになったのは、
ブレスレットとペンダントを奪われた事を知った時から
だったように思える。
 2人の愛の象徴。
 ずっと理子のそばに在って、半ばお守り化していたとも言える。
 夏に別居した時、理子はそれらを自ら外して仕舞っていた。
 だからこそ、再び雅春の許に戻った時、外していた事を後悔し、
もう決して外すまいと心に誓っていたのだった。これを外すと
言う事は、二人の愛を否定することにもなる。そんな風に
思うようになったのでは無いのか。
 雅春との愛を責め、別れるように迫って来る大勢の手が
求めているのは、ペンダントとブレスレット。それを
奪われる事に大きな恐怖を感じ、目を覚まして奪われて
いない事を確認して安堵している。
 恐怖を感じているのは、レイプされそうになった事ではなく、
二人の愛の象徴を奪われそうになる事なのだ。
「君が必死で俺達の愛を守ろうとしてくれている事には、
喜びを感じている。だけど、愛とは本来、形の無いものだ。
形は無いが、確かに存在している。君のここと、俺のここに」
 雅春はそう言って、互いの心臓に指を当てた。
「ペンダントとブレスレットを失っても、愛は変わらない。
確かにここに存在する。だから君は、あの2つが奪われる事に
恐怖を感じる必要なんて無いんだよ」
 涙がこぼれてくる。
 先生の言う通りだ。
 でも……。
 両思いになって、初めて2人で過ごしたクリスマスの日。
 綺麗なペンダントを雅春の手で首に飾られて、理子は
深く感動した。震える程、大好きな男性からのプレゼントは、
雅春が思うよりも、理子の心の中で大きな存在となったのだった。
しかも、「俺の身代わりとして」との言葉が、
更にその存在感を増した。
 いつでもずっと、理子と共にあった。
 そして、2人の愛の過程をずっと見続けて来たのだ。
 だから……。
 失いたくない。
 先生と同じくらいに、失いたくない。
「先生……、私…、あれが無いと…」
 理子の頬を伝う涙を、雅春は指で拭った。
「理子。何もあれが失くなるわけじゃない。暫くは大切に
仕舞っておくだけだ。だから、そんなに泣くな」
「だって……」
「なぁ…。君はあれが無いと、生きていけないのか?
君にとって一番大切なのは、何なんだ?」
 雅春の問いかけに、理子は濡れた瞳で雅春の顔を見た。
 心配そうな表情に、理子は冷静になってきた。
「俺は、君さえ居てくれれば何もいらない。君を本当に
失いそうになった時、俺は過去の自分の過ちをつくづく
感じたんだ。そして、本当に一番大切なのは君だって事を、
心底思い知らされた。自分の思いが強すぎて、君に無理を
強い続けていた事を後悔したよ。そして、くだらない嫉妬で
君を縛り付けていた事も」
 理子は、帰宅の道すがら、志水から、事件の日の、
自分が検査中の時のみんなの様子を聞かされたのだった。
「あの時、一番辛い思いをしたのは、あの人だったんだよ」
 と志水に言われて、理子は胸に焼け付く程の痛みを感じた。
 あの時、目覚めて真っ先に欲したのは雅春だった。
 理子の手を握り、迷子になった幼子がやっと母親に
逢えた時のような、そんな情けない顔をして涙を滴らせている
雅春を見て、かけがえのない人だと胸が締め付けれた。
 何にも代えがたい、ただ一人の愛する人。
「先生……、ごめんなさい。私にとっての一番は、
先生よ。先生だけ…」
 理子の言葉に、雅春は嬉しそうに笑った。
「なら、大丈夫だ。ペンダントとブレスレットが無くても、
君は平気だ。何故なら、君の心の中には、いつだって
俺がいるんだから」
 雅春はそう言うと、唇を重ねてきた。
 薄くて柔らかい唇が優しく合わさり、そっと舌が口の中に
侵入してきた。理子はそれを受け止めるように、
そっと舌を動かした。舌先が触れあう。
 雅春の指が、理子の寝巻の前ボタンを1つずつ外しだした。
これまでは3,4つの所で止まっていた指が、更に下まで進み、
全て外された。唇を外し、そっと前を開かれて、部屋の空気が
理子の体に直に触れた。暖かくくるむ物が無くなって、
理子はいつもこの瞬間、頼りないような不安な気持ちになる。
 雅春は自分の着ている物を素早く取ると、理子の裸体を
抱きしめた。体が密着して理子の唇から切ない吐息が洩れた。
 久しぶりのぬくもり…。
 雅春の足が理子の足に絡まってきて、熱く滾ったものが
理子に当たる。それが酷く悩ましくて、体が芯から火照って
来るのだった。
「理子…、怖くないか?」
 低い声が耳元で囁いた。
 理子は黙って頷いた。
 こうして、しっかりと抱きしめられている事が心地良い。
 雅春の体を全身に感じて、その熱い体から熱い想いが
理子の体に浸透してくるような気がした。
「君の鼓動を感じるよ…」
「私も先生の鼓動を感じる…」
 理子を抱きしめていた手が、そっと動いて理子の体を
確かめるように滑ってゆく。薄い唇がその後を追うように
体中を這い、理子はゆったりとした川をゴンドラに乗って
楽しむように恍惚とした。
 徐々に高まってくる。さざ波が立ち、やがて大きな波と
なって寄せたと思うと曳いてゆく。それを何度も繰り返す。
 体中の全てを隈なく愛されて、最後に貫かれた時、
自分の中に雅春の存在をはっきりと感じたのだった。
 いつだって、ずっとここにいた。ずっと理子の中で
息づいていた。どんな時でも、どこにいても。
何があっても……。
 深い闇が一瞬にして払われて、眩しい光の中へ
出て来たような感覚を覚えた。
この光は、きっと愛だ。
先生と私の……。
怖いものなんて、何も無い。
この光さえあれば。
共に果て、優しい余韻に浸りながら、雅春の上に抱かれて
その心臓の鼓動をうっとりと聞いていた。
力強く、そして激しく鳴っていた。その強い想いを
主張するように。
「理子…、ありがとう」
 頭上から降って来たその言葉に驚いて、理子が見上げると、
雅春は深い眼差しで、
「愛してる」
 と言った。
 感謝の言葉と愛の言葉、そしてその眼差しが理子の心に
深く突き刺さる。
 以前にも増して、人間として男として深くなったことを
はっきりと感じた。
「もう君は大丈夫だ。もし不安に襲われるような事があったら、
自分の中の俺を感じるんだ。君の中には、必ず俺がいる。
誰にも奪う事のできない俺が」
「先生…、ありがとう。私も愛してる…」
 理子は万感の思いを込めた。それを受けて、この上なく
幸福そうな笑みが雅春の顔に浮かんだ。その笑顔に魂が
吸い取られるような思いを感じた。
 もう私は大丈夫だ。
 理子は確信した。
 何も畏れることは無い。
 自分の全てを受け止め、受け入れてくれるこの人の愛が
ある限り、どんな苦難にも立ち向かって行ける。
 愛の前では全ては無効。
 ふと、その言葉が思い出された。
 なんて含蓄のある言葉なんだろう。
 誰も、私達の愛を邪魔する事なんてできないんだ。
 邪魔をされても、私達は揺るがない。
 理子は、まだ火照る体を雅春の逞しい体に密着させたまま、
幸せを噛みしめたのだった。



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