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小説・クロスステッチ第2部 <完>
21.ふたつの鼓動 ~ 22.美しき花、あとがき


クロスステッチ 第二部 21.ふたつの鼓動 04

2010.12.09  *Edit 

 いつものように、みんなと共に昼食を摂りにカフェに向かった。
 理子は何も考えていなかった。
 何故ならそれは、ずっと毎日続いてきた日常だったからだ。
 いつもの、一連の行動の流れに過ぎない。
 授業が終わり、荷物を鞄に入れて、みんなと共に教室を出る。
そのまま取りとめの無いお喋りに興じながら、足は無意識に
カフェへと向かっている。カフェの建物に入るまで、
何の変化も無かった。だが一歩足を踏み入れた瞬間に、
理子は体がざわつく感覚を覚えた。
 いやだ……。
 頭に浮かんだ言葉だ。
 そうだ。ここはカフェだったんだ。
 無意識だった場所が一気に意識の上に浮上した。
 足がもつれて歩調が遅くなり、周囲の一団から少しずつ
距離が生じている。そんな理子の変化にまず志水が気付いた。
「どうしたの?大丈夫かい?」
 理子は恐る恐る志水を見た。
 そう声を掛けられた、と言う事は、理子の様子が明らかに
変化した事を現している。理子は心配そうな顔をしている
志水に向かって「大丈夫よ」と笑顔を作りながら答えた。
 少し離れたみんなとの距離を詰める。
 心臓の鼓動が増してきている事に気付き、落ち着け、
落ち着けと自身に言い聞かせる。だが、目の先にトイレが
近づいてきた事に気付き、一挙に感情が昂ってくるのを感じた。
「吉住さん」
 林に呼びかけられた。
「顔色が悪いよ。今日は場所を変えた方がいいんじゃない?」
 理子の変化に、林は事件現場に再びやってきた事で理子が
動揺しているのだと思ったようだ。だが、実際は違っていた。
動揺なんてレベルでは無かった。
 興奮して昇った血が、潮が引くように一気に冷めて行くのを
感じた。そして、頭が混乱する。自分の目の前にいる友人達が、
犯人の姿に変貌し、心配して伸びて来た手を強く跳ね返した。
「理子?」
 志水は理子の反応に驚いていた。
 理子は、志水の手を跳ね除けた自分の手首に揺れる
ブレスレットを見て、慌てて首元に手をやり、ネックレスの
存在を確かめた。
 良かった…。有った…。
 そう思って顔を上げたら、トイレの前で、男子達に
囲まれている事に激しい恐怖を覚えた。吐き気が催してきた。
普通ならトイレへ駆け込むところだが、そのトイレが恐怖の
根源だけに駆けこむ事もできない。
 記憶が襲ってきた。
「増山理子さんだよね?」
 神山佑介の人の良さそうな笑顔が迫って来た。
 いや!
 怖い!
 頭を抱えて記憶を追い出そうと必死に首を振る。だが、
そんな抵抗も虚しく、記憶はしつこく理子に纏わり付いてきた。
「理子、大丈夫かい?」
「増山さんっ!」
 志水と林がそんな理子の肩に手を掛けて来たが、
理子は必死で体を揺すって払いのけると、後ずさりした。
「いやっ!そばに来ないで!近寄らないで!」
 先を歩いていたクラスメイト達が、そんな理子達の異変に
気付いて、近寄って来た。
 その様が、理子には夢で見た、みんなが理子を責めながら
迫って来る姿と重なって、更に恐怖が増してきた。
 駄目…!そばに来ないで。お願いだから……。
 理子は涙を流しながら、気を失った。

 消毒薬と薬の匂いを感じた。
 病院?
 そう思って目を開くと、見覚えの無い天井が飛び込んできて、
慌てて跳ね起きる。
「理子、大丈夫?」
 自分の横から聞こえた声に顔を向けると、心配そうな
顔をした美香が座っていた。
「ここは…?」
「保健室よ」
 美香の言葉に、少しだけ安堵した。
「理子、大丈夫?突然倒れたから、びっくりしたわ」
「私…、倒れたの?」
「覚えて無いの?」
 ああ、そうだ。
 カフェのトイレの前で、辛い記憶がフラッシュバック
してきて、たまらく怖くなったんだっけ。
 記憶はそこで消えている。
 気を失ったのか……。
「志水君達が、事故の後遺症だろうって言ってたけど、
どうなの?具合は…」
 事故の後遺症?
 そうか。駅の階段から落ちて頭を強打した事になってたんだ。
 後遺症と言えば、そうかもしれない。
 この1カ月の間に、徐々に良くなってきていると
自覚していたのに、まさか、こんな事になるとは思って
いなかった。
「ごめんね、心配かけて。でも、大丈夫。急に気持ち悪く
なっちゃって…」
 理子は美香に余計な心配をかけないように笑顔を作った。
「病院へは行ってるの?何て言われてるの?」
「病院では、もう心配ないだろうって。でも、念の為に、
明後日の午後、再検査をする事になってるの」
「そう。じゃぁ、今日の事をしっかり伝えないと駄目よ?
何でもなければいいんだけど」
 美香がそう言っているところへ、ガラッと大きな音を
立てて扉が開いたかと思うと、
「理子、大丈夫?」
 と、愛理が駆けこんできた。
「ちょっと、愛理ったら、何騒いでるの?寝てたら
どうするのよ?」
 普段優しい顔をしている美香が、珍しく眉間に
縦皺を寄せて厳しい顔つきになった。
「ごめん、つい慌てちゃって」
 愛理は苦笑すると、近くにあった椅子を持って
美香の隣に置き、座った。
「大丈夫なの?…お昼買ってきたんだけど」
 心配そうな顔をして、購買のビニール袋を持ち上げた。
「ありがとう…」
 理子が倒れた後、志水が理子を背負い、美香と愛理も
一緒に保健室までやってきたと言う。自分が付き添うと
言った志水を追いやって、美香が付き添い、愛理が購買へ
昼食を買いに行った。だから2人とも昼食はまだだった。
「ごめんね。2人で食事してくれて良かったのに…」
「何言ってるの。1人で放っておけるわけないでしょ?
女の子なんだから、いくら仲良しとは言っても男の志水君に
任せるわけにもいかないじゃない」
 愛理がおにぎりを手渡しながら口を少し尖らせ気味に言った。
「だけど理子、大丈夫なの?」
 愛理の問いに微笑みながら頷く。
「そう。驚いたし、心配したよ?」
「ありがとう」
 美香と愛理が理子を心配して、こうしてそばに付いて
くれている事が嬉しかった。この2人といると、
年齢相応の女の子の世界を味わえる。
 高校を卒業するまで、親の締め付けが厳しくて友達との
世界を満喫する事はできなかった。そして、少女らしい
時間を思いきり過ごす事無く雅春と結婚し、なんだか
一挙に大人の世界へ入ってしまったような気がした。
その事に後悔しているわけでは無い。自分が望んだ事だ。
ただ、こうやって女の子らしい2人の友と共にいる時には、
ただの女の子に帰れるのが嬉しいのだった。
 付き合いの悪い自分を、いつも見捨てずに仲良くしてくれる
2人には感謝せずにはいられない。
「ねぇ、理子?試験が終わって冬休みに入ったらさ。
スキー旅行に行かない?」
「スキー旅行?」
 愛理は満面の笑みを浮かべて、楽しそうに話しだした。
「美香の実家の近くにね。大きなスキー場があるんだって。
何て言ったっけ?」
 愛理の問いかけに、「湯沢高原スキー場」と美香が答えた。
「そうそう、それ。理子はスキーはできる?」
 理子は首を横に振った。
「私、スキーってした事無いの」
「ええー?本当に?一度も?」
 2人は酷く驚いていた。
「そんなに驚く事?」
「だって…、家族で行ったりとか、しないの?」
「うん。うちはそういうの、しない家だったし、友達とも
行けなかったし…」
 茶道部の部員でスポーツ好きの女子がいて、みんなで
スキーに行こうと言う話しになった事があったが、
当然の事ながら理子は参加できなかった。
「それなら、余計にいい機会じゃん。美香の家に
泊まれるから宿泊費はゼロよ?美香は地元だから
スキーは得意だって言うし、あたしも結構いけるから
教えてあげるよ。だからさ。一緒に行こう?」
 一緒に行きたい。目の前で瞳を輝かせている愛理を
見ていると、その気持ちは一層強くなる。
「ごめんね。一緒に行きたいのは山々なんだけど、
今回は無理なの…」
「どうしてぇ?」
 愛理の責めるような口調に、理子は少し怯んだ。
そんな理子の様子を見て察したのか、美香が愛理を
たしなめた。
「理子は、まだ病み上がりなんだよ?それに、
主婦でもあるわけなんだし」
「だけど、行くのは来月じゃない。宿の予約をするなら
早く決めないと困るけど、美香の家に泊まるんだから、
今すぐ駄目って結論づけなくてもいいじゃない。
友達と旅行に行くの、先生が許してくれないの?」
 愛理は納得できないと言った態で不服そうに言った。



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