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小説・クロスステッチ第2部 <完>
21.ふたつの鼓動 ~ 22.美しき花、あとがき


クロスステッチ 第二部 21.ふたつの鼓動 02

2010.12.08  *Edit 

 5日から雅春は学校へと出勤し、理子は11日から
大学へ行き出した。
 3日の夕方、旅行から戻り、4日の日は二人でゆっくりと
過ごした。
 二人でノンビリと洗濯や掃除をして、買い物がてらに散歩した。
 手を繋いでゆったりと二人で歩くのは久しぶりだった。
 公園に行き、木のベンチに並んで腰かける。
 凧あげをしている親子づれや、コマ回しをしている風景が
正月らしかった。風が無くて陽射しが暖かく、のどかな空気が
二人を包んでいた。
「疲れて無い?」
 雅春の問いかけに、理子は「はい」と頷いた。
「明日から、俺は学校だけど、君ひとりで平気かな…」
 その言葉に隣の雅春を見上げると、少し不安そうな
表情をしていた。
 あの事件があってから、理子は1人でいた事が無かった。
入院中は博子が、退院してからは、ずっと雅春がそばにいた。
それがとても心地良く、深い安心感を理子にもたらしていたが、
それにも関わらず、夜は悪夢を見ていた。
 1人になったら、昼間でもフラッシュバックに
襲われるのではないか?
 雅春はそれを心配していた。
 理子自身も、心配な事ではあった。だが、少しずつ
自分の気持ちが落ち着きつつあるのを感じている。
「また、母さんに来てもらおうか?」
 その言葉は理子にとっては嬉しい言葉だった。
だが、また甘えても良いのだろうか。
 理子は黙って雅春の顔を見つめたまま逡巡していると、
ふいに雅春が笑顔になり、顔を寄せて唇を重ねて来た。
 場所が場所だけに、戸惑い離れようとした理子の頭を
雅春は押さえ、そのまま引き寄せた。心臓が激しく鼓動する。
雅春のキスは、濃厚だった。そして、それは長く続いた。
 この人のキスはいつも長い。
 いつまで経っても、離してくれない。
 けれど、クリスマスのあの日以来、軽くて短いキスしか
しなくなった。
 こうして濃く長いキスは久しぶりだ。
 そして、恐怖心が湧いてこない事に理子は気付いた。
 だが、場所が公園であると言う事が、息苦しさに拍車をかけて、
理子は雅春の胸を強い力で押しやった。その抵抗を受けて、
雅春の唇と体が理子から離れた。
「理子、大丈夫か?」
 雅春は、理子の抵抗を恐怖心から生まれたものだと
思ったのだろう。心配げに理子の様子を窺っている。
 理子は顔を真っ赤にさせていた。首まで赤い。
「先生ったら、少しは場所を弁えて下さいよ……」
 消え入りそうな声でそう言うと、雅春は安心したように
笑顔になった。
「何だ。心配して損したよ」
「損した?」
 雅春の言葉に、思わず聞き返す。
「そうだよ。そもそも、君がキスして欲しそうな
顔をしてたから、したんだぞ」
「はぁ?」
 どうして、そんな言葉が出てくるのだろう?
「私、そんな顔してませんよ?」
「してたじゃないか。キスして下さいって、顔で言ってたぞ」
 雅春は眉間に力を入れて、少し不満げにそう言った。
「言ってませんって」
 言葉に力が入る。
 お母さんに来てもらうか否か、それを迷っていただけなのに、
何故、キスして欲しい顔をしていたと受け取られたのか、
理子にはさっぱり理解できない。
「大体、ここは公園なんですよ?恥ずかしいじゃないですか。
先生とは感覚がちがうんですから、私がそんな顔を
するわけじゃないじゃないですか」
 顔を赤らめて憮然として言うと、雅春はニヤけ顔になった。
「そうさ。なのに、して欲しそうな顔をしたから、
驚いたし嬉しくなったんだ」
 駄目だ……。
 完全に、誤解している。
 理子の口から溜息が洩れた。
 そんな理子の頬に、雅春は大きな手を当てた。
 ドキリとする。
「大体さ。俺達の最初のキスは公園だったじゃないか」
 低い声が甘かった。胸がキュゥっとするのを感じた。
 確かに、雅春が言う通り、二人の最初のキスは
上野不忍池公園だった。
 あの時は、思いも寄らない展開に、周りの全てが
見えなくなって、完全に舞い上がっていた。
「あの時、君は震えていた……」
「だって……」
 恥ずかしくて思わず目を伏せる。
「相変わらず君は恥ずかしがり屋だけど、キスもエッチも、
随分と馴れたよな」
 理子は拳で軽く雅春の胸を叩いた。
「もう…、こんな所で、そんな事を言わないで下さい」
「そばには、誰もいないよ?」
 雅春が言う通り、聞える範囲内には誰もいない。だが、
少し離れた所には、親子連れが何組もいて、時々こちらに
視線を送ってきているのだった。
「聞いてはいなくても、見られてるじゃないですか。
大体、お正月の昼間から、こんな所でイチャイチャしてる
夫婦なんて、そうそういませんよ?」
 本当に、一緒に暮らしている夫婦でありながら、
何故こんな場所でイチャつく必要があるのだろう。
フレンチキスくらいならまだしも、ディープキスまでする
雅春の無神経さには呆れるばかりだ。
「君が誘うからじゃないか」
 まだそんな事を言う雅春を、理子は睨みつけた。
 だが雅春は、ニッコリと笑うと、理子を抱き寄せて
額に口づけた。
「ごめん…。悩む君の顔が可愛かったから、ついね。
それに、君は自覚はして無かったんだろうが、俺には
求められてるように感じられたんだよ。そして、
試してみたくなった」
 試す?
 試すって何を?
 雅春はその答えを言わないまま、立ち上がった。
「帰ろう」
 手を差しだされて、その手を繋ぐ。
 大きな手が、大きな安堵感を与えてくれた。
「母さんには来てもらおう」
 歩きながら、雅春はそう言った。
「でも、お母さんにもお母さんのご事情があるんじゃ
ないですか?お仕事もあるわけだし」
 昨日、別れたばかりだ。
 年も明けて、矢張り何かと忙しいのではないか。
「そうだな。それならそれで仕方ないが、一応、
話してみてもいいんじゃないのか?駄目もとでさ」
「ほんとに、いいのかな。そこまで甘えて……」
 理子が小さく呟くように言うと、雅春が握っていた手に
力を込めて来た。
「君は遠慮する事は無いんだ。3学期に入ったら、
俺は今まで以上に忙しくなる。帰宅時間も、遅くなる日が
多いと思う。だから、母さんがいてくれた方が、
俺も安心して仕事に打ち込めるんだ」
 そうか。言われてみればその通りだ。
 いよいよ受験シーズンだ。
 去年の事を思い起こせば、その忙しさは容易に想像できる。
 センター試験の初日の夜、雅春から電話が来た。
学校からかけていると聞いて、こんな時間までまだ
学校にいるんだと驚いた。
 それを考えると、これからは夜も雅春の帰宅を待つ時間が
長くなるのだろうし、当然の事ながらその時間は1人きりだ。
普通の状況であるならば、寂しいだけの時間だが、
今はそれに不安が付き纏う。
 帰宅した雅春が早速電話をすると、母の博子は
快く引き受けてくれた。
 その日の夜9時頃、博子は雅人に送られて
2人の家へとやってきたのだった。
「お母さん、すみません。昨日旅行から帰って
落ち着いたばかりだと言うのに」
 恐縮する理子を、博子はそっと抱きしめた。
「そんな事、いいのよ。お母さんの心配はしなくていいの。
理子ちゃんが学校へ行きだしたら、お母さんも
昼間はここから仕事に行くしね」
「通うの、大変じゃありませんか?」
「大丈夫だから。お母さん、また理子ちゃんのそばに
いれるのが嬉しいのよ?」
 理子は博子の腕の中で、優しい言葉を聞いて胸の奥が
熱くなってくるのを感じた。
 旅行中も、ずっと一緒にいた。
 母と姉はとても優しく、とても頼もしかった。そして、
共に過ごす時間は、せつなくなるほど愛おしい時間だった。
 父と、そして兄役にさせられてしまった夫は、
それを優しく見守っていて、その光景は一幅の絵に描かれた
幸せな家族の姿を連想させてくれたのだった。
 そんな幸せな時間が昨日で終わり、いよいよ現実に
引き戻される時が来たが、不安を抱える自分を支えてくれる
家族の存在を身に沁みて感じて、感謝せずにはいられない。
「母さん、すまない。もっと早くに頼めば良かったよ。
昨日まで一緒にいたわけだし」
 息子の言葉に博子は笑う。
「気にしないの。本当なら、自分達の力だけで乗り越えたい
ところだったんでしょうけど、現実が目の前に迫ってきたら
難しそうだって思ったんでしょう?マーは生徒達の
受験だけでも忙しいのに、自分の受験も迫ってるんですものね。
私は頼りにされて、嬉しく思ってるのよ?あなた達が助けを
求めてくるのを待ってたくらいなのよ?だから、安心して」
 親に助けを求めないのが当たり前として育ってきた
理子にとって、博子の真心は万金にも等しいと思う。
自分の母の素子は、親を当てにするなといつも言っていた。
いつまでも親はいない。だからこそ、最初から親を当てにして
ばかりいては自立できない。そういう考えから、
常に子供を突き放してきた。
 その考えは間違ってはいないと思う。いつも親を当てにして
ばかりいるのは良くないだろう。けれども、いざと言う時にも
助けてはくれそうにない程の突き放し方に、孤独を
感じざるを得なかった。
 翌朝、学校へ出勤して行く雅春を2人で見送った後、
そんな自分の思いを博子に話してみた。
「理子ちゃんのお母さんの考え方は、私も間違っては
いないと思うわ」
 博子はゆったりとした口調で、話しを続けた。
「ただね。それは、子供が大人に成長した時の話しであって、
子供のうちはやっぱり無理だと思うの。親や周囲の力を
借りながら成長して、成長の過程で少しずつ周囲の手助けを
借りなくてもやっていけるようになるものよね。それに、
人は一人では生きてはいけない。助けてくれる誰かがいると
思うからこそ、色んな事にも挑戦できるんだと思うし…」
「でも、お母さん…。母が言うように、いつかは別れが
やってくるわけだし、死ぬ時は一人です。助けてくれる人が
誰一人いないって事もあるわけですし…」
 そうだ。助けてくれる人が誰もいない人間も、この世には
たくさんいる筈だ。自分だって、雅春と出会っていなければ、
孤独の中で生きていただろう。
「そうね。色んな状況があるわけだから、強い人間に
なって欲しいと思って、あなたのお母さんは厳しかったんだと
思うわ。でも、一人ではどうにも出来ない事もあるでしょう?
一生懸命頑張っている子供に、時には手を差し伸べてもいいと
思うの。どうにか一人で乗り越えられそうなら必要無いけどね。
親だって、子供に助けて貰ってる事ってたくさんあるのよ?
だから、お互い様なのよ。家族なんだから、
それでいいと思うわよ?」
 「家族」と言う言葉が胸に響く。
「最初からいない事で感じる孤独と、あなたが感じて来た
孤独は違うわね?元々あなたは、寂しがり屋で甘えん坊よね。
だからこそ余計に、寂しく感じてたんじゃないかしら。
だけどそれはもう、終わりよ?」
 理子は博子を見つめた。優しい瞳が理子を抱きしめるように
見ていた。
「私達がそばにいるから。何かあれば、必ずあなたの力になるわ。
あなたのお母さんも、あなたの気持ちを分かってくれたし…。
そして何より、マーがいる。あの子の心は、いつもあなたに
寄り添ってる。だからもう、ひとりぼっちじゃないの」
 優しく、そして力強くそう言われて、理子は体中に
力が漲って来るような気がした。
 何があっても支えてあげる。だから頑張りなさい。
 そんな思いが伝わってくる。
 理子は瞳が潤んで来るのを感じながら、頷くのだった。

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~ Comment ~

Re: ふふふ>OH林檎様 

OH林檎さん♪

お仕事お疲れ様です。ほんとに毎日大変そうですよね。
大事件もひと段落して、これから最終回に向かって、
ゆったり進んで行く感じかなぁ。
最後は、最終回らしい終わり方では、無いかも。。。
色々経験をして、二人して成長してきたって感じですね。

今回は、ちょっとホノボノな感じですが、一端、ちょっと
重くなりますが、でもじきに回復します。
って、ここまで言っていいのか?

ふふふ 

ドラマの最終回を見ているようです。
しかも幸せな結末の…。
私ごとですが、このところ仕事が忙しくて、
心がささくれだっている感じが…。
こういうお話は有難いです。
癒されまくりです。
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