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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 20.絆 07

2010.12.07  *Edit 

 やがて目的地に到着した。
 眺望の良い場所に建つ2階建てのログハウスで、
想像より大きくて理子は驚いた。
 用意してきた食材や荷物を持って中へ入ると、木の香りが
鼻をつく。それがとても心地良く感じられた。横長のフロアで、
左右に上へと続く階段があり、吹き抜けになっている。
目の前に大きな両開きの扉があり、右奥にも何かありそうだった。
雅人に問うと、トイレと洗面所に、風呂場だと言う。
風呂は温泉だそうだ。
 目の前の大きな扉を開けて中へ入ると、中は広いLDKだった。
右側に対面式のキッチンがあった。左壁面はマントルピースに
なっていた。暖炉なんて、生で見るのは初めてだった理子は
目を見張った。
 そして、正面の窓の先にはデッキがあり、その向こうに
真っ青な海が見えた。
 南向きだから陽が燦々と差しこんで、暖かい。
 理子は一面の海を見て、心が洗われて来る気がした。
「冬の海もいいわねぇ」
 涼やかな声でそう言う紫に、理子は頷いた。
 天気が良くて空気が澄み渡り、海も空も青く美しい。
水平線がくっきりしている。
 食材をしまった後、皆で二階へ行く。二階には部屋が
3つ程あり、他に洗面所とトイレもあった。
 一番右端の部屋へ、雅春に誘われて二人で入ろうとしたら
止められた。
「駄目よ~、マー。今回は、男女別で泊まるんだから」
 紫の言葉に、雅春が目を剥いた。
「何でだよー。いくら家族旅行だからって、寝る時くらい
夫婦で寝かせてくれよ」
 雅春の言葉に理子は思わず赤くなった。
「雅春。紫の言う通り、今回は男女別で泊まる。だから
お前は俺と同じ部屋だ。左端だ。その部屋は、女性陣が泊まる」
「ええー?」
 父親の言葉に、雅春は思いきり顔を歪めた。不服そうだ。
だが、そんな息子を尻目に、母の博子と紫が理子の肩を抱いて
右端の部屋へと入ったのだった。それを雅春は唖然とした顔で
見送った。
 呆然としている息子を雅人は促して左端の部屋へと入り、
荷物を置いて階下のリビングへ戻った。
「父さん……」
 行きがかり上、取り敢えず父に従ったが、納得いかない雅春は
父に問いかけた。
「まぁ、いいじゃないか」
 雅人は笑いながら皮張りのソファの上に腰かけたのだった。
 間もなく、女性陣も戻って来た。
 母と姉に挟まれて笑っている理子を見て、雅春は立ち上がった。
「おい、理子。君はいいのか?」
 思わず眉間に力が入る。理子はビクッとして、
そっと母に寄り添った。
「あらあら。何を怖い顔をしているの?理子ちゃんが
怯えてるじゃない」
「そうよー。今回は家族プレイだって、さっきお父さんが
言ったじゃないの」
「ぷ、プレイって…」
 姉の言葉に、どう答えたら良いのか言葉に詰まっていると、
「私達は、これから早速、お風呂に入らせて貰いますからね」
と母が言った。
 言われて3人が、タオルや着替えを持っているのに気付いた。
「…3人で入るの?」
 雅春が思わず問うと「当たり前じゃない。親子姉妹なんだから」
と紫が呆れたような口ぶりで言った。
「理子は、平気なのか?」
 女同士でも恥ずかしいと言っていたのに、一緒に風呂に入るのか。
「何を馬鹿な事を言ってるのよ。ここにいる間は、
あなたと理子は兄妹なんだからね。わかった?」
 紫の言葉に、雅春は仰天した。
「な、何言ってるんだよ」
「家族旅行だって言ったでしょ?この旅行中は、理子ちゃんは
我が家の末娘よ。だから、そのつもりでね。子供じゃないんだから、
兄と妹が一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝るなんて
有り得ないでしょう?わかったわね?」
「ちょ、ちょっと母さん…」
 雅春はうろたえた。家族の言い分は嬉しいが、
それにしてもだ。
 雅春がうろたえた目を理子へ向けると、理子は雅春を見て
「お兄ちゃん」と言ったのだった。
「全く、物分かりの悪い、スケベなお兄ちゃんよねぇ?」
 紫が理子に向かってそう言い、理子は頷いた。
それを見て雅春はショックを受けた。
 そんな雅春に、女3人は愉快そうな笑い声を残して
部屋を出て行った。

「女三人寄ればかしましい、とはよく言ったものだな。
ホントにかしましい」
 呆然と立ちつくしている雅春に、雅人は笑いながらそう言った。
 父の言葉に我に返った雅春は、冷蔵庫から缶ビールを
2本出し、雅人の隣に座って1本を父に手渡した。
 釈然としない思いで、プルトックに指を掛ける。
「若い娘が二人いるって言うのはいいもんだ。こんなに
賑やかな事は、俺達だけの時には無かっただろう」
 しみじみとした声音に、雅春は父の方へ顔を向けた。
「母さんも、紫も、理子ちゃんが大好きだ。勿論、私もだ。
あの子はいい子だ。だからこそ私達は、今回の旅行を
大事にしたいんだよ」
「父さん……」
 雅春は、父の思いが伝わって来る気がした。
「今度の事件…。二人とも辛かっただろう。入院中、
理子ちゃんが何度かうなされていた事は、母さんから
聞いている。あれだけの目に遭ったんだ。当然だろう。
…そして、退院してからも、苦しんでいるんだろう?
そんな理子ちゃんと一緒にいるお前も、辛いんじゃないのか?」
 父の言葉に、雅春は俯いた。
 辛いと言えば辛い。苦しんでいる理子を見ているのが。
 だが、少しずつだが快方に向かっている事も感じている。
「俺さ。できれば、自分だけで理子を回復させてやりたいと
思ってるんだ。知りあってから、こんなに毎日ずっと
一緒にいられるのは初めてなんだよ。…理子も、
退院してからと言うもの、俺の傍をずっと離れようと
しないんだ。だから、冬休み中だけでも、ずっと
寄り添っていてやりたいんだよ」
 雅人はビールを開けると口に付け、咽喉を鳴らして飲みだした。
「美味いな…」と呟いた後、息子の方へ向き直った。
「お前の気持ちはよくわかる。だが、こんな時だからこそ、
お互いに少し距離を置く事も悪くないんじゃないか?
距離を置くと言ったって、別々に過ごすわけじゃない。
一緒である事には変わりないだろう?」
「そうだけどさ……。夜、別々に寝る事に、理子は不安を
覚えないのかな」
 自分の懐で、子猫のように丸まって毎晩寝ているのである。
雅春はそんな理子が寝付くまで、髪や肩を優しく撫で、
時々そっと口づけしたりしている。
「この旅行では、家族として過ごすと言う事を、母さんも
部屋で理子ちゃんに言った筈だ。俺達は何も、お前たちを
引き離そうとしているわけじゃない。だから、理子ちゃんが
どうしても、もっとお前の傍にいたいと言うなら、
…またその方が良さそうだと判断したら、ベタベタしても
構わない。だが今のところ、理子ちゃんも了承したんじゃ
ないのかな。お前の事を『お兄ちゃん』と言ってたしな」
 雅人はそう言って、愉快そうな笑顔を浮かべた。
 雅春は溜息をついた。 
 まさか理子から「お兄ちゃん」と言われるとは。
「まぁ、そう気を落とすな。自然に振る舞えばいいんだよ、
自然にな」
「自然って…。俺が自然に振る舞ったら、理子に
ベタベタになるんだけどな」
 息子の言葉に、父は呆れ顔になるのだった。

 理子は、唖然とした雅春の顔を思い出すと可笑しくて
たまらなかった。
「マーったら、情けない顔してたわね」
 紫が楽しそうな笑顔を向けてきた。その横で、博子も
愉快げに笑っている。
 部屋に入って、今回の旅行について改めて博子と紫から
話しを聞いて、理子はみんなの気持ちに感謝した。
 退院してから、ずっと雅春のそばにいた。
 不安で仕方無かったからだ。
 夢の中で、みんなが自分と先生を引き離そうとする。
 何があっても絶対に離れない。そう固く心に誓っている。
それは、長い夏の心の痛みが深く胸に染みているからだ。
 それでも、起きているうちは、雅春の存在を確認せずには
いられない。そのぬくもりを直に感じていたい。その癖、
気持ちとは裏腹に抱かれる事に抵抗を感じている。
その一方で、自分の中に雅春を感じたい欲求も抱えている。
「何も考えずに、家族として過ごしてみない?」
 博子のその言葉を聞いた時、理子は素直に頷いた。
「理子ちゃんは、マーと知り合ってから、色々あり過ぎて
疲れてるのよ。今は全て終わってるんだから、一度まっさらに
なってみたらいいと思うわよ?」
 義母の言葉が理子の心を軽くした。
「そうよ。この旅行中は、マーは理子のお兄ちゃんで
いいじゃない。欲しかったんでしょ?お兄ちゃんが」
 紫の言葉を受けて思わず笑う。
 そう。お兄ちゃんが欲しかった。カッコ良くて
優しいお兄ちゃんが。
 すぐに自分を家族として受け入れてくれた優しい人達。
 今回は、それに甘えて自然に構えていよう。
 お風呂は家庭風呂より遥かに大きいが、ホテルの大浴場よりは
こじんまりとしていた。理子は矢張り恥ずかしくて、
隠しながら急いで飛び込んだ。
「理子ったら、真っ白で綺麗な体してるのねぇ」
 と紫に言われて、真っ赤になるのだった。
「いえ…。お姉さんの方が、ずっと女らしくて綺麗で素敵です」
 スラッとしていて、無駄な肉がなく、ウエストがキュッと
絞ったように細くて大人の女性らしい魅力的な体をしていると、
理子は思った。
「いいわよね。若いって…」
 と、突然博子がそう言った。
「やだ、お母さんったら。まさか嫉妬してるんじゃ
ないでしょうね?」
 紫の言葉に博子は満面の笑みになって、
「してるに決まってるじゃない」と言った。
「お母さんだって、十分お綺麗だと思いますけど…」
 博子は二人も子供を産んだとは思えない程、
体の線が綺麗だと理子は思った。
「そうよー。お母さんは年より若く見えるし、スタイルも
いいじゃない。年は誰だってとるんだし、若さを羨ましがっても
しょうがないじゃないの」
「私も若い頃は、紫と同じように思ってたわ。年は誰でも
とるものだからって。まぁ、今だってそう思ってるけど、
若い二人を目のあたりにするとね…」
 溜息まじりに、博子はそう言った。
「お母さんのその気もち、わからなくもないわ。だって、
同じ事を私は理子に感じてるんだから」
「ええっ?」
 そんな事を言われて、理子はどう答えたらいいのか言葉に窮した。
「そう思うなら、早くいい人を見つけなさいよ」
 博子がそう娘に言うと、娘はふくれっ面をした。
そんな表情をすると雅春とよく似ている。雅春も時々、
そんな風にふくれっ面をするのだった。
「言うのは簡単よ。でも、仕方ないじゃない。私だって
何も好き好んでいつまでも1人でいるわけじゃないし」
「それなら、いつまでも弟や妹をかまってばかりいない事ね」
「他に相手ができれば、頼まれたって弟妹の面倒なんか見ないわよ」
 そう言って笑う紫の顔に、寂しさを感じるのは気のせいだろうか。
 風呂から上がって身支度を整えてリビングへ入ると、
男二人がキッチンに立って忙しなく食材と格闘していた。
「よぉ。いい湯だったか?」
 驚いている理子に、雅春がそう声をかけた。
いつもの黄色いバンダナに赤いエプロン姿だった。
「夕食の支度は男性陣担当。私達は朝食担当よ」
 博子がそう言って、優しく理子の肩を抱いた。
 雅春が料理上手なのは知っているが、義父の雅人はどうなのだろう。
そう思って目をやると、手慣れた様子でネギを切っている。
「お父さんも、料理できるんですか?」
 理子の言葉に、雅人は笑顔を向けた。
「この中で一番上手いのは私だと思うよ」
 その言葉に、理子以外の全員が吹きだした。それに釣られて、
理子も笑った。
 なんて楽しい家族なのだろう。
 いつも、優しい空気に包まれていると感じる。
 夕食はすき焼きだった。
 美味しそうな牛肉を見て、理子は胸がときめいた。
 すき焼きを最後に食べたのはいつだっただろう?
「さぁ。遠慮しないで食べなさい。たくさん食べて
力を付けないとね」
 雅人がそう言って、自ら器に取り分けてくれて
理子は恐縮する。
「そうだよ。随分痩せて、まだ元に戻って無いからな」
 雅春がそう言って、理子の器に更に肉を追加した。
「あら。女の子を太らす気?」
 紫がそう言うと、「俺、ゴツゴツした女は抱けないから」
と雅春が言ったので、理子は思わず吹きだしそうなるのを
必死で堪えたのだった。どうしてこの人は、こういう事を
平気で言えるのだろう。
「理子ちゃん、大丈夫?」
 吹きだしそうになったので、慌てて飲み込もうとして
目を白黒させている理子の背中を、博子がさすった。
「おい、大丈夫か?まったく何やってるんだよ…」
 そんな理子の様子に雅春は驚いたが、すかさず紫が、
「あなたが変な事を言うからじゃない。ホントにスケベな
お兄ちゃんなんだからっ。ねぇ?理子?」と言った。
 理子は胸をさすりながら、頷いた。
「なんだよ。頷くのかよ」
 責めるような口調で言う。
「だって…。お姉さんの言う通りなんですもの」
 何とか飲み干して楽になったので、理子はそう言った。
「俺は正直に言ったまでなんだけどな」
 苦虫を潰したような顔をしている。
「あなたはちょっと、デリカシーが無さ過ぎよ?
若い女の子の前で口にする事じゃないと思うけど?」
 博子の言葉に、紫も雅人も同意した。
 雅春は家族の顔を見まわしてから、「はい、そうですか」
と仕方なさそうに言った。
「なんか、姉と妹に挟まれるのって、窮屈なものなんだな」
 溜息交じりにそう言って食べだした雅春を見て、理子は
ちょっと可哀想な気がしてきた。だが、そんな理子の視線に
気づいたように理子の方を見た雅春は、とても優しい目を
していた。そして、笑ったのだった。
 理子はその笑顔を見て、心が一杯になってくるのを感じた。


         20.絆  了  21.ふたつの鼓動 へつづく。


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