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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第11章 波紋 第3回

2010.03.20  *Edit 

石坂はいつも柔和で優しい表情をしている。その表情には安心感が
ある。だが、そのせいで本心が見えなくもある。その見えない
本心を探りたい衝動に駆られるのだ。何故そんなに知りたいのだろう。
何故、石坂に興味を覚えるのだろう。
 心当たりが無いわけではない。矢張り理子は大人の男に憧れるのだ。
懐の深い、広くて大きな男に。多少の事には動揺しない、力強くて
優しい男に。何を言っても怒らない、どんな本音も受け止めて
吸い取ってくれる、幼子のように安心して眠らせてくれる、
そんな男を求めているのかもしれない。だから、大人の男に憧れるのだ。
 こんな心持になるのも、やはり育ってきた環境が強く影響しているのか。
 両親との関係・・・。
父親との関係は悪くないと思う。良好とは言い難いが、それは
接する時間が少なかったからだ。父親は子煩悩な人間なので、
理子が幼少の頃の写真を見ると、それは大事そうに理子を抱っこして
写っていた。だが仕事が忙しく、営業職な為に休日もいない事の方が
多い為、遊びに連れて行って貰った記憶が少ない。可愛がられた感覚が
無い。ただ、母親に酷く怒られている時に、その場にいれば助け舟を
出してくれて、それは有難かった。その程度だ。
 結局、両親ともに、甘えさせてはもらっていないのだ。
小さい時から、甘えたいのに甘えられない、そのフラストレーションの
結果なのかもしれない。


 石坂に対しては、異性と言うより、頼れる父、もしくは叔父や
年の離れた兄のように慕いたいのかもしれない。だが、そう考えると、
理子は自分の異性に対する依存度の高さを自覚し、恥じる。
こんな事で本当に自立できるのか。
 理子の中には、いつもそういう葛藤があった。一人の人間として
自立したいと願う強い思いと、頼れる人の懐の中でぬくぬくして
いたい衝動との間で揺れている。
 「もし良かったら、休み中にうちへ遊びに来ないかい?」
 石坂の言葉に驚いた。
 「心配しなくても、妻も居るから大丈夫だよ。妻の留守中に
呼ぶような事はしないから」
 そう言って笑った。
 奥さんか。憧れの先生を射止めて結婚した女性には、ちょっと
興味があった。
 「先生、女生徒を家に呼んだりして大丈夫なんですか?奥さんだって
良い気持ちしないのでは?」
 「大丈夫でしょう。二人きりでなければ。うちは子供がいないから、
妻は喜ぶよ」
 「そうですか。でも、今回は遠慮しておきます」
 「そうかい。残念だなぁ。まぁ、来たくなったらいつでも
遠慮しないで来ていいから」
 「はい、ありがとうございます」
 そうは言ったが、理子は複雑な思いだった。そもそも、家へ
誘われる理由がわからない。
 「じゃぁ、勉強の方は程ほどにね。先はまだ長いから焦らずに」
 「わかりました」
 理子は職員室を後にした。とにかく釈然としない。石坂との
やり取りが理子の心に波紋を呼んだ。

 ゴールデンウィーク初日。いつものように栗山高校の前で増山と
待ち合わせ車に乗り込んだ。車から降りて来た増山は、とても
素敵だった。なんだかどんどん素敵度を増している気がする。
助手席に体を沈めて隣の増山の様子を窺う。こんなに近くにいると
思うと、それだけで動悸が速くなるのだった。前回から一カ月振りだ。
二人のこれまでの間隔からしたら短いのに、随分長い事会って
なかったような気がした。
 「久しぶり、なのかな。まだあれから一カ月だけど・・・」
 と増山が言った。
 「会うだけだったら、毎日会ってますよね」
 「そうだな。でもあれを、会っている、と言えるかどうか」
 「言えないですね。ろくに顔も満足に見れないし」
 「俺からすると、もっと見てくれてもいいのにって思うぞ。
お前は見なさ過ぎじゃないか?」
 「先生だって、見ないじゃないですか」
 「わかるのか?見て無いのに」
 「わかりますよ。私、千里眼なんで」
 「ぷっ、千里眼かよ」
 増山は理子の言葉に笑った。
 「先生、最近、女子生徒相手に鼻を伸ばしてるでしょう。
見えてますよ、ちゃーんと」
 「おっ、妬いてるのか?」
 「嬉しそうに言わないで下さいよ。妬くわけないでしょうに」
 「相変わらずの冷たさだな。あれはな、しょうがないんだ。校長に、
女生徒に冷た過ぎるって言われてな。もう少し優しくしてやれって
注文付けられたんだよ。まぁ、俺も二年目だから大分馴れてきたし」
 そうなのか。それでも嬉しくないのは、やっぱり妬いているのだろうか。
 「新しいクラスはどうだ?」
 「そうですねぇ。率直に言えば、あまり楽しくありません」
 「そうなのか?」
 増山は驚いたように理子の方を見た。
 「先生、ちゃんと前見て運転して下さい」
 理子が冷静に言った。
 「ああ、ごめん。お前まさか、苛めにあったりしてるんじゃ
ないだろうな」
 増山の声は心配そうだ。
 「あら、そう見えます?」
 「いや、見えない」
 「今はまだ無いですね」
 「今はまだって、どういう事だよ」
 増山は内心穏やかでは無くなった。自分のクラスの事だ。
ましてや理子の事なら尚更だ。
 「まだ、先生が心配する段階ではないです。ただ・・・」
 「ただ、何だ」
 「うまく言えません。楽しくないのは、苛めとかは全く関係ないです。
楽しく一緒に休み時間を過ごせる友達が少ないってだけです。だからと
言って、今さら親しい友人を作る気力もないんですよね」
 「気の合うヤツがいないのか?」
 「いますよ。ただ、去年があまりに賑やかで楽しかったから、
そのギャップなのかなぁ」
 「耕介と別れたのが寂しいのか」
 何故、耕介なんだ。
 「そうですねぇ。まぁ、それもあるのかな。あんな面白いヤツ
いませんものね」
 「お前と耕介の周りに人が集まり過ぎて、煩そうにしてたじゃないか。
図書室へ避難したりもして」
 「やっぱり、見てないようで見てたんですね」
 「そりゃそうだ。お前の事だからな。気になる」
 理子は軽く息を吐いた。
 「人って勝手なものですよね。あの時は煩くて、ろくろく本が読めないと
思ってましたけど、静かになったらなったで、今度はどこか物足りない・・・」
 「成る程。確かにそういう事もあるな」
 「先生、私が今一番仲良くしてるのが誰か御存じですか?」
 「岩崎だろう?」
 「やっぱり、ご存じなんですね」
 「知らないわけが無いだろう。俺が妬ける程、お前ら仲良しだろ」
 「あら・・・」
 理子が顔を赤らめた。
 「おい、何赤くなってんだよ。俺マジ妬いてんだけど」
 「先生、ちゃんと前見てくれないと」
 「お前、わざと言ってるな?運転中の俺を甚振(いたぶ)る気か?」
 先生も結構、可愛いんだな、と理子は面白くなった。
 「先生、なんだか可愛いですね」
 「おい、ホント、怒るぞ、いい加減にしないと」
 「すいません。全然他意は無いんです。で、ここから先、怒らないで
真面目に聞いて欲しいんですけど」
 増山は軽く吐息を吐いた。
 「わかった。何なんだ?」
 「岩崎君とは、とても気が合います。話してて楽しいんですけど、
何より落ち着くんです。癒し系な感じかな。何ていうか、彼、
出しゃばりじゃないんですよね。でも、凄く絶妙なタイミングで
話してくるんです。いつも微笑んでる感じがホッとするし、結構、
気遣ってくれると言うか」
 「そうか。そういう話しを聞くと、俺としては内心穏やかでは
いられないな。しかも、あいつは眼鏡をかけてるしな。まぁ、
怒ってはいないから続けてくれ」
怒って無いないが、矢張り妬いてるのだろうか?憮然とした
雰囲気が伝わってくる。
 「それで、ですね。その、私達が会話を始めると邪魔してくる
人間がいるんですよ」
 「茂木か?」
 「いえ。茂木君じゃありません。私の後に座っている渕田君です」
 「渕田?あいつもお前と仲良しじゃないのか?」
 「違います。でも、先生にも、そういう風に見えるんですよね。
そういう誤解がクラスの女子に広がったら、私、苛めに遭うように
なるかもしれません」
 「理子、意味がよくわからないんだが」
 理子は溜息を吐いた。もう少し察してくれると思っていたからだ。
さて。どう話そうか。理子は逡巡した。増山は、理子が話しを
続けるのを黙って待っていた。
 「渕田君って、もてるんですよ。テニス部のエースなので。
派手じゃないから、そんなに目立ってませんけど、人気者です。
その彼が、私にやたらと絡んでくるんです。最初のうちは気にして
なかったんですけど、あまりに頻繁なので、鬱陶しく思ってます。
特に、岩崎君と話してる時は必ず入ってきます。無視すると、
後ろから制服の袖を引っ張るんですよ」
 「すまない。気付かなかった」
 増山は驚いた。仲が良さそうに見えたのは実は錯覚で、渕田の
方が一方的に絡んでいただけだったのか。
 「歴研の部活の時に、茂木君に『あいつは理子に気が有る』って
言われました」
 「そうか。茂木は気付いてたんだな。俺は気付かなかったのに。
情けないな。」
 「先生、やっぱり茂木君の言う通りなんでしょうか」
 「お前の話しを聞く限りでは、そうだと思う」
 「だとしたら、幼稚ですよね、渕田君って」
 「そうだな・・・」
 矢張り、高校の担任ともなると、休み時間は職員室で過ごす為、
教室で何が起こっているかをしっかり把握するのは難しい。自分が
知らない所で理子の身に何が起こっているのだろう。酷く心配になってきた。
 「理子、お前、渕田には彼氏がいる事をちゃんと言っておけ。
渕田の事で他の女子に何か言われた時にも、自分には彼氏が
いるからってちゃんと言えよ」
 「詮索されたら?」
 「最上に話してあるんだろう?それと同じ事を言えばいい」
 「それが噂になっちゃったら、どうしましょう?」
 「その時はその時だ。言いたい奴には言わせておけ」
 「わかりました」
 渕田は果たしてそれで納得するだろうか。彼にはどこか強引さが
感じられる。昔からそう言う所があった。だけど、それなりに人気の
ある男なのに、何故自分に関心を抱くのだろう。
 車は渋滞に巻き込まれていた。連休初日だけに混んでいる。
二人は千葉に向かっていた。昨夜、明日は千葉にある京成バラ園へ
行こうとメールが来たのだった。理子は花の中でバラが一番好きなので、
とても嬉しかったが、二人で外でデートして大丈夫なのだろうか。
 「渋滞ですね」
 と理子が声を掛けた。
 「そうだな。まぁ、予想通りだ」
 「あの、大丈夫なんですか?」
 「多分な。遠いし。人も多いだろうし」
 「私は不安です」
 「大丈夫だよ。サングラスと帽子をかぶるから、そうそうわかるまい」
 「先生、私凄く嬉しいんですけど、でも、どうしてですか?どうして外で?」
 「中が良かったか?」
 増山が妖しく笑った。手が伸びて来て、理子の膝の上に置かれた。
理子はドキッとした。
 「先生、変な事しないで下さいよ」
 「変な事って、どんな事?」
 増山の手は膝の上に置かれたままで、動く事は無かった。
 「え、エッチな事です・・・」
 理子が赤くなりながら言うと、増山は笑った。
 「それなら大丈夫。なんせ車高が低いから、周囲の車から丸見えだ。
だから明るいうちはできない」
 成る程。周囲はワンボックスやトラックばかりだった。だが、
明るいうち、と言う言葉には引っかかる。
 増山は膝に置いた手を外し、理子の肩を自分の方へと抱き寄せると、
自分の体の向きを変えて、口づけをしてきた。いきなりの事に理子は
驚いた。いつも程長い口づけでは無かった。唇を外し、見つめ合う。
車はまだ渋滞で動き出せないでいた。愛する人の顔が、すぐ目の前に
あった。懐かしくて恋しい顔が。この顔を、ずっと見たかった。
増山は理子の頭を撫でると、態勢を元に戻した。
 「すまない。我慢できなくなった」
 増山は前を見てそう言った。
 「やっぱり、うちにしておけば良かったかなぁ~。それだったら、
とっくに二人きりの時間を楽しんでたのになぁ」
 その言葉に理子は赤くなる。
 「車の中だって、二人きりの時間じゃないですか」
 「この空間は二人だけのものだが、周囲は見物人だらけだぞ」
 増山の言葉に、ふと隣の車を見たら、こちらを見てニヤけていた。
見ていたのか。車が動き出したのでホッとした。
 「この休みは、少し外で気晴らしをした方がいいと思ってな。
最近のお前は煮詰まってきてるように思えたんだ」
 「えっ?それって、どういう事ですか?」
 「受験まではまだ長い。3学期に頑張り過ぎたから、少し息切れ
しだしてる。飛ばし過ぎてペースが乱れて来てるんだ。だから
ここでちょっとリフレッシュして、元のペースに戻した方がいい」
 「リフレッシュ・・・」
 「そうだ。だから、お前の好きなバラ園へ連れていってやろうと
思ったんだ。それに、たまには外で恋人らしく過ごしたいしな」
 理子はまた赤くなった。増山の言葉が嬉しかったからだ。
 「先生、私この間、ゆきちゃんから小泉君との事で相談されたんです」
 理子は、ゆきの話しを増山に語った。
 「そうかぁ。最上にとっては辛いだろうが、予想通りって
感じもするよな」
 「それこそ、飛ばし過ぎたんでしょうか?」
 「おっ、いい事言うな。夢中になり過ぎて、太く短くで終わって
しまうことも多々ある。特に男の方はそういう傾向にあるし。
与え過ぎるのは良くない。そういう点では、お前は全然与えて
くれないもんな」
 増山は笑いながら、そう言った。
 「じゃぁ、先生も、与え過ぎたら駄目って事ですか」
 「いやいや、俺は違うから大丈夫。幾らでも与えてくれ」
 理子は不審そうな眼を向けた。増山は敏感にそれを悟って、弁解した。
 「母がよく言ってます。男はやったらそれでお終いだって。興味が
半減するって。だから結婚するまではセックスは絶対にしては
いけないって言われてます。やられ損になるんだそうです」
 「理子のお母さんの言う事は、核心を突いてるよ。だが、
極論でもある。みんながみんな、そうとは限らない。ただ、
それを女性の方から見分けるのは難しいから、慎重に
なるべきかもしれないな」
 「ゆきちゃんと、小泉君の場合はどうなんでしょう?」
 「二人とも高校生の上に初めてだろう?女の子は好きな相手だけに
はまりやすいだろうし、男の方は、好きな相手とセックスする方に
強い興味を覚えるだろう。相手が誰でもいいわけじゃない。だが、
性欲の方が強いだろうな。で、ある程度満たされると、確かに
興味は薄れる。他にやらなきゃならない事があれば、そちらの方に
比重が移るのも自然の流れと言えるかもな」
 「飽きるってことですか?」
 「うーん・・・、好きな相手なら簡単に飽きるって事はないと
思うけど、それまでのように、エッチしたくてたまらないって段階からは
抜けてるだろうからな。まぁ、一番の原因は、やっぱり受験だろう。
いよいよ本腰に入ってきて、付き合ってる余裕が無くなって来たって
ところじゃないか?彼女と逢うのに、ただ自分がやりたい時だけって
わけにもいかないだろうし。ある意味、面倒くさい事が多いからな。
気も使うだろうし。もしかしたら、会ってる時も勉強が気になって
仕方ない状況なのかもしれない。そんな状況で会うのを、相手に
済まないと思ってるのかもしれないし」
 「じゃぁ、ゆきちゃんはどうすればいいんでしょう」
 「難しいな。でも、落ち込んでいても、何もいい事はない。幾ら
会いたいと言った所で、向こうにその気がないんじゃ、どうしようも
ない。しつこくすれば、嫌になるだろうし。そもそもな。最上だって
受験組だろう。今はお互いに勉強を頑張る時期じゃないのか?一緒に
帰れるなら、それで我慢すべきだと俺は思うけどな。互いに励まし合って、
志望校へ合格することに重点を置いた方がいい」
 増山の言う事は尤もだと思う。理子も同じように思った。ただ、
ゆきは、既に相手の気持ちが薄れ始めているように感じている。
こればかりは、小泉本人でなければわからないことだ。
 「お前なら、どうする?例えば、枝本と付き合ってるとしたら」
 「また、仮定ですか」
 「仮定には答えられないってか?」
 「仕方ないですね。お答えしましょうか。・・・もし、私が枝本君と
付き合ってるとしたら、多分、須田先輩の時に近くなるでしょうね。
殆ど会わなくなっちゃうかな」
 「それで平気なのか?お前の今の答えは、枝本を愛していないから
出て来た答えだろう?俺を愛するのと同じように枝本を愛していたと
したら、どうなんだ?」
 『俺を愛するのと同じように』か。理子は増山のそういう言葉に、
胸がいつも熱くなってしまう。先生は情熱家で自信家だな、と思う。
 「そうですね。一緒に帰れるなら、一緒に帰りたいです。向こうが
それすら拒否するようだったら、辛いですね。それから、一緒に
勉強できるなら、したいです。お互いに文系と理系で得意分野が
違いますから、国立を受験するなら助けあえますし、励みにも
なります。でも、一緒に勉強することで集中できないから嫌だと
言われれば、仕方ないです。時々メールで励まし合いながら、
自分は頑張るしかできないです」
 「それで我慢できるか?」
 「我慢するしかないじゃないですか」
 増山はフッと笑った。
 「そうだよな。それがお前のいい所だと思う。結局、
お前は流されないんだ」
 「先生。それは私を買いかぶり過ぎですよ。私だって、いつ
流されるかわからない、危うい所に立っています。今まで
流されなかったからって、これから先も大丈夫だとは言い切れません」
 「それは確かにそうだ。だが、俺は、お前は大丈夫だと思ってる」
 「先生、いつも私を押し流そうとする人の言葉とは思えませんよ」
 「おや。俺は少しもそんなつもりは無いんだけどなぁ」
 「惚(とぼ)けるのが、お上手ですね」
 横からゴーンと拳が飛んできた。頭を小突かれた。
 「痛いなぁ・・・。もう、だから男って嫌いです。口でかなわないと、
暴力で来るんだもん」
 「暴力って、ちょっと小突いただけだろう?大袈裟だな」
 「大袈裟じゃないです。それでも暴力には違わないですよ。先生が
こんなに暴力的とは知りませんでした。これじゃぁ、結婚
してからも心配です」
 「お前が減らず口を叩くからじゃないか。そもそも真面目な
話しをしてるのに茶化すお前が悪い」
 「私、茶化したつもりは無いですけど」
 理子はそう言うと、外を見た。なんだか、あまり気分が良くない。
自分が一生懸命に踏みとどまろうと努力しているのに、その危うさを
わからずに大丈夫だと信じてくれているのが気に入らないのかも
しれない。本当に、流されてしまえたら、どんなに楽だろう。
でもそうしたら、その先にあるのは一体何なのだろうか。
 黙っている理子に、増山は話しかけて来なかった。車の中に沈黙が
流れる。だがそれは、別段不快なものでは無かった。
かえって、心が落ち着いてきた。

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