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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 20.絆 05

2010.12.06  *Edit 

 心臓の鼓動が激しく脈打ち、音を立てている。
 息が荒く、胸が苦しい。
 理子はハァハァと肩で息をしながら、思わず首に手をやった。
それから左手を確認する。
 良かった…。夢だった…。
「理子……?」
 突然、ガバリと跳ね起きた理子に気付いて、
雅春が目を覚ましたようだ。
「理子、どうしたんだ?」
 雅春は起き上がると、理子の肩をそっと抱いた。
「先生……」
 理子は雅春に抱きついた。目から涙が零れていた。
「怖い夢を、見たのか?」
 雅春は優しく理子の頭を撫でながら、そう訊ねた。
「先生…、みんなが…、みんなが私を、責めるの…。怖い…。
最後にあの人が出てきて…、ネックレスを……」
 理子は泣きながらそう言った。
 先生の許に戻って来たと言うのに。
 安心して眠っていた筈なのに。
 どうして、こんな夢を見るのか。
 まだ心臓の鼓動が激しい。
 私は一体、どうしたらいいのだろう。
「理子…。君は悪く無い。何も悪く無いんだ。誰に対しても、
負い目を感じる必要はない。俺がそばにいる。俺が君を守る。
だから、安心するんだ…」
 雅春の低くて優しい声が、理子の心に沁みわたって来る。
 広くて暖かい胸。
 大きな手が理子を優しく撫でる。
 甘い吐息が髪を僅かに揺らす。
 心が少しずつ凪いでゆくのを感じた。
 雅春の腕の中は心地良かった。
 こうしていつでも自分を優しく抱きしめてくれるのが
何より嬉しい。
 理子の息が静かになった頃、そっとベッドに横たえられた。
 優しい口許が、理子の唇に合わさった。
 軽く重なった唇はすぐに離れた。
 そしてその唇は、理子の頬を伝い、優しく耳朶に触れた。
 その刹那、胸がキュッとした。
 優しい唇は首筋を這い、やがて首元に到達した。
 雅春の手が理子の寝巻のボタンにかかり、外しだす。
「先生…?」
 戸惑う理子に、「大丈夫だよ」と雅春は優しく言った。
 雅春はボタンを3つ程外しただけで、理子の胸元に優しく
何度も口づける。
「君が好きだ…」
 熱い吐息が理子の胸元を撫でた。
 切ない思いが湧いてくる。
 雅春は顔を上げると、理子のボタンを直し、
そっと唇に唇を寄せた。
 そして見つめ合う。
「先生……」
 理子の恐怖を慮って、抱いて来ない雅春に、矢張り済まないと
思うのだった。これまでの事を考えると、我慢しているのは
辛いに違いない。
「理子…。心配するな。俺は大丈夫だから。焦らなくたって、
君が俺のものである事に変わりはないんだ。だから、少しずつ
慣らしていこう。今日は君の体にキスできて、俺は感激してるんだ。
滑らかな君の肌に触れる事ができて、凄く嬉しいよ。
君も、怖くなかっただろう?」
 理子は頷いた。
「君は、俺のものだ。何があっても、それは変わらない。
それと同時に、俺も君のものであるんだ。俺達を引き裂こうと
する奴を、俺は許さない。だから、安心するんだ。そして、
恐怖に打ち勝って欲しい。自分の敵は自分なんだ。自分自身に
勝つしかない。俺は君を守り、サポートしてやる事はできるが、
最終的な決定権は君自身にある」
 心配げな瞳の奥に、強い願いが込められていると理子は感じた。
 先生の言う通りだ。
 結局は自分自身の問題だ。
「君は、あんな絶望的な状況にありながらも、必死に最後まで
戦った。俺はそんな君を尊敬している。君が諦めなかったのは、
俺への愛の為だろう?その愛を、最後まで貫いて欲しいんだ。
俺は君を信じてる。決して負けやしないって」
「先生……」
 理子は雅春に抱きついた。
「先生、ありがとう…。私、負けない。…先生を、愛してるから、
だから、負けないから」
 雅春は理子を優しく抱きしめると、「わかってるよ…」と
囁いたのだった。

 雅春は理子にそうは言ったものの、内心ではどうにも
してやれない自分を悔しく思っていた。それに何より理子が
可哀想でたまらない。
 そもそもの原因は自分だ。自分の愚かな行いのせいで、
理子が酷い目に遭ったのだから、どうしても自分を責めてしまう。
 おまけにこうして、悪夢に苛まれて苦しんでいる。
 一体どうしたら、この苦しみから理子を救ってやれるのか。
 時々見せる、虚ろな目。
 そんな目を見るのが辛かった。
 何の曇りも無い美しい瞳が、時々恐怖に彩られる。
 雅春は共に過ごす時間の中で、何度も理子を抱きしめ、
頭を撫で、色んな場所に優しく口づけする。
 昼間は二人で勉強や仕事に打ち込んだ。
「先生のそばにいたい」
 理子のその言葉に、雅春は自分の部屋で勉強させた。
 理子はソファの前にあるガラステーブルの上にノートパソコンを
置き、勉強道具一式を広げて勉強するようになった。
 冬休みで良かったと雅春は思う。
 こうして毎日、ずっと一緒にいられるのは、二人が出会ってから
初めての事だ。こんな状況で無ければ、どんなに嬉しく楽しい
毎日だった事だろう。だが、こんな状態の理子を1人にしては、
安心して通勤もできない。
 学校が始まるのは1月8日からだが、教師達は5日から出勤だ。
それまでに少し落ち着いてくれればと思うばかりだ。
「レポートの方はどうだい?」
 熱心にキーボードを叩いている理子に、訊ねてみた。
 雅春は同じ部屋で勉強していて、理子のキーボードを
打つ速さに驚いた。まさにブラインドタッチで、話す速度より
速い。その事を指摘したら、理子は頬を染めた。
 独学だと言う。手は基本のポジションに常にあり、
指は自由自在にどこへでも飛ぶ。雅春自身も数多くのレポートを
パソコンで作成して来たから、それなりに速い方だと
自負していたが、理子の速さには到底及ばない。
「この間の料理の話しじゃないですけど、好きこそ物の
上手なれってヤツですよ。キーボードを叩くのが好きなんです。
だから、好きな歌手の歌詞とかを入力したりとかしている内に
馴れて速くなったんです」
 確かに、好きと言う気持ちは大きいだろう。単に歌詞を
入力しているだけで、こんなに速くなるとは思えない。
 雅春からレポートについて問われた理子は、
手を止めて顔を上げた。
「なんとか…」
 そう言って笑った顔が可愛い。
「見せて貰っても、いいかな」
 雅春の言葉に理子はにっこりと笑うと、
「どうぞ」と言って、ソファに腰かけた。
 そんな理子を意外に思う。恥ずかしがるかと思っていたからだ。
 雅春は理子の隣に座ると、パソコンを覗いた。
 ウィンドウが幾つも開いているが、メインに開いているのは
ワードだった。まだ書きかけだが、雅春はその内容を見て感心した。
「良く書けてるな……」
 思わずそう呟く。
「本当ですか?」
 どこか不安げな声に理子の顔を見ると、疑わしそうな顔を
しているので雅春は笑った。
「俺はお世辞は言わないよ。本人の為にならないからな」
 その言葉に、理子は安堵の表情を浮かべた。
「そうですよね。先生は正直者なんですものね」
 はにかむような笑顔でそう言う理子が愛しくて、
思わずその頬に触れた。
 その瞬間、理子がビクリと体を震わせた。
「理子……」
 雅春の呼びかけに理子は呟くように「はい…」と答えた。
「キスしても、いいか?」
 理子は一瞬目を見開いた後、頬を染めて目を閉じた。
「もし…途中で怖いと思ったら、俺を押してくれ」
 雅春の言葉に、理子は閉じていた瞼を開いた。
「先生……」
 驚いた顔をしている。
「我慢する必要は無い。俺も無理をするつもりは無いし。
だから俺に遠慮する事はないんだぞ?」
 理子の瞳が揺れた。そして見る間に涙が溢れてきた。
その涙が、頬に当てている雅春の手に伝わって来た。
「理子…」
 いきなり涙を流す理子に雅春は驚いた。余計な事を
言ってしまったのだろうか。
「先生が好きです…。だから…、先生の全てを受け入れたい…。
それなのに…」
 雅春は理子の涙を手で拭うと、唇を寄せた。
 ふっくらとした唇を軽く吸って、すぐに離れる。
「理子…。俺は君のその気持ちだけでも十分嬉しく思ってる。
俺の全てを受け入れたいと思ってくれてるってだけで、
心は満ちて来る。君に愛されてるって事は、よく分かってるんだ。
…だから、そんなに悲しまないでくれないか?」
「でも先生…。先生に…、我慢を強いているのが…申し訳無くて…」
 雅春は再び理子の唇に口づけた。
「俺は、平気だよ。…何故なら、君を愛してるから」
「先生…」
「セックスだけが、全てじゃない。…なんて、
俺の言葉じゃ信憑性がないかな」
 雅春は照れくさそうに笑った。


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