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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 20.絆 04

2010.12.05  *Edit 

 翌日のクリスマスの日、二人は横浜のコスモワールドへ
遊びに行った。クリスマスだけに、カップルが多かった。
 理子は横浜の街が好きだから、ここへは何度も来た事は
あるものの、遊園地では遊んだ事は無かった。お金が
無かったからだ。遊園地の類は、就学前の小さい時、
つまり妹が生まれる前の横浜に住んでいた時に何度か
連れて行って貰った事しか無い。
「じゃぁ、ディズニーランドにも行った事が無いのか?」
 理子の話しを聞いて、雅春は驚いた顔をしてそう訊いた。
 理子はにっこり笑って「ありません」と答えた。
 そんな理子を見て、雅春は軽く溜息を吐いた。
 考えてみれば、あの母親だ。娯楽施設へ連れて行くとは
思えない。また、小遣いが少ないから、友達と行こうと思っても
交通費だけでも足りないだろう。
 旅行だって、年に1,2回、伊豆の保養所へ行く程度なのだから、
理子の行動範囲は非常に狭かったと言える。
「じゃぁ、春休みに、ディズニーランドに一緒に行こう」
 雅春は理子を抱き寄せてそう言った。
 理子は突然抱き寄せられてドキリとした。カップルが多いから
思う程は目立たないだろうが、人前だ。この人の事だから、
このままキスでもしかねない。なんせ、羞恥心に欠けて人目を
気にしないのだから。
「先生…、嬉しいけど、春休みってすっごく混むって聞きますよ?」
 雅春の広い胸の中で、速くなる鼓動を感じながら、
理子はそう言った。
 雅春は理子の肩を掴んで、自分の体から引き離した。
驚いて見上げると、眉間に皺を寄せている。
「行きたくないの?」
 憮然とした態度でそう言った。
 また怒ったのか。
「先生の、怒りんぼう…」
 理子は不満げに呟いた。そんな理子の顔を見て、
雅春の表情は緩んだ。
「怒ってなんか無いよ。ただ君が水を差すような事を言うからさ」
「ごめんなさい。先生が連れて行ってくれる所だったら、
私はどこでも嬉しいです」
 理子の言葉に雅春は微笑むと、再び理子を抱き寄せて、
「じゃぁ、行こう」と言った。
「俺は、君を色んな所へ連れて行きたい。君はあまり遠出した事が
無いだろう?でも好奇心旺盛な君の事だから、さぞあちこちへ
行きたいと思ってたんじゃないのかな」
 理子は雅春の腕の中で頷いた。
「色んな所へ行って、目を輝かす君を見たい。そして、二人で
語り合うんだ。きっと楽しいに違いない」
 友達の家ですら泊まった事の無い理子にとっては、
雅春の言葉はまるで宝石のようだ。この人と、色んな所へ
旅する事ができるんだ、と思うと、胸が高まってくる。
同じ物を見て、きっと同じように感じる事ができるだろう。
「差し当たって、春休みはディズニーランド。夏休みは、
今度こそ地中海だな」
「えっ?」
 雅春の言葉に理子は顔を上げた。
「何を驚いてる?」
「だって…」
「今年は残念ながら行けなかった新婚旅行の地中海。来年の夏こそ、
俺は絶対に行くぞ、って思ってるんだけどな」
 思いきり両口角を吊り上げて、頬に笑窪を浮かべている。
そんな雅春を見て、理子も思わず微笑んだ。
「先生…。今年は行けなくなっちゃって、ごめんなさい。
でも来年は、絶対に行きたいです。絶対に…」
「そうか。良かった。来年からはもう俺は教師じゃないから、
時間的な余裕が十分ある。だから、色んな所へ君を連れていける。
今から楽しみだ」
 嬉しそうに言う雅春の顔を、理子は綺麗だな、と思った。
「でも先生。お金の方がちょっと心配になっちゃうんですけど……」
 理子の言葉に、雅春は顔をしかめた。
「君はまた、水を差すような事を言うんだな。君はそんな心配は
しなくていい。黙って俺に着いて来ればいいんだよ」
 理子はムッとした。
「なんだかそれって、横暴じゃないですか?」
「横暴なんかじゃない。君は余計な心配はせずに、
俺に任せておけばいいんだ」
「そうはおっしゃいますけど、働かずに学費を払う
状況なんですから、心配するのも当然じゃないんですか?」
 理子の言葉に雅春は眉間に縦皺を寄せると、
「君の言葉は、俺のプライドを傷つけた」と言って、
そっぽを向いた。
 理子は溜息が出た。
 こういう場合、どうしたら良いのだろう?
 配偶者として、お金の心配をするのはいけない事なのだろうか?
 理子が途方に暮れていると、雅春は理子の手を握って歩き出した。
 見上げると、変わらず仏頂面をしている。
 仕方なく、理子は黙って雅春に従った。
 二人が着いた場所は、観覧車乗り場だった。
 ここの観覧車の乗車時間は、約15分だ。
 雅春が先に乗って、理子に手を差し伸べた。理子はその手を
取って乗り込んだ。二人は向きあって座ったが、互いに視線を
合わせなかった。
 徐々に、ゆっくりと登っていく観覧車の中で、
理子の心は沈んでいた。
 観覧車の中は冬の弱い陽射しの中でも暖かかった。
 少しずつ変わって行く景色の中で、理子はこれからの事を考える。
 一連の事件は取り敢えず終わった。
 だが、その後遺症の如く、自分を襲ってくる恐怖。こんな風に
機嫌を損ねている雅春を見ていると、不安になってくる。
 自分の言動が彼の機嫌を損ねた。
 それは今に始まった事ではない。
 在学中も、それで何度も衝突してきた。
 私、やっぱり生意気過ぎるのかな……。
 自分の言動がもとで争いになるのは、雅春相手だけではない。
母との間も同じだ。
 現実的な問題を口に出しただけだが、相手にとっては、
それはプライドに関わる問題だったようだ。
 折角の二人の時間を、こんな風に費やすのは嫌だった。
 先生も同じように思わないのかな…。
 理子が眼下に見えて来た海をぼんやり見ていると、突然頬に
雅春の手が触れた。
 ビクリとして顔を上げると、寂しそうな微笑みを浮かべている
雅春の顔に遭遇した。
「ごめん…。俺が悪かった。些細な事でヘソを曲げて済まない」
「先生……」
「君の心配は尤もだよ。ただ、俺を信じて欲しいんだ。経済的な
心配を君にさせたくないんだ。これは意地や見栄で言って
るんじゃない。君を困らせるような事はするつもりは無い。
だから安心して、俺に着いて来て欲しいんだ」
「先生…。私の方こそごめんなさい。私、いっつも
怒らせる事ばかり言ってますよね」
「いや、君は悪くないよ。すぐ感情的になる俺の方が悪いんだ」
「でも私、ちょっと生意気過ぎました」
「そんな事は無い。生意気とは違う。当然の心配だ。ただ俺は、
君に不安な思いをさせてる自分に腹が立っただけなんだ」
 雅春の顔は、どこか悔しそうに見えた。
「先生。やっぱり私が悪かったんです。経済的な問題に関しては、
先生は私なんかよりずっとしっかりしてるのに、余計な事を言って
しまいました。でも…、先生に全ておんぶに抱っこの状態で
いいんでしょうか?なんだか、申し訳無いような気がして……」
 理子の言葉に、雅春は優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう。君の気持ちが嬉しいよ。…俺はさ。古臭いと
言われるかもしれないが、男は家族をしっかり守るものだと
思ってる。でも、それと自立力は別問題だ。君はまだ
学生なんだから、今は全て俺におんぶに抱っこで構わない。
だが、卒業後は自分で自立できる力は身に付けて欲しい。
互いに独立した個人として、依存し合い、助け合っていきたいと
思ってる。それでもまぁ、やっぱり経済的な面では心配を
かけたくないけどな」
 照れくさそうな笑みを浮かべた雅春を見て、理子は安堵した。
「わかりました。これからは、経済的な面ではもう心配
しませんから。ただ、困った時には意地を張らずに、ちゃんと
話して下さいね。夫婦なんですから、1人で困らないで下さいよ?」
「わかったよ。奥さん」
 歯を見せて、エクボを浮かべて出て来たその言葉に、
理子は顔を赤らめた。
 愛する人と見る観覧車からの眺めは絶景だった。
 
「裏切り者!」
 深い憎しみに満ちた目が理子を責めていた。
「なんでなの?あたしの気持ちを知ってたくせに、素知らぬ顔で
先生と付き合って!心の中であたしの事を笑ってたんでしょ」
 理子は激しく首を振る。
 違う。笑ってなんかいない。
「友達だと思ってたのにっ。泥棒猫!」
 違う、違う!
「先生には興味が無いって顔してたのに、酷いわよね!」
 美智子の顔が沙耶華の顔に変わった。
 目を真っ赤にして、理子を睨んでいた。
「みんなの気持ちを知っていて、よく先生と付き合えたよね」
 憎々しげにそう言う顔が怖かった。
「みんなの先生を一人占めして、酷い女!」
 学校中の女子が声を揃えてそう叫んだ。
 違う。違うの!
「何が違うって言うのよ。そうやって皆から奪った先生を、
自分から拒絶しておいて、よくそんな澄ました顔をしてられるわね」
 美鈴さん……?
「あの人を私に頂戴。そしたら、あなたを許してあげる」
「さっさと離婚するんだ。その方が身の為だ!」
 多くの女達の前に、神山佑介が立っていた。
 理子は怯えた。
 怖い……。
 皆が迫って来る。
 理子に向かって手を伸ばしていた。
 嫌っ!
 後ずさり、逃げようとするが足が動かない。
 佑介の手が伸びて来て、理子のネックレスに手が掛った。
 嫌っ!やめて!
 先生……、先生…助けて!
 怖い!
 嫌っ!
 ネックレスを引きちぎられる瞬間に、理子は飛び起きた。


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