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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 20.絆 01

2010.12.04  *Edit 

 理子は12月22日に退院した。
 この日はちょうど、クラスの忘年会の日だったが、理子は欠席した。
ずっと授業を休んでいて、この日だけ出席するのには抵抗が
あったからだった。クラスメイト達は何度か病院に見舞いに
来てくれたが、詳しい事情は伏せてある。駅の階段から落ちて
頭を打ったと言う事にしてあった。
 林は富樫と志水と共に見舞いにやってきた。
 病室に入ってきた林は、やるせないような瞳で理子を見て、
それから涙ぐんだのだった。
「林君…。本当にありがとう。助けに来てくれて、凄く助かったし、
嬉しかった」
 理子は万感の思いを込めて、そう言った。本当に、感謝しても
しきれない。彼がいなかったら、今の自分は無かった。再び先生に
逢えたのは、みんな彼のお陰だ。
 林は涙を拭いながら首を振った。
「無事で…良かったよ……。意識の無い君を見た時、もっと早く
助けられなかった事を悔やんだんだ。ほんとに、もっと早く
助けてあげてれば、君は痛い思いをしなくて済んだのに……」
 泣きながらそう言う林を見て、理子は胸が痛んだ。
 どうして皆、そうやって自分を責めるのだろう。
 誰も悪くないのに。
 責められなきゃならないような事など、何ひとつしていないのに。
「林君。林君が助けてくれたから、私、今こうしていられるんだよ?
林君はいい事をしたのに、どうしてそうやって、自分を責めるの?」
 理子の問いかけに、林は眉を寄せた。
「僕は…、もっと早く君を助けられたんじゃないか、って思うんだ…。
君を乗せた車を途中で見失った。それさえ無きゃ、
君は打たれやしなかったのに」
 そう言う林に、理子は笑顔を向けた。
「私が打たれたのは、アイツの唇に噛みついたからよ。だから、
私が悪いの。林君のせいじゃないの。…あいつらを殴り飛ばしてた
林君を、私ちゃんと見てたよ?すっごく、カッコ良かった。
いつもの大人しい林君とは別人みたいだった。喧嘩、強いんだね。
驚いちゃった」
 理子は明るく笑った。助けてくれた林に、悲しい思いを
させたくない。自分を責めるような事をして欲しく無い。そう思った。
「こいつ、族出身だからな」
 横にいた富樫が、そう言って笑顔で林の肩を揺すった。
林は照れ笑いを浮かべた。
 林が見舞いに来る2日程前に、雅春が志水と共に彼の許を
訪れていた。今回の件で礼を言う為だ。雅春にとっても、
彼は大恩人だ。かけがえの無い人を救ってくれた。そして、
そのお陰で、自分も救われた。
 その時に、雅春は林の過去と彼の想いを知った。
 林は荒んだ家庭に育ち、中学に入ってすぐにグレた。
そして中学3年の時に暴走族の仲間になって高校へは進学しなかった。
それからの2年間、どん底にいたと言う。汚い世界に身を置き、
その中にどっぷり浸かり、そして、そこから這い上がって来た
人間だった。
 元々頭は良かったようで、足を洗ってからは猛勉強をして
通信で高校の過程を学び、大検を受けて東大を受験した。
 大学に入って理子と出会った時、林はこれで本当に救われたと
思ったと言った。立ち直り、猛勉強をしてこの大学へ入って本当に
良かった。ここへ入ったから、彼女と出会えた。彼女が他の男の
ものであっても、それは自分には関係のない事だ。
 理子がそこに居てくれるだけで、心が暖まり、洗われる気がする。
そういう存在なんだと言う彼に、雅春の心は打たれたのだった。
 ここにも、彼女に魂を奪われた男がいた。
 彼も、自分や志水と同じだ。
 理子は乾いた心を持った男を惹きつける。そして、癒してくれる。
 自分や志水は彼女を求めて止まないが、林は違った。
ただ居てくれるだけで満足していた。そこに、無償の愛を
感じるのだった。
 彼の瞳は澄んでいた。何の汚れも無い。酷い過去があった事など、
微塵も感じさせない程、ピュアだ。その澄んだ瞳で、
いつも理子を見つめていたのだった。
 理子はその話しを雅春から聞いて、胸の奥がキュゥとするのを感じた。
 林の、何の翳りも無い、澄んで輝く綺麗な瞳を見る度に、
理子自身も心が洗われる思いをしていた。世の中の汚い事を
何一つ知らない、赤ちゃんのような綺麗な瞳だと思っていた。
 この人はどうしてこんなに綺麗な目をしているんだろうと、
彼を見る度にいつも思っていたが、彼はきっと全てを乗り越えて
生まれ変わったのかもしれない。だから、生まれたてのような
美しい目をしているのだろう。
 何故、自分が彼らを癒す存在なのか、理子には分からない。
 雅春は、
「君といると汚い心が全て浄化されるような気がしてくるんだ」と
言ったが、そんな事が有り得る事が信じられない。
 ただ、理子にとっての雅春は、その存在の全てを受け入れる事の
できる、唯一の人間だ。雅春がどんな人間であっても、きっと赦せる。
だから、雅春にとっての自分の存在は浄化的な役割を担っているのも
多少は頷けるが、他の人間に対してはさっぱりだ。
 だから、林にとっての自分の存在の大きさを知って信じられない
思いがした理子だったが、それでもこんな自分が少しでも彼の為に
なっているのなら嬉しいと思う。助けてもらったから、
その気持ちは尚更だった。

 退院した日、雅春と理子のマンションで、増山家と吉住家の
両家族が退院祝いをしてくれた。料理は両家の母と紫の三人が担当した。
 理子はそうとは知らずに雅春と二人で自宅へ帰ってきて、驚いた。
まさにサプライズだった。
「理子、おかえり」
 と、みんなに言われて、涙が湧いてきた。
 何と言っても、自分の両親が雅春の家族と一緒に出迎えて
くれたのが嬉しかった。求めても得られないと諦めていた
家族の温もりを初めて与えて貰ったような気がして、胸が詰まった。
「無事に退院できて、本当に良かった」
 母の素子が安堵した顔で、理子の手を取った。
理子はその手をそっと握った。
 すべすべの、暖かな手だった。
 傍にいるだけで、石鹸の匂いがして、理子は子供の時から、
この母の匂いが大好きだった。こんな風に身近に感じるのは
小さい時以来のような気がする。
 幼い時は、この人に自分の全てを安心して預けていられた。
いつでも守ってくれる、大きな存在だった。
 今、母の匂いを身近に感じて、その頃を思い出す。
 怒っていない時の素子は、とても上品で優しい顔をしている。
だから、学校の友達は、理子の話しを聞くと、信じられないと
言うのだった。
「凄く、優しそうなのに…」
 それがみんなの共通の印象だ。
 実際、根は優しい人ではあった。ただあまりにも、感情の起伏が
激しいだけだ。その変化に家族は着いていけず、疲れるのだった。
 今度の事件で、素子は少しは分かってくれたように思える。
 理子が頼んだ通り、これからは見守ってくれるに違いない。
 余計な指図をされないだけでも、理子にとっては有難い。
ただ、やっぱり、どうしても甘える事はできそうにないと思った。
それはもう、今更どうしようも無い事なのかもしれない。
 理子は促されてリビングに入った。そこには沢山の御馳走が
並べてあって、目を見張った。そして、みんなの嬉しそうな
笑顔を見て、自分は愛されているんだと実感したのだった。

 翌朝、理子は目を覚まして隣を見たら、雅春の姿が無かった。
 えっ?と思い、時計に目をやると6時だった。
 思わずガバっと身を起こす。
 病院生活の流れだろう。腹膜炎で入院して戻って来た初日も、
確か目を覚ましたのは6時頃だった。でもその時には、
雅春はまだ目を覚ます前だった。
 先生は、一体?
 何だか急に不安になった。
 言い知れぬ感情が理子を急きたてる。
 慌てて部屋を出ると、キッチンから灯りが洩れている。
そして、いい匂いが鼻を衝いた。
 もしかして……?
 キッチンをそっと覗くと、赤いエプロンに黄色いバンダナ姿の
雅春が料理をしていた。
「先生……」
 驚いて立っている理子に気付いた雅春が、理子を見て
思いきり笑顔になった。
「よぉ、理子。目が覚めたか。おはよう!よく寝れたかな?」
 八重歯を見せ、エクボを浮かべたその笑顔に、理子の胸は高鳴った。
 普段の、知的で大人っぽい顔が、別人のように幼く可愛くて、
キュンとする笑顔だ。
 理子は思わず、言葉も出ないまま雅春のそばに行って、抱きついた。
「おっとぉ~。こら、危ないじゃないか」
 と言いながらも、雅春は嬉しそうに理子を抱きしめた。
 先生の許に戻って来た……。
 思いが込み上げてくる。
「理子…、凄く嬉しいんだけどさ。俺、料理中なんだよな。
焦げてもいいのかな?」
 低音の、優しい声が頭上から降ってきて、理子はハッとした。
「ごめんなさい…」
 そう言って離れたものの、恥ずかしくて顔を上げられない。
「どうした?まだ寝巻のままじゃないか。俺がいなくてビックリして
起きて来たのか?」
 理子はそっと顔を上げて、雅春を見た。
 雅春は優しい顔で微笑んでいた。
「俺、いつもより早く目が覚めたんだ。君はとても気持ち良さそうに
眠ってたから、たまには俺が、朝飯を作ってやろうかと思ってね。
驚かせて悪かったな」
 理子は軽く首を振った。
「いつも…隣にいる先生がいなかったから、ちょっと
不安になっちゃったの…」
「それで、着の身着のままで飛び出してきたって訳だ」
 そう言って、いたずらっ子のような笑みを雅春は浮かべた。
「ごめんなさい……」
「いや、嬉しいよ。そんな君がたまらないな。着替え、
手伝ってやろうか?」
 雅春の言葉に、理子は真っ赤になった。
「先生のエッチ!」
 理子は慌てて身を翻した。
 寝室へ戻る背後から、嬉しそうな雅春の笑い声が聞こえて、
理子は幸せを噛みしめるのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

やっと結婚して、幸せな新婚生活かと思いきや、
大変な出来ごとの連続でしたね。。。
理子なんて、半年の間に3回も入院してるし。
医療費大変だ。ww
とりあえず、事件は終わり帰宅したわけですが、
まだ乗り越えなければならない事があります。
まぁ、たいした事ではありませんけどね。^^

NoTitle 

あーーーーe-420
良い回でしたぁv-398
雪解けって感じで、ホッv-22
もうすぐ終わるのかなぁという淋しい予感と
これ以上不幸な出来事が起こりませんようにという願いが交錯してまーすv-363
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