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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 19.謝 罪 06

2010.12.02  *Edit 

 事情聴取は終わった。
 刑事が去った後、理子は犯人が神山美鈴の弟だと聞いて、
納得したような顔をした。
「アパートの外から『神山さん』って呼ぶ声が聞こえた時、
驚いたの。でも、犯人が私の頬を打ちながら、『姉さんの方が
ずっと美人なのに』とかって言ってるのを聞いてたから、
犯人が誰なのか、分かった気がしたの」
「済まない、理子。結局、俺のせいで、君はこんな目に遭ったんだ。
俺は悔やまれてならないんだ」
「先生…。先生のせいじゃ、ないのよ?お願いだから、
自分を責めないで」
 切なげに見つめる理子の瞳が、雅春には痛かった。
 誰がどう言おうと、自分の責任である事には変わりは無い。
 どうして俺は、いつも理子を傷つけてばかりいるのだろう。
 そう思うばかりだ。
「先生。先生がそうやって自分を責め続けているのは、私にとっては
辛い事なの。だって、先生は本当に悪くないんだから。そんな先生を
見ていると、一番悪いのは私なんだって思わずにはいられない。
私が先生を拒絶して別居したからなんだし……」
「理子……、君は悪くない。俺に分別が無かったからだ」
「先生。ねぇ。悔やんだ所で、どうしようもないでしょ?
そうやって自分を責める事で、どうにかなることなの?
何も無かった事には出来ないじゃない。だから、責めるのは止めて。
済んだ事なんだから」
 理子の言葉に、雅春は微笑んだ。
「君の方が、俺より遥かに大人だな。俺はいつだって、
君に救われてる…」
「救われてるのは私の方なのに……」
「いや、君はいつも俺を救ってきた。君に出会うまで、
俺は孤独だった。愛する事を知らずに乾いてた。そんな俺を潤し、
愛を教えてくれたのは君なんだ」
「先生…。それは私だって同じなの。先生を知ってから、
私だってどれだけ救われてきたか。先生は私の全てなの…」
 見つめ合う視線の中に、互いを想う心が交差する。
「理子、ありがとう…。俺は君の愛に感謝してる。君が脳に障害を
負うかもしれないと聞いた時、俺は絶望したよ。どうしたらいいのか、
分からなくなった。だけど母さんが、理子の愛を信じようって
言ってくれたんだ。君は必ず俺達の許に戻ってきてくれるって」
「おかあさんが?」
 理子は驚いた顔をして博子の方を見た。博子は微笑みながら
枕元へ立った。
「そうよ…。私達は、あなたを信じるしかなかったの。
あなたがどれだけマーの事を愛してるか、おかあさん知ってるから。
だから、マーの許に戻って来るために、きっと必死で戦ってるに
違いないって思ったのよ。そんなあなたを応援し、信じて祈るしか
無かったの。そして、あなたは戻ってきてくれた。私達の許に……」
「君が戻ってきてくれなかったら、俺達のこれからの人生は
君への贖罪の日々だっただろう。後悔と自責の思いに駆られながら、
生きていくしか無かったんだ」
「先生…、おかあさん…、ありがとう。私を信じて祈ってくれたから、
私、戻って来れたんだと思うの。…私、もう駄目だって思ったの。
でも…、でも…、諦めたく無かった。先生に、また逢いたくて…、
私の居場所は、先生の所にしか無いから…、だから…。
先生に逢いたい。その気持ちが、私を救ってくれた。先生の愛が、
私を救ってくれたの……」
 3人は顔を寄せ合って泣いた。互いが互いの胸の内を知り、
自分の思いと共に涙が溢れて来て止められないのだった。
 そんな3人を見て、周囲の人間も皆、涙ぐんでいた。
 壁際の椅子に座っていた雅人は、隣に座る素子の方へ体を向けた。
「吉住さん。どうか、雅春を許してやってください。息子には
理子ちゃんしかいないんですよ。理子ちゃんも、息子を心の底から
必要としてくれている。だから、お願いします」
 雅人は涙ぐみながら、隣に座る素子に頭を下げた。
「ゆ、許すも何も、無いです。娘の人生ですから…、
あの子がそうしたいと言うなら、親は何も言えません。
もう、子供じゃないんですし…」
 素子はハンカチで涙を拭いながらそう言った。
 彼女にとっては、それが精一杯の答えなのだろう。
「お母さん…、ごめんね…。でも、私には先生しかいないの…」
 理子が泣きながら素子に声を掛けた。
 素子は立ちあがって、理子の枕元までやってきた。
「お母さんが、私を愛してくれてるのは頭では分かってた。
でも、心は満たされる事が無かった……。愛されてる実感が
無かったの。だから、愛に飢えてた。…そんな私を理解して
愛してくれたのは先生だけだった。先生は全てを分かってくれた。
だから…世界中の、全ての人が私を責めても…、私は先生の傍に
いたいの。私を丸ごと愛して全てを赦してくれるのは先生だけ。
私も同じように、先生の全てを愛し、全てを赦してる。
だから、お願い。これからは見守ってて欲しいの。
私を愛してくれてるのなら……」
 理子は縋るような目で母を見つめた。そんな理子を見て、
素子は優しい笑みを浮かべた。
「わかった…。わかったから…。理子は理子の思うようにしなさい。
お母さんは、理子が幸せならそれでいいから……」
 言いたい事は山ほどあった。だが素子はそれら全てを呑み込んだ。
どんなに言葉を尽くしても、通じないに違いない。娘への愛情を
伝えるには、娘が言う通り、見守るしかない。
「お母さん…。ありがとう…。今日も来てくれて嬉しかった」
 理子の言葉に、母は黙って頷いた。

 理子は順調に回復していった。
 何度かの検査で、1週間経たないうちに絶対安静は解かれ、
自由に動けるようになった。ただ普段通りと言うわけには、
まだいかなかった。速く歩いたり、頭を大きく動かしたり、
興奮し過ぎるのは厳禁だ。
 口の中も5日目くらいには良くなり、飲食もできるようになった。
ずっと点滴を刺されていたが、それも取れて解放感が湧いてきた。
 2日目の事情聴取が済んだ後も、刑事は何度かやってきては、
細かい事を質問して行った。テレビなどで見る通り、本当に重箱の
隅を突くように細かくてしつこいんだな、と思った。
 雅春は2日目は学校を休んで1日理子の傍にいたが、
翌日からは学校が終わってから病院へ来るようになった。大体、
7時半頃にやってくる。学期末の忙しい時に、よく、
そんな早い時間に来れるな、と理子は不思議に思った。
「先生、大丈夫なんですか?お仕事の方は……」
 心配げに訊ねる理子に、雅春は優しい笑顔になった。
頬にエクボを浮かべている。
「心配しなくても、大丈夫だよ。論文も仕上がったから願書と一緒に
提出したし、生徒達の成績も付け終えてる。補習クラスの方も、
何とかやってる。だから君が心配する事は無いんだ。
自分で言うのも何だけど、俺は優秀だから」
 そんな雅春に、理子は笑った。
「マーは、本当にしょってるわよね」
 傍にいた博子がそう言った。
「先生って、昔からこうだったんですか?」
 理子が博子に問うと、「そうよぉ~」と博子は笑いながら答えた。
「小学生になった頃から、ずっと自信家よ。だからこそ、
理子ちゃんの前でデレデレしてる姿を見るのって、すっごく面白いわ~」
 博子はニンマリと笑う。
 そんな母を見て、雅春は顔を赤くした。
「二人して、そうやって俺をからかって楽しまないで
くれないかな。まったく……」
 理子は微笑んだ。胸の底がほのぼのとする。
 雅春は1時間程、理子の傍で過ごした後、帰って行く。
 別れる時はとても寂しい。
 だが仕方が無い。翌日にはまた来てくれる。
 雅春はペンダントとブレスレットをすぐに修理して、
再び理子に付けてくれた。有るべき場所に有るべき物が
戻ってきて、理子はホッとした。
「寂しいのは、俺も同じだよ。君がいない部屋で毎晩眠るんだ。
朝になっても、君はいない。別居していた時には、君もあそこで
1人で寝てたんだと思うと、胸が潰れる思いがするよ。だけど、
今はあの時とは違う。お互いに、相手を想い、求めている事が
分かってる。心は傍にある」
 雅春のその言葉に、理子は胸が熱くなった。
「いつでも君の傍にいるよ…」
 そう言って熱いキスを交わして帰って行く雅春を、
理子は熱い想いで見送るのだった。
 博子は変わらず、毎晩病室へ泊まってくれた。重病人では
無いのに、理子が寂しい思いをしないようにと、ずっと傍にいる。
理子は優しい博子の傍にいて、とても癒された。
 1人になると、どうしても事件の事を思い出してしまう。
思い出すと恐怖心が湧いてくる。済んだ事だと割り切っていても、
自然と湧いてくるものをどうしようもなかった。だから、
博子が極力傍にいてくれる事で思い出す頻度が少なくて助かっていた。
それでも夜中に、何度か目を覚ましてしまう。夢に見るのだった。
 夢の中で、犯人にペンダントとブレスレットを引きちぎられ、
理子は泣いて「やめて」と訴えていた。実際には、自分が
気絶していた間に引きちぎられた事だと言うのに、
夢の中では違った。
 目が覚めて、思わず自分の首元と左手首に手をやる。そして、
失くなっていない事に安堵する。
 そんな事が何度もあった。その度に、理子は雅春との愛を
引きちぎられたような胸の痛みを感じるのだった。
 そして、早く家へ帰りたいと痛切に思う。
 早く家へ帰って、先生の腕の中で眠りたい。
 先生の腕の中なら、こんな悪夢を見る事は無いに違いない。

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