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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 19.謝 罪 04

2010.12.01  *Edit 

「博子っ!」
 呼ばれて見上げると、夫の雅人だった。
「あなた……」
「どうしたんだ?こんな所で。理子ちゃんは大丈夫なのか?」
 博子はナースセンターの前で途方に暮れていた。
 看護師に問い合わせた所、そういった物は無いと言われた。
それでも事情を話して、あちこちへ問い合わせて探して貰ったが、
矢張り探し物は見つからなかった。
 このまま見つからなかったら、どれだけ理子は嘆き悲しむだろう。
 ペンダントは1点物だから、同じ物は売っていない。
ブレスレットも限定物だった。どちらも、安い物ではない。
それに何より、二人の想いがこもった物だ。何にも代えがたいに
違いない。
 二人が別居している間、それらを理子は外していたと聞いた。
そして、再び身に付けてからは、二度と絶対に外すまいと
誓ったんだと理子が言っていた。その大切な物を両方とも
失くしたとなったら、何より自分を責めるだろう。
 博子から事情を聞いた雅人は眉を顰めた。
「ねぇ、あなた…。どうしましょう。どうしたらいい?」
 博子は縋るような目で夫を見た。
「警察へ問い合わせてみたか?」
「えっ?」
「状況を考えてみると、大学か、運ばれた車の中か、犯人の
部屋のどこかに落としたんじゃないかと思うんだが。そうなると、
警察が現場検証をしているから、警察の方で保管してる可能性が
高くはないか?」
 博子は夫の指摘に成る程と思った。だが、そうだとしたら
何かしらの連絡が向こうから有っても良いのではないか?
「あなたのおっしゃる事も尤もだけど、そうだとしたら、
アクセサリーだけに持ち主確認の連絡が有ってもおかしく
ないんじゃないのかしら?」
 雅人は厳しい顔で頷いた。
「確かにな。だが警察のやる事だ。我々素人があれこれ推測しても
しょうがないだろう。まずは問い合わせてみることだ」
「そうね」
 博子はそう言って、ポケットから刑事から貰った名刺を出して
夫に渡した。
 雅人はそれを受け取ると、内ポケットから携帯を出して番号を
押しながら「雅春は?」と訊ねた。
「今、大学の方へ行ってるわ。今回の事情を話しにね。
理子ちゃんも単位の方を心配してるから」
「そうか。今月中は、もう学校へは行けないだろうからな。
心配するのも無理はない」
 そう言ったところで、電話が通じたようだ。
 博子は、雅人の電話でのやり取りに耳をそばだてて様子を窺った。
 その言葉を聞いていると、どうもあまり芳しくないように感じる。
「じゃぁ、宜しくお願いします。何か分かったらすぐに電話を下さい。
本人がとても大切にしている物で、凄く心配しているので」
 雅人はそう言って電話を切った。
 博子は胸が重くなるのを感じた。
「やっぱり、無かったのね……」
 そんな博子の肩に雅人はそっと手を置いた。
「諦めるのは、まだ早い。今の段階では、そういう物の報告は
無いそうだが、よく調べてくれるそうだ」
「でも…、理子ちゃんには何て言うの?あの子はきっと、気を
落とすわ。私が探しに出る前に、それはもう、嘆き悲しんで
泣いてたのよ…」
「君がそんな事じゃ、理子ちゃんの嘆きも深くなるじゃないか。
彼女には正直に話すしかない。誤魔化しようも無いからね。
その上で、俺達で必ず見つけてやろう。な?」
「そうね……」
 博子は滲んできた涙を拭った。夫の言う通りだ。親の自分達が
しっかりしなくてどうする。理子の悲しみを少しでも軽くして
やらなければ。
 雅人は勝負に挑む前のような、キリリとした顔をしていた。
そんな夫を見て、博子は安堵する。不安げな様子は微塵も無い。
勝負を挑むからには絶対に勝つ。いつもそういう意気込みを持って
物事に臨み、そして必ず成し遂げる。そういう男だ。
 そんな男だから、博子は好きになった。
 この男のそばにいて、不安に駆られた事は一度も無かった。
「じゃぁ、行こう。理子ちゃんも1人で心細い思いを
してるんじゃないか?」
 雅人はそう言って、博子の肩を抱き病室へと歩きだした。
 ドアを軽くノックして中へ入ると、理子がそっと顔を
こちらへ向けた。
「おとうさん……。お仕事の方は?」
 雅人の姿を見て、目を丸くしている。
「今日は休んだよ。昨日来れ無くて、済まなかったね」
 雅人は優しい笑みを浮かべて、理子の前に立った。
博子は夫にそばにある椅子を勧め、自分も近くの椅子を
引き寄せて夫の隣に座った。
「すみません。年末でお忙しいのに……」
「何を言ってるんだい。娘の一大事なんだ。年末も何も関係ない。
すぐに来てやれなかった事の方が申し訳無いくらいだ。紫も仕事柄、
今が一番忙しいと言う事もあって、申し訳無いと言っている。
夕方、顔を出すそうだ」
 理子は瞳を潤わせた。
「どうして…、お二人とも、いつもそんなに…優しくして
くれるんですか?」
 理子が声を震わせてそう言った。
 先生の家族は、どうしてこんなに優しいんだろう。
 どうしてここまで優しくしてくれるんだろう…。
 理子は何かある度に、そう思う。
 あの先生のご両親やお姉さんなら、きっと優しくて素敵な人達に
違いないと、会う前から思ってはいた。そして、実際に会ってみると、
思っていた通り、優しくて素敵な人達だった。
 だが、ここまで親身になってくれるとは思っていなかった。
 暖かく、理子を家族として迎え入れてくれた。
 この人達には、感謝するばかりだ。
「理子ちゃん。私達はね。君の事が大好きなんだ。息子の嫁として
ではなく、1人の人間として、好きなんだよ。だから、大切に
思うのも当然だろう?」
「そうよ。私達みんな、理子ちゃんの事が大好きなのよ。マーの
お嫁さんじゃ無かったとしたら、きっと仲良しの友達になってたと
思うわよ?その大好きな理子ちゃんが、大事な息子のお嫁さん
なんだから、尚更大事に思うのは当たり前じゃないの」
 二人の言葉に、理子は胸を衝かれた。
「雅春から初めて君の事を聞かされた時には、本当に驚いたよ。
受け持ちの生徒さんと恋愛関係になるなんて、と雅春を批判した。
しかし、実際に君と会ったら、息子が好きになったのが分かった。
そして、みんな、君が大好きになった。本当なら、早すぎる結婚に
反対するべきだったんだろう。けれど、私達は雅春と同じように、
早く君を娘として迎え入れたかったんだ。…なんて言ったら、
母さんが妬くかな?」
 雅人はそう言って、照れ笑いをしながら博子の方を横目で見た。
「あら、大丈夫よ?私だって、お父さんと同じ気持ちなんだもの。
本当に、我が家にもう1人娘ができたみたいで、嬉しかった。
だからね、理子ちゃん。何の遠慮もいらないのよ?舅と姑と小姑
だなんて思わないで、本当の両親と姉が増えたと思って欲しいのよ」
 理子は涙をポロポロとこぼしながら、
「ありがとうございます…」と言った。
 子供の頃、親子仲が良い友達を羨んだ。みんな優しい
お母さん達だった。けれど、中学へ入った頃からは、それでも
自分の親が一番いいと思ったものだった。ああいう母でも、
情が深いのが分かったからだ。
 どうでも良い相手には冷たい。それが分かったから、母の
仕打ちも愛情が深い故と思ってきたが、それも段々と精神的に
厳しくなっていった。
 どうして、ここまでこんな仕打ちを受けなきゃならないんだろう?
 お母さんは、私の事が嫌いなんじゃないか?
 でも、本当に嫌いな相手には見向きもしない。
 だから、愛されてはいるんだろう……。
 母の愛情を疑い、疑った事を否定し、その繰り返しでずっと
過ごしてきた。
 何かある度に衝突する。
 行動範囲に制限を課したり、あれこれと口を出したりする一方で、
困った時に助けてはくれない。
 理子はほとほと親子関係に疲れていた。
 だからこそ、雅春の家族の暖かさには感謝せずに
いられないのだった。
 二人の姿を見て、自分達もこういう夫婦になりたいと思う。
互いを尊敬し、信頼しあっている。
暖かくて居心地の良い家庭でありたい。
「ところで理子ちゃん」
 雅人が真剣な面持ちをしている。
「はい……?」
「ペンダントとブレスレットの事なんだが……」
 義父の言葉に、理子の表情も硬くなった。
「見つからなかったんですね…?」
 多分、見つからないのではないかと、思っていた。
 何処で失くしたのかは、見当がつかない。
 ただ、トイレの前で殴られるまでは身に付けていた筈だ。
トイレで手を洗う時に、ブレスレットを見て雅春を思い出したからだ。
だから、失くしたのはその後だろう。運ばれている途中で
落ちたのかもしれない。そうだとしたら見つかる可能性は
低いと思われる。
 それにしても、両方失くすなんて、先生にどう詫びたら
良いのだろう。
 先生の分身だったのに。
 寂しいと思った時、いつも慰めてくれた。
 何よりも大切な宝物なのに……。
 理子は涙が出そうになるのを必死で堪えた。
二人に心配を掛けない為に。



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