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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 19.謝 罪 03

2010.11.30  *Edit 

 雅春と博子は病室にベッドを入れて貰い、その晩泊まった。
 時々目を覚ましては理子の様子を窺う。
 安らかな寝息を立てているのを見てホッとする。
 あんな目に遭った後だけに、目を覚ました時に恐怖が蘇ってきて
興奮するのではないかと誰もが心配していたが、幸い、
そういう事は無かった。
 だが、いつフラッシュバックするか分からない。
 翌朝の検温時、目を覚ました理子は不思議そうな顔をして
病室の天井に視線を彷徨わせた後、心配そうな顔でそばにいる
雅春の視線を捉え、軽く微笑んだ。
「先生、おはよう」
 小さい声でそう言う理子に、雅春は笑顔で「おはよう」と返した。
「気分はどうですか?」
 と看護師に問われ、「問題ありません」と理子は答えた。
 熱は37度3分でまだ微熱だったが、この分なら今日中に
平熱に戻るだろうと言われた。
 看護師が出て行った後、「先生、学校は?」と理子が心配そうな
顔で訊ねて来た。
「今日は休む。だけど心配しなくていい。
明日からはちゃんと出勤するから」
 雅春は軽く微笑みながらそう言った。それでも理子の顔から
不安な色は消えない。
「でも…、論文の方は大丈夫なの?学期末だから学校の仕事だって
忙しいのに」
「大丈夫。期末も終わってるし、テストも返した。後は雑用ばかり
だから、今日1日くらいは平気だよ。それに今日は君の事情聴取も
あるから立ち合わなきゃならないし」
 雅春の言葉に、理子の顔に翳が差した。
「先生も、立ち合わないといけないの?」
「いけないと言う訳じゃない。ただ、俺が立ち合いたいんだ。
俺も、聞きたいんだよ」
 理子は哀しそうな顔をした。
「どうした?」
 雅春の問いかけに、理子は哀しそうな顔のまま暫く雅春の顔を
見つめると、瞳を閉じてフッと軽く息を吐いた。
「理子?」
「……先生、こんな事になってしまって、ごめんなさい…」
 瞳を閉じたまま理子はそう言った。
「理子、何故君が謝るんだ。君は何も悪くないのに。こんな事に
なったのも、全部俺のせいじゃないか」
 雅春は肩の上にそっと置かれた手に驚いた。
 見上げると母だった。博子は哀しそうな微笑みを浮かべた顔で、
静かに首を振った。
「理子ちゃん。自分を責めちゃ駄目よ。あなた、昨日自分で
言ったじゃないの。不可抗力だったんだって。だから、
誰のせいでもないのよ?」
 優しい母の声に、理子は閉じていた目を開いた。
「おかあさん…。ありがとう。でも私……。確かに不可抗力
だったけど、でも…、みんなに迷惑をかけちゃった…。
私がこうなったせいで、みんなが自分を責めたり人を
責めたりしたんでしょ?それを思うと……」
 理子の目尻から涙が零れた。
「理子ちゃん。あなたは人の心配なんか、しなくていいの。
自分の心配をしなさい。みんなに迷惑をかけて済まないと思うなら、
早く良くなるべきでしょう?早く元気になって、
みんなを安心させてちょうだい」
 理子は涙に濡れた目で、博子を見た。その目は小さく揺れている。
「今日は、お母さんだけじゃなくて、マーも傍にいるんだから
安心しなさいね?今日は入院の準備や手続きで少し忙しいから、
二人いた方が安心でしょう?だから、遠慮しないで甘えていいのよ?」
 理子は小さく頷くと、「おかあさん、ありがとう…」と
呟くように言った。
 雅春は母に感謝した。二人きりだったら、延々互いに
自分を責めていただろう。
「あの……」
「ん?どうした?」
「私…、どのくらい入院するの?」
 理子の問いに一瞬、戸惑った。
 入院する事は本人も自然に察していたが、どれくらいの期間なのか、
また現在の具体的な症状などは、考えてみると本人に話して
いない事に気付いた。
 雅春は理子の手を握って、なるべく不安にならないように
優しい声で説明した。
「そうですか…。2週間も入院しなきゃいけないなんて…。
それじゃぁ、今月はもう、学校へは行けないんですね……」
 理子は秋に既に10日余り学校を休んでいる。さらに2週間も
休むとなると、1カ月近くも休む事になり、流石に単位の習得に
響かないか心配なのだろう。
 雅春はそんな理子の手をギュッと強く握りしめた。
「理子、俺、これから大学へ行って学部長と話して来るよ。
今度の件で大学側も困惑してるだろうし。単位の件も頼んでみる。
俺は多分大丈夫だろうと思うけどね」
 理子は驚きの目を雅春に向けた。
「どうして、大丈夫だって思われるんですか?」
「いずれも不可抗力だからだよ。それに君は成績がいい。
授業は休み明けにもまだ1カ月近くあるんだし、試験の成績さえ
良ければ考慮してくれる筈だ」
 雅春はそう言って自信ありげに笑ったが、理子の不安は
消えないようだった。
「俺に任せておけば大丈夫。俺を信用してくれ」
 理子は暫く雅春の目をジッと見つめていた。最初は不安げだった
その瞳も、すぐに安堵の色に変わっていった。
「先生、ありがとう…。お願いします」
 雅春は頷くと、「じゃぁ、これから行って来る。戻るまで
母さんに甘えてていいから」と言って立ち上がった。
「先生…、戻るまで甘えてていいって、どういう意味ですか?」
 理子の言葉にフッと笑う。
「俺が戻ったら、君が甘える相手は俺だって事」
「まぁ!」
 雅春の言葉に、理子は呆れた顔をして、傍にいる博子の方を見た。
博子も呆れた顔をしていた。
 雅春が病室を出て行った後、理子と博子は顔を見合わせて笑った。
「まったく、あの子ったら、何なのかしら?」
 博子の呆れ顔に理子は優しい笑みを浮かべると、
「いつもの先生らしくて、良かったです」と答えたのだった。
 そんな理子を見て、心が温まった博子だったが、理子が自分の
左手を上げて顔色を変えた事に気付いた。
「どうしたの?理子ちゃん」
 理子は博子の問いには答えずに、右手を上げて視線を移し、
怪訝な顔をして右手で左手首をさすった。そして今度は右手を
自分の首元へやった後、唇を震わせた。
「お…、おかぁさん…」
 さっきまでのほのぼのとした顔つきは、今にも泣きそうな
顔に変わっている。
「なぁに?どうしたの?」
「ブ…ブレスレットとペンダントが、……無い…の…。
おかぁさん、ご存じですか?」
「ええっ?」
 理子の言葉に、博子も驚いた。言われてみれば、
いつもある場所に無い。無いと言う事に、誰も気づかずにいた。
プレゼントした本人でさえも……。
 記憶を手繰り寄せてみると、理子が昨日病室へ運ばれて来た時には
既に身に付けていなかったように思う。
「き、きっと、検査の時に外されたのよ。金属類を身に付けた
ままだと駄目でしょう?ちょっと待ってね。今、病院から
渡されたあなたの衣服や荷物を調べてみるから」
 博子は慌てて立ち上がると、理子の荷物を調べた。鞄の中や服や
コートのポケットの中、財布の中と、ありとあらゆる場所を探したが、
目的の物は見つからず、博子はその場に立ちつくした。
 そっと理子の方を振り返ると、不安げな顔をしている理子と
目が合った。ずっと、博子の動作を見つめていたのだろう。
だから見つからなかった事は分かっているに違いない。
悲しげな瞳で涙が滲んでいる。
「理子ちゃん。お母さん、ちょっと病院に問い合わせて来るわね?
きっと病院の方で保管してて、渡すのを忘れてるのよ」
 博子はきっとそうに違いないと思った。そうで無かったら、
どうしたらいいのだろう。そんな不安を打ち消した。だが、
理子は既に見つからないのではないか、との気持ちに
支配されているようだった。
「おかぁさん…、どうしよう?見つからなかったら…。
それに、指輪はしてるのに、どうしてブレスと
ペンダントだけがないの……?」
 理子は両手で顔を覆った。点滴が揺れた。
「理子ちゃん、駄目よ。点滴が外れたらどうするの。大丈夫だから。
お母さんが、ちゃんと探して見つけてあげるから。ね?」
 理子の手を取ると、理子の目から涙が溢れ出ていた。
 一番大切な物が失くなっている事に気付いて、今までの感情が
一気に溢れだしてきたのかもしれない。
 博子はハンカチを出して、理子の涙を拭った。
「いい子だから、泣かないの。まだ、失くなったって決まった訳じゃ
ないでしょ?理子ちゃんがそんなに泣いてたら、お母さん、
心配で探しに行けないわ。それでもいいの?」
 博子の言葉に、理子は涙を拭いながら「ごめんなさい…」と言った。
そんな理子を見てホッと一息吐くと、博子は
「じゃぁ、探しに行ってくるから、大人しく待っててね?
暫くの間、1人きりだけど大丈夫かしら?」
 と、理子に問いかけた。
「大丈夫です…。泣いたりしてごめんなさい…」
「いいのよ。あれが、どんなに大切な物なのか、分かってるから。
お母さんが理子ちゃんだったら、やっぱり物凄く不安で
悲しくなるもの。だから、必ず見つけて来るから。ね?」
 博子の言葉に理子は小さく頷いた。
 博子は理子を1人にしておくのを不安に思ったが、何よりあれを
一刻も早く見つけてやらない事には、理子の気持ちも
落ち着かないに違いない。
 博子は急いで病室を出ると、ナースセンターへ向かった。


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