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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 18.罪 08

2010.11.26  *Edit 

「そうだ。自分達の犯行じゃない。家に帰ったら、ベッドに
縛り付けられている彼女の姿を見て、茫然としていた所へ、
林君が踏み込んで来たと言ったんだ。『俺達はハメられたんだ』と
しきりに訴えていた」
 雅春は思わず拳を握りしめる。これだけの事をしながら、
何てヤツらなんだ。怒りが込み上げて来た。
「証拠のビデオを見て、やっと犯行を認めた。あれを見たら、
認めざるを得ないだろう。だが、犯行の動機については一切
語ろうとしない。黙秘を続けている」
「それで、身許の方は?」
 雅春の声はいつもよりも低かった。
「身許はすぐに分かったよ。免許証と学生証を持っていたんで」
 刑事はそう言うと、胸ポケットから小さい手帳を出して、
中を開いて読み上げた。
「……逍遥大学建築科4年、神山佑介。現住所は世田谷区……
現場のアパートだ。本籍地、千葉県流山市……」
 千葉県……。
 神山美鈴の実家も確か千葉だと言っていた。
 やっぱり、そうなのか。
「父親は地元で結構大きな建設会社を経営している。神山佑介は
かなり優秀だったようで、卒論もさっさと提出し終えて、勤め先も
決まっていた。だから時間的余裕は十分あったみたいだな」
 それなら、自分たちを付け回す時間もあったのだろう。
 特に、キャンパス内に潜り込んで隙を窺っていたのだろうから、
時間が無いと無理だろう。志水の予想が当たったと言える。
「それで、もう1人の方はどうなんです?自供の方は」
「もう1人は、佑介に誘われてやっただけだと言っている。
詳しい事情は全く聞いていないそうだ。神山佑介は、友人に
金を払って、連れて来ていたらしい。本人は、金が貰えて、
尚且つ女をレイプできると聞いて喜んで協力したと、話している」
「屑どもがっ!」
 と、雅春の口から思わず言葉が洩れる。こめかみが青筋立っていた。
浮き出た血管がヒクヒクしているのを、自分で感じる。
「以上が今のところの概況です。……それで増山さん。話して
貰えますよね。捜査も滞ってますし、話して貰う事が捜査協力に
なるんですが」
 雅春の目を覗きこむようにして、刑事が訊ねて来た。
「刑事さん……。さっきのビデオで犯人が、妻を打ちながら
叫んでいた言葉がありますね?」
「ええ。姉さんがどうのと、言ってましたね」
「そうです。『お前さえいなきゃ、姉さんは幸せになれた』、
その姉さんに当たる女性に心当たりがあります……」
 刑事は目を見張った。
「それは、さっき、お二人が話していた、『美鈴』と言う
女性の事ですか」
 雅春は唾を飲み込むと、「そうです」とハッキリと答えた。
「わかりました。では、その方の事について、もっと詳しく
聞かせて頂きましょう」
 刑事はそう言うと、志水の方に視線を飛ばした。退出を促している。
だが雅春はそれを見て、「彼も一緒に」と言った。
「よろしいんですか?」
「ええ。彼も関係者の1人ですから。……君、いいよな?」
 雅春が同意を促すと、志水は「勿論です」と答えた。
 刑事は携帯で部下を呼びだすと、非公式で調書のような物を
取りたいが良いかと訊ねて来たので、雅春は了承した。
 そして、この夏からの一連の出来事を話したのだった。

 理子の検査はまだ終わらなかった。
 一体、どれだけの時間が経ったのか。
 連絡を受けて病院に辿り着くまでに1時間を要し、その後の
刑事とのやり取りに約1時間かかった。既に2時間少々の時間が
経過しているわけだ。
 特に病院側から連絡が無いと言う事は、差し迫った命の危険は
無いものと思われる。だが、脳のダメージが心配だ。
 外からの強い力が加わった場合、頭蓋骨と脳の移動にズレが生じる。
頭蓋骨と脳の間には、髄液で満たされた空間があり、いわば、
脳は頭蓋骨の中で水に浮いた状態にあると言える。
顔面に衝撃を受けると、頭蓋骨が直線的に移動または回転する。
だが、脳の方は同時には動かずに、元の位置に留まろうとする。
このため、衝撃を受けた側の脳は移動する頭蓋骨内面とぶつかる。
衝撃を受けた反対側では、空間が広がることとなり、この広がりが
大きくなるとこの部分の脳表静脈が伸展断裂し出血をきたす。
これによって、脳障害が起こる。
ボクシングの場合、これを予防する為にマウスガードをするわけで、
マウスガードの効果は高い。
だが理子は、そんな防御も無い状態で、男に何度も強打されていた。
雅春は理子の母親から頭を打たれた時の事を思い出した。
あれは相当な力だった。中年の女性ですら、あんなに強い力を
出すのだから、若い男の強打がどれ程のものか、考えただけで
背筋が寒くなる。それを、何度も受けている。
 雅春は病室前の廊下の長椅子に座っていた。
 検査から戻って来た理子をすぐに迎える為だ。
 雅春から少し離れた位置に、志水も座っていた。膝の上に
両肘をつき、両手を組み合わせて祈るようにしている。
 そんな志水を視界の端に見て、雅春は彼を責めた事を後悔した。
 全て自分の責任だ。
 誰よりも、自分の命よりも大切な彼女をこんな目に
遭わせてしまった。
 どれだけ怖い思いをしただろう。
 どれだけ痛い思いをしたことか。
「マー!!雅春っ!!」
 自分を呼ぶ声に顔を上げると、母の博子が廊下の先から
駆け寄って来た。
「母さん……」
 雅春は母の顔を見て、堪えていた涙がどっと溢れて来るのを感じた。
「マー。理子ちゃんは?理子ちゃんの容体はどうなの?」
 母の顔も青かった。
「まだ……、検査中なんだ……、俺、…どうしたらいいのか…
分からないよ。理子に何かあったら……、全部俺の責任なんだ…、
俺の…」
 雅春は胸の奥から感情が溢れだして来るのを止められなかった。
母の顔を見て、全ての緊張が溶けてしまった。
「マー。気をしっかり持ちなさい。命には別条無いんでしょ?
事件のあらましは、ついさっき、ロビーにいた刑事さんから聞いたわ。
検査結果がまだなら、待つしかないじゃないの」
 母の言葉は、雅春にとっては何の気休めにもならない。
「おかあさん……」
 と、志水が博子に声を掛けて来た。
 その声にビクリとして博子が振り向いた。
「あなたは……」
「志水です。理子さんのクラスメイトの。今回の件は、僕のせいです。
僕は増山さんから彼女のボディガードを頼まれていたんです。
それなのに、僕が目を離したせいで、こんな事になって
しまったんです。本当に申し訳ありませんでした」
 志水はそう言って、深く頭を下げた。
「あ、あなたに謝って貰っても、仕方ないじゃないですか」
 博子が戸惑いながらそう言うと、「そうだ…」と雅春が言った。
「志水君のせいじゃない……。一瞬たりとも目を離さないなんて事は
出来ない。彼女にだってプライベートはあるんだから。君はよく
やってくれたよ。理子の為に……。さっきは君を責めて
済まなかった……」
 志水も泣いていた。
「母さん……。犯人の事は聞いたかい?」
 博子は「ええ」と言って息子の手を握った。
「それなら…、俺が一番悪いんだってわかるだろう?
……避妊しなかった事…、別居してしまった事…、神山先生を
その気にさせてしまった事…、彼女をちゃんと納得
させられなかった事……。そして、写真の犯人をさっさと
つき止めなかった事。…どれをとっても、失態だらけだ。
俺がしっかりしていれば、こんな事態を招く事は無かったんだ」
 雅春は頭を抱えて慟哭した。
 やり切れない。
 どんなに自分を責めても、どうしようも無い。
 全て、取り返しがつかない事だ。
 犯人に何度も打たれていた理子の映像が瞼に焼き付いて離れない。
自分が傷つけられるよりも胸が痛んだ。
 雅春は体を震わせ、全身で泣いている。
 そんな雅春を母の博子は背中の上から抱きしめた。
 理子と別居して実家へ帰って来た時に、息子が号泣するのを
初めて見たが、今の姿はそれの比では無かった。
 理子が腹膜炎で入院した時、息子は酷く自分を責めていた。
だが、幾ら責めても失われた時間は取り戻せない。それよりも、
これからどうするかだ、と未来に向けて歩き出したと言うのに、
何故こんな事になってしまったのだろう。
 雅春から電話があった時、博子は驚いた。
 取る物も取り敢えず駈けつけたが、刑事から更に詳しい事情を
聞いて愕然とした。
 外傷自体は、それ程でもない。だが、脳に障害を負う可能性が
あると知り、博子は膝がガクリと落ちてその場に跪いた。
 一体、あの娘が何をしたと言うのだろう。
 愛し合う二人が何故こんな目に遭わなければいけないのだろう。
 自分を慕い、心を開いて甘えて来た理子の姿を思い出す。
 障害の程度にもよるだろうが、理子の人生も雅春の人生も
台無しになるに違いない。
 だが博子は、息子の心中を思い、気をしっかり持たなければと
思った。自分がしっかりしなければ、この子は駄目になってしまう。
「マー。あなたの気持ちは痛いほど解るわよ。だけど、私達には
何もできない。今は、理子ちゃんを信じて祈るしかないんじゃないの?
ねぇ、マー?」
 雅春は膝の上で両手をギュッと握りしめた。
「……信じるって…、一体、何を信じるんだよ……」
 博子はお腹に力を込めた。
「あの子は強い子よ。そうでしょう?きっと今は戦ってる筈。
マーの許に帰って来る為に。あの子がどれだけあなたを愛してるか
解ってるでしょ?そんなあの子が、戻って来ない訳が無い。
だから…ねっ?信じるのよ、あの子の愛を」
「母さん……」
 雅春は顔を上げて博子を見た。その顔は、涙に濡れて情けない程、
酷い顔だ。
 そんな息子を抱き寄せて抱きしめると、その頭と背中を軽く叩く。
「大丈夫よ。大丈夫。だから……」
 博子はそう言いながらも、自分の目から涙が零れて来るのを
どうしようもなかった。
 そんな二人の姿を見て、志水は胸が抉れるほどの痛みを感じていた。
 志水には、雅春の心が痛いほどわかった。
 理子が暴力を受けたと言うだけでも、胸が潰れる程の痛みと
悲しみと怒りを感じると言うのに、況してや脳に障害を負うかも
しれないとなったら、絶望的な気持ちになる。
 そしてそうなったのも、自分の不注意のせいだと言う思いは
拭いきれない。
 事件現場に到着した時、理子はちょうど救急車へ運び込まれて
いる所だった。
 真っ赤な頬をした理子は、ぐったりとしていて意識が無かった。
 その姿を見て、志水はショックを受けた。性的暴行を
加えられる前に救出できた事は何よりだったが、あんなに頬が
腫れる程打たれたのかと思うと、犯人と自分に対し、
どうしようもない怒りが湧いてくるのだった。
 そして病院まで一緒に付き添い、医者の見立てを聞いて愕然とした。
自分の不注意でこんな事になるとは。彼女が脳障害を抱えるような
事になったら、自分はどうしたら良いのだろう。償いきれない罪だ。
 どんなに詫びても詫びきれない。許される事が無い。そもそも、
自分で自分が許せない。
 きっと、雅春も同じ思いなのだろう。
 愛し合ってきた歴史がある分、その思いは志水よりも
大きいに違いない。
「増山さん」
 廊下の先から足音が近づいて来て、太い男の声がかかった。
この声は丸山刑事だろうと思って顔を上げたら、渋い顔をした
刑事のそばに、若い女性が俯き加減で立っていた。酷く顔色が悪い。
 隣で息を飲むような声が聞こえて、二人の親子の方を見ると、
二人とも目を剥いていた。そして、母親の方がすっくと立ち上がると、
女性に駆け寄り、その頬を素早く何度も打ったのだった。
 その動作が余りにも早かった為か、丸山刑事は唖然としていたが、
すぐに気を取り戻したように、彼女の手を取って止めたのだった。
「奥さん!やめなさい!」
 掴まれた手首を必死に振りおろそうとしている博子は、
怒りに満ちた顔をして涙を流していた。
「どうしてなの!!どうして、あの子をあんな目に遭わせたのっ!
一体、あの子があなたに何をしたって言うの?そんなに、
あの子が憎かったの?」
 志水は理解した。この女性が神山美鈴なんだと。



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~ Comment ~

Re: こんばんわ>misia2009様 

misia2009さん♪

コメントありがとうございます。
お忙しい中、恐縮です。

脳挫傷の件ですが、知った上でのお話なのですが、最初から
それを想定して書いていた訳ではないのです。
書き出す前は、頭の中で色んな話が頭の中でごちゃごちゃと
していて、まとまりの無い状態なのですが、それをきっちりまとめてから
書いているのではなくて、糸口みたいな部分を見つけ出し、
それを書き出すと後は自然の流れで話が書き上がっていくのが
私の主なスタイルなのです。
こんなんで、よく整合しているな、と自分でも思うのですが。
そういう訳なので、理子が抵抗して唇に噛みつき、激怒したユウスケが
憎しみ込めて激しく殴打し、というクダリは、自然とそうなったものでした。
そして、あまりの連打に意識が朦朧としてきて頭痛が……っていうのも、
自然の流れでそうなってしまいました。
そうなって、これはヤバイぞ、となった訳なのでした……(^_^;)

殴られるという行為ですが、ちょっとやそっとじゃ、脳挫傷を
起こす事は、そう無いと思います。その前に、エビゾウさんみたいに
骨折とか陥没とかになる方が可能性は高いかと。
脳挫傷などの場合、ブレや振動の影響が高いので、ゲンコよりは
ビンタの方が案外心配なのです。それでも2,3発くらうくらいじゃ、
どうって事ないんですけどね。あと、手加減具合もあるし。
たまに、幼児がしつけと称した親に何度もビンタされて、脳挫傷を
起こすケースがニュースになったりしています。
普通なら、ビンタするにしても、かなり手加減するものですが、
手加減無しに思い切りすると、危険です。
今回も憎しみがこもっている上に、これでもか!って程の連続
ビンタだったので、かなり衝撃が激しかったものと思われます。
立った状態でこれを食らっていたら、間違いなく脳挫傷を
起こしていたと思います。

マンガやアニメは過激すぎますね。あれじゃぁ、脳挫傷どころか
死んでますよ。ww
ああいうのを見て、実際にぶたれたりした事の無い、痛みを知らない
人間が、手加減無しに相手に暴力をふるって、とんでもない
結果になる事件が増えているのでしょうね。

こんばんわ 

ご無沙汰いたしました。こちらへ御訪問頂き有難うございました。
罪01からここまで一気読みしました。え、えらいことに;;;

と言いつつ脳挫傷の説明が勉強になりました・・・伺いたいのですが、
「殴られる」と決めてから、あり得る被害について調べたのですか?
それともひどく殴打されると脳挫傷を起こすということを先に御存知で、気の毒だがそういう話にしようと思われたのですか?

自分が書く立場になって考えると、脳挫傷という重大な結果があり得ることを先に知らないと、
「誘拐されレイプされかけるピンチだったが、殴られただけで済んだ、めでたしめでたし」というふうにまとめてしまい、調べてみることもしなさそうです。
TVドラマ、漫画、アニメでは何度殴られても主人公は立ち上がってきますからw 現実に殴られるということの重大さを認識している書き手・読み手はどれだけいるだろうかと思いました。自分基準ですが。

さて、美鈴センセの言い訳を聞かなきゃ。
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