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小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 18.罪 05

2010.11.24  *Edit 


 理子がトイレの前でヤマモトユウスケに鳩尾(みぞおち)を殴られて
気を失い、ユウスケともう1人の男に担がれて運ばれて行く所を、
林宏史は目撃した。
 レポートの件で教師に呼ばれて指導を受けていたので、
忘年会についての放課後の集まりにすっかり遅れてしまい、
足早にカフェテリアへ向かって来ていた所だった。
 林は視線の先で理子が男と話しているのを見つけた。
男は横顔しか見えなかったが、見覚えの全く無い男だった。
人相は良さそうに見える。
 彼女は人気者だ。人妻でありながら、好意を持っている
男子生徒は多い。自分もその1人だ。あの男子も、きっとそんな
1人なのかもしれない。そんな風に思っていたら、男はいきなり
理子に当て身を喰らわした。
 くずおれそうになった理子の体を抱きとめると、脇から男が
1人現れて、二人で彼女を抱えるようにしてその場を離れて行く。
 林は愕然とした。
 一体、目の前で起こった事はなんなのか?
 はっと我に返り、慌てて走って現場に駆け付け、彼らの去った後へ
顔を向けると、人の少ない門の方へと向かっているのを発見した。
 この時、林は迷った。
 カフェテリアへ行って、みんなにこの事を報告するか否か。
 だが、そうしていたら、彼らを見失うだろう。
 林はすぐに彼らを追う事に決めて、彼らに向かって走った。
 だが、気を失っている人間を1人抱えている割には、
彼らの足は早く、林が追いつく前に、門の前に止めてあった
軽のワゴンに理子を運び入れて走り出してしまった。
 林は慌てて周囲を見回す。
 運良く、125ccのバイクを乗り着けてきた生徒がいた。
「悪い。文3、1年8組の林だが、緊急事態なんでバイクを借りる」
 そう言って、有無をも言わさずにヘルメットを奪って被ると、
バイクに跨り急いで走り出した。
 車が走り去った方に向けてアクセルを開ける。
 幾つかの車を追い越した所で、該当車を発見した。
スズキのエヴリィだ。色はシルバー。
 林はナンバープレートに目を凝らし、番号を記憶した。
そして周囲を見回し、電柱や信号の標識を見て現在地を確認し、
ポケットから携帯を出して富樫に電話をした。
 簡単に事情を話し、応援を求めて電話を切る。
そして再び前方の車に集中する。
 どうして理子は連れ去られたのだろう。
 しかも、大学のキャンパス内で。
 あの二人は、うちの大学の生徒なのだろうか。人数が多いから
見覚えが無くても不思議では無い。だが、門のそばに車を
付けていた事からして、計画的な犯行のように思えてくる。
同じキャンパスの人間であったなら、他にもチャンスは有っただろう。
 車は山の手通りを南下して暫く後に右折した。標識を見ると
「淡島通り」となっている。何度か追いつき、中の様子を
それと無く伺うと、後部シートがフラットになった状態で理子が
寝かされているのを見た。男達を見ると、二人とも同世代で
学生らしい雰囲気だった。
 途中何度か信号で掴まり、先へ行かれるもののすぐに追いつく。
それを繰り返しているうちに、車が途中で脇道に入った。
 林も慌てて後に続いたが、そこにエヴリィの姿は無かった。
 確かに、ここを曲がった筈だ。
 見回すと住宅街。
 細い路地が幾つも交差している。ここの、どこかの区画へ
入ったに違いない。
 取り敢えず、現在地を確認して林は富樫に再び電話した。

 富樫は最初の電話を林から受けた時、あまりの事に気が動転した。
忘年会の話題で盛り上がっている場の中に、すかさず目は
理子の姿を探したが、美香と志水の間にいた理子の席は空席に
なっていて、周囲にもその姿は見えなかった。
 ふと、志水を見るとその表情は僅かだが曇って見えた。
トイレに立ったまま、なかなか戻って来ない理子の身を
案じているのだろうか。
 富樫は林からの電話を切ると立ちあがって志水の傍へ行った。
そして、志水の肩にそっと手を置くと、顎で外へ出るよう促した。
 それを受けて志水は眉根を寄せて怪訝そうに富樫を見たが、
先に立って歩く富樫に着いてきたのだった。
 カフェテリアの入口まで来て、志水は背後から富樫を呼びとめた。
「おい、どこへ行くんだ」
 刺すような声音に富樫は振り向くと、志水は怖い顔で睨んでいた。
こんな顔を見た事は無い。いつもの微笑は消えていた。
「悪い。って言うか、本当に悪いニュースだ。今、林から電話が
あったんだ。理子が攫われて、その後を追っているって」
 富樫の言葉に、志水は真っ青になって凍りついたように固まった。
「俺にも詳しい事情は分からない。ただ、その現場を林が
目撃したんだそうだ。相手は二人組の若い男で、トイレの前で
当て身を喰らわせて連れ去ったらしい。エヴリィに乗って
山の手通りを南下してるそうだ。林はバイクで追いかけてる。
……どうする?」
 富樫の問いかけに、志水は何も答えなかった。
動揺しているのだろう。
「おいっ!どうするんだよ。林は応援を求めてる」
 富樫の強い言葉に、志水は顔を上げ、そして腕を組んだ。
顔色は依然蒼ざめたままだが、気持ちの方は少しは冷静さを
取り戻したようだ。
「どうするも何も、山の手通りを南下していると言う事しか
分からないんだから、今すぐどうこう出来ないじゃないか」
「車のナンバーを聞いてる。警察へ通報するか?」
 志水は黙ったまま、厳しい顔つきになった。
 どうするべきか、考えているのだろう。
「みんなに話して知恵を借りるか?」
 その問いには、すかさず返事が返って来た。
「いや、駄目だ」
「緊急事態だぞ?」
「彼らに話して、いい知恵が浮かぶとは思えない。逆に大騒ぎに
なるだけで、時間の無駄だ」
 そうかもしれない。
 クラス中で大騒ぎになって、やがて学部内全体へとそれが
波及したら、平常に戻った時の理子の立場がおびやかされかねない
だろう。有らぬ噂をたてられて、居ずらくなる可能性もある。
「また林から連絡が来るだろう。その時にすぐに動けるように、
足を確保しておいたが方がいいと思う」
 志水がそう言った。
 足か。相手は車で、林はバイクで追いかけている。それを思うと
確かに足の確保は必要だろう。だが林は一体どうやってバイクを
入手したのだろう。彼は寮住まいで、そもそもバイクなど
持っていないのに。
「お前の言う事も尤もだが、実際問題、どうやって手に入れるんだ。
色々な事を考えると、やっぱりここは、警察の力を借りた方が
いいと思う。その方が早いだろう」
「警察か……」
 志水の表情は暗くなった。
「何をそんなに躊躇するんだ」
「いや……、警察に通報して大ごとになったら、後が大変じゃ
ないのかな、と思ってさ」
「大ごとにならないように、頼むしかないだろう。事件後の
理子の事を心配してるんだろうが、今は理子の身の安全を
第一に考えるべきじゃないのか?」
 富樫の言葉に、志水は頷いた。
「そうだな。まずはそっちが優先だな。その上で、事後の生活に
響かないような対応をしてくれるよう頼むしかないか」
「じゃぁ、どうする。110番に電話するか、警察署へ出向くか」
「緊急性を重視すれば、110番だが……」
 志水は逡巡していた。
「警察署へ行くとすれば、ここだとどこになるのかな」
 富樫の問いかけに「目黒区だから目黒警察署だろう」
と志水が答えた。
「目黒警察署か。それはどこにあるのか……」
「中目黒の駅から少し離れた場所にある」
 志水が即答したので、富樫は驚いた。どうして知っているのか。
 それにしても、中目黒では少し遠い。
おまけに駅から離れているなら尚更だ。
 その時、「志水くーん!富樫くーん!」と、愛理が大声で
呼ぶ声が聞こえた。
 志水がその声を無視しているので、富樫は仕方なく
愛理の所へ行った。
「ねぇ、二人ともどうしたの?いつまでも……」
 不審そうな目をしている。周囲の連中も一体どうしたのかと
目で問うていた。
「ああ、ごめん。ちょっと用事ができたんで、俺達先に
帰らせてもらうわ」
「ええー?二人ともぉ?……それに、理子の姿も見えないわね。
林君も来て無いし」
「理子は途中で具合が悪くなったみたいでさ。林がたまたま
出食わして、送って行ったんだ。その連絡を受けたんで、
俺達も帰る事にした」
「えっ?本当?大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ。じゃぁ、悪いな」
 富樫はそう言うと、志水と理子の椅子の上にあった鞄とコートを
手に取って、その場を後にした。志水の元へ来て、それらを渡す。
「ほらっ!」
 突き出された荷物を見て、志水は微かに微笑むと、
「すまない」と言った。
「取り敢えず、みんなの目がうるさいから外に出ようぜ」
 いつまでもカフェテリアの入口にいるわけにもいかない。
 二人は外へ出ると、正門の方角へ歩き出した。
「やっぱりここは、110番だな。警察署へ出向くような
悠長な事はしてられない」
 志水がそう言って携帯を取り出して110番に通報している時、
富樫の携帯が鳴った。林からだった。


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