ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 18.罪 04

2010.11.23  *Edit 

 一体、どれだけ叩かれたのだろう。
 頬が痺れる。
 頭が痛い事に理子は気付いた。
 もう、駄目かもしれない。
 先生……、ごめんなさい……。
 理子の目から涙がこぼれた。
 こんな事になっても、先生は愛してくれるかな。
 去年、渕田君に襲われた時に、ああ言ってくれたけど。
 でも、実際に凌辱されたら、厭わしく思わないのかな。
 朦朧とした意識の中で、そんな思いがグルグルと回っていた。
 いやっ!
 やめて……!
 叫ぶが声にならない。
「泣いても無駄だ。離婚しないお前達が悪いんだ。さっさと
別れれば良かったんだ。そしたら、こんな目に遭わずに済んだのに」
 その時、チャイムが鳴った。
 その音に、部屋の中に緊張が走った。
 二人の男は息を顰め、ユウスケは理子の口を手で塞いだ。
 そんな事をしなくても、もう声なんて出ないのに…、と理子は思う。
 再びチャイムが鳴る。
「神山さーん」
 と、ドアの外から声が掛った。
 ……神山さん?
 神山さんって、どういう事?
「神山さーん!いないんですかぁ?」
 再び声が掛ると、今度は立て続けに何度も繰り返してチャイムが鳴った。
「ちっ!しつこいなっ!」
 ユウスケが小声で呟いた。
「神山さーん!!」
 呼ぶ声が大きくなる。
 理子はその声を聞いているうちに、聞き覚えのある声だと
いうことに気付いた。
 男の声だ。普段、よく聞いている声。
「おいっ!」
 ユウスケは、もう1人の男に、出ろっと命令するように
顎をドアの方へ向けて振った。
 男は玄関口まで行くと、ドア越しに「誰?なんの用?」と訊いた。
「神山さーん!オタクの車が大変な事になってるんだけどぉー!」
 その言葉に、ユウスケは驚いて、
「おい、ちょっと行って来い!」ともう1人の男に促した。
それを受けて男がドアを開けたら、次の瞬間、部屋まで飛んできて、
床に倒れたのだった。
 一体、何が起こったのか分からず、唖然としているユウスケの前に、
ドカドカと男が入って来た。
 理子はその男を見て驚いた。
 そうだ。彼の声だったんだ。
 男は林宏史だった。
「なんだよっ、お前!」
 突然の出来ごとに戸惑っているユウスケに、林は素早く飛び付くと、
殴り飛ばした。最初に飛ばされた男が起き上がって、背後から林に
襲いかかろうとしたが、林は足を後ろに蹴りあげて、その足は
男の股間に命中した。
 理子は、その様子を、目を見張って見ていた。
 いつもの、おっとりとした大人しい林とはまるで別人だった。
眼光が鋭く、怒りに満ちた顔をしている。
動きも敏捷で強いのが分かる。
 だけど、どうして林君がここに?
 ここは一体、どこなの?
 それに、寒い。とっても……。
 理子は意識が薄れて行くのを感じた。


 “増山先生。…増山先生。至急事務室までおいで下さい”
 2年2組の教室で6時間目の授業をしている途中で、
いきなりのアナウンスでの呼び出しに、雅春も生徒達も
互いに驚きの目を交わし合った。
 一体、何事だろう。
 授業中に呼び出されると言う事は、緊急事態と思われる。
「済まないが、今日の授業はこれで終わりにする。後は好きに
していいが、他のクラスはまだ授業中だから、チャイムが
鳴るまでは教室内で待機している事。隣のクラスに迷惑に
ならないように、騒ぐなよ。迷惑を掛けたら、後が恐ろしいと思え」
 雅春はそう言うと、急いで教室を出て事務室へ向かった。
 なんだか胸騒ぎがする。
 2年2組の教室は新校舎の2階の奥から2番目に位置する為、
旧校舎の端にある事務室までは距離がある。その距離が、
今の雅春にはもどかしかった。
 足早に移動しながら、理子の身に何かあったのではないかと
思うばかりだった。
 校舎の角を曲がり、図書室の前を通り過ぎ、中央通路を渡って
旧校舎に出、再び角を曲がって階段を駆け降りる。
左手が校長室と職員室で、右手が保健室と事務室、そして職員玄関だ。
 事務室のドアを開けると、市役所の窓口にいる公務員と
雰囲気が良く似た男性事務員が、
「増山先生、お身内の方からお電話です」と言った。
「身内?」
「携帯の方へ一度電話をされたそうなんですが、お出にならないので
こちらの電話に掛けたそうで。授業中だから終わる時間に
掛け直してくれるように言ったのですが、緊急事態なので、
とおっしゃられて」
 雅春は怪訝に思いながら、事務員に促された電話の受話器を取った。
「もしもし……」
「あっ、もしもし。増山先生ですね?」
「君は、志水君」
 電話の相手が志水である事に驚いた。矢張り理子に何かあったのか。
「理子に、何かあったのか?」
「……理子が、……理子が、誘拐されて……」
「なんだってぇ?」
 思わず声が裏返った。
「すみません!僕の責任です。僕が悪かったんです。トイレに
行くって言うんで、どうしようか迷ったんですが、理子が
トイレにまでついて来るのもおかしいって言ったものですから……」
 志水の声は震えていた。そして、かなり興奮している様子が窺える。
 雅春は何がなんだか分からなくて、受話器を耳に当てたまま
茫然としていた。
「そ、それで、それで、どうなってるんだ?」
 かろうじて、訊く。
「クラスメイトの1人が現場を目撃してて……、
それで追いかけて…救出したんですが」
 救出されたと聞いて、ひとまずホッとしたものの、
その後の言葉が気になった。
「……殴られて、怪我をしてます。酷い怪我では無いんですが、
脳震盪を起こしていて気を失ってます。今は病院で手当てを
受けていて……。本当に、申し訳ありません……」
 志水は涙声になっていた。
 殴られて脳震盪……。
 気を失っている……。
 一体、どれだけの衝撃を受けたのだろう。
 脳震盪と一言で言っても、長い時間意識が戻らない場合、
脳に障害を来している怖れが有る。自分が事故で意識を失った時も、
目が覚めた時に意識が混濁していた。その後、精密検査で異常が
無い事が判明したが、考えると不安で胸が押しつぶされそうだ。
「とにかく、すぐにこちらへ、来て貰えますか?」
 受話器の向こうで志水がそう言った。
「わかった。すぐにそっちへ向かう」
 雅春は病院の名前と場所を聞くと、電話を切って事務室を出て
校長室へ向かった。
「増山先生。…先ほど、事務室に呼ばれてましたが、
何かあったんですか?」
 校長が心配そうに先に声をかけてきた。
 雅春は口を開こうとして、一体何をどう話したら良いのか
分からなくて戸惑った。
「増山先生?どうしたんです」
 雅春は蒼ざめて震えていた。
 気を取り戻すように、ギュッと拳を握りしめる。
「……実は、妻がトラブルに巻き込まれて怪我をしたそうなんです。
それで、これから病院へ行かなければならないので早退したいのですが」
「理子くんが?怪我と言うのはどの程度なのかね?」
「それはまだ、分かりません。重症と言う程では無いとは
思うんですが、行ってみない事には……」
「わかりました。じゃぁ、すぐに行きなさい。手続きの事は
心配しなくていい。こちらでやっておきますから」
「ありがとうございます」
 雅春は深くお辞儀をすると、すぐに踵を返して校長室を後にし、
急いで帰り支度をしながらタクシー会社に電話をした。
 ロッカーを開けてコートを着る。棚の上には理子が編んだ
マフラーと帽子が置いてある。それを手に取ると涙が込み上げてきた。
その涙を振り払うように頭を振ると、マフラーを首に巻き、
帽子を被った。鞄を持ってコートのポケットに手を入れると、
手編みの手袋が指に触れた。それを握りしめる。
 職員玄関を出ると、呼んでおいたタクシーが来ていた。
早速乗り込み行き先を告げる。病院は世田谷の、北の方だった。
1時間はかかるだろう。とにかく、一分一秒でも早く着いてくれと
祈るばかりだった。



スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。