ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
18.罪 ~ 20.絆


クロスステッチ 第二部 18.罪 01

2010.11.20  *Edit 

 雅春は非常に忙しい毎日を送っていた。
 大学院へ入学すると言っても、修士課程へ入学するのではなく、
一足飛びに博士課程へ入学する。就職せずに大学へ残っていたならば、
古川と共に博士課程に籍を置いているところだ。
 本来ならば、大学を卒業した後に進むのは修士課程である。
修士課程で2年勉強し、修士論文を提出して修士の学位を取得する。
それを取得した者が、次の博士課程へ進める。
 だが、例外がある。
 専門の研究機関で2年以上研究し、それなりの成果を上げた者は、
修士課程を終えていなくても受験資格がある。
 そしてもう一つの例外資格。
 それは、修士課程を終えていなくても、同等またはそれ以上の
学力を有していると判断された者、である。
 雅春は大学在学中にそれなりの成果を上げていて、成績も
断トツで優秀だった。だから大学側は、彼の能力を見込んで、
この例外の資格を与えたのだった。
 但し、この例外には一つの条件がある。
 それは、修士論文と認められる内容の論文を提出する事だ。
 願書の提出は12月の第2週で、その時に願書と共に論文を
提出する。その論文を認められれば、そのまま受験する事が
できるが、もし認められなかった場合、願書は不受理となるのだった。
 卒業後も研究は続けていたが、学校の仕事が忙しく、
思うように捗ってはいない。土台となるものはあるが、
それを1本の論文として完成させるにはかなりの労力を必要とした。
 日々の授業の準備と補習クラスの指導、そして雑務に追われて
時間が無い中で、雅春は論文作成に力を入れた。
 一番不便に感じるのは、資料の収集だった。
 本来なら、大学の図書館や史料編纂室を利用できるが、
在学生でない今の身分ではそれが出来ない。
 雅春は必要な資料を理子に頼んだ。だから理子も、
雅春から頼まれた資料のコピーを休み時間や放課後に行い、
忙しい思いをしていた。
 休みの日も、雅春は殆ど自宅に缶詰だった。時々一緒に
買い物へ出るが、それもままならない時が多く、理子は平日の
学校の帰り、志水に同伴してもらって買い物を済ませたりした。
そんな訳だから、志水には雅春が大学院の博士課程を
受験する事を話してある。
「あの人が来年、博士課程へ入ったら、ゼミとかで一緒に
勉強する機会も出て来るって事だよね?」
 東大は学生、院生、研究生や教員が一緒に学べる大学である。
広い見地と深い教養を身に付ける為に、そういう形態が取られている。
「そうだけど、志水君は中世でしょ?時代の枠を超えた
幅広い学問を追及する所だけれど、避けようと思えば
避けれるんじゃない?」
「どうして避けるんだい?むしろ僕は進んで一緒に
勉強したいと思ってるのに」
 志水の言葉に、理子は驚いた。
「君は誤解しているよ。あの人は僕にとっては恋敵だけど、
学問の上では偉大なる先輩だ。学問を追及する身にとっては、
その偉大なる先輩と共に学べるなんて、こんな嬉しい事は
無いじゃないか」
 志水の口から、そんな言葉を聞こうとはよもや思いも
しなかった。随分と敵視していたようなのに、それとこれとは
別と割り切れるものなのか。
 その事を食事の時に雅春に話したら、こちらも想定外な顔をした。
 嬉しそうに笑ったのだ。
「論文を提出し終えたら、一度彼とゆっくり意見を
交わしてみたいものだな」
 その物言いと態度を見て、理子は何故か『機動戦士ガンダム』の
シャア・アズナブルを思い出した。
 もしかして、偉そうな態度が似てるかも……?
 ふと、そんな風に思ってこっそりと笑った。だが、
目聡い雅春に見つかってしまった。
「何笑ってるんだよ」
「えっ?」
 そんな、笑ってなんかいませんよ?気のせいじゃないですか?
 そんな思いを込めての「えっ?」だったのだが、
「今、笑ってただろう。誤魔化しても無駄だぞ」
 と、憮然とした顔で言われてしまった。
「先生。それは気のせいですよ。どうして私が笑うんです?
笑うような場面でも無いのに」
 真面目な顔をして、そう答えた。
「そうだ。笑うような場面ではない。それなのに君は笑ったんだ。
だから、理由を聞いている」
 何でいちいち、そんな事を気にして聞きたがるんだろう。
 大らかだったり神経質だったり、深く追求してきたり。
偏屈なのは、とっくに分かっていることだが、いい加減に
して欲しいと思う事もあるのだった。
「誤魔化したり、答えなかったりするって事は、後ろめたい事が
ある証拠じゃないのか?」
 理子は溜息が出た。別に後ろめたい事では無いが、言うには
バカバカしい事だ。それでも気付かれてしまった以上、
言わない訳にはいかないか。理子が言うまで、引きそうにない。
「分かりました。笑いましたよ。笑ったのは、先生が
志水君から言われた言葉を聞いて、とっても嬉しそうな顔を
されたからです。その喜ぶ顔が、あまりに可愛くて、
ついつい笑っちゃったんです!」
 理子が投げやりな調子で言うと、雅春はガッカリしたように
「なんだ、そんな事か」と言った。
「そうですよ。そんな事なんです。そんな、取りたてて言う程の
事じゃないし、先生の事を可愛いとかって言うの、あまり
お好きじゃないでしょ?だから、言いたく無かったのに」
「そうか。でもそれは君が悪い。気付かれたのは君の失態だ」
 はぁ~っ。と再び溜息が洩れる。
 はいはい、私の失態です。くだらない事を思って笑った私が
悪かったんです。気付かれるように笑いを洩らした私のせいです。
 心の中で、そう呟いた。
「だけど俺、そんなに嬉しそうな顔をしてたか?」
 意外そうな表情で、雅春がそう言った。自覚が無いのか?
 そんな雅春を見て、今度こそ理子は堂々と笑った。勿論、
冷やかすような表情を作った事は言うまでも無い。
「凄く、嬉しそうな顔をしましたよ?まるで、恋人に褒められて
嬉しくてたまらない!って感じでした」
「何言ってるんだよ。男相手に恋人なんて比喩を使うのはやめてくれ」
 何となく狼狽している様が窺える。
「だって、そう感じたんですもん」
「君なぁ。彼は俺にとっては大事な妻に横恋慕している
不愉快な男なんだぞ?」
「そうですよねぇ~。だから尚更、嬉しそうな顔をされたのが
不思議で」
 理子の言葉に、雅春はプイと顔を横に背けた。
 そんな雅春に、理子はクスリと笑った。
 もしかしたら、雅春と志水は案外気が合うのかもしれない。
互いに相手を「同じ匂いがする」と言っていたし、
理子から見ても似ている気がする。
「ところで先生」
「ん?」
 話題が変わる事を察知したのだろう。雅春は真面目な顔を
理子に向けて来た。
「いつまで志水君に送り迎えして貰うんでしょう」
 理子の問いに、雅春の目が鋭くなった。
 あれから、そろそろ1カ月になる。その間、特にこれと言った事は
無かった。写真もあれきりだ。単なる嫌がらせだったのではないか。
「そうだな。それについては、俺もまだ思案中なんだ。だが、
申し訳無いが今は論文の事で頭が一杯で、他の事まで気が回らない。
あと1週間くらいで、何とかなりそうだから、それまでは、
これまで通りに志水君に送迎してもらって用心を怠らないように
してくれないか?俺としても、いつまでも彼に送迎して貰うのは、
気が引けると言うよりは、あまり愉快な事じゃないんだ。
常々言ってるが、俺は 嫉妬深いからね」
 それは雅春の本心だった。
 二人が一度別れて、再び元に戻ったあの時に、雅春は志水に
対しての見方が変わった。それまでは警戒心が強かったが、
あれ以降、彼には一目置いているし、信頼している。
だがそれでも、出来れば理子のそばに居て欲しく無い。
 学校では仕方ないだろう。履修科目が全て同じで、同じクラスと
言う事情は避けようが無い。だが、それ以外まで一緒と言うのは
許せないと思う程、雅春の嫉妬心は強かった。
 雅春自身、そんな自分を持て余している。馬鹿馬鹿しいと
思いながら、心が痛むのをどうしようも無かった。
 だが今は仕方が無い。理子の安全が第一だ。
 自分が送迎できない以上、人に頼むしかない。そしてそれを
信頼して頼めるのは志水しかいない。同じ沿線である事を
良かったと思うのは不本意だが、都合が良かった事は確かだった。
 今の論文を仕上げて大学へ提出したら、八方手を尽くして、
写真を撮って送りつけて来た犯人を何としてでも突き止めようと、
雅春は思っていた。そうでなければ、いつまで経っても
安心して1人で通学させられない。
「先生……。一体、どうされる気なんですか?」
 理子が不安げな顔をして訊ねて来た。
 そんな理子に、雅春は笑みを向ける。
「どうにかして、誰の仕業か突き止める」
「どうにかしてって、そんな事ができるんでしょうか?」
「するしか無いじゃないか。でないと、いつまで経っても
ボディガード付きの通学が続く事になるんだぞ?」
「でも……」
「大丈夫だ。そこは考えるし、友人達にも協力して貰おうと
思ってる。みんなで知恵を出し合えば、打開策も見つかる筈だ。
とにかく、今は無理だから、もう少し待ってくれ」
 とにかく今は論文に集中して、少しでも早く完成させるしかない。
 自分の為にも、理子の為にも……。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。