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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 17.衝 撃 07

2010.11.19  *Edit 

「理子……。君の減らず口には、参ったよ」
 帰りの車の中で、雅春はそう言った。
 頭を打たれた雅春を慮って、車の運転は理子がしていた。
「『私も大丈夫だから、心配しないで』って言葉。あれは
どういう意味だったのかな。まさか、それでこんな事になるとは、
俺は思わなかったよ」
「先生。先生に痛い思いをさせちゃって、ごめんなさい。でも、
先生も悪いのよ?間に入って来るんだもの」
 理子は、まさか、自分の前に雅春が入って来るとは
思ってもいなかった。
「避けるつもりだったのに、先生が私を抱えこんじゃうから、
ああいう事になっちゃったんじゃない。私の方こそ、
驚いて心臓が止まるかと思った」
 母が手を上げた時、ぶたれるのを覚悟した。自分の言葉が母を
煽るであろう事は十分承知した上での事だった。
 母の手が振りおろされる瞬間、避ける為の間合いを計っていたら
いきなり目の前に雅春が飛び込んできて自分を抱きしめた。
そしてその瞬間、「バシッ!!」と、物凄い音がして、
その振動が体に伝わって来たのだった。
 一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、すぐに雅春の
後頭部に母の振りおろした手が当たった事に気が付いて、愕然とした。
「君が、余計な事を言うからじゃないか。
馬耳東風でいろ、って言ったのに、結局、我慢できなくなって
口を挟んで来るんだからな。そういう点は、お母さんと似てるよな」
「やめて。母と似てるなんて、言わないで!」
 理子の口調が思わず強くなった。あの母に似ているなんて、
言われたくない。
「怒るなよ。親子なんだから、似てて当たり前じゃないか。
怒ると言葉使いが変わる所だって似ている。そう思ってたら、
また君の余計なひと言が飛び出すんだから、俺は驚いたよ」
「先生は、私に喧嘩を売ってるの?私を怒らせたいわけ?」
 理子は声が震えるのを感じた。
 雅春の口から、溜息らしき吐息が洩れた。
「怒っているのは、俺の方だ。だが喧嘩を売っているわけじゃない。
俺がお母さんに打たれた事を気にしているのなら、どうして、
あんな生意気な言動を取ったのか、是非聞かせて貰いたいものだと
思ってね」
 車は国道246号線を北上している。金曜日の夜だからか、
交通量が多かった。片側2車線の道路を、何度も車線変更しながら
前へ行きたがる車が、少しでも車間を空けていると割り込んで来る。
 そんな車に注意しながら、雅春の言葉に反発を覚える。
「ねぇ、先生。子供が親を敬うのは当然の事だとは思ってます。
生んで育てて貰ったんだから。ああいう両親でも、尊敬している
部分はあるんですよ?でも、それと自分が受けた仕打ちは別だと
思います。それに、例え親であっても、教師であっても、
年長者であっても、間違いを指摘されたら認めたり謝ったりする
謙虚さって、必要な事じゃないですか?勿論、プライドが邪魔して
そうできない事もあるとは思います。それはそれで、仕方ないとも
思いますけど、だからって感情的になって力で押さえつけたり
暴力に訴えたりする事は、人としてどうなんでしょう?
私はそれに対して批判しただけなんです」
「君は本当に理論派だよな。だけど、それが例え正論で
あったとしても、親や年長者から見たら、屁理屈をこねた
生意気な小娘にしか見えないのが現実だよ」
「先生も、そう思ってるんですか?」
「半分はね」
 理子はその言葉に、ショックを受けた。
「先生がそんな風に思ってるなんて、ショックです」
「理子。君の理屈も君の気持ちもよく分かってる。
俺も同じ考えだよ。ただ、世の中は違う。その通りにいかない事の
方が多いんだ。これから君も、それを痛感する事が増えると思う。
大学の、研究分野なんか、その固まりだからな。特に歴史においては」
 雅春の言葉に、理子は複雑な心境になった。
 この人は、そこへこれから入って行くんだ。
 大学での人間関係が煩わしいから残らなかったと言っていた
言葉を思い出す。幾ら好きな勉強をしたいと言っても、本当に
大丈夫なのだろうか。ストレスで押し潰される事は無いのだろうか。
「理子。年長者が生意気だと思うのは、人生経験の差もある。
若いうちは、物事を多角的に捉えて多角的に見る事に欠ける。
一方から見たら正論かもしれない事も、他方から見たら違うと
言う事もある。まして、人間の世界は複雑だ。人の数だけ
価値観があると言っても過言じゃない。だから、自分の正義を
あくまでも押し通そうとする事は危険なんだ」
「先生のおっしゃる事は、私にも分かります。だから、
社会においては、今日みたいな事はまずしないとは思います。
でも……」
「相手が親だからだろう?親だから許せないんだろう?だけど、
親の方でも同じように思ってるんじゃないのかな。我が子だから
許せないってね。君のお母さんは確かに理不尽だとは思う。
だから君の言い分はとてもよく分かる。でも君は、わざと、
相手を怒らせるような事を言った。それは行き過ぎじゃないのかな」
「だって……、お母さんがあまりな事を言うから。
言い返したくなったのよ。本当の事だし。避けるつもり
だったけど、当たったらそれはそれで構わないって思ったの。
ぶたれたって私は懲りない。暴力には屈しない。
それを態度で現したかったのよ」
「全く、しょうがないヤツだな。君はそれでいいかもしれないが、
俺は困る。大事な君がぶたれるのなんて見たくない。それに、
あれが当たっていたら、君は脳震盪を起こしてたぞ。
あの人は、年配の女性とは思えない程の力だな。
普段から鍛えてるんじゃないか?」
 確かに雅春の言う通りかもしれない。
 物凄い音と振動。
 母が手加減なく、思いきりぶってきた事がわかった。
「そんなに、私が憎いのかな……」
 声が急に弱々しくなった。
 あの手に込められた母の感情。
 相手は娘なのに?それとも、娘だから?愛情が深い分だけ
憎しみも深くなるからなのか。
「理子。あまり深く考えるな。もう、あそこへ行くのは止めよう。
君が行きたくない気持ちは十分理解した。俺も、あそこへ行く度に
君が傷つくのは嫌だ。君を傷つける全てのものから、
俺は君を守りたい」
 雅春の低くて深い声に、深い思いを感じた。
「俺は、早すぎる結婚に最終的には承知してくれた君の親御さんの
気持ちを尊重するべきだと思って今まできたけど、こちらの思いは
一方通行のままで、多分この先もそうなんだろうと思う。
だから無理するのは止めようと思う。勿論、ご両親に何かあれば
駈けつけるし、困るような事があれば助けには行く。だが、
そういう必要が無い限りは距離を置こう」
 246は青葉台の近くまで来ていた。街の明かりが眼下に
広がっていて綺麗だ。折角の夜のドライブで話す内容ではないが、
興奮も冷めてきて心も穏やかになって来たと感じる。
「先生。本当にごめんなさい。私やっぱり、黙っているべきでしたね。
親に歯向かった所で、いい事なんて何一つ無いって分かってる
筈だったのに……」
「そうだよ。歯向かってもいい事なんて一つも無いんだ。
歯向かえば歯向かう程、君は傷つくんだ。一つだけ言わせて
もらえば、多分、君と同じだけお母さんも傷ついていると思う」
「そんな……。お母さんも傷ついてるなんて……」
 理子には信じがたい事だった。自分が傷つくのが嫌だから、
子供を傷つけるのではないのか。
「君が歯向かわなければ、お母さんが一方的に怒るだけだ。
お母さんは自分の思いをぶつけるだけで終わる。だけど君が
歯向かえば、争いになる。争いになったら、お互いに
言わなくてもいい事まで言ってしまう。それぞれが相手の言った
言葉に傷つき、そして冷静になった時に、言わなくていい事まで
言ってしまった事に、更に傷つくんだ。そうじゃないか?」
 その通りかもしれない……。
 売り言葉に買い言葉。
 そういう事が過去にも多かった。そして傷ついた。
「それに、お母さんはプライドが高い。例え君の言う事が正論だと
思っても、それを認めて子供に屈する事なんてできなんだよ。
親が子供に負けるわけにはいかない。きっと、そう思っている筈だ。
その事は、或る意味依怙地で大人げないとも言えるが、
それがお母さんの価値観でもある。だから、簡単にそれを
曲げる事なんて出来ないんだ。それなのに君は、お母さんの
一番痛い所を、わざと突いた。……俺の言いたい事、わかるだろう?」
「はい……」
 理子は小さく頷いた。
「君は、ああいう両親でも、尊敬している部分はあると言った。
少しでも敬う心があるなら、尚の事、親の欠点をあげつらって
馬鹿にしたり、人格を否定するような事を言ってはいけない」
「先生……」
 マンションの駐車場に到着した。
 理子はサイドブレーキを引き、エンジンを切って、
隣に座る雅春を見上げた。
「君の事は、ちゃんと分かってる。君は元々は素直な甘えん坊なんだ。
それなのに、ずっと否定されてきた。君が親に歯向かうのも、
親の仕打ちがあまりにも酷いからだ。これまでそれにずっと
堪えて来たのに、結婚して家を出てまで言われる事で、前より
一層耐えらなくなった。だから、君がつい言い返してしまったのも
分かるし、それはいいよ。ただ、言ってはいけない事もある。
それだけは覚えておいてくれないか」
 理子は思わず雅春に抱きついた。
 理子の心の内を分かった上で、そう言ってくれるこの人を尊敬する。
「理子……、怒ってごめんな。俺、怒りはしたけど、
君への想いは変わって無いから。嫌われたんじゃないかとか、
そんな心配はしないでくれよ?例え君が、ご両親に対して耳を
疑う程の罵声を浴びせたとしても、そんな君を批判はしても
嫌いにはならない。君には君の背景がある事が分かってるから」
「先生、ありがとう……」
 理子には雅春の気持ちが嬉しかった。帰宅途上、
ずっと雅春の言葉に耳を傾けているうちに、自分がどれだけ
浅はかだったかと思い知った。雅春が指摘したように、
一方からしか見ていなかったと思う。自分も母と同じように、
自分の気持ちばかりを優先していた事に気付いた。
「だけど先生、頭、本当に大丈夫ですか?」
 理子が心配げに雅春の顔を見ると、雅春はニンマリと笑った。
「間に入って来た先生が悪いって、さっき言わなかったか?」
 楽しそうな笑顔で、頬にエクボを作っている。
あまりにも可愛くて、憎たらしくなった。
「人が心配しているって言うのに、すぐにそうやって
揚げ足取りするんですね」
 理子は人差し指の先でエクボを突くと、
「意地悪」と言いながら指をグリグリさせた。
「こらっ!痛いじゃないか!」
 むくれる雅春にアッカンベーをして、理子は車から降りたのだった。


      17.衝 撃   了   18.罪 へつづく。



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