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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第11章 波紋 第1回

2010.03.18  *Edit 

 3年10組の教室で、理子は一人本を読んでいた。
 桜も散り、チューリップも終わり、ライラックも散り始め、
薔薇がもうすぐ咲き始める。4月も終わろうとしていた。
ゴールデンウィークが終われば中間だ。
 理子は花が好きだ。自宅の庭の花の手入れも率先してやっている。
できれば一年中、何かの花を咲かせていたいと思うのだった。
この時期は花達もちょっと一休みといった感じだ。パンジーや
ノースポールが可憐に風に揺れている。薔薇が咲き始めたら
一挙に華やかになるだろう。
 読んでいるのは、香水作りをモチーフとした小説だった。
色んな花やハーブが出てくる。香りが本の中から匂い立ってきそうな
感じがする。そして、それをテーマに描かれた恋愛がとても美しかった。


 恋愛小説は、色んな作風があって、それぞれに面白いと思うが、
一番好きな作家は立原正秋だった。耽美的な雰囲気を持ちながら、
耽美派とは言い難い。初期の、自分の出自をテーマにした暗い血が
テーマとなっている作品もとても好きだったが、後期の美しいまでの
恋愛小説にはうっとりするのだった。特に「残りの雪」には心が震える。
 この作品は、作者本人の恋愛が元になっていて、心切なくなってくる。
だが、不倫だ。実際には、こんな悲しい恋はしたくない。主人公の
女性が可哀そうで最後は泣けた。そんな事を、別の本を読みながら
思い出している。今読んでいる小説も不倫だったからだ。
 恋は突然やってくる。その人を取り巻くあらゆる環境や状況など
全く関係なく。もし先生が妻帯者だったら、私はどうしただろう?
ふとそんな事を考えた。結局のところ、辛いだけの恋だ。そもそも、
そんな事を考える事自体、馬鹿馬鹿しい。先生は妻帯者じゃないし、
自分の恋人で、結婚する約束をしている。
 でも学校にいると、いつも思うのだ。この恋は錯覚なのではないかと。
二人きりで逢う時が夢で、学校での二人が現実なのではないか。
その思いはいつまで経っても消えない。結局、卒業するまで
この思いは続くのだろうか。
 「今度は何の本を読んでるの?」
 前の席に座っている岩崎潤一が振り返って尋ねてきた。新しい
クラスメイトだ。席が前後なので自然と親しくなった。岩崎は
ちょっと大人しい感じの男子だが気さくだった。色白で少し
ふっくらした頬にエクボができる。黒ぶちの眼鏡をかけていた。
エクボができるのは増山と一緒だが、顔に黒子は一つも無かった。
鉄道好きで鉄道研究会に所属している。なんとなく気が合い、
休み時間はよくお喋りをする。
 「香水の研究所が舞台の恋愛小説」
 「へぇ~。面白そうだね」
 岩崎は理子ほどの読書家ではないが、興味のジャンルに枠が無く、
面白そうと感じればどんなジャンルでも読む。その辺は理子と
似ていた。だから、理子の読んでいる本によく興味を持ち、後から
読む事が多かった。今回も、理子が読み終わったら貸して
貰いたそうな顔をした。
 理子は、この岩崎に好感を抱いている。去年一緒だった耕介は、
とても気が合って手ごたえのあるやり取りをして楽しい男だったが、
この岩崎は、どこかのほほんとしていて、話しているとホンワカした
気持ちになってくる。癒し系なのかもしれない。
 「えー、なになに?」
 理子の後の席の渕田が声を掛けて来た。こちらは同じ中学の出身で、
一昨年の1年の時に同じクラスだった男子だ。再び同じクラスに
なった事もあり、やたらと話しかけてくる。テニス部のエースで
女子に人気がある。男臭い感じのするイイ男だ。眼鏡はかけていないが、
顔に幾つか黒子がある。
 新年度になって、理子はゆきと美輝とは違うクラスになった。
耕介とも別になった。枝本と小泉は理系クラスなので当然別々だ。
去年のクラスで再び同じクラスになったのは少なかった。親しかった
人間では、茂木と歴研のメンバー二人と、女子も僅かだった。殆どが
知らないメンバーばかりだったので寂しかった。そう言えば、去年も
似たような感じだったが、それでもゆきと美輝がいたので何の不安も
無かったが、今回は新しいクラスの張り紙を見た時、不安を覚えたのだった。
 教室へ入ると、既に幾つものグループが出来上がっていた。最初に
友達がいないとキツイ。理子は何故か男子とはすぐに親しくなれるのに、
女子となると誰とでも簡単に親しくはなれないのだった。そんな中で、
美輝と中学の時に友人だった木村和美に声を掛けられた。地味な
顔立ちで性格も大人しく、目立たないタイプだ。彼女は大人し過ぎて、
誰かに声をかけてもらわないと仲間に入れないタイプだったが、
美輝の友達の理子を見知っていたので、自分の方から声を
掛けてきたのだった。
 あまりに地味なので、理子は声を掛けられるまで気づかなかった。
顔立ちは地味だが髪が天然パーマで、魔法使いサリーのような
ヘアスタイルが特徴だった。その和美と親しくなり、今は隣の席に
座っている。無口な方なので、結局理子がよく話す相手は、男子だった。
 理子は渕田の問いかけに、「何でも無い」と素っ気なく答えた。
前と後ろを相手に話すのが億劫だったからだ。
 「なんだ、冷たいなぁ~」
 と、渕田がぼやいた。
 渕田は普段から、やたらと絡んでくる。勉強でわからない所を
訊きにきたり、小テストの範囲を尋ねたり、先生の話しをちゃんと
聞いていればわかるような事ばかりだ。だから少々うざい。
 歴研の部活で茂木に「あいつ、理子に気が有るんじゃないか」と
言われた事がある。茂木は、理子に「好きな人がいる」と修学
旅行で言われてから、積極的な行動には出なくなった。だが、まだ
想いを寄せてくれていることは伝わってきていた。それは枝本も
同じだった。理子は二人から暖かく見守られているような感じがした。
何か困った事があると助けてくれる、そんな存在だった。
 「ねぇねぇ、中間の勉強で英語のわからない所、教えて貰えないかな」
 と渕田が言ってきた。
 「やだ」
 と理子は冷たく言い放つ。
 「なんだよ、いいじゃんか。ちょっとくらい」
 渕田はむくれた。
 「人に教える程、余裕ないもん」
 「だって、本読んでんじゃん」
 その言葉にむかついた。
 「いいでしょ。そんなの私の勝手じゃない。何で、私が
渕田君に教えなきゃなんないの?わからない所があるなら、
先生の所へ行くのが一番でしょ」
 「そんなの、恥ずかしくて聞けねーよ」
 と頭を掻いた。理解できない。理子は無視して前を向く。
そうすると、渕田は理子の袖を引くのだった。
 「もう、やめてよ!」
 理子は激しく言うものの、渕田は笑っていて、ちっとも懲りない。
何故、こんなに絡んでくるのだろう。仮に茂木の指摘が正しいとしても、
やる事が幼稚だ。
 「あんまりしつこいと、先生に訴えて席替えしてもらうからね」
 と理子が言うと、一応、止める。
 理子が怒気を帯びた顔で前を向くと、岩崎が心配そうな顔をしていた。
 「大丈夫?」
 「うん。ほんと、やんなっちゃう」
 休み時間のひとこまだ。理子が他の男子と話している時には、
必ずと言っていい程、割り込んでくるのだった。やっぱり、
先生に言って、席替えをしてもらおうか・・・。だが、席を変えても、
わざわざやってきて絡んできそうな気がした。
 渕田は中一の時にも同じクラスで、枝本を好きになる前に、
ちょっといいなと思った男子だった。気さくで面白く、ちょっと
男臭さのある所が魅力的だった。入学した時には席が隣だったのだが、
親しくなる前に席替えをし、以来、同じクラスでありながら殆ど
接触が無くなった。三学期に班変えをした時に同じ班になって、
その時になってやっと親しく話すようになったが、その時には既に
理子は枝本しか眼中になく、班の中でも席は遠かったので、
それ以上親しくなる事は無かった。
 同じ高校に進学し、一年時に再び同じクラスになったが、
その時も席が近くになる事は一度も無く、たまに教室で顔を
合わす時に親しげに話しかけてくる程度だった。渕田は中学の時から
テニス部で活躍していたので、高校に入ってからも何度も大会で入賞し、
人気があった。イイ男だが華やかさは無いので、派手に騒がれては
いないが、静かな人気がある。だが、彼女はいないようだ。
 理子は渕田の求めには冷たく拒否したが、岩崎が色々聞いてきた時には
親切に受け答えしている。別に岩崎を贔屓しているわけでは無かった。
渕田にだって、最初は親切に対応していた。だが渕田の場合、あまりに
頻度が多過ぎたのだ。いちいち相手にしてはいられなくなった。
 ちょっとわからない所を訊いてくる分にはいい。だが、まるで
おんぶに抱っこ状態になってくると、うんざりしてくる。少しは
自分で努力するものだろう。
 理子は殆ど、毎昼休み、職員室まで出かけて行って、先生達に
勉強を教わっていた。今重点を置いているのは、古文・漢文と
数学だった。特に数学に力を入れた。文系の人間は数学が苦手な
人間が多い。得意な文系では点差は少ないが、その分、数学で
高得点を取れればかなり有利だ。
 ここまでやってるのに、何で努力しない人間に教えなきゃならない。
しかも、理子にとっては、唯一読書ができる、貴重な休み時間だった。
学校の行き帰りは英語の構文と単語の暗記に使っている。帰宅後は、
食事、入浴後に国・英・社の勉強をし、22時に就寝して朝5時に起き、
軽く運動をしてから数学の勉強をしている。適宜休憩時間を入れて、
ピアノの練習をしたり、ダンベルやヨガをやったりする。更に体力
強化の為に、通学はバスから自転車に変えたのだった。
 休日は、合間に庭に出て花の手入れをしたりしていた。外気に
当たる事でいい気分転換になった。毎週末、増山の家へ来るように
言われたが、矢張り毎週行くのは躊躇われたので、月一回の頻度で
月末に訪れる事になっていた。この週末、ゴールデンウィークの
初日に行く事になっている。桜の下で愛し合って以来だ。思い出すと
胸が高まるので、極力思い出さないようにしていた。
 クラスは変わったが、担任は言われていた通り、変わっていない。
毎朝夕、増山の顔を見れるのが理子にとって唯一心が潤う時だった。
この人の期待に応えたい。この人の愛に応えたい。誰に遠慮する事も
なく堂々と一緒になる為にも頑張らなきゃと思うのだった。理子の
焦点は既に一点に絞られている。そこへ向かってひた走るだけだ。
 増山の人気は相変わらずだった。特に新一年生は熱狂的だった。
増山も、赴任してきたばかりの前年度よりは対応も馴れた感じだ。
適当にいなしている。学生時代の時には自分勝手に振る舞えたが、
教師ともなるとそうもいかないようで、だから去年は相当ストレスが
溜まっていたのだろう。
 昼休みに職員室へ行って、女生徒と談笑している増山をよく見るように
なった。あまり嬉しくは無い。以前のように冷たい態度でない事に、
胸がざわつく。嫉妬しているのだろうか。自分がしたくても出来ないから
なのかもしれない。だが、その事を増山に会った時に言わないでおこうと
思っている。話したらきっと増山は喜ぶだろう。それに、嫉妬していると
からかわれるのが嫌だ。
 「どうかしたかな?」
 何となく増山を気にして集中しきれないでいる理子の様子に
気づいたのか、数学の石坂が問うてきた。
 数学の問題集でわからない所を訊きにきている時だった。
 「あ、いえ、何でも無いです」
 「増山先生の事が気になる?」
 石坂の言葉にドキっとした。石坂に気づかれる程、理子は増山を
見ていたのだろうか。
 「いえ・・・・」
 思いもよらない石坂の言葉に、理子は何と答えたらいいのか
わからなくて、取りあえず否定した。
 「増山先生は、男が見てもイイ男だからねぇ。女の子が憧れるのも
無理ないねぇ」
 石坂はおっとりとした語調でそう言った。
 「石坂先生だって、イイ男だと思いますけど」
 「そんな、お世辞を言わなくてもいいよ。まぁ、嬉しいけどね」
 「お世辞じゃないです。先生は背も高いし、スタイルもいいし、
顔だって整ってるし、落ち着いていて素敵だと思いますけど・・・」
 理子は思わず言ってしまった。本当の事だし、大人の男性に憧れる
年ごろでもあるから、増山ほどではないが、石坂も人気のある方だ。
あまりに増山に人気が集中し過ぎている為、本人には伝わって
いないのかもしれない。
 「こんなオジサンなのにかい?」
 「オジサンって、先生まだ40くらいでしょ?ちょうどいい
年ごろじゃないですか?渋みが出てきて」
 「そうは言うが、親子ほどの年の差だよ」
 と石坂は笑った。そうか。言われてみればそうだ。だが石坂は
どこかスマートな感じで、オジサン臭さを感じさせない。
紳士的な感じなのだ。
 「あの、先生と奥さんって幾つ違うんですか?」
 「うーん・・・、確か、9つだったかな」
 9つ・・・。結構、離れている。理子と増山より更に3つ多い。
それ程離れていても恋愛の対象になるのか。若いうちのこの差は
結構大きいと思うのだが。
 「それで、ご結婚されてどのくらいに・・・」
 「ちょうど、11年かな。彼女が二十歳の時だったから」
 二十歳で結婚かぁ。自分は18で結婚する事になるんだな。
 「いやに気にするね」
 「えっ?いえ、単に興味が湧いただけです。私も一応、女の子だし」
 と言って理子は笑った。
 「前も、僕と彼女の事を訊いたよね。教師と女生徒が結婚した事に
ひどく興味があるようだった」
 「それは、私に限らず、年ごろの女子なら多くが興味を持つと
思います」
 「そういうものかい?」
 「そういうものです」
 「ふーん」
 と、石坂は感心したように頷いた。
 「先生、変な事を聞くようで恐縮なんですけど・・・」
 「なんだい?」
 「ずっと教職についていて、次々と可愛い女生徒が入学しては
卒業していくわけじゃないですか」
 「そうだね。可愛くない子もいるけれども」
 と笑う。
 「沢山の女の子達と出会う中で、心を動かされる事とか無いんですか?
相手は先生から見たら子供かもしれませんけど・・・」
 石坂は理子の顔を見た。何か逡巡しているように窺える。
 「こんな事を生徒の君に言っていいものかわからないが、まぁ、
僕も一応男だから」
 と、石坂は答えた。
 「それって、肯定と受け取っていいんですか」
 「まぁね。誰にも言わないでくれよ。君と僕との秘密だからね」
 理子は、ドキリとした。石坂の表情に、何かいつもとは違うものを
感じたからだ。
 気づくと、石坂は夏目漱石のように、机に頬杖をついて
理子の事を見ていた。その視線に男を感じるのは理子の
気のせいなのだろうか。
 「君が東大を目指すようになったのは、やっぱり増山先生の
せいなのかな」
 「えっ?」
 突然の指摘に理子の胸がドキドキしだした。
 「君が増山先生と接触している所を見た事はないけど、なんだか
わざと避けているように感じるんだ。それって、気にしているから
なんじゃないのかな?」
 妙に鋭いように思えるが、何故、こんな事を言い出すのだろう、
と理子は疑問に思った。
 「確かに、敢えて接触は避けてます。だって、あまりにも
人気者だから恐れ多くて。変に接触したら、周囲が怖いんですよ」
 「何故、怖いの?だってファンならみんな同じじゃない。みんなと
同じように接する方が自然じゃないのかな」
 「そう言われればそうですね・・・。私にはそうする勇気が
無いだけなのかも」
 どこまでも平静を装う。悟られたら大変だ。
 「じゃぁやっぱり、増山先生に気が有るんだね」
 「憧れてるだけです。カッコイイ人ですし。少し離れた所から
眺めている方がいいじゃないですか」
 「ふーん。でも君は、眺めてもいないって感じするけどねぇ。
何だかよくわからないけど、気にしているようで、気にして
いないように装っていると言うか・・・。気づかれないように
見ていると言うか」
 「どうしてそんな事がわかるんですか?」
 素直な疑問だ。どうしてわかる。増山ですら、理子が見て無いようで
見ている事に気づかないのに。
理子は一般的な人間の視界よりも少し広い視界を持っている。
それに気づいたのは中学生の時だった。そのお陰で、意識すれば
かなりの範囲を、無意識を装って見る事ができるのだ。
それに気付くまでは、ボーっとした子供だった。注意力が散漫で、
周囲の変化に気づかない。だが、それに気付いてからは、ボーっと
しているふりをして周囲の様子を観察できるようになった。元々の
注意力散漫な性質が逆に能力となって、広い範囲の様子を同時に
掴むことができる。
そのせいで、視界に沢山の情報が入り過ぎて疲れる事もあるが、
自転車に乗っている時などは瞬時に多くの情報をキャッチできるので
助かっている。
 こうして石坂と向き合っていても、少し離れた所にいる増山の様子が
わかる。わかるから気になるし、気が散るのだった。

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