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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 17.衝 撃 03

2010.11.15  *Edit 

 雅春が帰宅したのは9時を過ぎていた。
 出迎えると、理子の顔をマジマジと見てから、安心した顔になった。
「どうやら、何も無かったようだな」
 そう言って抱き寄せられて、理子は満たされてゆくのを感じた。
理子自身も、無事に帰宅した雅春の顔を見、そのぬくもりを
体に感じて、安心する。
 朝別れるのは辛いが、こうして毎晩自分の許へ帰って来て
くれるのが、嬉しくてしょうがない。この日々を積み重ねていく事で、
2人は確かに夫婦なんだとの実感も増してゆく。
そして、ときめきは未だに変わらない。
 優しいキスを交わした後、雅春は着替え、理子は食卓を整え、
2人揃って食事を摂り始めた。
「暫く、帰宅時間はこれくらいになると思うから、
理子は先に食べててもいいよ」
 煮物を口へ運びながら、雅春がそう言った。
 だが理子は首を振る。
「でも、この時間じゃぁ、健康にも美容に良く無いんじゃないか?
君の就寝時間は早めなわけだし」
「控えめにするから、大丈夫です」
「そうは言っても、心配だな。まぁ、まだ痩せ過ぎな
きらいがあるから太る心配はしなくて良さそうだけど、健康面がな」
「それなら、先生だって同じじゃないですか。私の事は
気にしなくても大丈夫ですから」
「しかし……」
「私は先生と一緒に食べたいんです。一人で食事するのなんて、
嫌だし、先生にだって一人で食べさせたくないし」
 一人で食事をするのは、本当に嫌だった。
 雅春と別れていた3カ月で、それは身に沁みていた。
 雅春は理子の言葉に、微笑んだ。眼鏡の奥の瞳の色に
深い愛情を感じて、理子の胸は熱くなった。
「わかった。君は食事に関しては深い思いがあったんだよな。
君の気持ちを俺も凄く嬉しく思ってるし。だから、
この件は君の好きにしていいよ」
 その言葉にホッとした。
 家族が揃って、美味しく楽しく食卓を囲む。それは何より
理子が求めて止まない姿だった。父親不在の食卓で育って
きたからこそ、どれだけそれを願ったか知れない。だから、
特別な事情が無い限りは、なるべく揃って食事をしたいのだった。
「ありがとうございます。私、本当に、一緒に食事が出来る事が
嬉しいし、幸せなんです。まして、相手は先生ですから。
こんなに嬉しい時間って無いです」
 理子が少し赤くなってそう言うと、雅春は思いきり笑顔になった。
その顔が可愛くて、理子の胸はキュンとする。
「あんまり、嬉しい事ばかり言ってると、君も食べちゃうぞ」
 雅春はそう言いながら、楽しそうに箸を動かしている。
 初めて一緒に食事をしたのは、確か、2年の夏休みだったか。
 ゆきに待ちぼうけを喰らって沈んでいた時だ。
 あの時は、予想外の展開で一緒に食事をする事になって、
随分と戸惑い、そして心臓も破裂しそうだった。卵焼きを口へ
入れようと大きな口を開けた時に、いきなり雅春がこっちを
見たので焦ったのを覚えている。
 おちおちと落ち着いて食べていられないと思ったものだったが、
付き合うようになってからは、共に食事をする事に大きな
歓びを感じるようになった。
 それに何より、一緒に食べるのを喜んでいる事があからさまに
伝わって来るから尚更だ。しかも、結婚してからは、
理子が作った料理をとても美味しそうに食べているので、
その様を見るのが凄く嬉しい。
 学校と家とのギャップを思うと、学校では、相当感情を
セーブしているのかもしれない。学校での、感情を抑えた
クールな姿はとても素敵だが、2人の時に見せる、
少年のような顔も大好きだ。
 大人と子供が同居しているような気がする。先生として
導き守ってくれる頼もしい大人の顔と、偏屈で我がままで
甘えん坊な子供の顔。
 戸惑う時もあるものの、ありのままの姿を見せてくれる事を
嬉しく思う。
 食後のお茶の時間になって、雅春が真面目な顔をして、
志水の事を訊いてきた。理子が、志水が快く引き受けてくれた事と、
志水が言っていた事を話すと、雅春の目が厳しいものに変化した。
「彼は鋭くて頭が切れるな。前から思ってはいた事だが……」
 そう言って口許に手をやっている雅春を見て、
何かを考えているように感じた。
「先生……」
「ん?」
「志水君が同世代じゃないかって指摘した事には、成る程って
思ったんですけど、結婚式から既に5カ月も経ってるし、
同級生とかだったら今更って気もするんです」
「そうだな」
 雅春はそう言うと、ソファに仰け反るように座った後、
腕を組んだ。表情は厳しいままだ。
「先生、何か心当たりとか、あるんですか?」
 雅春の表情を見ていると、そんな気がした。
 雅春は理子の問いかけに、暫く黙っていたが、やがて目を
理子の方へ向けると、「思い浮かぶのは2人……」と言った。
「2人?」
 雅春の答えに驚いた。
「1人は、多分君も浮かんできたんじゃないかと思うが、
神山先生だ」
 神山美鈴に関しては、雅春に言われた通り理子の頭にも
浮かんでいた。だが、何か怖くて口に出せないでいたのだった。
まさか、そこまでするだろうか、との思いもあった。
「それで先生、もう1人は?」
 雅春の顔に厳しさが増した。とても不味い物を口にしたような、
苦々しい顔だ。
「志水君の指摘は、俺も感じていた事だ。まともな社会人が
できる事じゃない。彼が同世代の仕業じゃないかと言った事で、
俺の中で燻ぶっていた人物がハッキリ浮かんできた」
 同世代の人物?それって、矢張り、同級生の誰かと言う事
なのだろうか?
 理子は黙って雅春を見つめた。一体誰の事なのか。
「松橋美智子……」
 理子は驚愕した。
 松橋美智子?どうして彼女が?
「結婚式の後の、学校での噂事件。噂を流した張本人は
鈴木綾子だと言う事が分かったわけだが、あの件で君に
話していない事があるんだ」
 話していない事?
 鈴木三人娘が学校へ来て、校長も一緒に話しをした事は
聞いている。結局、謝罪は無く、今後はしないと言う約束を
して帰っていったと聞いた。何でも、綾子は牧田先生の家へ
押し掛けて、散々理子の悪口を言っていたらしい。そして、
その牧田とひと悶着あった事情も聞いた。それ以外に、
まだ何かあったのか。
「先生……、それって、どういう事ですか?美智子と何の関係が?」
 理子の言葉に、雅春は驚いた顔をした。
「君は、松橋美智子を知ってるのか?」
「知ってるに決まってるじゃないですか。同級生だし、
綾子の友達だし」
「いや、そうなんだが、どれだけ知ってる?どの位の仲だった?」
「綾子の教室へ何度か行ってるうちに友達になりました。
1年の時からです。うんと親しいと言う程ではないですけど、
顔を合わせば普通に話す位でしょうか。彼女も読書家なので、
図書室で顔を合わす事も多かったし、受験勉強が本格化する前までは、
よく喋ってましたよ。……そう言えば、彼女、先生のファン
でしたよね。ブラバンに所属してたし、何て言うか、先生の事を話
す時の目はとても熱いものを感じました。最初のうちは、
その熱意を羨ましく思ってたんですけど、先生と付き合うように
なってから、後ろめたさを感じるようになりました……」
「そうか……」
 雅春はそう言って大きく溜息をついた。
 松橋美智子が雅春に熱を上げていたのは、親しい者なら
誰でも知っていた。増山ファンは山のようにいたから、
誰もが彼女もその一人に過ぎないと思っていた。ただ、
その熱心さが度を過ぎている程である事は、理子も感じていた。
 理子は、雅春に惹かれながらも、自分の気持ちが先へ
進まないように自制していた。本気になった所で、所詮叶う筈が
無いと思っていたからだ。それでも、雅春と触れ合う度に
気持ちが傾斜していくのを止める事が出来なかった。
 だが美智子は、雅春に一目ぼれし、最初から完全に恋に
落ちていた。自分の想いをためらう事なく周囲の友人達に
語っていた。それは、他の女子とも共通しているが、
他の女子とは違う次元を感じさせていた。
 そして彼女は、部活で雅春がやり易いように熱心に気配りを
している事を周囲に語り、そんな自分に先生は一目置いて
くれている筈だと豪語していた。
 それらの事を考えると、雅春が結婚した事を知って、
どれだけ気落ちしているか、想像に難くない。
「でも先生、さっきも言いましたけど、時間的には
随分経ってますよ?」
 雅春はフッと笑った。
「そうだよな。それは、そうなんだ。だが、同世代と聞いて、
何だか妙に彼女の事が引っかかったんだよ。……君は、
彼女の進路について知ってるか?」
「進路?美智子の?いいえ。知らないです」
「家事手伝いなんだそうだ」
 家事手伝い?
 美智子が?
 真面目で、成績もそれなりに良い方だった筈だ。それなのに、
何故家事手伝いなのか。
 驚いている理子に、雅春は鈴木綾子から聞いた話しをした。
それを聞いて理子は胸を衝かれる思いがした。
 雅春の結婚相手が理子と知り、鬱になって引きこもっている。
それは理子にとっては衝撃的な事だった。
 多くの女生徒達がショックを受けるであろう事は分かっていた。
自分が同じ立場だったら、矢張り相当ショックを受けるに違いない。
だが、それによって引きこもりになるとは、思いも寄らなかった。
しかもそれがそれなりに親交の有った相手だけに、尚更、胸が痛む。
「君にとって、かなりショッキングな事だろうと思ったから、
俺はあの時、敢えて話さなかったんだ。俺自身も、
ショックだったからな」
 卒業したら、正々堂々と先生と恋愛できる。
 そう信じていたのか。
 そうだとするなら、裏切られた感が強いかもしれない。
「あれから5カ月も経ってるが、悶々とした時間を送っている
うちに、俺達を邪魔する気持ちが生じて来て、ここへ来て行動に
移したんじゃないか、そんな気がしたんだ」
「だけど……」
 雅春の言う事に一理あるような気がするものの、それでも
理子には信じられない。彼女の雅春への熱い想いは承知して
いるものの、果たしてこんな事までするだろうか。
「俺は、彼女に期待を抱かせるような言動を取った事は一度も
無いつもりだった。ただ、ブラバンをまとめる為に一生懸命に
頑張っていた労をねぎらった事はある。『お前がまとめて
くれてるお陰で助かっている』と感謝の言葉を口にした。
演奏が上手くいった時には褒めた事もある。だが、それは
特別なものじゃない。教師として普通の言動だよな?勉強や
部活の事で話しかけて来た時には真面目に相手をしたが、そ
れ以外のプライベートを詮索するような事や個人的な雑談に
関しては、他の女生徒と同じように相手にしなかった。
プレゼントもよく寄越してきたが、1つも受け取っていない。
俺は、他の女子と同じように彼女にも接してきたつもりだ。
それなのに、何故、自分は他の女子とは違うと思ったのか、
俺には未だに理解できないんだ。熊田先生は、彼女には元から
そういう気があったから気にする事は無いと言われたんだが、
こんな事があると、気にしない訳にはいかない気がしてきたんだよ」
 思いこみが激しい性格。
 そう言われれば、そんな気がしないでもない。
 彼女の雅春への嵌り具合を最初から見ているから、指摘されれば
成る程と思える節は数多くあるように思える。  
 大人っぽい雰囲気を持った女子だった。他の女子のように
浮かれた雰囲気はまるで無く、一線を画しているように
感じられたし、熱狂している女子らを少し引いて見ている節も
感じられた。
 私は彼女達とは違うわよ。もっと真剣に先生が好きなの。
 そう言っていたのを思い出した。
 自分は別格。そう思っていた彼女が、雅春の相手が
理子と知って、どう思っただろう。
誰もが理子は部外者だと思っていた。雅春には全く興味が無い。
そんな顔をしていた。そして、美智子にとってみれば友人だ。
美智子の想いを何度も聞いている。それを知りながら、
素知らぬ顔で雅春と付き合い、結婚した事になる。
2人に裏切られた、そう思っても不自然ではない。むしろ、
それが当然なのではないか。そうだとしたら、これは復讐なのか?
「でも先生。もし彼女だとしたら、私すぐに気付くと思いますよ。
幾ら鈍い私だって、知ってる顔に気付かないとは思えません。
先生だって、彰子さんと一緒の時に気付いたんじゃないのかな」
「まぁ、それはそうなんだが……」
 雅春は依然、憮然とした顔をしている。
「それに、あの筆跡。あれは美智子の筆跡じゃないです。
先生だって、彼女の癖のある字はよくご存じですよね?」
 理子の言葉に、雅春は顔を上げた。虚を衝かれたような、
そんな顔をしていた。
「そうだな。言われてみればそうだ。彼女の字とは
まるで違う。……だが…、」
 雅春は再び顔をしかめて、
「代筆を頼むと言う事も考えられないか」と言った。
 成る程。確かにそれは有り得るかもしれない。
 だが理子には、矢張り美智子の仕業だとは、
どうしても思えなかった。
 彼女がどれだけ傷ついたかは分かる。だが、だからと言って、
こんな事までするような人間ではないと思っている。
彼女は優しい人だった。



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