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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 17.衝 撃 02

2010.11.14  *Edit 

 翌朝、理子は1通の手紙を雅春から受け取った。
宛名は「志水彰人様」となっている。
 理子はそれを受け取って、不思議そうに雅春を見た。
「昨日の事情を詳しく書いておいた。彼に協力を仰ぐ以上、詳細を
伝えておく必要がある。そのうち、直接会って話す事もあるだろう。
その旨は手紙に記してあるから、君もそのつもりでいてくれないか」
「わかりました」
 雅春は、出勤時に理子に十分注意するよう念押しして出かけて行った。
 その姿を見送りながら、先生が言う程大変な事なのだろうかと、
理子は思った。昨夜は随分と先生に危機感を煽られたが、
一晩明けてみると、矢張り少し大袈裟なのではないかと言う
気持ちが湧いてきた。
 双方に異性との写真が送られてきた。その事自体は、不審に思う。
まるで、興信所の浮気調査みたいだ。勿論、自分達2人には
縁の無い事だが、何故他人にこんな事をされるのか。
 あれらの写真を見て、互いに相手に不信を抱くと思っての事なのか。
理子には自宅に、雅春には学校に送って来た事から考えると、
互いにそういう物を送られてきたと言う事を、相手に
知られたくないと思ったら知られないで済むと言う配慮が
感じられる気がした。
 黙っていれば、わからない。
 そうして、相手に不信感を抱き、仲違いをさせようと言う事なのか。
 そうだとしたら、その不信感を更に深めさせるような手立てを
講じて来るのではないだろうか。
 そう考えると、相手はまだ直接的な攻撃には出て来ないだろうと
思えてくる。いずれは出て来るかもしれないが、まだ早い。
そんな気がした。
 いつも通りに家を出て大学へ行ったが、通学途中、
多少神経を使った。また尾行されているかもしれないと思うと、
矢張り不安な気持ちが湧いてくる。
 教室に着き、授業の準備をしている所へ志水が登校してきた。
 挨拶を済ませて、理子は早々に鞄から雅春から預かった
手紙を出した。
「何?」
 志水は自分宛ての手紙を差し出されて、戸惑いの表情を
浮かべている。
「これ、うちの先生からなの」
 戸惑いの表情に困惑の表情が加わった。
「何であの人が僕に手紙を?」
「読めば分かるから、読んで貰えるかな」
 最初は大仰なと思ったが、理子自身、どう話し、どう頼んだら
良いのか考えてみれば分からなかった。上手く話せる自信が無い。
だから、こうして雅春が手紙に書いてくれて助かったと思った。
「今、読んだ方がいいのかな」
 志水の表情は何処となく硬い。
「うん。それと、志水君が考えている事とは全く違う内容だから」
 理子の言葉に、封筒に視線を落としていた志水が顔を上げて
不思議そうに理子を見た。
「それって、どういう意味?」
「読めば分かるけど、その、私達に関する事じゃないって事」
「私達って言うのは、君と僕の事かい?」
「そう。とにかく、読んでみて」
 授業までには、まだ大分時間がある。雅春からの手紙は
分厚かったが、多分、時間内に読み終える事ができるだろう。
 志水は不審そうな顔をして封を切ると、数枚に渡る便箋に
驚きながら読み始めた。
 理子はその様子を隣でジッと見つめる。
 志水の表情が見る間に変わっていくのが分かった。
いつもの柔らかい優しい表情は消え、頬が強張り、眉間に縦皺が
入って来た。そして読み終えた時、厳しい瞳を理子に向けた。
こんな眼をする彼を見るのは初めてだった。
「こんな事を知ったら、当然の事ながら、僕は君を送って行く。
頼まれなくてもね」
「志水君……」
「やっぱり、僕が感じていたのは錯覚じゃ無かったんだ。だけど、
それにしても、一体、どこのどいつが何の目的で……」
「それは、志水君が考えても分からないと思う。
私か先生の関係者だろうから」
「心当たりは、あるの?手紙には書いて無かったけど」
 理子は首を横に振った。
「今のところは、これと言ってないけど、よく考えれば
いない訳じゃないと思う」
「そうか。まぁ、そうだろうね。だけど、この教室内にまで
潜りこんで盗撮するくらいだから、軽い悪戯からのものじゃないね。
明らかに悪意を持っている」
 『悪意』と言う言葉を聞いて、理子は急に怖くなった。
悪意を持っているとなれば、矢張り自分が考えるよりも事態は
重大なのかもしれない。雅春も志水も勘が鋭い。その2人が、
こんなに血相を変えた様子を示しているのだから、自分ももっと
重く受け止めた方が良さそうだ。
「君は、朝は何時に家を出てるの?」
「えっ?」
 志水の急な問いかけに理子は戸惑った。
「あの人からの手紙に、これからは毎朝迎えに来て欲しいと
書いてある。僕も帰りだけじゃなく、朝も一緒に登校した方
がいいと思う」
 理子は驚いた。
 朝まで迎えに来て貰うとは思ってもいなかった。
「そんな、朝まで一緒じゃなくても……」
「理子。教室まで潜り込んで来る奴なんだ。一歩家を出た時から、
ずっと見張られている可能性が高い。まさか朝まで、とは
思わない方がいい。帰りに僕と一緒なら、一人になるのは
朝しかない。だから、朝だからって油断できないんだ」
 確かにその通りかもしれない。
「でも、いいの?朝、わざわざ反対の方角まで来ると言う事は、
それだけ志水君は早く家を出なきゃならないし、帰りだって
帰宅時間が遅くなるのよ?その分、勉強する時間も減るじゃない」
 理子の言葉に、志水はやっと笑顔になった。
「そんな事は心配いらないよ。受験生じゃないんだから、
そのくらいはどうって事は無い。君の安全を守る方が、
僕にとっては大事だし、何より、それだけ多くの時間を
君と過ごせるじゃないか。僕にとっては万々歳だ」
 本当に嬉しそうな顔をしている志水を見て、
理子は呆れて溜息が出た。
「わかった。ありがとう。本当に助かる」
「どういたしまして」
 志水はいつもの謎の微笑を浮かべると、授業の準備をし始めた。
 それから後は、学友たちがいる為に、問題の件については
互いに話題に上げなかったが、渋谷でみんなと別れて
田園都市線に乗りこんでから、志水が再び口にした。
「君は今日は、何か感じたかい?」
 志水の言葉に理子は首を横に振った。
「元々私は、これと言って感じて無かったし。鈍感なのよね」
 志水はその言葉を受けて笑った。
「こんな事を言って気を悪くしないで欲しいんだけど、
君は隙だらけだよね」
 理子は赤くなった。この人も先生と同じような事を言う。
「どうしたの?反論しないの?」
 不思議そうに理子の顔を覗きこんで来た。いつもの理子なら、
反論してくると思ったのだろう。理子自身、これが初めての
指摘であったなら、矢張り反論したに違いない。
「自分では分からないの。でも、その事については、
既に先生に何度も言われてる事だから……。志水君も同じように
思うって事は、やっぱりそうなのかと思って、
何か恥ずかしくなってきちゃって」
 志水は優しい笑みを浮かべた。
「恥ずかしく思う事は無いよ。それが君の美点でもあるんだし」
「美点?」
 いつも「鈍い」だの、「隙だらけ」だの、雅春から散々
言われて来て、その度にむくれていたが、それを美点だと
言われるのは初めての事だから、理子は少し驚いた。
「君は不思議な人だ。隙だらけと言っても、他人に対する
気配りは長けてる方だし、感覚も鋭いし、勘もいい。
頭の回転も速い。その一方で、どこかボーっとした所があって、
小さい事にはこだわらず鷹揚でポジティブだ。思わぬ所で
抜けてたり。コミュニケーションに関する気配りはあるのに、
それ以外の事には無頓着だったりして、周囲をあまり
気にしていない。我が道タイプでもあるしね。でも、その鷹揚さ、
隙だらけの部分が、人をホッとさせると言うか。結局のところ、
自然体なんだよね、君は。だから、一緒にいても余計な気を
使わせないし、癒される。そこが君の美点であり、魅力なんだ」
「志水君、褒めすぎ」
 理子は前より顔を赤くした。そんな風に言われるとは
思ってもみなかった。
「多分、君の先生も同じように感じてると思うよ」
「私、先生に、そこまで言われた事無い気がする。
鈍感、鈍いって何度言われた事か」
 思わず、怒り口調になる。思い出すと腹が立って来るのだ。
何度言われても腹が立つ。
 そんな理子を見て、志水はクククと笑った。
「何が可笑しいの?」
 理子が責めるように言うと、「いや、ごめん」と言いながらも、
矢張り笑っている。
「なんで、怒ってるのかなぁ~と思ってさ」
「それで、どうして笑うのかしら?」
「だってさ。何か、可笑しくてさ。あの人に、鈍いとか言われるの、
そんなに嫌なの?何度も言われてるんじゃ、いい加減、
馴れて受け流すものじゃない?」
 理子は憮然とした。
 確かに志水の言う通りかもしれない。だが理子は、未だに
馴れて受け流す事ができない。はっきりした理由は自分でも
分からないが、多分、雅春だからだろう。どういうわけか、
雅春とは最初からついつい張り合ってしまう傾向にある。
相手は目上の先生だと言うのに。
「生憎、何度言われても馴れないみたい。先生は、あれで結構、
気に障る事を平気で言う人なのよ」
「へぇ。まぁ、そういう人っぽいけど、君に対しては別だと思ってた」
 志水は意外そうな顔をした。
「そうよね。普通はそう思うわよね。私には別だって。
ところがどっこい、そうじゃないのよ」
 志水は思わず噴き出した。
「君が、『ところがどっこい』なんて言葉を使うとはね」
「可笑しい?」
 そんな事を指摘する志水を理子は不思議に思った。
「可笑しいって言うか、面白い。最近、あまり使われない
言葉だよね。若い女の子には特に」
「私、やっぱりおばさん臭いのかな」
「どうして?」
「だって、最近の若い人は使わない言葉なんでしょ?先生にも、
以前似たような事を言われたの」
 確かあれは、カラオケで歌う歌手の話しの時だったか。
 志水は軽く吐息を吐いた。
「君、もしかしていつもあの人に何だかんだと貶(けな)されてるの?」
 志水の問いに、理子はビックリして首を振った。
「そんな、いつもいつもじゃないから。何かの時に、
そうやって気に障る事を言われるだけよ。大した事じゃないから」
「その割には、結構、怒り調子だったじゃない?」
「だって、言われて嬉しくなんかないじゃない。
思い出すと腹が立ってきちゃうだけ」
「ふぅーん」
 志水はそう言って、周囲を見回した。
「どうしたの?何か感じた?」
 理子は急に緊張した。
「うん。今のところは感じて無い。一応、用心の為に見てるだけだよ」
 そう言う志水は、口許に笑みを残しながらも、眼は鋭かった。
「それで、今日一日、志水君は何か感じたの?」
 理子は最初の話題に戻した。
 志水は慎重げに周囲に視線を巡らせた後、理子の方を向いて
いつもの微笑みを見せた。
「いや。今日は感じなかった。多分、今日は来て無いみたいだね」
 その言葉にホッとする。
「だからって、油断はできない。マンションの周辺で
張ってる可能性もあるし」
 柔らかい微笑を見せながらも、瞳の奥には警戒を
促す意思を感じる。
「僕が思うに、尾行者はまともな社会人じゃないね」
「どうして?」
 何故、わかるのだろう?
「だって、どう考えたって、ちゃんとした勤め人にこんな事が
出来ると思うかい?それに、プロだとしたら、手書きで送って
くるだろうか?現状だけで判断するなら、尾行者は学生か若い
プーたろうかフリーターじゃないかと思う」
 ネックは大学の教室で盗撮している事だ。
 いくら、色んなタイプの学生が多いとは言っても、
同世代の人間じゃないと、怪しまれるだろう。駒場キャンパスは
1,2年のキャンパスだ。何浪もして入学している学生も
少なくないが、それでも、そう歳を食ってはいない。
 理子は志水の考えを聞いて、成る程と感心した。
 だが、感心はしたものの、心当たりは浮かばない。
同世代だとしたら、矢張り理子の同級生が雅春との結婚を
憎んでの行為なのか。でも、2人の結婚が知れ渡ったのは5月だ。
それから5カ月経っている。今更感が強い。
「まぁ、あくまでも今の段階でそう思うだけだから。
これからの状況で、また考えは変わるかもしれないし」
 電車は青葉台に到着し、2人は共に降りてマンションまで歩いた。
 10月ももうすぐ終わる。日が暮れるのが日に日に早くなっている。
 マンションに到着した時に志水が言った。
「やっぱり、送るのは正解みたいだ。時間帯が中途半端なせいか、
思ったよりも人通りが少ない」
 理子も、注意を促されたから改めて周囲を窺いながら帰宅したが、
指摘された通り、自分が思っていたよりも人が少なかった。
これまでは、そんな事など気にも留めずに呑気に歩いていたから
全く判らなかった。
 そして、朝も、自分が思うよりも人は多く無かった。
普通の通勤・通学時間よりも少し遅めだからだ。
「じゃぁ、これで。明日の朝、ここまで迎えに来るよ。それから、
帰宅後に、一人で外へ出ない事。買い忘れとかに気付いても、
諦めるようにね」
 そこまで言われると、事態が重く感じられて来る。
だが、送って貰った後で外出したのでは、送って貰った意味が
無いから、当たり前の事ではある。
「わかった。わざわざありがとう。また明日」
 理子は志水に手を上げて、彼の見送りを受けてマンションの
中に入った。ドアが閉まったのを見届けてから、
安心したような顔をして志水は去って行った。



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