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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 16.岐 路 07

2010.11.12  *Edit 

 校長は雅春の話しを聞いて、表情を硬くした。
 修学旅行と中間テストが終わって、生徒も教師も
一息ついている、そんな時だった。
「申し訳ありません。校長には、何くれとなく
お世話になっておきながら」
 謝る事しかできない。
「他にご存じの先生はいらっしゃいますか。
例えば諸星先生とか…」
「いえ。まだ誰にも話していませんので」
「そうですか……」
 最初は、諸星に相談しようかと思っていた。自分の気持ちは
半ば固まってはいたものの、どこか拭いきれない感情が
あったからだ。だが、理子の父親と話しをした事で、それも
無くなり、自分の気持ちは完全に決まった。
「増山先生のお気持ちはわかりました。あなたの人生なんだから、
あなたの自由です。ただ私の気持ちとしては、残念でたまりません」
 人生は長い。色々な事がある。子供達も色々だ。毎年毎年、
カラーの違う子供たちが入学してくる。だから大変だ。だが、
変化がある分、いつも良いとは限らない変わりに、
いつまでも悪いとも限らない。
 今年の子供達が教え甲斐が無いからと言って、来年も
そうだとは言えない。そうやって毎年毎年、色んな子供達を
自分は見て来た。今はこの職業に就いて良かったと思っている。
「だから君だって、今は辛くても、いずれ良かったと
思える日が必ず来ると私は断言できるんですが、君にも君の
考えや思いがあるでしょうからね」
 そう言って優しく微笑む校長を見て、雅春の胸は痛むのだった。
 この学校に来て、自分に好意を寄せてくれた先生方との
人間的な交流を、どんなに有難く思った事か。だからこそ、
その事が最後まで雅春を引き止めていたのだった。
 校長の言葉はよくわかる。わかるから、途中で辞める事に
抵抗を感じていた。やり始めた事を途中でやめるのは
自分の性分に合わない。
 それでも、雅春の気持ちは既に決まっている。
胸は痛むが、心は揺れない。
 色々な事を考えて、総合的に見て判断した最善の結果だ。
「本当に申し訳ありません。教職に就きながら、研究活動も
続けていけると安易に考えていたんです。ただ、ここでは
色々な事を勉強させて貰って良かったと思っています。
校長先生には大変お世話になりましたし、尊敬していますから、
せめて校長が異動されるまでは、と思ったのですが…」
「そうですか。そうおっしゃって貰えると嬉しいですね。
ですが、矢張りそれからでは遅いのでしょう。自分自身で
進むべき道を見つけられたのなら、それが一番です。
あなたの人生ですからね。私は一緒に働けないのが
残念ではありますが、応援しますよ」
「ありがとうございます」
 雅春は深々と頭を下げた。
 いつでも、この校長はわかってくれる。こんなに深い人は
いない。そう思うからこそ、頑張ってこれたし、
胸が痛むのだった。
「今年の3年生、宜しくお願いしますよ」
「はい。全力投球で頑張らせて貰います」
 全てをやり切って、悔いが残らぬように頑張ろうと、
雅春は固く決意した。

 校長に退職の件を伝えたと聞いて、理子は雅春が
はっきりと方向転換した事を改めて実感した。
 雅春の決めた事に異論は無いものの、それでも
一抹の寂しさは拭えない。
 新任教師として赴任してきてからの日々が思い返される。
 クールで素敵な姿は、今でも目に焼き付いている。
 もう、あの先生はいなくなっちゃうんだ……。
 高校教師で無くなっても、先生は先生なのに、
どうしてこんなに寂しく思うのか。
「どうした?」
 もう義母の博子はいない。だから今は2人きりだ。
 博子は理子の傷も痛まなくなり、すっかり体力を
取り戻したのを見届けて、増山の家へ戻った。博子が
いなくなって暫くの間、理子は寂しくて仕方無かった。
 優しい母と共に過ごした日々。
 ずっと、あの人の懐の中にいたいと思った。
 だが、そういうわけにもいかない。
 理子がすっかり元気になったのを見た雅春が、母に家へ
戻るように言ったのだった。理子はできたら、もう少し
一緒にいたいと言ったのだが、いつまでも親に甘えて
いるのも良く無いと諭された。
 確かに、まだ若いとは言え、結婚した以上は独立した大人だ。
やむを得ない時に頼る事はあっても、不必要に頼るのは
良く無いのかもしれない。
 雅春の問いかけに、理子は力なく微笑んだ。
「もう、先生が先生じゃ無くなっちゃうのか、って思ったら、
ちょっとだけ寂しい気がして来ちゃって……」
 雅春は明るい笑顔になった。
「じゃぁ、先生って呼ぶの、もしかしてやめるのかな?」
「えっ?」
 思いも寄らない雅春の言葉に、理子は驚いて雅春の顔を見た。
楽しそうに笑っている。
「だって、先生じゃ無くなるんだから、そう呼ぶのも
変じゃないの?」
 もしかして、別の呼び方をされたいのだろうか?
「先生…は、もしかして名前とかで呼んで貰いたいんですか?」
「別にそういう訳じゃない。名前とは限らないじゃないか」
 理子は首を傾げる。
「君、もしかして鈍くなった?」
 雅春の言葉にムッとした。
「酷いこと、言わないで下さい。先生が嫌なら別に止めたって
いいですよ。他に呼ばれたい名称があるなら、はっきり
言ったらいいじゃないですか」
 赤くなって興奮している理子を見て、雅春はクククと
笑っている。理子はそれが余計に癪にさわった。
 すっくと立ち上がると、スタスタと足早に
自分の部屋へ向かった。
「おい、理子、どこへ行くんだ」
 背後から声を掛けられたが、無視してリビングを出た。
「こら、待ちなさい…、待つんだ」
 雅春が追いかけて来て理子の腕を掴んだが、理子は力を
振り絞って振り払うと、自室に入った。
 その理子の後を追って、雅春がノックをしてから
返事を待たずに入って来た。
「理子、何怒ってんだよ」
 理子は自分の机の椅子に座って、雅春の方に背を向けた。
雅春の口から溜息が洩れるのが聞こえて来た。
「争い事が嫌いな理子さん。それなのに怒りっぽいんだな」
「茶化さないでよ!」
 理子は振り向いて、そう言った。声が大きく口調も強い。
雅春は驚いた顔をした。
「なぁ。何でそんなに怒ってるんだよ」
「あなたの方こそ、鈍くなったんじゃないの?」
 理子は意地悪そうに言った。
 だが、自分の中に冷静な自分がいる。馬鹿な事をしていると
批判している自分が。
 雅春は再び溜息をつくと、理子の部屋の中を見まわした。
 考えてみると、自分はあまりこの部屋へ入る事が無かった。
 結婚前の彼女の部屋と雰囲気がどことなく似ている。
 同じ人間の部屋なんだから当たり前と言えば当たり前だが、
家具も、家具の配置も違うのに、雰囲気が似ているのは、
どちらも若い女の子らしさが薄いからなのかもしれない。
 前の彼女の部屋には、飛行機のコックピットの
ポスターが貼ってあったが、この部屋にそれは無い。
その代り、友人の岩崎が撮った、渓谷の鉄橋の上を走る
鉄道の写真が飾ってある。
 机の上はノートパソコンと写真立てが有るだけだ。
写真立ての写真は、雅春だった。一緒に暮らしているのに、
机の上に置いてある。それは雅春も同じだった。雅春も
自分の机の上に、正月に初めて2人で撮った写真を飾ってある。
 理子の表情は固かった。唇が微かに震えているように見える。
 雅春は椅子に座る理子の前に跪き、その手をそっと取った。
 理子は驚いて戸惑いの表情を浮かべた。
「ごめん。俺が悪かったなら謝る。
だから機嫌を直してくれないか」
 優しい目でそう訴えられて、理子は胸が痛くなった。
優しい言葉と視線が心に突き刺さる。そんな風に
優しい目で願い事をされると、突っぱねる事が
できない理子だった。
「ごめんなさい…。私にとっては、先生はずっと先生なの…。
だから…、なんだか急に寂しくなってきちゃって。
先生が先生でなくなるのが…」
「馬鹿だな。俺が教師を辞めたって、俺は俺なのに」
「わかってます。でも…、私…」
「わかった」
 雅春が力強くそう言ったので、理子は不思議に思って
雅春を見た。変わらず優しい顔をしている。
「俺が悪かったよ。茶化したりなんかして。君の友達が
来た時に、話題になったよな。あの時に俺が言った言葉は、
今も変わらないよ。俺は君に先生と呼ばれるのが好きなんだ。
だから、君がそう呼びたいと思う限り、ずっとそう呼んでくれ」
「いいの?本当に」
「当たり前だろう?この2年半、ずっとそう呼ばれて来て、
今更変わるのもな。たださ。たまにはさ。
別の呼ばれ方で呼ばれるのもいいかな、と思っただけなんだよ」
「わかりました。じゃぁ、やっぱり、はっきり
言わなかった先生が悪かった、と言う事ですね」
「あのさぁ…」
「俺が悪かったって、今さっきおっしゃったじゃないですか」
「そうだけどさ…」
 雅春の、呆れて戸惑うような表情を見て、
理子は可笑しくなった。
「先生が悪いんです。鈍いとか酷い事を言った上に、
人を馬鹿にしたように笑うんですもの」
「それで怒ったの?いつも俺に言われてる事なのに」
「そうです。いっつも、いっつも、そうやって私を
馬鹿にして面白がって、いい加減、堪忍袋の緒が
切れたんです!」
 理子が頬を膨らませると、雅春は笑った。
「わかった。本当に俺が悪かった。君がさ。あんまり
可愛いものだからさ。つい、からかいたくなっちゃうんだよ」
 そう言われて、理子は赤くなる。
 そんな理子の頬に、雅春の手が伸びて来た。
 そっと触れられて、ドキリとする。
 親指が理子の唇に触れ、なぞり出す。それだけで理子は
胸が高鳴り、興奮してくるのを感じた。
「理子…、この態勢、ちょっと辛い。寝室へ行かないか?」
 低くて甘い声で囁かれ、体がカーッと熱くなって来る。
だが理子は首を横に振った。
「何故?俺、君が欲しいよ。抱きたい…」
 切なく甘い顔が理子を見つめる。
「だって…、先生には仕事が、私には勉強があるじゃない…」
 平日だから、それぞれに翌日の準備がある。
理子の場合は、朝、学校へ行く前に多少時間があるから
まだいいが、雅春の場合はそうもいかないだろう。
 理子の言葉を無視するように、雅春は理子の脇の下に
手を入れると、立たせた。
「先生?」
「心配しなくても、俺は大丈夫だから。
君だって、同じだろう?」
 そう言って理子の唇を塞いだ。
 雅春は理子を強く抱きしめてきて、重なる唇も激しい。
この性急さに、理子は戸惑った。
 矢張り、先生自身、退職を告げた事で幾らかでも
心が乱れているのだろうか。
 そんな風に感じた。
 結局、抱きあげられてベッドへ運ばれ、
深く激しく愛されたのだった。


          16.岐路  了  17.衝撃 へつづく。


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~ Comment ~

Re: こんばんわ。>misia2009様 

misia2009さん♪

misia2009さんのお好きな古川さんの登場に、何か突っ込みが
入るかと思っていたのですが、なるほど、気の毒だったんですね~。
まぁ確かに、案外奥手のようで。普段は博愛的に女子にラブコール
送っている古川さんですが、いざとなると臆するのかっww

前章の迷走から続く今章。まだ迷走気味でしたが、どうやら
落ち着いてきたようです。

プイと膨れるのも、ベースに相手への信頼があるからなのかな。
これで先生が逆ギレするかも、なんて微塵も考えていないのでしょう。
幸せなお二人ですね^^

misiaさんも、お体を大切になさって下さい。

こんばんわ。 

お邪魔しております。ここでニヨニヨしてしまいました^▽^
数回前は「古川さん追い詰められてるなァ」と思ったら気の毒でツッコムこともできず。彰子さん本気で疑ってたのねwww
先生は「分からないということが分かる」という冷静さをやっと手に入れて安心させられました。
その上でジャレてるので何だかホッコリしました。理子は「私の気持ちを感じてくれない」というときにプッとふくれるようですね。それだけ先生には分かってほしいし、実母に対するトラウマが元でつい怒っちゃうんですが、彼女に対するのと違って、甘えられるんですね。
あと一歩ですね!
寒さが本格的になってきたので大切にお過ごしください♪
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