ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 15.迷 走 06

2010.11.07  *Edit 

 博子と二人で雅春を見送った後、理子は博子に話しがあると
言われた。
「ねぇ。昨日、マーと何かあったの?」
 博子の言葉に驚いた。
 理子はいつもと変わらないようにしていたのに。
「どうしてですか?」
「何となく、いつもと違う感じがして。特にマーが」
いつもと言っても、ここへ来てまだ3日目なのに、勘の良い人だ。
さすがに先生のお母さん、とも思う。
「昨日、来たお客様が原因なのかしら」
「おかあさん・・・」
「ごめんなさいね。夫婦の事に立ち入るようで」
 博子は心配そうな顔をしている。
「昨日のお客様、私が見た人よね?」
 理子は切なげに博子を見た。
「おかあさんに話したら、嫌われるかもしれません・・・」
 博子は理子の手をそっと握った。
「大丈夫よ。大丈夫だから、話してくれない?」
 博子の優しい瞳を見て、理子は彼女の言葉を信じる事にした。
そして、これまでの志水との経緯と、昨日の事をしたのだった。
「そうだったの・・・」
 そう言って博子は理子を抱き寄せた。
「理子ちゃんは、全然悪くないからね。志水君の事は、私もマーが
指摘した通りだと思うわ。彼が心から信頼できる女性が現れたら、
理子ちゃんは安心できると思う。ただ、果たしてそういう女性が
現れるかどうかは、未知の事ですものね」
 そうなのだ。彼にも幸せになって欲しい。でも、彼は誰かを
愛せるのだろうか。先生のように、私しか愛せないのなら、
彼は一生幸せにはなれないのだ。そう思うと悲しい。
「でも、自然体でいようって約束したんでしょ?それでいいんじゃ
ない?お母さんは、そう思う。志水君自身も、 それが辛い
ようなら距離を置くって言ってるんだから、今はそれでいいのよ。
マーが嫉妬深くて独占欲が強いだけ。気にする事無いわよ」
 博子はそう言って笑った。その笑顔は明るい。理子は少しホッと
した。自分の息子以外の男の事を心配している嫁に、不愉快な
思いを抱くのではないかと心配だったのだ。
「志水君だけど、あの上品な微笑みの下に、決して表には出せない
感情が隠されてるって感じたわ。まだ若いのに、深い闇を抱えてる。
理子ちゃんは、それに共鳴しちゃってるんでしょ。
だから気になるし、放っておけないのよ」
 博子の言葉に理子は目を見張った。この人は凄い。やっぱり
普通の女性とは違う。
「あなたがマーを誰よりも深く愛し、求めている事はわかってるわ。
だから、志水君に対する感情はそれとは違うって事も。お母さんは
理子ちゃんの味方よ」
「おかあさん・・・、ありがとう。私自身、最初は自分の事が
わからなかった。自分のこの不思議な感情が。愛しているのは
先生だけなのに。ただ確実に言える事は、私は先生がいなかったら
生きていけない。今度の事でつくづく実感してます。だから、
なるべく先生の意に沿ってあげたいの」
 博子は軽く吐息を吐いた。
 理子から話を聞いて、博子はどうしたものかと思った。
 二人とも、熱過ぎる。
 3カ月間、離れていたせいで、加熱に拍車をかけているように
思えた。在学中も、そうやって、普通に愛を育めない分、一緒の
時間は熱いものだったのだろう。それでも、どちらかが必ず
歯止めをかけているのが救いだ。
 今回は、雅春が流されそうになったところへ理子も一緒に
流されようとして、雅春が正気に戻って歯止めをかけた。在学中は
東大受験と言う枷が、二人に歯止めをかけていたのだろうが、
今はそれが無い。
「おかあさん。私ね。なんだか我慢してるのが疲れてきちゃったの。
受験が終わるまで、ずっと頑張ってきた。ひたすら走り続けて来た。
先生に何度となく激しく求められて、その度に流されそうになった
けど、踏ん張って来た。先生が事故で怪我した時だって、本当は
何もかも放りだして駈けつけたかったの」
 あの時ほど、自分達の立場を恨めしく思った事は無かった。
愛する人が、この世で一番大事な人があんな大事故に遭って病院へ
運ばれたと言うのに、なりふり構わず行く事ができないのが、
どれだけ辛かったか。
 それでも我慢して、冷静さを保ったのは、全て結婚の為だ。
東大に合格して結婚する。命に関わるような事故だったら、
それこそ全てを擲(なげう)って駈けつけただろう。だが、
そうでは無い以上、義姉にも言われた通り、うかつな行動をしたら
結婚どころじゃなくなる。だから必死に堪えた。
自分の感情を抑えつけた。
 逢いたい、一緒にいたいと思ってもできなかった。共に過ごした
時間は濃密で、別れがたかった。受験勉強とただそばにいたいとの
想いの狭間で、ずっと辛かった。何度、流されて楽になりたいと
思った事か。
「結局、先生は自分が悪かったって言ったけど、私は時には
流されてみてもいいんじゃないか、って思ってるんです。
先生のそばに、ずっと居たいんです」
 理子の目から涙がこぼれた。
「理子ちゃん。あなたの気持ちはとっても分かるわ。だけど、もう、
ずっと一緒に居られるじゃない。二人は夫婦になったんだから。
人生は長いのよ?これから先、死ぬまで共に人生を歩むんだから、
何も今、そんなにベッタリとくっついていなくても
いいんじゃないの?」
「でも・・・」
「ねぇ。人生には、その時その時で、やる事が決まっていると
思うの。だから、その時にやるべき事、その時じゃなきゃ
できない事を優先するべきじゃないかしら?絶対に別れないって
二人して思ってるんだから、ベッタリする機会はこれから先だって、
何度でもあると思うわよ?だから、急がなくてもいいでしょう」
 理子は泣いた。博子の言葉に返す言葉が出なかった。理屈では
理解できた。だが、まだ心が納得できていない気がした。
「今の気持ちはね。3カ月も離れていた事の反動よ。互いに求めて
止まない相手なのに、ずっと逢えないでいたでしょ?禁断症状
なんじゃないの?今までの分をお互いに求めあって、これまでの
空虚を埋めようとしてる。でもそれも、もう暫くしたら収まる
ような気がするわ。そうしたら、もっと落ち着くんじゃないかしら?」
 そうなのか。これは反動なのか。
 確かにその通りかもしれない。
「だけど、マーは本当に学校を辞める気なのかしら・・・・」
「迷ってるって言ってました」
 理子はしゃくり上げながら、そう答えた。
「そう。その事については、理子ちゃんはどう思ってる?」
「私は、先生の思うようにされたらいいと思ってます。先生が
どんな選択をされても、私は従うだけです」
「それはそうでしょうけど、理子ちゃん自身の意見は無いの?」
「私は先生が先生らしく生きられるのなら、どの道を進もうと
構わないです。ただ、私と一緒にいる時間を長くしたいって
為だけの選択だったら、賛成はできないです」
「そうね。その通りだわね」
 一体、息子はどういう思いで大学へ戻る事を考え出したのだろう。
「ただ・・・」
「ただ?」
「先生は勉強したいっておっしゃってました。確かに、今の
状況では、ご自分の研究は全くできないです。在野でも研究は
続けられるからって事で高校教師を選ばれたのに、現実はまるで
そうではなくて。私も結婚して、改めて先生の大変さや時間の
無さを知りました。おかあさんも、その辺はおわかりですよね」
 理子の言葉に博子は頷いた。
 実際、結婚前も忙しそうにしていた。定時で帰れる事は殆ど無い。
行事があれば、いつも準備で遅かったし、会議や研修、部活もあった。
帰ったら帰ったで、翌日の授業の準備に追われ、休日も学校の
準備で忙しかった。あれでは自分の勉強どころじゃないだろう。
 やっと愛する人と一緒になれたのに、共に過ごせる時間は短いに
違いない。ただでさえ求めて止まないのに、この時間の無さでは、
余計に焦燥感が募るのかもしれない。これで結婚していなかったら、
更に共に過ごせる時間はもっと少なかったわけで、さぞや辛い
思いを強いられた事だろう。
 そう考えると、息子の考えもわかるような気はした。大学へ戻れば、
もっと自分の時間ができて、勉強にも打ち込めるし、理子との時間も
増えるのだから、一石二鳥と言える。
「だけど、大学院を受験するとして、受験勉強をしている時間が
あるのかしら?」
「私もそれが心配です。でも先生だったら、難しくは無いとは
思ってます。大学の先生達も、先生に戻ってきて欲しいような事を
時々私にも洩らしてますし」
「あら、そうなの?」
「はい」
 冬期から専門科目が入って来た。
 腹膜炎で倒れるまでの僅かな期間だったが、顔を合わす度に
雅春の近況を訊ねられ、戻ってきて欲しいような事を匂わすのだった。
 雅春にかなり期待していた事が、理子にもわかった。卒業して
2年を経過していると言うのに。
 雅春にとって、どの道を進むのが良いのか、
今の理子にはわからない。
 選ぶのは雅春だ。理子はついて行くしかない。


            15.迷走  了  16.岐路 へつづく。



スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

Re: NoTitle>水聖様 

水聖さん♪

博子お母さん、ほんとにステキな女性ですよね。
この人のお陰で、書いている私も癒されてきます。

困った時には博子おかあさん!ってなったら、どうしましょう??(^_^;)

NoTitle 

博子さんって、すてきな女性ですねえ・・・
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。