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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 15.迷 走 05

2010.11.06  *Edit 

「そうだな。君の言う通りだ。君を想えば、いつでも君は傍にいる」
「私、先生が思うほど、他の男性と一緒に過ごしてなんか
いませんよ。大体、授業中なんですよ?そばに座っているって
だけに過ぎないし、休み時間は他の友達も一緒です。二人きりで
過ごす時間なんて、ありません。まぁせいぜいが、渋谷から
二子玉の間くらいです。先生との時間の方が、ずっと多いと
思うんですけど」
 理子の言葉に、雅春は笑った。
「独占欲の強い俺に、愛想を尽かしてるんだろ」
「まさか。ただ、私だって、ずっと先生と一緒にいたいって
思ってるんですよ?二人して何処か誰もいない場所へ行って、
隠者の如く二人っきりでいられたらなぁって」
 雅春は手を伸ばして、理子の頬を包んだ。
「俺は何度、君をさらって誰も知らない所へ行けたらと思った事か」
「朝から晩まで、一日中ずっと一緒にいるとしたら、自営業でも
するしかないんじゃないですか?」
 理子は笑ってそう言った。
「なるほど。自営業か。でも、店とかじゃないと駄目だな。
やるとしたら、何かな」
「私、今ふっと思い付いたんですけど、塾なんてどうですか?」
「塾か」
「先生、進学塾から引く手あまただったんでしょ?多くの生徒を
合格へ導いた実績もあるし、それなら午前中とか昼間、自分の
勉強もできるじゃないですか。私はお手伝いって事で」
 理子は言ってるそばから、妙案なんじゃないかと
言う気がしてきた。
「だけど、優秀な君が手伝いって言うのも、勿体ない気が
するけどな」
「そんな事ないです。補助的な役割と、事務的な仕事と、
生徒の相談事とか、そういう方面は私が引き受けますよ。
二人で力を合わせて出来るじゃないですか。先生は経営面でも
才能があるみたいだから、向いてるんじゃないのかな」
「生徒、集まるかな・・・」
「先生のルックスなら、最初は女生徒ばかりでしょうね。
最初は宣伝活動に力を入れて、生徒が来出せば、口コミで
広がると思います。だって、いいって事がはっきり分かるで
しょうから」
 雅春は笑って、「それも一つの選択肢だな」と言った。
「俺は、高校教師の道を選択して、後悔はしていない。お陰で
君とも出会えたし。だがここへ来て、この先への迷いが生じてる。
ただ言える事は、君がいてくれて良かったと言う事だ。君が
いてくれれば、どんな道を選択しようとも、頑張れると思う」
 理子は雅春に抱きついた。
「先生。大好きよ。私には先生しかいない。だから心配しないで?
先生以外の男なんて、私にとっては男じゃないんだから。
これまでだって、男友達多かったけど、男だと意識した事なんて
無いのよ?彼らの前では私は自分は男だと思ってるくらいなんだし」
 雅春は理子を抱きしめた。
「わかってるさ、そんな事は。わかってるのに、俺は男どもに
囲まれてる君を見ると狂おしい気持ちになってくるんだよ。
今はそんな現場を見なくなったけど、いつだって君のそばに
男がいる事は想像に難くないからな。気が気じゃないんだ」
「私を閉じ込めておくしか、先生の心の平安は無いの?」
「そうだって言ったら、君はどうする?」
 切なそうな雅春の声に、理子は答えた。
「それなら、ずっとここにいる。何処へも行かない。
大学をやめて専業主婦になる」
 雅春は理子を抱いていた手を外すと、驚愕して理子の顔を見た。
「べ、勉強はどうするんだ?」
 雅春は動揺していた。
「先生に教えて貰います。だから先生は大学へ戻って?」
「理子・・・」
「先生が知ってる事、学んできた事、みんな私に教えて。
大学の資料や本も私の為に沢山借りて来て。勉強するだけなら、
ここでも出来ます。先生が居てくれれば」
 理子は本当に、それでもいいと思っていた。理子だって、
雅春のそばにいたい。東大で勉強したいと思ったのだって、
雅春がいたからだ。そして、雅春を愛するようになってからは、
何よりこの人のそばにいたいと思った。その思いはどんどん
深く強くなって、結婚してからは、何より先生のそばに
居たい気持ちが強くなった。
 思わぬ事件で離れてしまったが、だからこそ今は以前よりも
傍を離れたくない気持ちが強くなってしまった。
 在学中は、何度もこの愛に溺れそうになったが、何より東大に
合格しない事には雅春と一緒になれない。だから、必死で
勉強してきた。だが、今はそれもない。
 ずっと苦しんで来た生家からも解放された。必死で頑張って
東大に合格した事で自分に自信もついた。この先何かあっても、
先生と一緒なら乗り越えて行ける確信がある。だから今、
この愛に溺れてしまっても、何の問題も無いと思える。
「いや、駄目だ」
 雅春は首を振った。
「そんな事はさせられない」
「先生・・・」
「俺が悪かった。子供みたいな事を言って、君を困らせてしまった。
君はちゃんと大学へ行って卒業しなきゃだめだ。卒業後に
専業主婦になりたいと言うなら、それはそれでも構わないが、
何のために必死で勉強して大学へ入ったのか、それを忘れては
いけないし、初志は貫くべきだと思う」
「私は。先生と一緒になりたかったから頑張ったの」
「それは、東大に合格したら結婚しようって俺が言ったから
だろう?最初は違ったじゃないか。君は日本史の勉強をする事と
自立したいが為に勉強に本腰を入れ始めた筈だ。結婚は
その付録に過ぎない」
 雅春は理子の言葉に目が醒めた思いだった。自分の愚かさを
悟った。あまりにも理子への想いが強くて、離したくない
気持ちが強すぎて、現実離れした事を言葉にしてしまったと
後悔した。
「君を閉じ込めておくなんて事は出来ない。そんなのは愛じゃない。
エゴだ。自分の気持ちばかりを優先して、君の人権を無視している。
俺は、そんな男に成り下がりたくない」
 雅春の真剣な眼差しを見て、理子は溜息を吐いた。
「先生。わかりました。私、何だか疲れちゃいました。
おやすみなさい」
 理子はそう言うと、雅春に背を向けた。
 本当に疲れた。なんだかとっても振り回されたように感じる。
「理子・・・」
 背中越しに呼ばれたが、理子は返事をしなかった。
「理子・・・」
 再び呼ばれた。今度は前より口調が強かった。
「理子、怒ったのか?」
 理子は首を振った。怒ってはいない。本当に疲れたのだ。
もう何も考えたく無かった。

 翌朝、理子はいつもと変わりなかった。
 その笑顔を見て雅春はホッとした。
 昨夜は結局、理子は背を向けたまま、雅春の呼びかけに
応える事無く眠ってしまった。自分の言った事に深い後悔の
念が湧いた。
 自分でいけないと思いつつも、いつの間にか我儘を言い、
彼女を困らせている自分がいる。彼女に対しては、自分を酷く
粘着質な男だと思わずにはいられない。
 思いが強すぎて、感情のやり場に困っている。
 朝食後、雅春は理子を寝室へ呼んだ。
「理子。昨日はごめんよ。俺、我儘だった」
 理子は雅春のそばに寄ると、黙って着替えを手伝いだした。
「理子」
 何故、返事をしないのか。
「先生。もう、昨日の事は無し。私、昨日の件については
何も話したくないです」
 理子は無表情にそう言った。そんな理子を見て雅春は不安だ。
「怒ってるのか?」
「いいえ。何か昨日の話しって、考えてみると二人して迷走
してましたよね。きっと二人とも、頭が変だったんですよ。
考えれば考える程、なんか変な所へ行くようで、疲れちゃいました。
だから、もう考えたくないんです」
 雅春は理子が選んだネクタイを首に掛けた。
「考える事を止めるってことか?」
「昨日の事に関しては、です。いずれ、なるようになりますよ。
難しく考え過ぎちゃったんじゃないのかな」
 理子はそう言って笑った。
「わかった。君がそう言うなら、昨日の事は取り敢えず
無しって事にしよう」
 そう言ったものの、本当にそれで良いのだろうか。
 だが、ある面理子の言う通りだとも思える。昨日の事は
あまりにも馬鹿げていた。雅春は、自分の感情のままに喋り、
理子を振りまわしていたと言える。ただ理子が、自分の意に
沿おうとしてくれていた事だけは、はっきりと分かるし、
嬉しかった。
 ネクタイを締めた後、雅春は理子をそっと抱きしめた。
「理子、君を振りまわしてごめんな。だけど俺は、君の気持ちを
有難いと思ってる。君と入籍した日、俺は君となら何処までも
高みへと登っていけると思ったんだ。それなのに、それと反対の
事をしようとしてた。君がそんな俺の目を覚まさせてくれたんだ。
感謝してる。そして、誰よりも愛してる」
 理子はその言葉を聞いて、雅春の胸に頬を寄せた。ずっと
こうしていられたら、他には何もいらないと、本当に思っている。
だが現実は、矢張りそういう訳にはいかない。
 雅春は暫く理子を抱きしめた後、体を離して唇を寄せた。
 優しく重なり合い、吐息が洩れた。
 そっと、下唇を舐められて理子は恍惚とした。
 唇が離れた後、理子は雅春の顔を見て言った。
「明日から、学校へ行こうと思ってます」
 雅春は軽く微笑んだ。
「わかった。だけど、無理はしないでくれよ」
 理子は頷いた。

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