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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 15.迷 走 04

2010.11.05  *Edit 

 その晩、寝室で二人きりになった時に理子は志水との事を
雅春に話した。
「そうか・・・」
 雅春はそう言うだけだった。
「先生。私、間違ってる?」
「それは、分からない」
 雅春はそう言って理子を抱き寄せた。
「分からないってどういう事?」
「間違っているか否かを今判断する事はできないと思う」
「じゃあ、先生の気持ちは?私は、先生にとって、いけない事を
したと思う?」
 雅春は理子の目をジッと見つめて、
「君はどう思ってるの?」と訊いた。
「私は、先生に対してはいけない事をしたとは思ってません。
ただ、志水君にとっては、やっぱり酷な事なのかな、とか
思っちゃうんですけど」
 理子は俯いた。
「君達が惹かれあうのは分かってる。この間も話しただろう?
君がみんな話してくれたから、俺の事は心配しなくていい。君の
俺への気持ちはわかってるから。それに、昨日も言ったけど、
何が有ろうと無かろうと、俺の気持ちは変わらない。君が泣いて
俺を拒絶するような事があっても、俺は君を離さない。万一、
君が彼を愛するようになったとしても、俺は別れる気は
さらさら無い。絶対に離さないし、誰にも渡さない。
憎まれたっていいさ。君は一生、俺のものなんだ」
 そう言う雅春の瞳は暗かった。
 やっぱり私は、先生を傷つけてしまったのだろうか。
「そんな不安そうな顔はしないでくれないか?」
「私、そんな顔をしてますか?」
 雅春は理子の頬にそっと手を当てた。
「してる。言っとくけど、俺、妬いてないから。俺も君達の事を
色々考えてたんだ。俺が思うに、君と彼は生き別れた双子の
兄妹って感じがするよ。二人とも、身内の愛に飢えている。
でも君には俺がいる。だが、彼には誰もいない。だから君は、
いつまでも彼の事が気になるんだ」
「じゃぁ、先生。志水君にも相手ができたら、私も彼を気に
しなくなるって事?」
「俺は、そう思う。あいつの幸せそうな顔を見たら、君も安心
するだろうし、その時こそ、本当の友達としての関係を築いて
いけるんじゃないのかな」
 そうか。そうかもしれない。彼を好きなのは、身内のような
感情なんだ。同類だから、放っておけないのだ。
「それで先生は、私を許してくれるの?」
 それが一番気になる事だった。
「許すも許さないもないよ。君がしたいようにすればいい。
俺の許しを請う必要はない」
 雅春のその言葉に、理子は首を振った。
「どうして突き放すような事を言うの?やっぱり、怒ってるのね?」
 雅春は暗い目をしたまま、表情を変えない。そんな様子に不安を
覚えずにはいられない。
「怒ってはいない」
「嘘!」
「俺を嘘つき呼ばわりしないでくれないか」
 いつもよりも低い声でそう言う雅春を見て、理子は怯えた。
「ごめんなさい・・・」
 理子は目を伏せて、そう呟いた。なんだか怖くて雅春を見れない。
「理子・・・・」
 雅春は低く囁くように理子を呼んだ。
「理子。こっちを向いてくれないか」
 そう言われて、恐る恐る雅春を見た。雅春の顔はさっきと
変わらなかった。
「本当は俺、君をずっとここに閉じ込めておきたいよ」
「先生・・・」
 理子はその言葉に驚いた。
「君は俺のものだ。俺だけの。誰とも会って欲しく無いし、
言葉も交わして欲しく無い。視線も交わして欲しくないし、
そもそも誰の目にも触れさせたくないんだ。それほど君を
一人占めしたいんだよ」
 理子は何も言えなかった。
「馬鹿みたいだろう?でも、それが俺の本心なんだ。大事な宝物は、
誰にも見せずに大切にしまって、自分ひとりだけでこっそりと
楽しむものだ。君は、俺の大事な宝物なんだ」
暗い瞳に情念の炎が赤黒く燃えているように見えた。
「それが俺の本心ではあるが、でも、そんな事は到底できない。
君の行動までも制限する事はできない。そんな権利は俺には無い」
「先生・・・。じゃあやっぱり、先生は私に志水君と距離を
置いて欲しいと思ってるんですね?」
 理子はやっとそう言った。
 雅春は微かに笑った。
「それは別に、彼に限った事じゃない。して欲しいと言うなら、
全ての男にそうして欲しいと思ってるよ」
 理子は、訳が分からなくなってきた。妬いていないと言いながら、
やっぱり妬いているのではないか?好きにしていいと言いながら、
本心はそうではないようだ。
「訳が分からないって顔をしてるな。そうだよな。俺自身でさえ、
分からないんだから。自分の中に矛盾を抱えている。凄く複雑な
気持ちで、それを上手く言葉に出来ないんだ」
「先生・・・。ごめんなさい。私いつも先生を
苦しめてるみたいですね」
「君が悪いんじゃないよ。俺が子供なだけなんだ。君の心は
分かってる。君を信じてる。彼と一緒にいる時間が多くても、
君が愛するのは俺だけだ。ただ俺は、俺よりも君と多くの時間を
別の男が有するのが、嫌なだけなんだ。君と一緒に居る時間が
一番長いのは、俺じゃなきゃ嫌なんだ。子供っぽいだろう?
馬鹿な男だと思うだろう?」
 理子は首を振った。
 確かに子供っぽいと言えば、そうなのかもしれない。
 だが、雅春の思いは理子にもわかる。
 ずっと一緒にいたい。傍に居たい。
 これは、教師と生徒として始まった事の弊害なのか、
もしくは後遺症か?
 そういう思いが強いから結婚したと言えるが、その思いの
強さは普通のカップルよりも、異常と思える程強いような気がする。
もっと一緒にいたいのに、在学中は二人の立場がそれを邪魔していた。
 結婚したら、今度は理子は大学で、雅春は職場で離れ離れだ。
一緒に居られるのは、夜と朝のほんの短い時間と、休日だけ。
休日だって、雅春は忙しい。普通のサラリーマンのように、
気安く有給休暇は取れないし、部活はサービス残業みたいなものだ。
おまけに休日まで、喰い込んで来る。
 現実とはそうしたものだ。当たり前の事なのだ。
 結婚したんだから、普段一緒にいる時間は短くても、一生を共に
するわけだし、互いが互いの帰る場所でもある。離れていても
心は一緒だ。そう思って日々を過ごすしかないのに、二人して
激しい感情の波に呑み込まれがちだ。
「君はもう大人だ。だから俺の許可を取る必要なんて無いんだ。
俺の気持ちは俺自身の問題であって、君のせいじゃないんだから」
そう言われても、暗い瞳を見ると心穏やかではいられない。
雅春は理子から視線を外すと、仰向けになった。
「俺、今回の事で色々考えたんだ。もっと君といられるには、
どうしたらいいんだろうってね。それで思ったんだよ。
大学へ戻ろうかなって」
「えっ?」
 理子は驚いた。
「先生、それは、学校を辞めるって事ですか?」
「うん。大学院の試験を受けて、春から学校を辞めてそっちへ
通おうかと迷ってる」
 学校で二人の悪い噂を立てられて、辞職の話しが出た時でさえ、
辞める事を考えなかったのに、何故今頃になってそんな事を
考えるのだろう。
 しかも、もっと自分と一緒にいられる為だなんて。
 大学での人間関係が煩わしくて高校教師になったのでは
無かったのか。
 本当にそれでいいのだろうか。
「先生。でもそれじゃぁ、校長先生に義理が立たないんじゃ
ないですか?守って下さったのに」
 雅春は顔を横に向けて理子を見ると笑った。
「校長も、もうすぐ異動になると思う。来年かどうかは分から
ないが。俺はこの2年半で、自分は高校教師には向かないなって
つくづく思うんだ。元々、人と深く関わるのは苦手だ。
生徒達との関わりで、ストレスも溜まったが、得る事も多かったし
充実していたとは思う。だが、これ以上続けて行く自信が
無くなって来た。あまりにも多過ぎるんだ、やる事が。
今の状況じゃ、君との時間も少ないし、自分のしたかった
勉強なんてまるでできない。君の受験に付き合って、再び俺も
勉強したい気持ちが強くなったんだよ」
 理子は何と返答したら良いのかわからなかった。
 結局は、雅春自身の問題だ。理子はどうこう言えない。
「学校を辞めたら、収入が無くなる。卒業後も、大学に残れるか
どうかはわからない。残れたとしても、収入は微々たるものだ。
でも、君に苦労はかけないから、その点は心配しなくていいから」
「先生。私を守る為に、一人で抱え込まないでね。
そっちの方が心配です」
 理子は不安げに雅春を見た。
「わかってるよ。大丈夫だから」
 雅春はやっと優しい顔で理子に笑みを向けた。
「先生がそうしたいって思うなら、私は構わないから。私はただ、
先生について行くだけ。先生のそばにいられればそれでいいの。
体は離れていても、いつもそばにいると思ってる。先生を思えば、
すぐそばにその息遣いを感じる事ができるの。
先生だって、同じでしょう?」
 理子は自分の想いのたけを込めて雅春を見つめた。


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