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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 15.迷 走 03 

2010.11.05  *Edit 

「理子。本当にごめんな」
 ベッドの中で、雅春がそう言った。理子は顔だけ、雅春の方へ
向けた。すまなそうな顔をしている雅春を見つめる。
「どうした?」
 理子はその問いかけに首を振った。
「私があまりにも子供過ぎたから。馬鹿だったから。先生だけじゃ
なくて、美鈴さんも傷つけてしまって。私、どうしたらいいのかな」
 理子はそう呟いた。本当に、二人には申し訳無く思う。済んだ
事だといくら言われても、胸の痛みは無くならない。
「どうしようもできない。様子を見るしかないって言ったのは
君じゃないか」
 理子は雅春の目を暫く見つめてから、視線を天井へやった。
「悔やんでもしょうがない事ですけど、それでも胸は痛いです」
「君が胸を痛める事じゃないよ。さっきも言ったけど、彼女に逃げ
込もうとした俺が悪い。原因を作ったのが君だったとしても、
逃げるか逃げないかは自分自身の問題なんだ」
 雅春はそう言った。
「理子。頼むから自分を責めないでくれないか?その代り、俺も
自分を責めるのは止める。二人して自分を責めていても堂々めぐりな
だけだ。なんの解決にもならない」
 雅春の言葉に理子は頷く。
 先生の言う通りだ。いくら自分を責めても何も始まらない。
「ところで、あれ、買ってきたかい?」
 理子は頬を染めた。
 雅春の細い指先が頬にそっとふれた。理子はその手を優しく掴み、
顔を雅春の方へ向けた。
 潤んだ瞳が自分を見ている。
 甘くて幸せそうな顔をしていた。
「先生?」
「ん?」
「今日、おかあさんと沢山話しをしたの」
「うん」
「実家での先生の様子も聞きました」
 雅春はその言葉に眉を顰(ひそ)めた。
「本当に、ごめんなさい」
「理子・・・。もう本当に止めよう。済んだ事なのに。
母さんも余計な事を・・・」
 雅春は眉を寄せた。
「先生。私はおかあさんから色々聞けて良かったと思ってます。
先生の事だけじゃなくて、おかあさん自身の気持ちも聞けたから」
 理子は抱きしめられた。
「もう、二度と離さないよ。何が有ろうと無かろうと。あんな
思いをするのは、もう嫌だ。君がどんなに嫌がろうとも、俺は君を
離さない。君に愛されなくなっても、嫌われたとしても、それでも
俺は君のそばにいる」
 理子は胸が熱くなった。これからもずっと、こうして自分を
離さないでいて欲しいと思う。
「先生・・・。大好き。とっても」
 理子はそう言って、雅春にしがみついた。
 広い胸は暖かく、心臓の鼓動は力強かった。

「体の方、大丈夫なの?」
 翌日の3時過ぎに志水がやってきて、開口一番そう言った。
心配そうな顔をしている。
「大丈夫よ。大事を取ってるだけだから。明後日には登校するつもり」
 理子は微笑んだ。
「とにかく、あがって?」
 志水をリビングへと通した。
 志水を見た博子の顔色が変わった。表情も強張っている。
「おかあさん、大学のクラスメートの志水君です。今日は
授業のノートを持ってきて貰ったの」
 理子は微笑みながら志水を紹介した。
「はじめまして。志水彰人です」
 いつもの謎の微笑を浮かべて、志水は挨拶をした。
「どうも初めまして。雅春の母の博子です。今日はわざわざ、
すみません」
 硬い表情のまま、博子はそう挨拶をした。
 驚くのも無理は無い。まさか、あの時の男がここへ来るとは
思いもしていなかったのだろう。
「おかぁさん。心配いらないから。彼は美鈴さんとは
違うから大丈夫です」
 理子の言葉に、少しだけ博子の表情が和らいだ。
「そう。じゃぁ、今お茶を淹れて来るわね。二人ともソファで
寛いでいて?」
 理子が先に立ってソファへ移動したので、志水もそれに従った。
「大丈夫なの?」
 ソファに腰を下ろした後、心配そうに訊ねて来た。
「大丈夫って?」
「その・・・、あの人のお母さんでしょ?僕の事、誤解しないかな」
 そう言って、志水は理子から視線を逸らせた。
「大丈夫よ。心配しなくても」
 理子の言葉に、志水は逸らせていた視線を戻してきた。
「美鈴さんって言うのは?」
「他校の日本史の先生なんだけど・・・」
「君が病院に運ばれた時にあの人が一緒だった人かい?」
 理子は頷いた。
「それで?」
「昨日、ここまで来たの」
 理子は昨日の美鈴との事を志水に話した。
 志水は「そうか」と言って、そのまま沈黙した。
表情は心なしか暗い。
「お待たせしました。どうぞ」
 博子が明るい声でお茶を二人の前に置いた。
「あ、すみません。どうぞお構いなく」
 志水は微笑んだ。上品な笑みである。この人のこの表情を見ると、
心が和らぐ。
「じゃぁ、ごゆっくり」
 博子はそう言うと、退室した。
「優しそうな人だね」
「うん。とってもね」
 理子は笑ってそう答えた。
「そうだ。肝心な物を渡さなきゃ」
 志水はそう言って、鞄の中からノートのコピーを出した。
「ありがとう。凄く助かる。志水君のノート、わかりやすいんだもの」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
 志水は微笑んだまま、まっすぐに理子を見る。その視線を
理子は受け止めた。
「それで、どうして僕をここへ呼んだの?ノートだけじゃ
ないでしょ?」
 優しいが冷静な口調で、志水がそう言った。
 理子は一端視線を外し、目の前の紅茶を手に取った。いい香りが
する。それをひと口飲んでから、再び志水を見た。志水の表情は
変わらない。
「自分でもね。よくわからないの。ただはっきり言える事は、
逢いたかったって事だけ」
 理子の言葉を聞いても、志水の表情は変わらない。ただ、
ゆっくりと瞬きをしただけだった。
「ごめんね。逢いたかった。それだけなの。どうして逢いたかった
のか、それは自分でも分からない」
「理子・・・」
 志水はせつなそうな表情をして、首を振った。
「志水君との事は、全て先生には話してある」
 理子の言葉に志水は目を剥いた。
「それであの人は?」
「問題ない。あなたの事は、わかってくれたから」
「わかってくれたって言うのは、どういう事だい?」
 志水の口調が強くなった。
 理子は思わず目を伏せる。
「僕に逢いたいと思ってくれた事は、凄く嬉しい。でも僕は、それを
単純には喜んではいけないんだよね?」
 理子はどう答えたら良いのか分からなかった。矢張り呼ぶべきでは
無かったか。普通に学校で顔を合わせるまでは、個人的に
逢うべきでは無かったのかもしれない。
「入院中に、退院したら話し合おうって約束したでしょ?だから、
いい機会だと思ったの。自分でもね。本当にわからないの。ただ、
あなたの事が気になって。その顔を見たくて・・・。変だよね。
愛しているのは先生だけなのに」
 残酷な事を言っている。わざわざ呼びつけて、こんな事を言って、
傷つけるだけじゃないか。
「理子。僕もあれから色々と考えたんだ。僕はこの夏、君のそばに
いれて幸せだったよ。過ぎてしまえば束の間だったけどね」
 例え、理子は雅春と別れたとしても、自分のものには絶対に
ならないと分かっていた。彼女が愛しているのはあの人だけだ。
自分に好意を抱いてはくれても、愛する事は無い。それが分かって
いても、それでも欲しかった。
 あの人ほど愛してはくれなくても、自分と居る事でやすらぎを
得てくれるなら、それで構わなかった。
 魂の深い所での繋がりを感じる。
 理子がそばに居てくれるだけで、志水の心は癒された。
 彼女の息遣いを身近に感じて、どれだけ幸せだったことか。
「君のそばにいるとね。何だか無防備になっちゃうんだよ。
それは多分、あの人も同じなんだろうと思う」
 慈しみ合いたい。ずっとそばにいて笑っていて欲しい。その為
だったら、何でもする。その全てが欲しいけど、彼女が望まない
限り手は出せない。
「僕はね。許されるものなら、あの人と君を共有したいくらいだ。
あの人のものであっても構わない。僕を受け入れてくれるなら。
君の全てをこの手にしたいんだよ」
 志水の言葉に胸が締め付けられる。
「ごめん。こんな事を言って。君を困らせるつもりで言って
るんじゃないんだ。あくまでも、僕の本心を語ってるだけなんだよ。
実現不可能な事は十分わかってる」
「志水君・・・。私、上手く言えないんだけど、多摩川であなたから
告白された時、あなたを拒絶した事を後悔したの」
 理子の言葉に、志水は不思議そうな顔をした。意味が分からない
のだろう。
「本当は、あなたに惹かれてる自分をどこかで感じてたの。だから、
怖かった。気付かぬ振りして、ずっとそばに居たかったの。でも、
それは異性に対する愛とはちょっと違う気がするの。それが
分かったのは最近なんだけどね」
「ごめん、理子。僕にはよくわからない」
 理子は軽く微笑むと、志水にお茶を勧めた。
「冷めないうちに、飲んで?美味しいわよ」
 理子の言葉に頷いて、志水は紅茶を飲んだ。
「あなたとは、深い繋がりを感じるの。だから、あなたの事が気に
なるし、その柔らかい微笑みを目にすると、ただ隣に居たいって
気持ちになってくる。だから、私がそばに居ても構わないなら、
いさせて欲しいと思ってる。でも、それが辛いなら、私は遠くから
あなたを見守ってる。私は先生しか愛せないから、
見守る事しかできないの」
 志水の紅茶を持つ手が震えた。カップをそっとソーサーの上に
置くと、志水は恐る恐る理子の顔を見た。
「君は、・・・僕がそばに居てもいいのかい?あの人は、
それを許してくれるの?」
「先生は、許してくれると思う。あなたの気持ちが分かるって
言ってた。ただ私は、あなたを友達としてしか見れない。
ごめんなさい。酷い女だよね。だから、あなたの判断に任せる。
私の気持ちは、この夏の間、一緒に過ごした時間のように、
自然体でいたい。それだけ。もう少し距離を持って付き合いたい
と言うなら、それでも構わないし。とにかく、あなた次第よ」
 志水は暫く考えた後、言った。
「取り敢えず、普通に、自然体で付き合ってくれないか。勿論、
友達として。その状態をとても辛く感じるようになったら、
君から離れるかもしれない。ただ今は、自分でもわからない。
今すぐに君のそばから離れる方が、僕にとっては辛いよ。だから、
君が許してくれるなら、暫くはそばに居させて欲しい」
 二人は見つめ合った。
 そして、同時に微笑む。
「じゃぁ、僕はそろそろ失礼するよ」
 志水は立ちあがった。
 玄関口で、志水は手を差し出した。
「握手、させてもらってもいいかな」
 理子は微笑んで手を出した。その手を志水はそっと握った。
 大きな手だった。雅春よりは小柄なのに。
「ありがとう」
 そう言って手を離すと、彼は外へと出て行ったのだった。

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