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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 15.迷 走 01

2010.11.04  *Edit 

「どうして、ここに・・・」
 思いもよらない人物を見て、理子は驚愕した。
 美鈴はうろたえた顔をしている。
「理子ちゃん、知ってる方なの?」
 博子の問いかけに、理子ではなく美鈴が答えた。
「初めまして。稜山高校で日本史を教えている、神山美鈴と申します。
増山先生には懇意にして頂いています・・・」
 そう言って、深々と頭を下げた。
 博子は驚いた。日本史の教師と聞いて、理子と離れている間に
息子が会っていた女性教師だとすぐに察したからだ。
「そうですか。それで、今日はどうしてこちらへ?学校の方は
宜しいんですか?」
 博子は落ち着いた口調でそう言った。
「今日は、午後から出張で・・・、近くだったものですから、
ちょっと寄ってみたんです・・・」
 どことなく定まらない視線で、たどたどしくそう言った。
 まだ夕方の4時を回ったばかりだ。月曜日のこんな時間に雅春が
いる訳が無い。理子に会いに来たのだろうか?それにしても、何故
ここを知っているのだろう。理子は不審に思った。
 博子の方は、どうしたものかと考えていた。ちょっと寄った
だけだと言うが、一体本当に何をしに来たのだろうか。
 何も言わずに黙っている二人に、美鈴が、「あのぅ・・・」と
様子を窺うように声をかけてきた。
「あのう・・・、失礼ですが?」
 と、博子に問いかける。初対面だ。相手が名乗ったのだから、
こちらも名乗るのが礼儀か。
「初めまして。増山の母の博子と申します」
「増山先生の、お母様・・・!」
 美鈴は驚いていた。思いがけない場所で思いがけない人物に会った。
そう思っているのだろう。
「それで、神山さんでしたか。ちょっと寄って、どうなさる
おつもりだったんですか?」
 博子は飽くまでも冷静な態度で臨んだ。
「私・・・、増山先生の事で理子さんと話がしたくて。あの、
お母様も良い機会ですから、私の話しを聞いて貰えないでしょうか」
 美鈴の言葉に、繋いでいる理子の手に力が入った。不安で
心細いに違いない。博子はその手を握り返した。そして、
優しく理子に問いかけた。
「理子ちゃん。この人はこう言ってるけど、どうする?」
 理子は博子の顔を見た。心許ない顔つきだ。確か、病院で
この女性と一度対峙している筈だ。紫から聞いている。その時は
一人でさぞ心細かった事だろう。今日、手伝いに来ていて矢張り
良かったと博子は思った。
「お願いします。私、このままじゃ、どうしても納得できません」
 美鈴は強い口調で二人に訴えた。少し、思い詰めているように
感じられる。この人をここで突き放す訳にもいかなそうだ。また、
ぐずぐずとここでやり取りしているのも、周囲を憚られる。
「理子ちゃん、あがってもらいましょう。ここで話してるのも
なんだから」
 義母の言葉に理子は頷いた。
 二人は美鈴を伴って、建物の中に入った。部屋に着くまで、
三人とも無言だった。
 理子が部屋の鍵を開け、美鈴を中へ誘(いざな)った。
「どうぞ」と言われて、美鈴は軽く頭を下げ、「失礼します」と
言って上がった。
 美鈴をソファに勧めると、二人はお茶の支度をしに
キッチンへと入った。
「おかあさん・・・」
 ティーカップを用意しながら、理子が博子を見た。博子は
ヤカンに水を入れてIHのスイッチを入れると、不安そうな
顔をしている理子の肩をそっと抱いた。
「大丈夫よ。私がついてるから。ね?」
 理子はコクリと頷く。
 お茶の支度が整い、二人は美鈴の元へ行った。彼女はそれとなく
周囲に視線を配りながら、少し緊張した面持ちで座っていた。
「ごめんなさいね、お待たせしちゃって」
 博子がそう言いながら紅茶を出すと、
「いいえ。どうぞお構いなく」と、小さい声が返って来た。
 美鈴は、南側の窓を背にした二人掛けのソファに所在なげな
様子で座っている。博子は理子を促して、4人掛けソファの方へと
腰を下ろした。
 博子は美鈴を観察した。卵型の顔に色白でぱっちりした
黒目勝ちの目。その目を覆うように弓なりな眉が優しげな印象を
与える。鼻は少し低めだが上品な感じがし、口元もどこか儚げだ。
緩いカールがかかった細いロングの髪に、ほっそりした体付き。
美人の部類に入るとは思うが、全体として地味な印象だ。
 紫から聞いたところによると、雅春と付き合っていた時には、
いつも微笑みの絶えない女性だったと言う。だが今は、
微笑んではいない。
 雅春は派手な女性は好まないので、そういう点では好みのタイプ
と言えるのだろうか。見る限りでは、とても大人しくておしとやかな、
昔の従順な女性と言った印象を受ける。その癖、とても
頑固そうにも感じられるのだった。
 理子と初めて会った時には、心の中に爽やかな風が吹き抜けた
ような、ひと目で心の鎧を剥がされてしまったような、そんな
印象を受けた。だが今目の前にいる女性に対しては、妙な警戒心が
生まれて来る。だがそれも仕方が無いのかもしれない。何も無い
状態で出会っていたのなら、また印象も大分違うのだろう。
「あの・・・、お母様は増山先生から私の事を聞いて
らっしゃいますか?」
 美鈴が遠慮がちに訊ねて来た。
 博子は紅茶をひと口飲んでから、静かに答えた。
「聞いています」
「先生は私の事を何ておっしゃってたんでしょう?」
 必死な顔をしているように見えた。
「時々会ってはいるけれど、特別な意味合いは無いって本人は
言ってましたけど」
 博子は淡々と答えた。
「それだけですか・・・?」
「それだけです。他に何があります?結婚しているのに」
 博子の言葉を聞いて、美鈴の顔がきっとした。
「結婚しているのに、他の女性と会う事に疑問を感じられ
なかったんですか?特別な意味合いは無いって言葉をそのまま
信じられたんですか?」
 詰問口調だ。
「結婚していても、他の女性と会う事は可笑しな事ではないと
思いますよ。息子は妻を愛してますから、特別な意味合いで他の
女性と会うわけがありません。その事に関しては、私は息子を
信じていますから」
 その言葉を聞いて、美鈴は笑った。その微笑みを見て、
博子は薄寒さを感じた。
「でも、その息子さんは、私を抱こうとしたんですよ?本当に
奥様を愛してらっしゃるんでしょうか?それなら、何故私と
付き合うような事を?夫婦の間で色々と悶着があったから、
私を求められたんじゃないですか?そして、その悶着に決着が
ついたから、また元の鞘に戻ろうとしてる。私は結局、
利用されたんじゃないんですか?」
 美鈴の言葉に、博子は軽い溜息を吐いた。確かに、この女性が
言うように、息子はこの女性を利用しようとしたのかもしれない。
求めても得られない焦燥に疲れ、目の前にある安易な道を
選ぼうとした。でも結局できなかった。
「神山さん。雅春はあなたを利用しようと思っていた訳じゃ
ないですよ。ただ、結果的にそう思われても仕方ない事に
なってしまいましたけど」
「酷いと、思われないんですか?私は、増山先生に初めてお会いした
時から好きでした。でも、ご結婚されてる事を知ってましたから、
ただ見ているだけで良かった。それが、思いもかけずに親しく
なって、すっかりその気にさせられて、幸せな気持ちでいたら、
いきなり突き放されました。こんな事って無いです。酷すぎます。
私の気持ちはどうなるんですか?こんな事って・・・」
 美鈴は泣きじゃくった。
 その泣き声が少し静かになって来た頃、それまで黙って聞いて
いた理子が、言った。
「それで神山先生は、何故ここへ?私にそういうご自分の納まり
きらない思いを吐き出しに来られたんですか?それだけなんですか?」
 美鈴は泣き腫らした目を理子へ向けると、睨んだ。
「増山先生を私に下さい。先生が欲しいの。私、諦めきれない。
あなたと結婚してても構わないから、あの人を私の許に来させて。
愛人で構わない。愛人にしてくれるなら、他の何も望まない。
増山先生の愛だけで十分だから」
 博子は驚愕した。
「あなた、何を馬鹿な事を言ってるの?」
 言葉が震えた。体が戦慄いた。
「馬鹿な事じゃありません。こうなったのも、そちらの責任じゃ
ないですか。ちゃんと先生を捉まえていれば、先生は私を相手に
する事も無かったでしょう?理子さんが悪いんじゃないですか」
「だからって、そんな非常識な事、通用する訳がないじゃ
ありませんか」
「じゃぁ、私に、このまま泣き寝入りしろっておっしゃるんですか?
散々私を傷つけておいて、非常識なのはそちらじゃないですか」
 雅春は、どうしてこの女性と付き合ったのか。いや、あの時は
まともじゃなかったのだ。傷つき疲れ、正気を失っていた。普段の
あの子だったら、こういう粘着タイプは初めから相手にしない筈だ。
「美鈴さん」
 と、理子が静かな声をかけた。博子は落ち着いた声を出す理子を
不思議に思って彼女に視線を向けると、理子は冷静な顔をしている。
最初、不安げに自分を見ていた彼女とは別人のようで、博子は驚いた。
「私達のいざこざに、あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。
あなたがおっしゃる通り、私が先生をしっかり捉まえておかなかった
から、こういう事になってしまったのは十分承知してます。だから
私は、先生があなたを選んでも何も言えないし、それに従うしか
ないです。でも先生は、あなたを選ばなかった。あなたがどんなに
先生の愛を欲しいと思っても、無理なものは無理なんです。だから、
辛いでしょうけど諦めて下さい」
 理子はきっぱりと、そう言った。そんな理子に、美鈴は鬼の
ような形相になった。
「あなたが私に申し訳ないって思うなら、あの人に、私を愛する
ように言ってよ。あの人に、私の部屋へ通うように説得してよ」
「美鈴さん。先生は誰のものでもないんです。先生の心は先生の
ものです。人から言われてどうこうできるなら、誰も苦労
しないんじゃありませんか?先生の気持ちを無視して、
そんな強要できません」
 興奮している美鈴とは対照的に、理子は冷静である。
美鈴が興奮する程、理子は冷静になってゆくように感じられる。
 それにしても、驚くばかりだ。こんな事を言い出すとは思って
いなかった。それほど、追い込まれていると言うことか。
「神山さん。あなたの気持ちも分からないではないけれど、
こればっかりはどうしようもないでしょう。もし雅春が独身
だったとしても、あなたを愛する事は無いと思うわ」
 美鈴は、目を剥いて博子を見た。
「どうして、そんな事が分かるんですか?」
「母親だからよ。あの子の胸の内を知っているから。あの子を
ずっと見て来たから。あなたは最近のあの子しか知らないから
分からないのも仕方ないけど、あの子は誰も愛せなかった子なの。
そのあの子が唯一愛したのが、この理子ちゃんよ。あの子に
とっては理子ちゃんが全てなの。二人の間に色々あって、
落ち込んでたからあなたと親しくなったのよ」
「二人の間に何があったのかは知りませんけど、増山先生はとても
元気が無かった。でも、私と一緒に過ごすうちに、顔つきも落ち
付いて来たし、そもそも本人自身が私に癒されたっておっしゃったん
ですよ?誰も愛せなくて、理子さんを愛するようになったのだと
しても、その後に別の女性を愛さないとは限らないじゃないですか」
 博子は顔を歪めた。この女性は知らないのだから仕方が無い。
「雅春はね。女嫌いと言われる程、女性には冷たい男なの。学生
時代は多くの女性と付き合っていたけど、一度も愛さなかったし、
冷たかったのよ。・・・理子ちゃん、去年のお正月の写真、
こっちに来てる?」
 話しの途中でいきなり言われて、理子は戸惑った。
「はい。あります」
 どうしていきなりそんな事を言い出したのか疑問に思ったまま、
理子は答えた。
「アルバムにもう貼ってあるのかしら?」
「はい」
 博子に言われて、理子はその写真を嬉しそうにアルバムに貼って
いた雅春の姿を思い出した。一枚一枚、嬉しそうな笑顔を浮かべては
丁寧に貼っていた。そんな雅春を見て、理子は胸が温まった。
「それ、ちょっと持ってきて貰えないかしら?」
 理子は博子を見つめた。一体、それをどうしようと言うのだろう。
見つめる理子に博子は優しそうな表情をして頷いたので、
わかりましたと言って理子は雅春の部屋へ取りに行った。

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~ Comment ~

Re: 確認しましたが。 

コメント、ありがとうございます。

いつも深く読みこまれての鋭いご指摘、恐縮です。
私も相手してもらいたがりタイプですので、大変嬉しく思っております。

今後の展開は、確かにちょっと見当がつかないとは思いますが、
読めばナルホドと思われるかもしれません。
ただ、たいした事でもないですよ?
まぁ、幾つかの波乱に見舞われて、最後の波はちょいと大きいですが。

次回作はどうしようかなぁ。
歴史冒険ものは、テーマと内容は決まっていて、序盤をちょっと
書いた程度で、詳細のプロットがまだ未定。
コメディの方は、幾つかのネタを思いついてる程度で、物語として
形づくれるのか非常に不安な状況なんですよね~。
ただ、今のこのお話が重たいので、バカバカしい話を破綻的に書いてみたいって
思いもあったりなんかするのです。でも見切り発車は不安で……。

そうそう。歴史冒険ですが、歴史と言っても史実とは全く無縁の、
歴史物語風な体裁の物語なのです。
史実に縛られずに自由に書きたくて、伝説的な扱いと前提してます。

でも一方で、厩戸皇子の物語も書きたくて、模索中。
一話完結の連作的な形にしようと第一話は書いたものの、
二話以降は何も生まれず……。
こうやって、色々と手を付け書き散らして、未完のまま
増えて行くのが私のこれまでのパターンなんですよね……。

でもまずは、クロス二部の完結ですね。
あとちょっとなのですが、急に進まなくなってしまうのが
困りものです(^_^;)

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Re: NoTitle>水聖様 

水聖さん♪

コメント、ありがとうございます。
流産&別居騒動を乗り越えて、少しは強くなったようですね。
ずっと孤独を抱えてきた理子ですが、周囲の暖かさに
立ち直り始めた感があります。……が……。

章タイトルにある通り、この後、理子も雅春も迷走する感じです。
勿論、二人の関係は揺るぎはしないのですけれども。。。。

NoTitle 

つらい時期を乗り越えて、理子ちゃんは本当に強くなりましたね。
>先生は誰のものでもないんです。先生の心は先生のものです。
ほんとにそうですね、理子ちゃん、かっこよかったです。
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