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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 14.母と娘 07

2010.11.03  *Edit 

 博子の話しを聞いた理子は泣いていた。涙を流しながら言った。
「お義母さんは悪くありません。先生も悪く無いです。悪いのは
全て私です。私のせいで、みんなが傷つき苦しんだんです。
ごめんなさい・・・、本当に、ごめんなさい・・」
「理子ちゃん。泣かないで?こんな話しをして泣くなと言うのも
可笑しいかもしれないけれど、今回の件で一番傷ついたのは、
やっぱり理子ちゃんだと思うのよ。私達はね。分かっているようで、
分かって無かったのよ。あなたのことを」
 博子はそう言って、泣いている理子の膝の上に、優しく手を乗せた。
「あなたにとっては、マーが全てだった。そうと分かっていたのにね。
ごめんなさいね。あなたの事を放っておいて。あなたの事を
信じてあげなくて」
 理子は激しく首を振った。
 博子の気持ちは尤もだ。自分の愛する息子の打ちひしがれた姿を
見れば、誰だって同じように思うだろう。それでも信じようとして
くれていた事だけでも、博子を優しい人だと思う。そこへ、志水と
一緒の姿を見ればショックを受けるのも当たり前だ。
「あなたの魂はとても孤独で繊細だった。私達が思っていた以上に。
マーと愛を交わせば交わす程、流れてしまった子供への罪悪感が
強くなる。だから拒みたかったのでしょう?」
 理子は博子の言葉に、たまらなくなって抱きついた。
「お義母さん、ごめんなさい。私、間違ってました。でも、本当に
辛かったの。先生は、ずっと私を求めてくれた。それが凄く激しくて、
最初のうちは受け止め切れずにいたの。でも私も段々馴れて来て、
先生の愛を受け入れる事に歓びを感じるようになって。
・・・そしたら、思いもかけずに妊娠して・・・」
 泣きながら喋る理子の頭を、博子は優しく撫でた。理子にとっては、
それがとても心地良かった。優しい匂いがする。石鹸の匂いがする。
お母さんの匂いだ。
「それで、怖くなったのね」
 博子の優しい言葉に、理子は頷いた。
「避妊してなかったから・・・当たり前の結果なのに。本当に
馬鹿みたい。素直に喜べない自分がいて、自分は女として
おかしいんじゃないかとさえ思った。そうしたら、流産して
しまって・・・。先生の子供を殺してしまった・・・」
「理子ちゃん。あの子が流れたのは運命よ。あなたがどう思おうが、
流れる運命だったの。だから、誰のせいでもないの」
 理子は涙に濡れた顔を上げて博子を見た。
「運命・・・?」
「そうよ。望まない妊娠をして、中絶するお金もなくて、わざわざ
流れるような事をしても、流れずに産まれて来る子もいるじゃない。
だから、運命なのよ。あなたが手放しで喜んでいたとしても、
あの子は流れたわよ」
 理子は黙って義母を見つめた。
 運命なのか。流れた事が。
「きっとね。急いで来過ぎちゃったのよ。慌てんぼさんだったのね」
 博子はそう言って笑った。その笑顔を見た理子は、心の中の
何かが溶けてゆくのを感じた。ずっと胸の中にあって、しこりの
ように感じていたものだ。
 博子は理子の頬に手をやると、そっと撫でた。
「こんなに痩せて、心もボロボロになって・・・。もっと早くに
気付いてあげれば良かった。あなたには、マーと私達しか
いなかったのに。いつだってあなたは、私達を愛して
くれていたのにね」
 理子の目から涙がどっと溢れて来た。
 自分の母ですら、こうして自分を受け止めてはくれなかった。
だからこそ、博子の優しい思いにふれて、心の底から思いが
溢れてくる。そして、それが涙となって噴き出して来るのだった。
「おかあさん・・・、おかあさん、おかあさん・・・!」
 博子はそんな理子を抱きしめた。
 可哀想な子。
 手術の翌日やってきた母親は、雅春を求める理子に腹を立てて
帰ってしまったと言う。それから一度も病院には来なかったそうだ。
紫の話しによると、流産して消沈している娘に対しても、
それ見た事かと責め立てていたらしい。
 確かに、雅春と結婚したが為に、このような事になったと、
向こうから見れば思えるのかもしれない。それは仕方のない事だろう。
だが、だからと言って傷ついている娘に暖かい言葉の一つも
かけないとは、どういう事なのか。
 理子は傷ついたまま、暖かい言葉をかけてくれる者も無いまま、
孤独な時間を過ごしていた。雅春と出会ってからは、理子の孤独は
雅春によって癒されていたのだろう。雅春こそが全てだった。
だが今回は、その、全てである雅春と一緒にはいられなくなり、
再び孤独に見舞われた。
 ひとりぼっちになった。
 親は生きているのに、すぐそばにいるのに、何の心の支えには
なってくれない。最初からいないのなら傷つくことは無い。
そばにいるのに支えるどころか、更に傷口をえぐるような真似をする。
これ程、深く傷つく事は無いだろう。これ程寂しい事は無いだろう。
 博子は泣き伏せる理子の頭を優しく撫でた。
 この子の孤独を癒してやりたい。今度こそ本当に、娘として信じ、
可愛がってやろう。博子は理子を抱きしめながら強く思うのだった。

 午後、二人は共に買い物がてらに散歩に出た。
 二人ともカーディガンを羽織っただけの薄着だった。天気が良く、
風も無く、空気が澄んでいて気持ちの良い陽気だった。
空は青くて高い。
 金木犀の香りが漂っていた。甘くて強い香りだ。理子はもう少し
微香でスパイシーな感じの銀木犀の方が好きだが、金木犀も
勿論好きだった。
 去年の事を思い出す。雅春が事故で入院した時の事だ。受験が
いよいよ迫って来た時の、不意の出来事に胸を痛めたが、
結果的には二人の想いが深まり、そして思いがけない二人の時間を
過ごせる事になって良かったような気がする。
 あの時私は、先生にご飯を食べさせてあげたんだっけ・・・。
 思い出すと、にやけてしまう。可愛らしい先生の姿に胸が温まる。
今朝の、先生然、大人然、とした偉そうな態度とは対極にある。
「どうかした?」
 黙ってにやけている理子に気付いた博子が不思議そうに訊ねた。
「あ、いえ。金木犀の香りで、去年の先生の入院中の事を
思い出してしまって」
 理子は、思い出して笑っていた事を話した。それを聞いた博子は
プッと吹きだした。
「それは、紫から聞いてたわ。本当に、子供みたいよね。あなたと
付き合うようになるまで、私、マーは立派な大人になってくれた
ものだって思ってたのに、すっかり騙されていた事を知ったのよ。
あなたの前では、マーもかたなしね」
「私も、先生と付き合うようになってから、驚きました。だって、
学校ではすっごく大人っぽいんですよ?初めて音楽準備室で二人で
話した時、なんだか普段のイメージと違う人だなと思って驚いたん
ですけど、その後も驚きの連続です」
 二人はゆっくり歩きながら、雅春の事を語り合う。
 博子は理子の話しに、暖かい気持ちになる。学校での息子の
様子を博子は知らない。随分と大人びて、また格好つけている
ものだな、と思う。
「理子ちゃんは、マーのどういう所を好きになったのかしら?」
 博子の問いに、理子は「変人の所でしょうか」と笑って答えた。
博子はその答えに吹きだす。
「カッコイイ所じゃないの?」
 笑いながら言う博子の言葉に、理子はほんのりと頬を染めた。
「先生の眼鏡姿に、ひとめぼれしたのかなぁ~って、後になって
思うんですけど、その時は、私にとっては担任の先生でしか
無かったんです」
「マーが、あなたと両思いになって、うちへ連れて来る事に
なった時、両思いになったのに、以前と変わらない目で俺を見る、
って不安がってたのよ」
「えっ?先生が?」
 理子は驚いた。いつだって自信に満ちた態度の先生が。特に
あの頃は、そんな事で不安がるとは思えない程、自信に満ち、
強引だったのに。
「私もね。学校でのあなたの態度を聞いて驚いていたわ。だって、
マーは大人だから分かるけど、あなたはまだ高校生だしね。
二人してポーカーフェイスだったみたいね」
 博子の言葉に理子は頷いた。
「そうなんです。私も先生の、いつもと変わらない態度には、
疑心暗鬼になったりしてたんです。先生との時間は、
夢だったんじゃないかって」
「学校だから仕方ないけれど、それはそれで辛かったわね。
だけどお母さん、思うのよ。二人とも、ちょっとポーカー
フェイスが板に付き過ぎちゃってるんじゃないかって」
 理子は博子の言葉の意味がよくわからず、問うような顔をして
博子を見た。それを受けて博子は立ち止まって優しく笑う。
「我慢しないで、もっと甘えなさい。マーに対して、もっと我儘に
なってもいいと思うわよ。年上だから、先生だからって遠慮
する事は無いのよ。それから、今度の事で罪の意識を感じて下でに
なる必要もないんですからね」
 博子の眼差しは力強かった。理子は笑う。
「おかあさん、ありがとう。でも私、最初から先生には生意気
だって言われてるんですよ。天の邪鬼で素直じゃないとも」
「あら、そうなの。でも最近は、その生意気なのが息をひそめて
ないかしら?今朝みたいに、マーにあなたが遣り込められて
いるのを見るよりも、去年の病院の時のような、あなたがマーを
やり込めてる姿を見たいものだわ」
 理子は吹きだす。
「おかあさんも変わってる人ですね。普通は、息子のそういう姿は
見たくないものじゃないんですか?嫁にやり込められてる姿なんて」
「そう。私は変わってるわよ。だってマーのお母さんですもの。
それに、あなたは嫁じゃなくて娘よ。夫を打ち負かすくらいの
強い娘が私は好きなのよ」
 理子はその言葉に胸が熱くなり、思わず博子の腕を取って
自分の腕を絡めた。
「おかあさん・・・、ありがとう」
 そう言って寄り添って来る理子を、博子は愛しく感じた。
「これからは、何でも話して?マーの事で困った事とか、愚痴とか、
話してくれて構わないのよ。あなたには、そういう事を言える人が
誰もいないでしょう?」
 普通の娘なら、実家で親に話すのだろう。だが理子には、
それはできない。
「私はマーの母親だから、そうは言われても簡単には言えないで
しょうけれど」
 理子は首を振った。
「これからは、何かあったらおかあさんにお話しします。でも、
話し過ぎて嫌われないかな・・・」
「大丈夫よ。あなたを嫌いになんかならないわ。マーと同じよ。
だから心配しないで」
 理子は幸せだった。最愛の人の母親が、まるで本当のお母さんの
ように接してくれている。本当は、自分の母とこうしたかった。
今でもそう思う。でもそれは、叶わない。こちらが幾ら歩み
寄っても、向こうが歩み寄ってくれないからだ。一方通行程、
寂しく、悲しく、虚しいものはない。
 二人は足りない物を買った後、薬局へ寄った。基礎体温計を買う為だ。
 雅春が今朝、理子の体から離れた時、「理子の中に出したいから、
基礎体温をつけてくれないか」と言ったのだった。
 基礎体温。そうか。最初からそうすれば良かったんだと、
今更ながらに思い、後悔するのだった。やっぱり子供だった。
あまりにも浅慮過ぎた。
 薬局へ寄る時に博子に話すと、博子は明るい笑顔を見せた。
「私の方で、最初にそういう事をしっかり言っておいてあげれば
良かったわね。基礎体温をつけるのは、何も避妊の為だけじゃ
ないのよ。健康のバロメーターでもあるの。規則正しく排卵を
しているかどうかを知る事は大切よ。変だったら病院へ受診する。
もし病気とかがあっても、早期に発見できれば治療も楽だしね」
 博子の言葉に、理子も同感だった。これからは、きちんと
毎日計ろう。健康な体で、あの人の全てを受け止めたい。
 博子のアドバイスを受けながら基礎体温計を買い、店を出て
帰途に着いた。マンションの前まで来た時、入口の前で
マンションの上階を見上げている女が目に止まった。
 何処かの部屋のお客さんだろうか?
 そう思って近づくと、その女が振り返った。その顔を見て
理子は凍りついた。
 神山美鈴だった。


      14.母と娘  了  15.迷走  へつづく。


            自分の間違いに気付き、再び先生と愛を交わすように
              なった理子ですが、彼女の中には依然として、
              流れてしまった子供への罪悪感が残っていました。
              それが、博子お母さんの深い思いと優しい言葉によって
              やっと癒されたのでした。
              だけど博子お母さん、本当に優しい、いい人ですね。
              基本的に理子が好きなんですよね。だからこそ
              可愛がってきたし信じていたわけで、それを裏切られた
              と思った時には酷く傷ついたのですが、理子の真実を
              知って、自分は浅慮だったと思い反省するお母さんは
              やっぱり素敵な女性です。
              博子お母さんには、こちらも癒されてしまいます。
              優しくて少しお茶目で可愛い、理想のお母さん、かな。


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~ Comment ~

Re: お疲れさまでした。 

いつも、ありがとうございます。

いやはや、この後も辛い、痛い、話が続くので、
ここら辺から、精神的に疲れが続いているnarinariでございます。

理子ママは、自分の価値観が正しい。他人は間違っていると
心底思ってらっしゃるので、自己を省みる事は殆ど無いようです。
また、たまに自身の過ちに気付く事もあるにはあるのですが、
チョモランマよりも高いプライドが、邪魔をしてしまいます。
それでも、外面は良いお方だったりしますww。

神山先生は、思いこみが激しいタイプなのかなぁ。
のめり込みやすいのか。。。
余程、好きなんでしょうね、増山先生の事が。

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Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

泣かせてスミマセン。

思わずの貰い泣き、私もウッカリしてしまいました(^_^;)

理子にとって先生は全てですが、矢張り異性だし、
同性の理解者も必要ですよね。
小さい時から親に相談できない環境で育ってきたせいか、
自分の思いを人に伝えるのが苦手だったりします。
そうして、誰にも言えずに1人で抱え込んでしまう理子ですが、
ステキな理解者にめぐり逢えて良かったですよね。

だけど、再びの怪しい雲行き……。
どうなるのでしょうね?
心配です。

NoTitle 

な、泣けた…。
目がパンパンですよ!今から出勤なのにっっ!(←まさかの苦情)
おかあさん…ステキ。
ホントに理想のおかあさん。
ああ…。良い回でしたぁ。
でも、次は?
ドキドキ×10…。
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