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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 14.母と娘 06

2010.11.02  *Edit 

「あなた、理子に変な事でもしたんじゃないの?」
 紫が疑わしそうな表情で言った言葉に、雅春は怒気を含んだ
表情で姉を睨みつけた。
「変な事って、どんな事だよ」
 何時にも増して低い声で呻くように言うその様に、姉は怯んだ。
それでも姉は言った。
「あなたとセックスしたくないって事は、あなたのセックスに
問題があるんじゃないの?自分で思い当たる部分もあるでしょ?」
 雅春はテーブルの上の手をギュッと握りしめた。
「入籍したばかりの頃、理子は凄く疲れてたじゃない。あれは、
あなたに毎晩抱かれてたからでしょ。どんな風に抱いてたのか
知らないけれど、昼間の生活にまで影響するようなセックス
なんだから、問題あるって思われても仕方ないんじゃないの?」
 紫の言葉が言い終わるのと同時に、ドンッ!と雅春はテーブルを
叩いた。驚いて雅春を見ると、怒りと悲しみに支配されて歪んだ
顔がそこにあった。目の縁を真っ赤にして泣いている。
「そうさ。俺が悪いのさ。そもそも、俺がちゃんと避妊しなかったのが
悪かったんだ。妊娠と流産さえ無ければ、こんな事にはならなかった」
 そう言うと、テーブルに突っ伏して泣きだした。嗚咽が漏れる。
 父はずっと黙ったままだった。博子もどう声をかけたら良いのか
わからない。紫もバツの悪そうな顔をしていた。
 雅春がこうして感情も露わにして泣き伏しているのを見るのは
初めてだった。小さい時、母の膝で泣く事はあったが、小学校へ
入学してからは親の前で泣いているのを見た事が無い。それだけに、
こんな大人になって声を上げて泣いているのを見ていると胸が痛い。
「ねぇ、マー」
 博子は手を伸ばして泣き伏している息子の頭にそっと手をやり、
優しく撫でた。
「お母さん、どうしてもよく分からないの。セックスしたく
ないなら、暫くはしないでいればいいじゃないの。落ち着く
までには時間がかかるのよ。いずれ落ち着けば、また自然と
お互いを求めるようになるんじゃないの?」
 母の言葉に、雅春は起き上がって母を見た。
「母さんの言う事は尤もだよ。だけど俺達は、一緒にいると
どうしても求めあってしまうんだ。それでも俺は、理子が嫌だって
言うなら我慢するさ。だけど彼女は、俺に触れるだけでキスしたく
なる、キスしたらその先も欲しくなる、だから俺に触れたくないし、
見つめ合う事もできないって言うんだ。一緒に住みながらそんな
状況を俺に課すのは辛いって。実際、退院してからの彼女はそれ
以前とは違って、全身で俺を拒んでた。俺は、一緒に住みながら
心が通い合わない事に酷く傷ついていた。そんな俺をこれからも
見続けるのが堪えられないんだそうだ」
 雅春の言葉に博子は大きな溜息を吐いた。
「理子ちゃんは何でそんなに、あなたを拒むのかしら?」
 博子の問いかけに、雅春が少しだけ顔を赤くした。
「そもそもセックスは生殖行為だろ。子供を作る為にある。
その事を忘れて、避妊もせずに快楽に溺れていた自分が許せな
いんだそうだ。だからもう、セックスをしたくないって。そして、
それを俺に強いる事はできないから、別れようって言ったんだよ、
あいつは」
 と言って、拳でテーブルを叩いた。
「別れる?暫く別居するんじゃなかったのか」
 突然、雅人が言った。
「そうさ。彼女は別れようって言ったんだよ。だけど、俺は
そんなのは許せない。でも、彼女は一人になりたい、一人に
させてくれと懇願して引かないんだ。だから俺は仕方なく、
暫く冷静になるまで別居しようって言ったんだ。そして、
冷静になってから、もう一度話し合おうって」
 真っ赤な目をして雅春はそう言った。
「それで理子ちゃんは今は?実家に帰ってるの?」
 博子の問いに雅春は首を振った。
「彼女は家にいる。実家へは帰れるわけが無いだろう?あそこに
彼女の居場所は無い。だから俺がここへ戻って来たんだ」
「それじゃぁ、理子ちゃんはあそこで一人なの?一人きりなの?」
「仕方ないじゃないか。そもそも本人が一人になりたいって言って
るんだし、実家へ戻る気は無いんだ。彼女ももう子供じゃない。
大学生なら一人暮らしをしている者は沢山いる」
 あの広いマンションに、一人きりで残してきたのか。
「あなたは心配じゃないの?理子ちゃんの事が」
 母の言葉に息子はキッと睨んだ。
「心配だよ。心配に決まってるじゃないか。でも一人にして
欲しいと懇願された。一緒にいる事を強く拒否された。取りあえず
冷却期間を置く事くらいしか俺にはできなかった。他にどうしろって
言うんだよ。俺はどうしたら良かったんだよ」
 激しく打ちひしがれている息子に、掛けるべき適切な言葉が
浮かんで来なかった。博子には、話を聞いても「何故?」という
言葉しか浮かんで来ない。理子の気持ちが理解できない。ただ、
二人ともとても傷ついている。一緒にいる事でもっと傷つけあう事に
なると危惧して別れを言い出したのだろうか。
「そうね。取りあえずは、冷静になる事よね」
 紫がそう言った。
「それで、あなたは今後はどうするの?」
「暫く様子を見る。落ち着いたら連絡するように言ってある。ただ、
向こうから連絡があるまで、俺の方からは連絡しない約束をさせられた」
「あなた、そんな約束をしたの?」
 博子は驚いた。
「ああ。したくはなかったけど、せざるを得なかった」
 肩を落とした息子を見て、溜息が洩れた。一体二人は、これから
どうなるのだろう?心配でたまらなかった。だた、二人の問題だから、
これ以上は放っておいて欲しいと息子に言われ、そうするしかない
博子だった。
 暫くしたら理子も冷静になって、話し合う機会も生じるだろうと
思っていたが、その時期は一向にやって来なかった。
 雅春は毎日暗い顔をして出勤して行く。朝食の時も生気の無い顔を
していた。元々無愛想な息子だったが、殆ど無表情な様を見て胸が
痛んだ。帰宅時間も、以前よりも遅くなった。そして時々飲んで
帰ってくる。
 雅春は酒豪で、学生時代には友人達とよく飲んで帰ってきていたが、
高校教師になってからは、飲んで帰って来る事は無くなっていた。
飲んで帰ったからと言って、乱れているわけではない。だが博子は、
そんな息子を不憫に思った。
 理子を愛するようになってからの雅春とは全く違う姿だったからだ。
「これを機に、普通に他の女性とも恋愛できるようになるかもよ」
と紫は笑って言ったが、そんな事はあり得ないように博子には思えた。
 だが、それから暫くして、雅春は他の女性と時々逢っているらしいと
娘から聞き驚愕した。それとなく息子に聞くと、他校で日本史を
教えている高校教師らしい。日本史の研修会で一緒なのが縁で時々
逢ってはいるが、特別な意味合いは無いと本人は言った。
「理子ちゃんはどうしてるの?」と訊くと「知らない」と憮然とした
顔をして息子は言った。
「知らないってどういう事なの?」との博子の言葉に、まるで怒った
ような顔をして、「連絡が無いんだから、知る由もないだろう?」と
言って自室へ逃げるようにして入り込んだ。
 息子は逃げている。
 博子はそう思った。だが、理子から連絡が無い以上、雅春には何も
できないのは事実だ。一体彼女は何時になったら連絡を寄越すのか。
それとも、このまま自然消滅のように別れてしまう事を望んでいるのか。
 雅春は次第に落ち付きを取り戻しつつあった。憔悴しきった顔も
元の顔に戻り、生活も安定してきた。勿論、理子と付き合いだして
からの明るい顔とは違ったが、今付き合っているらしい、他校の
女性教師のお陰かもしれない。博子は取り敢えずホッとした。
辛そうな息子の顔を見ているのが博子自身も辛かったからだ。
 こうして、時は刻々と過ぎて行った。理子の事が気になりながらも、
博子もやっぱり母親だった。自分の息子が一番可愛い。理子が
いなくても支障が無いのなら、それはそれで構わない。
 博子には、どうしても理子の気持ちがわからなかった。彼女に
とって、雅春が全てでは無かったのか?ずっと、そう思ってきた。
ひと目見た時から、この娘の愛は信頼できると思った。だから好きに
なったのだとも言えた。それなのに、何故離れられるのか。
何故自ら離れるのか。
 予想外の妊娠と流産で深く傷ついたのは理解できる。快楽への
罪悪感も、分からなくはない。それによるセックスへの畏れも。
だが、だからと言って、最愛の夫と別れる事を選択すると言う
結論が理解できない。
 博子にとっては、理子よりも雅春への同情の気持ちの方が強かった。
誰にも心を開けず、誰も愛せなかった息子が、唯一人愛せた
女性だと言うのに、その女性から別れを告げられた息子が可哀想で
ならなかった。最初で最後の恋だった筈なのに。そう思ったのは
間違いだったのか。矢張りこの結婚は早過ぎたのか。そう思わずには
いられない。
 ぽっかり空いた息子の心の穴を埋めてくれる人がいるなら、
大歓迎だった。だから博子は、雅春が他の女性と逢っているのを
黙認するようになった。紫は心配していたが、博子はなるように
しかならないと思っていた。
 だが雅春は、落ち付きは取り戻したものの、無愛想なのは
相変わらずだし、少しも楽しそうな様子を示さない。理子と
付き合っていた時とは雲泥の差だ。雅春の心の中には変わらずに
理子がいる。理子を求めている。他の事で気を紛らわせているに
過ぎない。それがヒシヒシと伝わって来るのだった。
 9月に入った頃、博子は意を決して、理子に会いに行った。
 マンションに着き、ベルを押すが返事が無い。管理人に訊いてみると、
毎日夕方以降に帰って来ると言う。まだ夏休みの筈なのに、毎日
どこへ出かけているのだろう?博子は不審に思った。
 翌日の夕方、再び訪問した。ベルを押すが矢張り返答が無い。
まだ帰っていないのか。暫くそこで悩んだ末、踵を返して帰ろうと
した時、視界の先に男女の姿が目に飛び込んで来た。その女性の方が
理子である事に、博子はすぐに気付き、物陰に隠れた。
 何故、物陰に隠れたのか。咄嗟の事だったが、矢張り男と
一緒だったからだろう。彼女一人だったら物陰に隠れる必要は無い。
 一緒にいる男は、中肉中背の若い男だった。何となく笑ったような
顔をした感じだ。二人は楽しそうに話しながら近づいて来る。距離が
縮まるにつれ、理子の表情がはっきり見えるようになった。
彼女は笑っていた。
 博子はそれを見て、胸が凍りついた。
 笑っている。
 雅春はあれから一度も笑顔を見せた事が無いのに。
 博子は二人に気付かれないように、すぐさまその場から離れた。
急ぎ足で駅まで行き、駆けるようにして電車に乗り込んだ。手すりに
掴まり、窓の外へ視線をやる。電車の中からマンションが見えた。
そのマンションに目を止めたまま、走り出した電車によって視界から
消えた後も、まだそこにあるかの如く視線が止まったままだった。
実際には視界から消えているのだが、博子の目にはまだ映って
いるように感じられた。
 信じられない光景だった。雅春はあんなに打ちひしがれているのに、
理子は他の男と一緒にいて、その男の前で楽しそうに笑っている
なんて。理子にとって、雅春が全てでは無かったのか。
 彼女からの連絡をずっと待っている息子が哀れだった。あんな
様子では、きっとこのまま連絡をしてこないに違いない。最初から、
こうなる事を望んで別居したのか。そうだとしたら、あまりにも
酷い。博子は涙が出そうになるのを必死で堪(こら)えた。
 それから間もなく、博子は仕事で京都へと旅立った。理子の
手術と入院の連絡を受けたのはそれから5日程過ぎた時だった。
連絡を受けた時、博子の心は冷めていた。今更あの子がどうなろうと、
構わないではないか。雅春を突き放し、他の男と楽しそうにしていた
娘なんか。
 夫から、さっさと仕事を切り上げて帰ってくるよう言われても、
博子はそれを無視した。
「末娘じゃなかったのか。本当のお母さんになってやりたいって
何度も言ってたじゃないか」
 と夫に言われたが、帰る気にはならない。
 本当の娘のように思っていた。彼女が不憫で、自分が本当の母親
だったらと何度思ったかしれない。だから誠意を尽くしてきたつもりだ。
それなのに・・・。博子は、理子に裏切られたと強く思うのだった。
信じていたからこそ、その思いは強い。
 それに、聞けば盲腸だと言うではないか。手術も無事成功し、
命に別状は無い。重症患者じゃあるまいし、何故自分があの子の
世話をする為に仕事を放り出してまで帰る必要があるのか。
 そうして博子は、予定通り京都に滞在し、予定通りに帰宅した。
帰宅日は理子の退院の日だった。昼前に帰宅して、家族から詳細を
聞き、博子は後悔した。自分の思いの至らなさ、考えの浅さに恥入った。


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~ Comment ~

Re: 拝読しました。 

コメントありがとうございます。

論理的で潤いの無い文章に、いつも自己嫌悪している次第です。
一番得意なのは、結局のところ論文みたいで。
小説なんだから、もう少し、抽象的で想像力を掻き立てるような、
そして色や匂いを感じさせるような情景描写をしたいと思いつつ、
固い脳と貧相な想像力が、それを邪魔してしまってます。

理子の複雑さは、やっぱり育ちなんでしょうか。
締め付けの厳しい母の元で、小さな反抗を繰り返しながらも従うしか
術が無かったその習性が、色んな部分で弊害を起こしてるのかもしれないです。

博子お母さんは、人の悪口とか言わない人みたいです。
元々、大らかな人なんですね。
でもさすがに今回はかなりショックを受けたようです。

物語も後半に突入し、重たい話が連続できます。
なんか、書いてる方も疲れてきてしまっていて、もうあと少しで
最終章も書き終わりそうなので、連載の掲載ペースを速めて
さっさとこの世界から脱却した思いが募ってきてしまってまして。

思い切りスウィーツな恋愛を描きたいなぁと思いつつ、
どうも私には無理みたいで……(^_^;)

次回作は、思い切り破天荒なラブコメか、歴史冒険ラブストーリーの
どちらにするか、既に悩んでいるnarinariでございます。。。

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

すみません。胸を痛ませてしまって……。
私も博子お母さんの思いに、涙が出てきちゃいます。
こんな優しいお母さんに、こんな思いをさせるなんて、
理子ったら、なんて悪い子なんでしょうね。

普通の姑さんだったら、こんなものじゃないでしょう。
もっと敵意むき出しになるんじゃないのかな。
だからこそ、尚更、胸が痛くなってきちゃうんですよ、きっと。

別居騒動は、周囲の関係者に大きな波紋を投げかけましたね。
それぞれに、理子が理解できない。
1人自分の殻に閉じこもり、理解者も無いまま孤独な
時間を過ごしてきた理子。
盲腸になって、或る意味良かったのかもね。
じゃないと、一体どんな結末になったやら……(ー’‘ー;)

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

NoTitle 

…胸が痛い。
お義母さんの気持ちを思うと。
何となく、理子よりお義母さんに感情移入してしまうのはなぜなんでしょう?
子供もいないのに。
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