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小説・クロスステッチ第2部 <完>
14.母と娘 ~ 17.衝 撃


クロスステッチ 第二部 14.母と娘 03

2010.10.31  *Edit 

 やがて、片づけが終わって博子がお茶を出した時、
雅人が言葉を発した。
「一体、いつからなんだ?相手の生徒さんの気持ちは?」
 父親の言葉に、息子は僅かに嬉しそうな顔をした。
初めて見る顔だった。
「はっきり好きだと自分で確信したのは、修学旅行の時なんだ。
それまでは、彼女の事ばかり気にしている自分がよく
わからなかった。相手は生徒だから、そんな筈は無いって
否定し続けてた。だけど、もうどうにもならなくなったんだ。
こんな事を、父さんと母さんの前で言うのも何だけど、
望と会ってセックスしてる最中に彼女の顔が浮かんできて、
その途端に、出来なくなっちゃったんだよ。可笑しいだろう?」
 それを聞いて博子は、息子はどうやら本気で教え子である
女の子を好きになってしまったようだと思ったのだった。
「それで、相手のお嬢さんの気持ちは?」
 博子が初めて、言葉を発した。
「一昨日の日曜日、古川が主催してる平安展に彼女と一緒に行って、
その時に告白したんだ。彼女も俺を好きだと聞いて、
今は天にも昇る心地だよ」
 いつも冷静な息子が、頬を染めて、恥じらいながら幸せそうな
顔をしている。
「マーのそんな顔、初めて見る・・・」
 と、紫が呟くように言った。博子も頷いた。
だが雅人は厳しい顔で言った。
「雅春。お前はちょっと浮かれ過ぎて無いか?」
 思わぬ父の言葉に、雅春は怪訝そうな顔をした。
「そもそも、どうして平安展に誘ったんだ。確か、車で出かけて
行ったな。未成年の、年ごろのお嬢さんを車に乗せて出かけるなんて、
問題じゃないのか?相手はお前の受け持ちの生徒さんだろう。
担任に誘われて、断れると思うか?好きだと言われて、
嫌だと言えるのか?」
 父の言葉に、息子は顔色を変えた。さっきまでの幸せそうな
表情が影をひそめた。
「じゃぁ父さんは、俺が担任だから、彼女は仕方なく
俺に従ったって言うの?」
 睨むような顔をして自分を見る息子の視線を、
雅人は真っすぐに見返した。
「違うって言うのか?確信を持って違うと言い切れるのか?
お前が女に人気者なのは父さんだって知っている。だから、
当然、学校でも女生徒達の人気の的だろう。お前のような男に
誘われて、告白されて、断れる女がいるのかな。
しかも女子高生で」
 雅人の言葉に、雅春は間髪を入れずに答えた。
「違うって確信を持って言えるよ。彼女はしっかりとした意思を
持ってる女だ。例え相手が俺であっても、自分の意思に反した事は
絶対に言わない。そもそも、そういう女だから好きになったんだ」
 雅人はテーブルの上で手の指を組み合わせていた。その手指に
力が入っているのだろう。白くなっていた。
「相手は受け持ちの生徒さんなんだぞ。担任教師としての立場と
責任は考えなかったのか?自分の行為を軽率だとは思わないのか?」
 母と姉は、二人のやり取りを黙って聞いていた。何を言ったら
良いのか分からなかったからだ。息子が、弟が、やっと異性を
好きになった。しかもどうやら本気らしい。喜ばしい事だった。
だがその反面、相手が受け持ちの生徒と言う事で手放しでは
喜べない。
 父の言葉に、息子は言葉に詰まり、戸惑いの表情を浮かべた。
「お前がそこまで浮かれているんだ。相当好きなんだろう。
それはわかる。だが、受け持ちの生徒さんと言う事には戸惑いを
覚えるんだよ。相手は未成年だ。お前は担任なんだから、相手の
生徒さんに対して、教師としての責任と言うものがあるだろう」
「父さんの言う事はよくわかるよ。俺だって最初はそう思ってた。
だから、告白するのは我慢してたんだ。卒業するまで
待つつもりでいた。それなのに、古川からの招待状を見て、
殆ど無意識のうちに彼女を誘ってしまってた。誘いのメールを
送信し終わった直後、自分のした事に気付いて自己嫌悪した」
 雅春は、その時の事を詳細に家族に語った。彼女がとても
日本史好きで高校生とは思えない程の知識と考察力を持って
いる事。だから、誘ったら喜ぶだろうと単純に思い、彼女が
承諾してくれたのも、単に平安展へ行きたかったから
なんだろうと思った事。彼女には好きな男が他にいて、
自分の片思いだと思っていた事。
 それら全てを聞いて、博子は息子を微笑ましく思った。
立派な大人に成長したと思っていたが、女性の事に関しては
まるきり子供だ。それもそうだろう。初めての事なのだから。
一体、相手の女の子はどんな娘さんなのだろう。誰にも心を
開けず、孤独な魂を守り続けて来たこの息子の心に住みついて
しまった女の子と言うのは。
「そうか。それでお前は、これからどうするつもりなんだ?」
「どうするって。付き合っていくに決まってるじゃないか」
「相手は受け持ちの生徒さんなのにか?」
「当たり前じゃないか。俺の片思いならまだしも、彼女も俺を
好きだと知った。互いに好きあってるんだ。だから、俺、ここに
連れて来たいんだ。みんなに彼女を紹介したい」
 真剣な眼差しだった。
「父さんは反対なのかな。責任、責任って言うけど。俺の
片思いなら、俺は担任としての責任だけを考える。だけど
今は違う。彼女は俺を愛してくれてる。俺も愛してる。
だから俺は彼女の愛に応える責任がある。自分から
告白しておいて、ただの生徒として扱う事の方にこそ
問題があると思うんだけど」
 息子の言葉に、雅人は博子の方を見た。その視線を
受けて博子は微笑む。
「お母さんは、会ってみたいわ。あなたが好きになったお嬢さんに」
 その言葉に、息子は嬉しそうな顔をして博子の方を見た。
「いいのかい、母さん」
 夫の言葉に、博子は頷いた。
「いいじゃない。あなたはどんなお嬢さんか知りたいとは
思わないの?この子が初めて好きになった女性よ?そりゃぁ、
受け持ちの生徒さんと聞いてビックリしたけど、好きになって
しまったものは、しょうがないじゃない。折角、両思いに
なれたんだし、喜んであげましょうよ」
「あたしも賛成だわ。このマーが、女の子を好きになるなんてね。
しかも、本気でしょ。どんな子なのか、会ってみたいわぁ~」
 と、紫が楽しそうな顔をして博子に同意した。
 そんな姉に、「姉さん、彼女を苛めないでくれよ」と弟が言った。
「あら、失礼ね。そんな事をする訳ないじゃないの」と紫がふくれる。
 そして、三人は父の方を見た。雅人は大きな溜息をひとつ吐くと、
「仕方ないな」と言ったのだった。
 そうして、4日後の日曜日に、雅春に連れられて
理子がやってきたのだった。
 一目見て、些(いささ)か緊張していた博子の顔は
自然に綻(ほころ)んだ。
 どこがどうと具体的には言えないが、一目で気に入った。
感覚として、息子が好きになったのが分かった気がした。
彼女はとても緊張していたが、娘らしい娘だった。優しげな
面立ちと知性を湛えた瞳。控えめでありながらも、自身を
主張している感じがした。
 そして、何にも染まっていない、この先も多分染まらないで
あろうと思わせるピュアな精神が迸(ほとばし)っていた。
今時、こんな娘さんがいるなんて。自分の息子が選んだだけの
事はある、と思った。
 それは、他の二人の家族も同じように思ったようだ。
理子が来る寸前まで気難しい顔をしていた夫が、
彼女と会った途端、相好を崩した。
 リビングに通し、皆で彼女を囲む。彼女はとても緊張しながらも、
微かに頬を染めながら、自然に会話に参加した。話しをしていると、
頭の良さが窺える。とても聡明だ。溌剌としていて、ユーモアもある。
楽しい娘だった。
彼女を見る息子の目は、大切な宝物を慈しむような愛情に
溢れていた。そして、息子を見る彼女の目は、信頼と尊敬と
愛情に満ちていた。
 彼女を連れて来ると決まった、あの水曜日から今日まで、
毎日息子から理子との出会いからの話しを聞かされた。嬉しそうに
語る息子の姿に、胸が温まるのを感じた。初めての恋を語る喜びが
伝わって来たからだ。
 雅春が、理子の気持ちがわからずにずっと片思いだと
思っていた理由。
 ポーカーフェイスで、他の女子とは違って自分を見る目が
全く普通だった、と息子は語った。博子も、周囲の女性達が
どんな目で息子を見ているかは知っている。目は口ほどに物を
言うと言うが、今の理子を見ると、その気持ちは十分目に現れている。
 それなのに、学校では、全く普通なのだと言う。互いの気持ちを
確認したあの日以来も、それ以前と変わらない目で自分を見るので、
あれは夢だったんじゃないのかと不安になると息子は言っていた。
 そんな息子の心配も、どうやら杞憂のようだ。この娘は確かに
息子を愛している。そう。ただ好きだとか言うのでは無く、
愛していると感じる。
 それからは、彼女に会う度にそれ以前よりも好きになった。
息子も同じようだ。雅春の彼女への想いがどんどん深まって
いってるのを感じた。知れば知る程、好きになる。優しい娘だ。
彼女の家庭の事情を知った時には、本当に自分がお母さんに
なってあげたいと思った。
 だから、息子がまだ付き合いだして間も無いのに
「理子が卒業したら結婚するつもりだから」と言った時には、
性急な子だと思いながらも、然(さ)も有りなんとも思ったのだった。
 息子にとっては、これが最初で最後の恋だろう。こういう娘だから、
雅春の心を捉えて離さないのだろう。誰も代わりにはなれない。
彼女ほど愛せる女性はいない。魂の全てで愛している。
そしてまた理子も同じだ。全幅の信頼を息子に寄せている。
彼女にとっても、雅春が全てなのだ。
 そう思ったから、全面的に二人を応援した。彼女の家庭の
事情を知ると、彼女の親御さんは反対する事が目に見えていた。
普通の家庭でも、この場合反対するのが当然だとは思うが、
彼女の所は更に厳しいに違いない。だから、二人の力に
なりたかった。自分達だけでも、二人の味方になってやりたかった。
 博子は何より、我が子を愛している。愛する我が子が幸せに
なるなら、応援してやるのが当たり前だと思っている。雅春の
幸せの為に理子が必要なら、賛成しても、反対する理由なんて
微塵も無い。
 しかも理子は、いい娘だ。未成年ではあるけれども、
しっかり者だ。この娘になら、安心して息子を任せられると思った。

 今目の前で頬を染めている理子を見て、息子を愛してくれている
喜びを感じる。それと同時に、この三カ月の事を思うと胸が痛い。
 二人は食卓の準備をした。理子が味噌汁の味噌を溶き、博子は
ご飯をよそった。セッティングしている時に、雅春がやってきた。
食卓の上を見て目を輝かせている。
「美味そうだね。これは理子だよね」
「あら、わかるの?」
 博子は不思議そうに息子を見た。
「勿論さ。そんなの当たり前だろう?」
 確かに、見た目の感じは違うとは思うけれども・・・。
「さぁ、食べようぜ」との雅春の言葉に、手を合わせて、
いただきますと挨拶をして食事を始めた。考えてみると、
博子は理子の作った食事を食べるのは初めてだった。
 蒸し鶏に卵焼き、大根のサラダに豆腐とワカメのみそ汁、
胡瓜の浅漬けに湯むきトマト。簡単だが、栄養のバランスが良く
見た目も綺麗だった。結局博子は大した事はやっていない。
理子の手際が良過ぎて、付け入る隙が無かった。
口にすると、とても美味しかった。味噌汁はほぼ増山家の味と言えた。
結婚前に、味噌汁の出汁や味噌の事を訊ねて来たので教えたが、
その通りに作ってくれてるようだ。不思議に思ったのは、蒸し鶏の
タレとサラダのドレッシングだった。とても美味しいのだが、
不思議な味がする。そう言えば、市販の物を使っていなかった
ように思う。調味料を自分で調合していた。気にしないで見て
いたので、詳細を覚えていない。
「お口に合いませんか?」
 理子が不安そうな顔をして訊ねて来た。理子の言葉に、
夢中になって食べていた雅春が顔を上げて博子の方を見た。
「ああ、ごめんなさいね。とっても美味しいわよ。ただ蒸し鶏のタ
レとサラダのドレッシングが、不思議な美味しさって言うか・・・」
 博子の言葉に、雅春がにんまりと笑った。
「わかるよ。俺も初めて彼女のサラダを食べた時、ドレッシングに
驚いたんだ。凄く美味いんだけど、不思議な味がするんだよな」
「そうなのよ。口に合わないとかじゃないわよ。口には
合ってるから。すっごく」
博子は、不思議な味と言う表現で理子が傷つくんじゃないかと、
少し心配した。
「そうですか。良かったです」
 理子は安心したように笑うと、再び食べ始めた。
「理子ちゃんは、本当に料理上手ね」
「えっ?そんな事ないですよ」
 理子が顔を真っ赤に染めた。
「お義母さんの料理の方が、ずっと美味しいし綺麗です」
 恥じらいながらそう言う理子は可愛らしい。
「マーは、どう思う?」
 博子はわざと息子に振った。雅春はそんな母の顔をチラっと見た後、
「俺は理子」と言ってご飯を頬張っている。その言葉に、理子が慌てた。
「やだ、先生、何言ってるんですか。お義母さんの方が、
ずっと美味しいに決まってるじゃないですか」
「それは君の主観だろう?俺は理子だって思ってるんだから、
いいじゃないか」
 博子は、思わず、ぷぷぷ・・・と笑った。
 なんて可愛い息子と嫁なんだろう。
「お義母さん?」
 理子が驚いて博子の方を見た。
「ふふふ・・・。ごめんなさい。でも可笑しくて。こんな可愛い
マーを見せて貰えるなんて、私とっても嬉しいわ。大きくなって
からは、無愛想でいる事の方が多かったんだもの。こんな風に
幸せそうに朝食を頬張ってる姿が、すっごく可愛くて」
 そう言って笑う母を見て、雅春は顔を染めた。それが尚更、
博子には愛しい。
 やっぱり、この子には理子ちゃんしかいないんだ。
理子ちゃんと一緒だから、こんな顔をする。


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~ Comment ~

Re: なんて可愛い息子と嫁なんだろう。>misia2009様 

misia2009さん♪

いつもコメント、ありがとうございます。
大変、励みになっております。
リアでは、もう終盤を執筆中です。
第二部は理子が泣く場面が多くて、また
先生さえも、よく泣いてるものだから、書いてる方も
少々、引きずられ気味でナーバスになりがちでして。
もう、やめてしまいたいって思いに、頻繁に襲われてます。
だから、コメントや拍手を頂くと、頑張る気持が湧いてくるんです。
単純ですねぇ。。。ww


そんな中で、博子お母さんの存在は大きいです。
こんなお母さんが、本当に欲しい!
本当に優しくて良い人です。
普通なら、嫁に嫉妬するものなのにねぇ。
理子は幸せなお嫁さんです。

なんて可愛い息子と嫁なんだろう。 

すっかり母に同調して微笑んでしまいました♪
博子さん自身がそうとう可愛いです。
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