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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 13.愛 欲 03

2010.10.25  *Edit 

「わかった。じゃぁ、取り敢えず座らないか。立ちっぱなしも
なんだから」
 雅春は理子をベッドの縁に座らせた。
「君が病院へ運ばれた時、志水から電話があった。もう夜の10時
だったから、何故こんな時間に二人は一緒なんだって思ったよ。
胸が騒いだ。病院に着いて志水を問い詰めたら、『理子を信じて
いないんですか』と言い返されて、俺は言葉に詰まった」
「そんな事があったんですか」
 理子がしんみりとしたように言った。
「俺は君を裏切れない。自分の愛を裏切れない。それは君も
同じだと思っている」
 雅春は理子を見た。理子は雅春の視線を受けて、軽く微笑んだ後、
膝元に視線を落とした。その様子を見て、雅春の中に一抹の
不安が生じた。
「理子。俺は今の君の様子を見て、何だか不安な気持ちに
襲われてるんだが」
「ごめんなさい。私の先生への愛はずっと変わって無いから」
 理子は慌てて顔を上げて雅春を見た。
「先生。先生は早くから、志水君の私に対する気持ちに
気付いてたんですね」
「ああ。初めて彼に会った時からね。君に紹介して貰った時の彼の
不遜な態度。夫である俺の前で平気で君を呼び捨てにして、
俺は内心、腸(はらわた)が煮えくり返っていたんだ」
 理子は驚いた顔をした。
「そうだったんですか。私、気付きませんでした」
「わかってる。君は鈍いから」
「いつも、酷い言い様ですよね。でも、その通りですけど・・・」
「嫉妬深い俺が、何故君に言わなかったかって思ってるんだろう」
 雅春の言葉に理子は頷いた。
「あいつの事を指摘して、君にあいつを意識させたく無かったからさ。
あいつの気持ちに気付かせたく無かった。気付いたら、あいつを
意識して、あいつに傾倒していくような畏れを感じていたんだ」
「そんな・・・」
 理子は動揺していた。
「あいつは、枝本以上に君の心に入り込んで来ると感じた。枝本とは、
過去の経緯があるから仕方ない。だが、志水には、そういう
しがらみは無い。だからこそ、俺にとっては強力なライバルだと
思ったのさ。あいつは危険だと思った。だから君の傍から離した
かったんだが、生憎俺にそれはできないしな。後輩の安藤に、
時々様子を見てくれるよう頼んだが、如何せん校舎が違う」
「先生がそこまで思ってたなんて・・・」
「大体、結婚したばかりの女に想いを寄せて、諦めずに常にチ
ャンスを窺っている男なんだからな。俺が警戒するのも当たり前
だろう?だけど、履修科目が同じなんだから、離す事はできない。
君に言えば、どうしたって意識するだろうし、クラスメイトでも
あるんだから完全に接触を断つのは無理だ。だから、鈍い
君の事だから言わない方が逆にいいのかもしれないって思ったんだ」
 理子は微かに頬を染めた。
「だけど君、俺に言わなかったよな。彼と履修科目が全部同じで
ある事と、一緒に帰っているって事を」
 理子は怖々とした表情で雅春を見た。雅春は、そうと知った時に
何も言わなかった。本当は、そうと知った時に、指摘されて
責められるものと思っていたのに。何故先生は何も言わないのか。
その時、不思議に思ったのだった。
「先生は、どうして知ったその時に、そうやっておっしゃらな
かったんですか?」
「君を無言で責めたのさ。俺には分かってた。君が何故言わな
かったのか」
 理子は震えた。
「だから、あいつは危険なんだ。君は自覚はしてなかったと思う。
だが、知らず知らずのうちに、少しずつあいつの存在が君の中で
大きくなっていた筈だ。毎日、朝から帰りまでずっと一緒
なんだからな。しかも、あいつとは気が合う。感性も合う。
一緒にいて楽しい。俺がいなかったら、君は確実にあいつを
好きになっていたと思う」
 理子は寂しそうな微笑みを浮かべて、
「何でもお見通しなんですね」と言った。
「学校での噂の件で、先生からいきなり犯されたあの日。あの日の
帰りに志水君に話しがあるって言われて、多摩川土手に連れて
行かれたんです。私も噂で困っていたんです。学校で私と志水君の
仲が噂になってて・・・」
 理子の言葉に雅春は驚いた。
「困っちゃいますよね。履修科目が全部同じだから一緒にいるのに、
なんでそんな噂を立てられなきゃならないんだろうって思ってました。
だけど、志水君にその日告白されたんです。好きだって。
凄く困惑しました。告白なんてしないで欲しかった。そしたら、
ずっと一緒にいられたのにって。それで分かったんです。
私は志水君と一緒にいたいと思っているって事に」
「それで、君はどうしたの」
「もう、明日から私の近くに来ないでくれって言って、逃げるように
帰りました。それからはずっと、離れた席で授業を受けてましたし、
全てにおいて別行動でした。帰りは、志水君は私から一定の距離を
置いてついてきてました。同じ車両に乗ってるんです。
それには困惑しましたね」
「そうか。あの時、そんな事があったのか。俺は自分の事で
手一杯だった。君はそんな状況の中で、俺を支えてくれていたんだな」
 理子は笑った。
「そうですよ。正直に言いますけど、私とっても寂しかったです。
志水君が一緒で無い事に。在学中、先生が私と色々と気軽に
話せないのを不満に思われたのと同じように、私ももっと志水君と
色んな事を語り合いたかったんです。話したい事はまだまだ
一杯あった。でも、枝本君達のように、好きだけどずっと友達で
いようって言うのと志水君は違ったから。それ以上のものを
望まれても、私は彼に与えてあげる事はできません。
私の愛は先生だけのものだから」
 雅春は理子の瞳を見つめた。彼女の言葉に嘘は無いと思った。
「でもね、先生。先生と別居してから、私はあまりにも寂しくて、
辛くて、志水君の愛に甘えてしまいました」
「それは、仕方ない。俺だって同じだ」
「私は、多分、先生とは違ったと思います」
「どういう意味だ?」
「志水君は、私が思っていたよりも優しい人でした。先生を
好きな私が好きなんだって。だから、丸ごと全て受け止めるって。
そう言われた時、胸が震えました。自分以外の人間を愛していると
言うのに、そんな私を愛してる、なんて言うんだもの。勿論、
そう言われても志水君を受け入れる事はできないけれど、
そばに居てくれる事が物凄く心地良くて、私は彼を
拒否できませんでした」
 雅春は軽く溜息を吐いた。理子が入院した時に、彼と色々と
話してみて、志水と言う男がどんな男なのか、初めて知った気がした。
若いのに懐の深い男だった。理子に執着し、結婚していても
自分のものにしたいとの想いに押されて、狡猾で強引に事を
進めてくるヤツだろうと推測していたのだが、それは違った。
 きっと、理子への想いが強いからこそ、強引には
できなかったのだろうと思う。
「彼は求めてきませんでした。ただ、私のそばに居て、
優しく微笑み、泣いている私を優しく抱き止めてジッとしていて
くれるだけ。君のそばにいられるだけで幸せなんだって。…私、
彼の家へ行きました。この部屋に自分が入るわけにはいかないから、
僕の所に来ないかって言われて。物凄く寂しくて、ひとりぼっちが
嫌だったから、言われるままに行きました。彼の家は物凄く
お金持ちで、大きなお屋敷だったんですけど、志水君はその庭の
一角にある小さな家で一人で住んでたんです。3人兄弟の
長男だって言ってた。なのに、一人でそこに住んでるんです。
生活費は全て親持ちだけど、コミュニケーションは全くとって
ないって。何だか深い事情がありそうだったけど、悪くて
聞けなかった。きっと、話すのは嫌だろうって思ったし。ただ、
私、彼とはどこか心の深い所で共鳴するものを感じていたので、
もしかしたらそれは、彼が私と同じように家族の中で寂しい思いを
してきた事に由来してるんじゃないかって思いました」
 理子は雅春の方を見た。少し寂しげな瞳をしている。
「君は、彼に惹かれてるんだね」
 雅春は言った。最初から予想していた事でもあった。
「そうかもしれません。あまり自分では認めたくないんですけど。
ただ、男女の愛とは少し違う気がします。今はそう感じてます。
あの時はよくわかりませんでした。何もせずに、ただ傍に居て
くれる彼の存在が有難かったです。でも、…キスをされました。
先生の唇とは全然違う感触を唇に受けた時、戸惑ったけど
不快じゃなかった。ごめんなさい・・・」
 雅春は妬心が湧いてくるのを感じた。自分以外の男の唇が、
彼女の唇と重なったのかと思うと胸が痛い。
「変な事を聞くようで申し訳ないんだが・・・」
 雅春の声は微かに震えていた。
「何でしょう」
「どんな感じだった。彼とのキスは」
 理子は雅春の問いに軽く笑った。
「他の人とキスしておいてこんな事を言うのもなんですけど、
先生が心配されるような事は無いですよ。不快では無かったって
だけです。何も感じなかったんです。先生とは違う感触だなって
思っただけ。志水君は遠慮して、軽く合わせて来ただけですから。
『君の寂しい心に付け込んでる僕は、最低だね』って、言いました。
私は何だかとっても申し訳ない気持ちになりました。それでも、
一人ではいられなくて、その晩、彼の家に泊まりました。
勿論、何もありませんでしたからね」
 雅春も理子の話を聞いていて、なんだか切なくて寂しい気持ちに
襲われてきた。姉の紫が、志水の事を過去に辛酸を舐めて
来てるのではないかと言っていた事を思い出した。彼が理子に
惹かれるのも、きっとその暗い過去のせいなのかもしれない。
 ピュアな、女神か聖女のような彼女の傍にいると、心が洗われる
気になるのだろう。その気持ちが雅春にはよくわかった。雅春自身も
同じだからだ。あいつは俺と同じ匂いがする。初めて会った時に
そう思った。だから、同じように、同じ相手に惹かれるのだ。
 もし俺があいつだったら。やっぱり同じように、ただ黙って
理子のそばにいるだろう。強引に理子を奪ってしまったのは、
理子が俺を愛してくれていたからだ。他の男を愛していたら、
奪うことなどできない。彼女が傷つくと分かっている事を、
自分のエゴの為だけにする事なんてできない。愛しているから。
「先生・・・?」
 理子が不安そうに雅春に声をかけた。
「ん?どうした?」
 雅春は優しく微笑みかけた。
「信じてくれますか?何も無かったって事を」
「勿論さ。信じてるよ。もし万一、何かあったとしたら、君は今
ここでこうして俺のそばにはいられないだろうからね」
「良かった。信じてくれていて。私、志水君の傍に居る事が
当たり前のように思えてきたんです。何もしないで、ただ傍に
居てくれる彼の傍にいる事が心地良くて。とても安心できました。
でも、結局はそれだけなんです。彼の傍は安心できたけど、
それ以上の気持ちは湧いてこない。それに、ふとした瞬間に
先生を思い出しては、胸が痛んで切なくて、逢いたい気持ちに
襲われて、寂しくて悲しくて。ひとりで居る時、逢いたいと
思うのはいつも先生。先生だけだった。先生の傍に居て、
その素敵な瞳に見つめられたい。先生の色んな顔を見たい。
触れられたい。愛されたい。…志水君と一緒にいると寂しさを
紛らわす事は出来るけど、乾いた心を潤す事はできなかった。
それが出来るのは、先生だけなの」
 理子の瞳は潤んでいた。彼女の真摯な想いが伝わってきて、
雅春の心は喜びに打ち震えていた。


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