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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 13.愛 欲 01

2010.10.23  *Edit 

 あれから。
 雅春の理子への想いは深まる一方だった。
 理子への想いを自覚したら、それまでのスパイラルのような酷い
ストレスの日々から解放されたような気がした。
 自分の想いは多分、片思いだ。彼女とは住む世界が違う。
 そう思っても、やり切れないような辛い痛みを覚える事は無かった。
 毎日、彼女の顔を見れるだけで、心が潤うのを感じた。喜びを覚えた。
 中間テストが終わった頃、友人の古川から平安展の招待状が
2枚届いた。それを見て、すぐに理子の顔が浮かんできた。
歴史好きの彼女の事だ。きっと喜ぶに違いない。単純にそう思って、
殆ど無意識のうちに理子に誘いのメールを送っていた。
送り終わってから、ハッと我に返る。
 何をやってるんだ、俺は…。

 振り返れば、こうして最初から、雅春は理子の事となると冷静さを
失い、見境も無く大胆な行動を起こし、理子を悩ませていた。
 全く思いもかけずに両思いになり、雅春は一層浮かれてしまったと
言える。女性を好きになった事自体が初めての経験だった。だから、
好きな女と付き合うのも当然初めてである。これまで多くの女と
付き合ってきたとは言っても、好きな女だったわけではないから、
実際問題、好きな女性相手に、どう接し、どう対応したら良いのか
わからなかった。
 それなのに、想いは深まる一方だ。
 理子を知れば知る程、彼女への想いが強くなる。これほど、雅春を
捉えて離さない女だとは思っていなかった。ここまで、はまるとは
思いも寄らなかった。教師と生徒として、大人として、もう少し
冷静に一定の距離を保ちながら交際できるものと思っていたのに。

「先生。お茶をどうぞ」
 理子がハーブティの入ったカップを雅春の前に置いた。
 ハッとして、我に返った。
 ずっと、来し方を思い出していた。二人が出会った時からの事を。
「どうかしました?」
 理子が笑顔で問いかけた。その顔を見てホッとする。
「いや・・・。なんか、君と出会った時からの事が思い出されてさ」
「それで?」
 理子は静かに雅春の隣に腰を下ろした。
「思い返してみると、結局俺は最初から君が好きだったんだな~って
思ったよ。はっきりと好きだと自覚したのは、修学旅行の、
あの京都の夜なんだが、それまでは自覚できずに、と言うか、
認めたく無くて悶々としてた」
 雅春はカップを手に取ると、口を付けた。どうやらミントティの
ようだ。すっきりとした薄荷(はっか)の香りが鼻をくすぐる。
「先生が悶々としていたなんて、なんだか想像がつかないな。
私からは、冷静で何も動じない人って感じだったから」
 その言葉に、軽く笑う。
「顔には現さずにいただけさ。俺も君と同じようにポーカーフェイス
なんだ。正直な所、君の前ではいつもそのポーカーフェイスが崩れてた。
君と居ると、何故か警戒心が薄れて気が緩むんだよ。だが、
それ以外の時では、俺はいつも仮面を被ってる。誰にも心の内を
悟られたくないから、そうやって自分を守るのが癖になって
しまってるんだ」
「先生と私って、なんだか似てるんですね。これまでそう思った事は
無かったけど、こうやって改めて聞くと、そう感じます。私も誰にも
自分の心の内を知られたくない思いが強いから、ついポーカー
フェイスになってしまうんですよね」
 雅春は理子の方へ体を向けて、その手を取った。
「じゃぁ、君が声も無く静かに泣くのも、そのせいなのかな」
 雅春の言葉に、理子はほんの一瞬、表情を固くした。そして、
目を伏せて言った。
「そうなのかもしれません。声を上げて泣けないんです。本当は
泣きたくないんです。こんな事で泣いてどうする、っていっつも
思ってます。泣くのが恥ずかしいし、悔しいんです。だから、
自分で自分を押さえてる。それでも押さえきれない感情が溢れてきて、
涙が勝手に出て来てしまうんです。私の意思に反して・・・」
 理子は、見た目の淡泊さとは裏腹に、心はとても熱くて激しい
ものを持っている。普段はそれを一生懸命抑えている。何故
そんなにも抑えるのだろう。まだ若すぎるくらい若いのに。
 怖がりで恥ずかしがり屋だからなのか。彼女のそれは、
通常よりも勝っている気がする。
「理子・・・。俺の前では、もっと激しく泣いてもいいんだぞ。
君が声も出さずにポロポロと涙を流す様を見ていると、俺はとても
切なくなって来る」
「先生・・・」
 理子は伏せていた目を開けて、雅春を見つめた。
「先生、ごめんなさい。多分もう、癖になっちゃってるんだと
思います。言われて考えてみると、子供の時からずっとこうだったと
思うから」
「子供の時からって、いつ頃から?」
 理子は首を傾げてから、「物心ついた頃から、じゃないかな」
と言った。
 雅春はその言葉に衝撃を受けた。
そんなに小さい頃から声も出さずに泣いていたのか。
そして、何となく納得する。多分、あの母親との日々の感情の
やり取りのせいなのだろう。そう考えると、理子の中にある根は
相当に深そうだ。
 彼女がピュアなのは、そうやって自分を極力傷つけまいと
してきた自己防衛本能のせいなのかもしれない。ふと雅春は
そう思った。いつも深い所で拒絶している。これ以上は耐えられないと
無意識に心を閉ざし、受け入れる事を拒否するのだ。
 これまで雅春はずっと理子に受け入れられてきたが、流産した事で、
初めて拒絶されたのかもしれない。そこまで自分が彼女を追い詰めて
しまっていたと言える。
 再び拒絶される事があるのだろうか。そんな漠然とした不安が
湧いてきた。
「君は小さい頃から、思い切り泣けないで来たんだな。でも俺も、
いつの間にか泣けなくなっていた。だけど最近は泣いてばかりだ。
いつも君に泣かされている」
 雅春はそう言って笑った。
「あっ、酷い!私の方が、たくさん先生に泣かされてるのに」
 そう言ってむくれた理子が、とても可愛かった。
「俺が泣かせてるんじゃないよ。君が泣き虫なだけだろう。声を
出さない代わりに、涙は一杯出すんだよな」
「もう!先生の意地悪!」
 雅春はそんな理子が可愛くて、笑いながら彼女を抱き寄せた。
軽く彼女の頭に口づけた。その瞬間、理子の震えが伝わって来た。
彼女の顎に手をやり上へ向かすと、微かに頬を染めていた。
瞳も僅かに潤んでいる。
「キスしてもいいかい?」
 雅春の問いに、理子はそっと目を閉じた。雅春は顔を寄せ、
唇を重ねた。
 愛しい唇。何度触れても飽きる事は無い。心地良い唇の感触が、
雅春の心を満たす。
 初めてこの唇に自分の唇を重ね合わせた時、雅春はとても感動した。
言い知れぬ喜びで胸が一杯になったのだった。キスだってセックス
だって、それこそ五万と経験しているのに、これ程の喜びを感じたのは
初めてだった。
 愛する女性とのふれあいは、心に大きな喜びを齎(もたら)すと
言う事を、その時初めて知った雅春だった。
 雅春はそっと唇を離すと、まだ目を閉じている理子の瞼に口づけた。
その次には頬に、そして、顎に。そうして、耳に口づけた。その瞬間、
理子の睫毛が震えたのを感じた。
 雅春は理子の髪を撫でながら、唇を離した。これ以上は止めて
おいた方が良さそうだ。そうでないと、また激しく彼女を求めてしまう。
 愛しい理子。そばにいるだけで触れたくなる。触れたら抱きしめて
キスをしたくなる。そうしたら、そのまま彼女が欲しくなる。
その体の全てを愛し、ずっと繋がっていたくなってしまう。
 だが、そうする事が理子の負担になってしまうのなら、雅春は
我慢するしかない。もっと深い淵へと二人で降りていきたかったが、
彼女にそれを望むのはまだ早いのかもしれない。元々、怖がる理子を
ここまで強引に連れて来てしまったのが良く無かったのだ。
 理子が目を開いて、雅春を見つめた。その目を見てドキリとした。
「先生。私、ひとつ聞きたい事があるんだけど・・・」
 真面目な目付きだった。
「何だろう」
「先生は、どうして私しか抱けないの?」
 予想もしない突然の問いかけに、雅春は絶句した。
「学生時代には、沢山の女性を抱いてきたんでしょ?性欲はそんなに
強く無かったとは言っても、それなりには有ったんでしょうし。
それに、朝霧に赴任してきた頃は、凄くストレスが溜まって、
何度も望さんを呼び出しては抱いてたんでしょ?それなのに、
私を好きになったら、突然、他の女性は抱けなくなったって言うのが、
ちょっと不思議で」
 理子は真面目な顔をしている。男に女性関係の事を聞くにしては、
真面目すぎる表情だ。そんな理子の方が余程不思議に思える。
「何でそんな事を訊くの?」
「単純に、どうしてなのかと思って。男の人みんなが先生みたいな
訳ではないですよね?」
 その言葉に、雅春は苦笑した。
「多分な。大抵の男は、好きな女がいても、他に魅力的な女がいて、
機会さえあれば、抱くんだと思う。俺のように、そうでない男も
いるとは思うが、少数派なんだろうな」
 理子は少し首を傾げた。
「先生は、美鈴さんの身体をご覧になったんですよね」
 理子の言葉に衝撃を受ける。それを訊きたかったのか。
「ああ。見た」
「全然、感じなかったんですか?」
 理子の表情は相変わらずだ。ポーカーフェイスで心を隠して
いるのだろうか。
「感じなかった」
「綺麗だったんでしょ?」
 理子の問いに雅春は微かに笑う。
「君の方が綺麗だよ」
 そう言ったら、理子が頬を染めた。
「彼女の身体がどんな風だったのか、訊きたいのか?」
 雅春の問いに、理子が頷いたので驚いた。溜息が洩れる。
理子が推し量れない。

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