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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 12.回 顧 06

2010.10.20  *Edit 

 翌日の文化祭。
 クラスの出し物も、ブラバンの演奏も上手くいった。どちらも
初めての経験だったので、問題無く終わった事に大きく安堵した。
 来客も多く、人でごった返している中で、雅春は何度か理子の姿を
見かけた。枝本と一緒に回っているらしい事に気付き、胸が痛んだ。
理子は理子の世界で生きている。そう感じずにはいられない。
自分はただ、そんな彼女を見守る事しかできないのか。
 午後になり、合唱部の時間になったので音楽室まで足を運んだ。
一番奥の窓際の後に立つ。周囲の女子達の歓声を浴びたが、気に
ならなかった。意識は理子の歌を聞く事だけに集中していた。
 時間になり、合唱部員達が隣の準備室から出て来た。
 横川の指揮の元で、少人数ながら美しいハーモニーが聴こえて
来た。2曲終わった後、3年の女子のソロが始まり、そして
理子のソロが始まった。
 理子は心なしか緊張しているように見えた。素早く周囲に視線を
巡らせ、その視線が雅春と重なった。ほんの一瞬ではあったが、
雅春は応援する気持ちを込めて微笑んだ。
 理子は2曲歌った。最初はシューベルトの「ます」でドイツ語だ。
2曲目はイタリア語の曲だった。どちらも良かったが、理子の
綺麗な高音には、2曲目の方が合っているように思えた。
 弾き語りの時とは全く違う、新たな理子の魅力に惹かれた。
細くて高い美しい声。ピュアな雰囲気からすると、聖歌などを
歌うのが一番なのではないかと思うが、せつない恋の歌が
心に沁みて来る。
 みんな同じように感じたのだろう。大きな拍手が湧いた。
その拍手で我に返った理子は、頬をほんのりと染めた。その表情に
雅春は胸がキュッとするのを感じた。
 理子は礼をして合唱の列に戻ると、全員が礼をして準備室へと
引きあげて行った。その様を見ながら、雅春は余韻に浸っていた。
心が洗われるような歌声だった。乾ききっていた心が僅かに湿って
来たように感じる。
 そうだ。今度は茶道部だ。
 もたもたしていられない事に気付き、雅春は急いで作法室へと
向かった。茶道部のお茶会は盛況だった。去年の事は知らないが、
今年は何故か人気があるようで、午前の部はどの回もすぐに満席に
なったと昼休みに柳沢から聞いた。
 できれば正客になって、理子が点てたお茶を飲みたい。
 作法室に着くと、ちょうど前の回の客が出て来ている所だった。
全員が出終わり、中へ案内される。その場にいた女子達が歓声を上げた。
「良かったら正客に」と、頬を染めた女生徒に勧められた。
言われるまでも無いが、勧められたので受けたといった態度を
示しながら、正客の場所へと座る。次々に客が入ってきて、
その中に石坂の姿を見て驚いた。互いに軽く会釈を交わした。
 雅春はドキドキした気持ちを押さえながら、正面を向いた。
 やがて時間が来て、理子が姿を現し、挨拶をした。雅春が
いる事は、既に周囲から伝え聞いているだろう。だが、見た所
変わった様子は無かった。
 挨拶が終わり、静々と道具を運び始める。足の運びが綺麗だった。
着席し、袱紗(ふくさ)を捌(さば)く。少し緊張している様が見て
取れた。だが、動作は流れるようにスムーズで、所作も美しい。
伏せ目がちに丁寧に点てている姿は、普段とは違って大人っぽい
感じがした。
 彼女の点てたお茶は美味しかった。濃さも量も温度も丁度
良かった。点てている時から思いやりを感じるお手前だったが、
それがお茶にもはっきりと現れていた。道具の扱いも非常に丁寧で、
まるで生き物を慈しむような扱い方だった。
 全てが雅春の胸に響いて来る。
 理子は最初から最後まで、雅春とは一切目を合わせなかった。
だが、その温もりは、理子が触った茶碗や、点てたお茶から
感じる事ができた。淡々とした態度とは反対の、熱い心を感じた。
 全てが終わり、理子の姿が水屋へ消えた時、雅春は自分の心が
潤っているのを感じた。美味しいお茶を頂いただけで癒されている。
静謐な時間と空間の中で、言葉ではないもので理子と会話をしていた
ような気がした。
 確実に、理子に惹かれている自分を感じた。
 文化祭終了後、理子に労いのメールを送った。本当は直接
言いたかった言葉だ。理子からは返事は来なかった。きっと、
枝本と二人でファイアーストームを楽しんでいるのだろう。
そう思うと胸が痛い。
 彼女と直接話しがしたい。表情豊かに目を輝かせながら生き生きと
話す彼女をまた見たい。高くて綺麗なその声を聞きたい。
色んな事を語り合いたい。
 そんな思いに駆られる。
 翌日、再び望と会った。一昨日会って、散々交わったばかりだ。
それでも二人は、朝だと言うのにラブホテルへ入り、肉欲に耽った。
 一昨日の望との情事の時は、どうにもムシャクシャして溜まらな
かったが、何故か今日は落ち着いていた。一昨日程の渇(かつ)えが
無い。だが、それでも雅春の心は乱れていた。しきりに理子を
思い出す。理子を思い出しては自分の心に疑問を持つ。
 雅春は、望と交わりながら文化祭での色んな理子の姿を
思い出していた。
 心が一番かき乱されたのは、理子が楽しそうな顔をして枝本と
一緒にいる姿だった。矢張り噂通り、あの二人は付き合って
いるのだろうか。枝本が転校してきた初日から、ただならぬ
雰囲気が二人の間には流れていた。
 望の中に入り、腰を使っている時に、いきなり理子の清らかな
顔が雅春の頭の中に浮かんだ。伏せていた目が静かに開き、
ジッと雅春を見つめている。澄んだ瞳だった。その瞬間、
雅春のモノは萎えた。
 望は急な雅春の変化に驚き戸惑った。
「どうしたの?」
 雅春は戦慄いた。自分でも信じられない。
 雅春の中で、理子が笑みを浮かべた。胸が締め付けられる。
 駄目だ。もう、これ以上は無理だ。もう、望を抱けそうに無い。
 伸びきったゴムがプツンと切れてしまったような、そんな気がした。
 どんなに追い払おうとしても、理子は出て行きそうにない。
雅春自身が、心の底でそれを望んでいるからだ。
「悪い。何だか凄く疲れてるみたいだ。一昨日の今日だしな。
もう無理みたいだ」
 雅春は自分の中の変化を悟られないように、冷静に言った。
「珍しいわね。でも、いいわ。その代り、ウィンドーショッピングに
付き合ってくれない?」
 望の言葉にホッとした。
 シャワーを浴び、身支度を済ませて外に出ると時刻は昼だった。
二人で軽いランチを取ってから、雅春は望に付き合った。望は嬉し
そうに雅春の腕に腕を絡めてきた。振り払うのも面倒だったので、
雅春はしたいようにさせていた。
 だがよもや、そんな姿を理子に目撃されようとは。
 翌日学校で、枝本から聞かされた時、心臓が止まる程の衝撃を
受けたのだった。そして、理子が枝本と一緒だったと言う事も
ショックだった。
 一体二人はどういう関係なのか。目の前にいる枝本に聞きた
かったが、聞けない。枝本は歴研を作りたいと言いに来たのだった。
渡された名簿の中に理子の名前があった。矢張り二人は
特別な関係なのか。
 理子は既に2つも部活に入っている。幾ら大好きな歴史とは言え、
勉強もあるのだから厳しい筈だ。きっと、枝本に頼まれたから
参加する事にしたのだろう。そう思うと胸がざわついてくる。
 顧問を頼まれた。雅春自身、とても忙しい。担任とブラバンの
顧問だけで手一杯だ。歴史好きな生徒達を助けてやりたいが、
既にかなりストレスを抱えているので本当なら引き受けたくない。
 だが、理子がいる。
 多分理子は忙しくて頻繁に参加は出来ないだろう。それでも
今よりは会える機会が増えるに違いない。そんな打算が働いて、
雅春は顧問を引き受ける事にしたのだった。
 修学旅行を間近に控えて、何かと準備の忙しい日々だった。
新任だから全てが初めてなのに、更に修学旅行だ。非常に神経を
使った。手違いがあってはならない。
 今回の旅行で行く場所は、全て学生時代のうちに行った事のある
場所だった。京阪地帯は何度も行っている。だから、もし何か
あっても対応しきれる自信はあった。それでも、何百人もの
生徒達が行くのだから何かと気を使う。
 クラス内でのグループ表を見て、理子と枝本が同じクループで
ある事に胸が騒いだ。耕介と茂木も一緒である。この二人も理子に
気が有るのはわかっている。何気なく観察していると、クラス内の
男子の3割弱程度が理子に気があるように思える。ただ、積極的に
アプローチしようと言う程の強い思いでは無さそうだ。
 一緒にいると楽しいから、一緒にいたい。まだ、その程度と
言った感じだ。雅春はそんな彼らが羨ましい。自分がもし高校生
だったら、同じように彼女の周辺にいて、会話を楽しんで
いるだろう。6年遅く生まれて、この場に居たかったと思うのだった。

 修学旅行当日。
 駅にやってきた理子を見て、胸が高鳴った。だがすぐに
不機嫌になる。隣に枝本がいたからだ。雅春は二人を引き離し、
自分のそばに理子を置いておきたくて、理子に出席の手伝いを命じた。
本当は別に必要無かった。生徒達が自己申告しに来たのを、
出席簿に印を付けるだけだ。やる事なんて全く無い。だが、
一緒にいたかった。
 理子はやる事が無くて、雅春のそばで手持無沙汰に所在なげな
様子だった。それを可哀想に思ったが、それでもそばにいて、
その存在を感じられる事が嬉しかった。
 間もなく全員が揃い、理子と離れた。一抹の寂しさを感じる。
 新幹線に乗り込んだ。理子は自分の席の一番前に座っている為、
その様子は全くわからない。仕方が無い。とにかく、旅行中は
理子の事を気にしないようにしなくては。大勢の生徒を引率している。
一人の生徒の事ばかりに気を取られていて何かあったら大変だ。

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~ Comment ~

Re: 所在なげ~>misia2009様 

misia2009さん♪

既に話の流れ的には第一部で描かれている事なので、
先生の感情中心に無駄な描写を省いている事もあってか、
淡々と進んでいる感じしますよね~。
描きながら、つくづく先生は自己中な人なんだな、との
思いを強めている次第です。

互いに、強く相手を求めていながら、相手の気持ちは自分の
上には無いと思ってジレンマに駆られている時期ですね。
表面では落ち着いた、クールな先生だけに、その内面との
ギャップは凄いですね。
これじゃぁ、理子も大変だったわけだ(笑)

所在なげ~ 

に、している理子が可愛いです。清楚を絵に描いたようです。
お点前の描き方に感動しました……!
この子は汚したくなかったなァ。すごい今更なことを思いました。

それを敢えてやってしまったらどうなるか。
大変なシミュレーションのはずですが、論理的に進める筆力に毎回脱帽の思いを強めます。
明日も楽しみです♪
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