ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 12.回 顧 03

2010.10.17  *Edit 

 取り敢えず、本題に入る。
 国立志望なのに、理数系が悪い事を指摘した。当人は当然わかって
いる筈だ。だが本人の態度が非常に悪い。だからついつい、こちらも
付き離すような言い方をしてしまった。そしたら理子は「そうですか。
わかりました。ではそういう事で」と言って席を立ち、帰ろうと
したので雅春は驚き、慌てふためいた。
 予想外の態度だった。面談の途中で帰ろうとするとは思いも
寄らない。そもそも、担任の教師相手に、この態度は何なんだ。
 その後も、生意気な態度と言葉が続く。いちいち屁理屈をこねる。
その癖、妙に素直な所を見せたりして、雅春はたじたじになった。
捉え難く扱い難い生徒だ。だが、従順で無い所に
何となくだが惹かれた。
 進学先を訊くと、まだ決まって無いと言う。
 国文と日本史で迷っていると聞いて、雅春は不思議に思った。
確かに国語の成績も良いし、普段から読書家ではあるが、
日本史の方が段違いに良くできる。それなのに何故迷うのだろう。
余程好きなんだろうと思うのに。
 突っ込んで訊くと、迷いの原因は将来の就職だった。それを聞き、
雅春は笑った。可愛い奴だ。そんな事で迷ってるのか。一方で、
将来の事もしっかり見据えていると感心した。
 普段気にして色々と観察しているが、理子はどうも女臭く無い
感じがした。仲良しの女子はいるが、友達は男子の方が多いように
見える。女臭く無いと言う事は、女性特有の関心事にはあまり
興味が無いのではないか。休み時間も読書をしている事の方が
多いようだ。
 そもそも歴史に精通している事からして、女臭く無い。彼女の
歴史に対する情熱と知識や考え方を知るにつけ、もっと深く
学ばせてみたいと思う気持ちが湧いてきた。理数が悪いのは
致命的ではあるが、その分、文系は非常に秀でている。今から
頑張って理数を克服すれば、東大へ行けるのではないか。
そんな思いが湧いてきて、彼女にそれを勧めた。
 一体、どこまで頑張れるのかは未知数だ。だが、国立を目指すので
あるならば、乗り越えなければならない壁とも言える。
 雅春の勧めに最初は驚いていた理子だったが、姿勢は前向きだった。
その事に雅春は好感を抱いた。
 その後の歴史談義には花が咲き、非常に楽しい時間だった。
 目の前で話している理子は、目を輝かせていた。普段、何を
考えているのかわからない事が多い表情は、驚く程に豊かで魅力的だ。
 じっくりと観察してみると、目鼻立ちは整っているし、案外
可愛い顔をしている。形良く切り揃えられた緩いカーブを描いた眉、
鼻筋の通った高い鼻、少しぱっちりした優しげな一重の瞳は知的だ。
唇は淡いピンク色をしていて大きくも無く小さくも無く、厚くも
薄くも無く、綺麗な形をしている。顔型は面長気味である。前髪が
眉のライン上に柔らかな雰囲気でカットされていて、セミロングの
黒髪が肩に掛っている。
 多くの女子が化粧をしている中で、理子は全くの素ッピンだった。
肌の肌理(きめ)が細かく、色つやもいい。だからなのだろうか。
とてもピュアな印象を受ける。
 目まぐるしく変わる表情を見て、雅春は意外に魅力的な女だと
思うのだった。一緒にいて楽しい。女と一緒にいて、そんな風に
思うのは初めてではないだろうか。そう思って考え直す。
目の前にいるのは女ではない。少女だ。女ではないから、
楽しいし、可愛いと思うのだ。
 だが、歴史観について聞かされた時、雅春はその洞察力に
内心舌を巻いた。高校生で、そこまで考えているとは思って
いなかった。彼女は既に、高校レベルの授業では物足りないのでは
ないか。全体としての歴史をよく把握している。ひとつの流れとして
捉えている。こうなってくると、益々東大を目指して欲しいと思うし、
もっと色々と語り合いたいと思えて来る。
 目が疲れて眼鏡を外し、軽く運動をした時、理子が
「先生って、眼鏡の方がカッコイイですね」と言った事に驚いた。
そんな事を言われたのは初めてだ。眼鏡が無い方が素敵なのに、
としょっちゅう言われていた。それが嫌で、常時掛ける程視力が
悪い訳ではないのに、眼鏡を掛けているのだった。だからそんなに
度は強くない。
 理子が、同じように思う子は他にもいると思うと言ったので、
雅春の中にいたずら心が湧いてきた。自分的には、絶対に自分が
勝つと思っていた。自分に対する周囲の反応は長年の事で
十分承知している。
 雅春の提案に、理子はたじろいだ。慌てふためく様が面白い。
からかい甲斐がある。楽しんでいる自分がいた。まるで子供みたいだ。
そして、一瞬見せた理子の困ったような表情と声に、ドキリと
したのだった。それに今度は自分が慌てた。
 そうして、いきなり電気が消えて、下校時間をとっくに
過ぎていた事に気付いた。理子との時間は楽しくて、時の流れを
感じさせなかった。まだ話していたい気分だった。こんな風に
手応えのある人間と話しに興じるのは久しぶりだった。
 特に大学を卒業してからは、忙しくて友人達とも会えずにいた。
 日々の教務に追われ、ストレスが溜まり、どうにも疲れて
学生時代最後の女である望を呼び出しては、激しく抱いていた。
 望はスタイルがいい。官能的な体をしていたので、欲情を
吐き出すにはちょうど良かった。そばかすのある顔がキュートで、
黒目勝ちのぱっちりした目はいつも潤んでいる。半田沙耶華に
猛烈なアプローチをされた日は、もうどうにも我慢がならなくなって、
望を呼び出し思いきり抱いて、沙耶華への鬱憤を晴らした。
 雅春は女の服を自分から脱がした事が無い。自分はさっさと先に
服を脱ぎ、ベッドの中から女が服を脱いでいく様を観察する。
最初の女だった彰子が、自ら服を脱ぐ女だったからかもしれない。
脱がすのが面倒くさいと感じるのだった。
 どうせ、やりたいと思っているのは女の方なんだから、自分で
脱げばいい。そう思っていた。
 望はさっさと服を脱いでベッドへ嬉々として入って来る女だったが、
雅春は教師になってからと言うもの、ゆっくりと勿体ぶって
脱ぐように指示した。そうさせて、その官能的な体を、
たっぷりと目で堪能するのである。
 何故そうしたか。
 獣になりたかったからだ。獣になって、肉の交わりだけに
夢中になり、全てを吐き出したかった。だから、色んな姿態を
取らせた。望は言われるままに、どんなに恥ずかしい格好でも
して見せてくれた。
 心が冷え切っている雅春にとっては、過激な刺激で無いと
燃えて来ない。雅春のどんな命令にも従って、普通じゃできない
ような格好をして見せる望を乱暴に何度も犯し、貪り尽くした。
それでも心は乾いたままだ。冷え切ったままだ。虚しさに
襲われる時もある。だが、止められない。そうしないと、
バランスを保てなかった。
 沙耶華の面談の日は相当荒れたが、最終日であるこの日は非常に
心が躍っていた。軽やかだった。そして、翌日の賭けが楽しみになった。
 雅春は自分が勝つ事を確信していたので、翌日はしっかり約束の
本を持参して出勤した。そして、案の定の結果である。非常に
愉快だった。こんなに愉快な事は久々だ。
 女子達の物凄い歓声の中で、理子は唖然としていた。その顔が
可愛かった。放課後が楽しみになった。アイツの事だ。さぞや
悔しがるに違いない。
 ブラバンの練習が終わり、生徒達も帰ったので、音楽準備室の
ドアを開けたら中からピアノの音が聞こえて来た。短い前奏の後に
歌声がした。つい、半開きのまま覗いてみると、理子だった。
チューリップの「青春の影」を歌っている。
 澄んで綺麗な歌声が胸に響いた。理子って、こんなに声が
綺麗だったか?思い出してみると、普段の声も高めで綺麗だった。
鈴の音のような声をしている。その事に改めて気付く。そして、
歌声はそれに更に艶がかかり、深味がある。とても魅力的だ。
それに上手い。
 雅春は聴き入った。理子は「青春の影」の後も、次々と歌い続ける。
チューリップの曲を数曲歌った後、オフコースの歌になった。
こちらも哀愁がこもっていて、なかなか胸が切なくなった。
「さよなら」を歌い終わった時に、聴き入っていた雅春の存在に
気付いた理子がひどく驚いた。
 そんな理子を見て雅春は笑いながら譜面台を持って中へ入った。
彼女はかなり慌てふためいている。聴かれてしまった事に相当シ
ョックを受けている様が面白く、また可愛くもあった。そして、
賭けの話しを持ち出すと、僅かに不機嫌そうな顔をした。どうやら、
負けたのが悔しいようだ。最初から結果はわかっていただろうに。
 この時の二人の時間は、雅春の胸に大きな楔を打った。この後の
理子とのセッションで、共に奏であう楽器の音と歌声の重なりが
心まで通わせていたように思えたのだ。
 セッションすると言う事は、共に息を合わせないとできない。
だから意識して互いの呼吸を計る。互いに五感を研ぎ澄ませて、
共に音を奏であう。だからこの時、とても理子を身近に感じた。
 生意気で天の邪鬼で理屈っぽい癖に、奏でる音は素直で優しい。
懸命に雅春の音を感じ取って合わせてくる。そのひたむきさに
心惹かれた。そして、もっと一緒に音を奏でたい思いに駆られた。
相手の心に直に触れたい。自分の心と重ね合わせたい。
そういう思いが生まれていた。
 理子と一緒にセッションした事で、自分でも知らぬ間に素(す)が
出ていた。後から思い返してみると女の前では一度も見せた事の無い
自分だと気が付いた。彼女と一緒にいると、いつの間にか無防備な
自分を晒(さら)している。そして、その事がとても気持ち良い。
 また、こんな時間を持ちたい。
 その日から、雅春はブラバンと合唱部の練習日が重なる日になると、
ウキウキしている自分を感じた。そして、練習が終わり、譜面台を
持って準備室へ入り、そこに理子がいない事に失望する。
 練習が始まる前や途中用事が有ったりして、何度か出入りする事が
あるので、理子が練習に来ている事は知っている。だが理子は、
あれ以降、練習後に残らずに帰宅しているようなのだった。
雅春はその事にガッカリした。そして、そんな自分を不思議に思う。
 心の片隅に理子がいる。
 朝教室へ入ると、一番最初にその存在を確認している自分がいる。
彼女は前から2番目の席だし、廊下側からは3列目なので、
前の扉から入るとすぐに目に飛び込んでくる。理子の姿が
真っ先に飛び込んできて、ホッとするのだった。
 今日もいる。
 彼女がいると言うだけで、張り合いが生じて来る。
 日本史の授業がある日は、一層気力が充実している。彼女の真剣な
眼差しを真っすぐに受ける事が雅春の心に僅かながらも潤いを
与えてくれていた。不満だった教師生活も少しずつ張りが出て来た。
通勤の足取りも心なしか軽くなったような気がした。
 だが、そんな自分の変化を訝(いぶか)しくも思う。何故こんなにも
心が浮足立つのか。何故理子を意識しているのか。何度も自分に
問いかけては、恋ではないと否定する。
 触れあえぬまま、期末テストが終わった。今回も理子は満点だった。
しかも、雅春のアドバイスの通りに頻繁に職員室へ通っては、
教師達にわからない所の教えを請い、期末テストでは苦手な
理数の成績も上がっていた。
 頻繁に職員室へ来るようになった理子を遠目から見て、前向きな
理子に対し好感度が増した。ひねくれ者の割には、素直に
アドバイスを聞き入れている事に感心もした。雅春は、男女の関係無く、
前向きでひた向きな人間が好きだった。
 向上心の無い人間は基本的に嫌いである。更に、努力もせずに
愚痴ばかり零している人間は輪を掛けて嫌いだった。
 期末テストでの良好な結果に、数学の石坂が感心していた。
「あの子があんなに頑張り屋だとはね。感心しましたよ」
 と、雅春に言った。とても嬉しそうな顔をしている。
「しかし、どうして急に熱心に聞きに来るようになったんでしょうね」
 と言われたので、自分が勧めた事を話したのだった。
「なるほど、そうでしたか。国立を受けるなら確かに理数は克服して
おかないといけませんよね。だけど、そう言われてもなかなか
できないものですよ。あの子は素直なんですね、きっと」
 石坂の言葉に、雅春も同感だった。そしてその時、雅春は石坂から、
理子が3年の生徒会長の彼女である事を聞いたのだった。
心ならずも軽くショックを受けた。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。