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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第10章 桜咲く 第2回

2010.03.16  *Edit 

 二本の桜は両側に長く枝を伸ばし、互いに手を繋いでいるように
一部の枝が重なっていた。青い空をバックにし、僅かに風に枝を
揺らしている。絶景だった。
 「さぁ、外へ出るぞ」
 増山が敷物を脇に抱えて庭へ出た。理子は躊躇う。
 「ちょっとそこで待ってろ」
 と言われた。
 増山は大きな敷物を広げると戻ってきて、中へ入ると姿を消した。
待ってろと言われたものの、戸惑う。暫くして増山が再び姿を現した。
片手に3段の御重を持ち、もう片方の手にはカップが二つ、肩には
ポットがぶら下がっていた。
 「これ、ランチな」
 と言って笑って外へ出る。私、いつまで待っていればいいのだろう?
 増山は荷物を置くと、理子の元へやってきた。
 「お待たせ」
 と言うと、理子を抱きあげた。
 「きゃっ!」
 思わず増山の首に両手を回した。理子はそのまま敷物まで運ばれて、
その上に下ろされた。
 「お姫様、お待たせしました」
 軽く唇にキスすると、増山は履物を脱いで敷物の上へあがった。
 「さっ、お座り下さい。理子姫」
 「先生ったら・・・・」
 理子は真っ赤になって座った。やることがいちいち大胆だ。


 増山は理子の隣に腰を下ろした。理子は急に恥ずかしくなって
俯いた。増山はそんな理子をチラリと見て微笑んだ。
 この前はお正月だった。あの時は失敗したと増山は思っている。
あまりにも自分を制御しきれなかった。冷静であろうと頑張っている
理子の足を引っ張り、困らせてしまった。本来なら、大人の自分が
冷静であるべきだったのに。
 「お前、勉強頑張ったな」
 理子が隣の増山を見上げると、増山は優しく微笑んで理子を
見ていた。理子の顔が赤くなる。
 「僅かの間に、随分、偏差値を上げてきて、正直、俺も驚いてるんだ」
 理子ならやれると思ってはいたが、予想よりも早かった。
かなり頑張ったに違いない。
 「なんせ、ヴァレンタインもそっちのけだもんな」
 と笑う。
 「ごめんなさい」
 理子は俯いて謝った。
 「いや、いいさ。その分、他からたくさん貰ったし」
 「知ってますよ。ほんとに沢山、貰ってましたよね」
 「なんだ。見てたのか?」
 「別に見ようと思って見ていたわけじゃないです。目立ってましたから」
 「ふぅ~ん、もしかして、拗ねてる?」
 「また、そういう事を言うんだから。拗ねてませんよ」
 「そうだよな。理子は冷たいからな」
 「相変わらず、意地悪ですね。だけど、普段は受け取らないのに、
ヴァレンタインは受け取るんですね」
 「さすがに、あれだけの量を周囲にばら撒くわけにもいかないしなぁ。
ヴァレンタインは女の子がチョコをあげる日だから、まぁ、
受け取る理由もあるわけだし」
 増山は何故か頭を掻いた。
 「貰ったチョコは、その後?」
 「半分くらいは、食ったかな」
 「食べたんですか?」
 「そりゃ、そうだろう。食い物なんだし。お前、俺が甘いものが
好きなのは知ってるだろ」
 知ってはいるが、半分でも随分な量だったのではないか。
 「まだ残ってるから、お前少し食べてくか?」
 「とんでもない。そんなことしたら、きっとお腹壊します」
 「姉貴も同じような事を言ってた。親父は少し食べてくれたが」
 「お父さん、召しあがったんですか?」
 「親父も甘党なんだ。重役なんかやってるからかなぁ。誰も
チョコをくれないとぼやいてた・・・。あっ、秘書だけは
くれたって言ってたかな」
 そうか。重役には秘書が付くのか。凄いなぁ。まるで別世界の
人みたいだ。本人はとても気さくで、変わり者の先生のお父さんって
感じでお茶目な人なんだけどなぁ、と理子は思った。
 「先生、もしかして去年貰ったチョコもまだ残ってるとか?」
 「あ、それはない。大体、1年未満で終わってる。お陰で
大好きなチョコを買わないで済むから助かってる」
 「ははは・・・、そうなんですか。じゃぁ、私のなんて必要ないですね」
 「馬鹿っ、それとこれとは関係ないだろう」
 激しい口調の増山に理子は驚いた。
 「これまで大好きなチョコを貰っても、これで一年チョコを
買わなくて済むと思うだけで、嬉しく思った事なんて無いんだぞ。
なのに、お前から貰えると思うだけで、喜びで胸が一杯に
なるって言うのに」
 その言葉に理子は胸が熱くなった。
 「お前は特別なんだ。わかってるだろうに、本当にお前の方が
意地が悪いぞ」
 「ごめんなさい」
 むきになって言う増山が、なんだか可愛らしい。
 「去年はやっぱり、元彼にあげたのか?」
 「あげました。付き合ってるのにあげないのも、悪い気がして・・・」
 「なんか、それって変だぞ」
 「やっぱり?」
 理子は苦笑する。
 「まるで、義理チョコみたいだな」
 そう指摘されると、そんな気がしてくる。
 「その前はどうなんだ?好きなヤツにチョコをこれまで渡した事が
あるのか?」
 「気になりますか?」
 「気になるな」
 「チョコをあげたのって、去年の須田先輩が初めてなんです」
 「枝本にもやらなかったのか?」
 「はい。迷って迷って、結局あげなかったんですけど、後から
『くれると思って待っていた』って言われて、後悔しました」
 「そうか。やっぱりお前って淡泊なんだなぁ」
 「そんな、淡泊とか冷たいとか、言わないで下さいよ」
 理子は少しムキになった。他の人間に言われても気にならないが、
増山に言われると矢張り堪(こた)える。
 「悪い。別にお前を責めたりしているわけじゃない。俺は、
お前が本当は熱い心の持ち主だって事を知っている。それを
隠すが為に淡泊になってるって事もな」
 増山はそう言うと、理子の肩を抱き寄せた。
 「少しずつだが、お前は俺の前で、その情熱を見せ始めてくれている。
俺はそれが物凄く嬉しいんだ。誰にも見せない理子の心の中を、
俺だけが知ることができるんだからな」
 増山の唇が理子の唇と重なった。増山の唇が好きだ。薄くて
柔らかくて、触れていると熱くなってくる。もう、三か月近くも、
この人との時間を持てないでいたのだ。こうしていると、全ての
タガが外れてゆきそうだ。
 増山は唇を外すと、理子を見つめた。優しい目だった。いつもなら
熱いものが滾っていて、そのまま先へ進みたがっているのが
伝わってきていたのに。
 「さぁ、昼飯にしようか」
 そう言って笑うと、増山は御重を開け出した。中にはぎっしりと、
春らしい献立が盛りつけてあった。
 「わぁ、美味しそう!」
 「お袋と姉貴の力作だ」
 増山の母と姉は料理上手だ。これまでも手料理を御馳走になって
きたが、いずれも上品で美しく味も絶品だった。愛に溢れた家庭である。
 増山はカップにお茶を注ぐと、
 「じゃぁ、乾杯しよう」
 と言った。
 「何に乾杯するんですか?」
 「俺達の愛に」
 「くっ、キザ~」
 理子は思わず笑ってしまった。
 「お前、なぁ。そういう時は素直に従うものだぞ」
 「ご、ごめんなさい・・・、でも、先生って、真面目な顔して
キザな事を平気で言いますよね」
 「だって、真面目だもん、俺」
 「そうですね、確かに」
 理子は笑いながら、乾杯した。
 「そうそう。話しが正月に遡るけど、歴研の新年会の写真、見たぞ」
 増山は意味深な笑みを浮かべている。
 「ええー?いつですか?」
 「部活の日だ。確か、お前が来て無い日だったな」
 「そんな、私に内緒で?」
 「内緒じゃないさ。たまたまお前が来なかっただけで。話しも
色々聞いた。随分と、モテてたようだな」
 ニヤニヤしている。
 「モテてなんてないですよ。私なんかより、ゆきちゃんの方が
モテてたんじゃないのかな。みんな、ゆきちゃんの一挙手一投足を
見るたびに、『可愛いぃ~』って目がハートになってましたよ」
 「最上とお前は、タイプが全く違うからな。最上みたいなのが
好きなヤツもいるが、お前だって、人気者の筈だぞ」
 「やだな、先生。そんな事言って・・・」
 理子は赤くなる。そういう事を言われても未だに実感が湧かない。
 「ボウリング、上手いんだってな。優勝したそうじゃないか」
 「そうですね。まぁ、ボウリングはそこそこ自信あります」
 「そのうち、機会があったら一緒にゲームしたいものだな。
それとカラオケも」
 と言う増山は、とても可笑しそうに笑っている。
 「なんです?その笑顔は」
 「ああ、だって、お前、B‘zを歌ったんだってな。みんな
驚いたって言ってたが、俺も驚いた」
 「あら。男性ボーカルを歌うのは、弾き語りで既に御存じじゃないですか」
 「そうだが、ピアノの弾き語りとカラオケじゃ、ちょっと違うだろ。
しかも、チューリップやオフコースじゃなくて、B‘zだろ。全然違う」
 「いいじゃないですか。私、B‘z、大好きなんです。音域も
ちょうどいいので歌いやすいし」
 「そうなのか。みんな、女の子なのに違和感が無かったって
感心してた。B‘z、合ってるみたいだな」
 そう言って笑っている増山の笑顔の意味が腑に落ちない。
 「先生、先生のその笑顔の意味が知りたいです」
 「ええっ?笑顔の意味?そう言われてもなぁ。まぁ、敢えて言うなら、
お前って可愛いって意味かな」
 可愛い?尚更、意味がわからなかった。
 「お前、わざとB‘zを選んだんだろう」
 「えっ?」
 理子はギクッとした。
 「図星だろ」
 そう言って増山は笑っている。
 「あいつらの前で、女の子らしい歌を歌いたくなかったんだろ。
理子姫と持て囃された事への反抗じゃないのか?それに天の邪鬼だし」
 鋭い。全てお見通しか。
 「結局、理子自身も、自分が人気者であることを内心自覚してるのさ。
素直に受け入れられないだけで。でもまぁ、俺からすると、
その方が助かるけどな」
 「助かる?」
 「そう。お前がそうやって抵抗してくれた方が俺は嬉しいに
決まってるだろ。お前の恋人なんだから」
 カーッと体が熱くなった。
 「でもお前の事だから、きっと俺の前でも、そういう事を
するんだろうなぁ」
 理子は頭を振った。
 増山と一緒にカラオケに行ったら、逆にB‘zなんて恥ずかしくて
歌えないだろう。
 「おっ、本当か?」
 理子は黙って頷いた。なんだか熱くて言葉がすぐに出てこない。
 「じゃぁ、卒業したら、まずはカラオケに行こう!」
 「先生、多分、打ち上げかなんかで、歴研のメンバーと行く事に
なると思いますよ」
 理子が冷静に言った。十分、考えられることだ。
 「ええー?なんだよ。いの一番にお前と行きたいのに」
 なんだか、子供っぽい。
 「あ、いい事考えた」
 増山はそう言って、いたずら小僧のような笑みを浮かべた。
 「いい事?」
 「ああ。その場で、俺達の事をみんなに公表しよう」
 「ええーっ?」
 理子は思いきり驚いた。
 「卒業すれば、もう誰にも遠慮する事はないだろう?」
 こういう所が、妙に単純で子供っぽいと思わせる増山だった。
 増山の気持ちは凄くわかる。理子も、早く増山と公然と付き合い
たかった。堂々とデートし、手を繋いで歩きたかった。だが、
皆の前で、発表するっていうのは、何となく抵抗を感じる。
恥ずかしいだけなのだが。車の乗り降りと言い、増山には恥ずかしいと
思う気持ちが無いのだろうか。
 「あの、その件に関しては、その時が近づいてからって事で
いいですか?まだ、覚悟が・・・」
 理子は遠慮勝ちに言った。また妙に怒られてもかなわない。
 「覚悟か。覚悟がいる事かな、こんな事が」
 「あの、受験が終わるまでは、あまり余計な事を考えたく
ないと言うか・・・」
 「まぁ、いいさ。お前がそう言うなら」
 理子はホッとした。
 「ただ・・・」
 と言って、増山が理子を見た。視線を感じて理子も見る。
 「前の事を蒸し返すようでお前には悪いんだが・・・」
 「何でしょう?」
 「やっぱり、結婚したい。お前が卒業したら」
 増山が笑っている。美しい桜の花をバックにして。その顔を見て、
胸が急激に高まった。
 「ただし、条件が一つある」
 「条件?」
 思いもよらぬ言葉に驚いた。結婚したいと言っている人間の方から
条件を提示してくるとは。
 「お前が東大に合格したら、だ」
 「えっ?それじゃぁ、不合格だったら結婚しないって事ですか?」
 「そういう事になるな」
 理子は増山の表情を窺う。何を考えてそんな事を言うのだろう。
 「あの、じゃぁ、私が先生と結婚したくなければ、東大に
合格しなければいいんですよね?」
 「そういう事だな」
 怒るかと思ったら、平然としている。
 「今ここで、返事が欲しい」
 「えっ?返事?今?」
 「そうだ。合格を前提に返事をしてくれ」
 「あの・・・」
 「難しく考える必要はない。これからは益々こうやって二人で
のんびり過ごす時間は無くなってくるだろう。だから俺は将来を
約束しあいたいんだ。そうすれば焦らないで済む。東大目指して
二人でまっしぐらに突き進める」
 東大目指して二人でまっしぐら・・・。
 「先生、私・・・」
 思いきれない自分がいた。
 「合格発表は二人で一緒に行こう。そして、その足で、
理子の家へ行って結婚の報告をするんだ」
 理子は増山を見つめた。断られるなんて微塵も思ってはいないのか、
自信に満ちた表情をしていた。
 「あの、先生、もし私が落ちたら、本当にどうするんですか?」
 「落ちて貰っては困る。が、万が一落ちたら結婚は延期だな」
 理子の煮え切らない様子を見て増山が言った。
 「お前を早く親元から離したいと言ったら、怒るか?」
 「先生・・・」
 理子はその言葉に驚いた。
 「俺はお前を守りたい。お前の親御さんを否定するわけではないが、
いつまでも親元にいたらお前は羽ばたけない。結婚したからと言って、
俺はお前を家庭に縛り付けるつもりは全くない。逆に今までよりも
もっと自由になってもらいたいんだ。お前の花を咲かせてやりたい。
俺の手でな」
 増山の言葉が胸に沁みた。
 「先生、・・・ありがとう。三者面談の日にメールくれたでしょ。
あれを見て泣けちゃった。先生は、あれだけの事でみんなわかって
しまったんだって。凄く、嬉しかった」
 理子の目が涙で滲んだ。
 「泣き虫だなぁ・・・」
 増山はそっと肩を抱き寄せた。理子はその腕の中で震えた。
こんなにも自分を愛してくれる人がいるだろうか。そして、
こんなにも愛せる人はこの先いないだろう。

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