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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 11.もう一度 04

2010.10.10  *Edit 

「増山、理子さん?」
 女性の声は可愛らしかった。
「はい」
 理子は明瞭に答えた。
「私、神山美鈴と言います。稜山高校で日本史を教えています」
「はい」
 理子はそれしか言わなかった。
 美鈴は躊躇(ためら)いがちに言った。
「増山先生と、親しくさせて頂いてます」
「そうですか」
 理子は素っ気なく答えた。
 この女性は何をしにきたのだろう。宣戦布告でもしに来たのだろうか・・・。
 美鈴がいつまでも突っ立ったままなので、理子はベッドの前にある
椅子を勧めた。美鈴は言われるままに、腰かけた。
 理子は彼女を見た。綺麗な人だった。いつも笑っている筈の女性は、
今日は笑ってはいず、何をどう話したら良いのかもわからずに
来てしまった、といった表情(かお)をしていた。
 雅春が、キスしようとして出来なかった唇。そして、仕方なく口づけ、
唇を這わせた首筋。あの指紋の薄そうな滑らかな指がなぞった肌は
服の下だ。そんな事が理子の頭に浮かんだ。
 唇にキスをしなかったのは良かったが、雅春の唇と指先は他の部分に
触れた。それを今目の前にして、理子の心は軋んだ。とても胸が痛い。
この人の首筋に唇を這わせたのだと思うと、嫉妬の波が襲ってきた。
先生の事でこんなにも他の女性に嫉妬するとは夢にも思っていなかった。
 もう嫌だ。こんな思いをするのは。二度と先生と離れない。
誰にも渡さない。理子は強く思った。
「神山先生、でしたね?」
 理子の方から声をかけた。
「ええ・・・」
「今日は、わざわざお見舞いに来て下さったんですか?学校の方は?」
「今日は授業が午前中だけだったので、早退したんです。
あなたに会うために」
「そうなんですか。すみません、わざわざ」
 理子は軽く会釈した。
「経過の方はどうですか?」
「おかげ様で順調です」
「それは良かったですね」
「はい」
「連絡の電話がかかってきた時、とても心配したんですよ。
増山先生も随分うろたえてらしたし」
「そうですか。でも、もう大丈夫ですので」
 理子は全く動じずに笑顔で返した。その態度に、美鈴の方が
うろたえた。
「理子さんは、随分と、お若いみたいだけど、お幾つなのかしら?」
「19です」
「19?」
 美鈴は驚いた。
「19で結婚されたの?」
「結婚した時は、まだ18でした」
「ええっ?」
 そんなに若いとは思わなかった。
「じゃあ、あの、結婚してから何を?専業主婦?それとも
OLさんなのかしら」
「大学生です」
「大学生・・・」
 美鈴は益々驚いた。
「神山先生は、私達の事はご存じじゃないんですか?先生から
聞いてません?」
「先生?・・・あっ、増山先生の事ね。増山先生はご家庭の事は
何も話して下さらないから」
「そうなんですか。私、朝霧高校を今年の3月に卒業したばかり
なんです。先生は私の担任だったんですよ 」
「えっ?担任?」
 美鈴は驚いた。じゃぁ、教師と教え子が結婚したってことなのか。
「じゃぁ、卒業してすぐに結婚されたってことなの?」
「そうなんです」
 あの増山先生が教え子と・・・。ショックだった。
 ショックだったが、美鈴は夏以降の雅春を思い返した。結婚した
ばかりなのに、あの寂しげな様子は何だったのか?目の前にいる
若い娘に翻弄されていただけなのではないか?美鈴はそんな風に
思った。あの人はあれで案外純情だ。だから、だからこの娘に
振り回されているだけなのだ。
「それじゃぁ、先生もジェネレーションギャップを感じて
疲れたのかもしれませんね」
 美鈴は自信げに言った。
 さっきまで躊躇いがちだった美鈴の態度が急に変って、理子は驚いた。
「ジェネレーションギャップ?」
「ええ。好きで一緒になったは良いけれど、世代の違いによって、
あらゆる面で合わない事に気づかれたのかも。一緒にいて心の
通じ合わない事ほど、寂しい事はないですものね。だからいつも
私の前では寂しげな様子でいらしたんだわ」
 そうやって、自分に都合のいいように解釈するのか、この女性は。
 でも、ある意味仕方がないのかもしれない。そうしなければ
ならないのだろう。
「あの、それで、神山先生。結局のところ、何しにいらしたんでしょう?」
 理子はまともに相手にはせずに訊いた。
 美鈴はキッと理子を見た。
「増山先生は、私の事を愛し始めてるの。だから、離婚して
もらえないかと思って」
 理子は彼女の言葉に驚いた。 そこまで思いつめているのか。
「離婚?」
「ええ。離婚して下さい」
 美鈴はきっぱりとそう言った。
どう答えたら良いものか。
「あなたに頼まれても困ります。先生と私の問題なので」
「いいえ。私にも大いに関係のある事よ」
「でもあなたは、先生に不倫でもいいっておっしゃったのでは?」
 美鈴は驚愕の色を見せた。
「どうして、そんな事を・・・」
「先生から全て聞いています」
 理子ははっきりとそう言った。
「あなた、全部知ってて、よくそんなに平然と・・・」
「全部知っているから、平然としていられるんです」
 理子は自信を込めて言った。
 美鈴は恐れおののくような目を理子に向けた。
「じゃぁ聞くけど、あなたは私と先生が不倫してもいいの?
いいと言うなら離婚してとは言わないわ」
 大胆な事を美鈴は言った。
「人を好きになる事は、誰にも止められません。だから、あなたが
先生を好きである事を私に止める権利はないです。でも、
不倫とか離婚とか、それは別問題です」
「どちらも嫌だと言うのね」
「離婚をする気は全くありません。不倫に関しては、あなたと
先生の問題だと思います。仮に私が先生に不倫してもいいよと
言ったとしても、先生はしないと思いますけど」
「随分な自信なのね」
「はい」
「私は、納得できない。あの人は、私のお陰で癒されたって言ってたわ。
あの人を癒せるのは私しかいない。折角、私と結ばれるところ
だったのに、あなたからの電話が鳴ったお陰で、全部めちゃくちゃに
なってしまったわ」
 美鈴は悲痛な面持ちで訴えた。
「神山先生。ごめんなさい。私にはどうする事もできないです。
先生が私を愛している限り、私から別れる事はできません」
「なら、先生が私を愛していれば、あなたは別れるってこと?」
「理屈ではそうなりますが、あり得ません」
「何故、そう言い切れるの?」
「信じているからです」
「でもあの人は、あなたからの電話がなかったら、私を抱いていたわ」
「いいえ。そんな事はありません。先生はあなたを抱きません」
「強がり言わないで」
「強がりじゃありません。先生は私しか抱けないんです。
私はそれをよく知っています」
「そんな事、嘘よ。あの人もあの時に似たような事を言っていたけど、
そんなの誤魔化しだわ。男なのよ?有り得ない。あなたに
言い訳しただけよ」
美鈴は食い下がった。
理子は、このまま話していてもどうしようもないと思った。確かに、
雅春のような男は珍しい。一般的とは言い難(がた)い。普通なら
信じられないのも当然だ。
「じゃあ、あなたの言う通り言い訳だったとして、何故そんな
言い訳を?私は先生に愛されてなければ悲しくても別れます。
先生もそれを承知してる。それなら、何故言い訳をする必要が?」
「それは・・・」
 美鈴は答えに詰まった。認めたくないことだった。
「もう、お引き取り下さい。これ以上話しても、しょうがないですよね?」
 美鈴は肩を落として帰って行った。

 美鈴が帰って暫く経った頃、義姉の紫がやってきた。
 理子は本を閉じたまま外を見ていた。
「理子、どう?」
「お義姉さん・・・」
 理子は義姉の顔を見て安心した。美鈴とのやりとりで少し
消耗していたからだった。
「お義姉さん。さっき、女の人が訪ねてきたの」
「女の人?」
 紫は怪訝そうに眉をひそめた。
「先生の・・・」
 その理子の言葉で、すぐに悟った。
「そう。ここまで来たんだ。それで、どうだったの?」
 理子は美鈴とのやりとりを詳細に紫に話した。
 紫は軽い溜息をついた後、「頑張ったわね」と言った。
「彼女を見て、理子はどう思った?どう感じた?」
 紫の質問に少し逡巡した後、理子は答えた。
「嫉妬しました。あの人の体に先生が触れたのかと思うと、
とても胸が痛んで・・・」
「マーが本気でなくても?」
「本気ではなくても、心が動かされたのは事実です。先生は、
好きでもない人に自分からは手を出さない人でしょう?」
「そうね・・・。それで、嫉妬して、それから?」
「こんな思いは二度としたくないって思いました」
「それは、マーに愛想を尽かしたって事かしら?」
 紫の言い方がどこか冷たく感じられた。
「いいえ、そうじゃありません。そうじゃなくて、誰にも絶対に
渡さないって思ったんです」
 理子は言ってるそばから涙が出てきた。我慢していたものが
溢れ出てきたのかもしれない。
「理子・・・・」
 紫はバッグからハンカチを出すと、優しく理子の涙を拭った。
 理子の言葉を聞いて紫は安心した。ひとつの山を越えたと思った。
「私、先生の事でこんなに嫉妬したのは初めてです。いつも先生は
私だけを見ていてくれたから、こんな事になろうとは
思ってもなかった・・・」
「そうね。今回の事では私も驚いたわ。マーがあそこまで
追い込まれるとはね。私が思っていた以上にマーは子供だったわ」
「お義姉さん・・・」
 紫は少し寂しげだった。なぜだろう?

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~ Comment ~

Re: 理子らしさ、爆発♪>misia2009様 

misia2009さん♪

壮絶な女のバトルになるのかなぁ~?なんて思いも無くはないですよね。
こういう時には妙に冷めてる理子でございます。
先生も理子も論理派のせいか、互いに情報を共有しないと対処
できないんだろうなぁ、、、なんて改めて思った気が…(^_^;)

動じないような態度で接していた理子ですが、
やっぱり気が張ってたんですね。
ほんとに、よく頑張りましたって感じです^^

理子らしさ、爆発♪ 

すわ女の戦い、こえ~と思ったら勝負は最初から理子にアリでした。
理子は独りで悩んでも結論が出せない人で、こうして闘う相手がいたほうがスッキリ頭がまとまるのかもしれませんね~
あとでクタッと消耗した気持ちは分かります。
病み上がりにお疲れ様でした。
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