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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 11.もう一度 03

2010.10.09  *Edit 

「付き合ってる人がいるって、枝本君から聞いたの」
「枝本から・・・」
 そうか。枝本は俺に、理子が志水と付き合っている事を話した。
同じように、理子にも神山美鈴の事を話したのか。
「ごめん、理子。付き合ってると言うのが、どういう付き合いを
指すのか俺にはわからないが、君と志水の関係に似ている」
「私と志水君の関係に・・・」
 理子は戸惑いを覚えた。
「それだけなの?」
「それだけだ」
 雅春の目に曇りは無かった。だが、次の言葉に少なからず
ショックを受けた。
「それだけではあるが、俺は彼女を愛そうとした。君の代わりに」
 そういう雅春の目に翳りが生じた。
 『愛そうとした』
 その言葉の意味を計りかねた。
「先生、それはどういう意味なの?訊いてもいいかな」
 理子は怖々と言った。
「こうなってみて、今でははっきりとわかる。気の迷いだった。
君がいなくて心にぽっかり穴が開いた。そこから入ってくる風に、
段々と耐えきれなくなったんだ」
 雅春は自分の気持ちを語った。
 一人は寂しかった。今まで一人でいる事に寂しいと感じた事など
一度も無かった。理子を知るまでは。理子のいない日々は耐え
がたい程の寂しい時間だった。そんな雅春の前に現れた、
いつも微笑みを絶やさない女性。
 荒んだ雅春の心には心地良かった。彼女がそばにいてくれるだけで、
その寂しさが癒された。ただ、そばにいてくれるだけで良かった。
彼女は何も求めてはこない。どんな時でも、ただ傍で笑っていた。
だから尚更、雅春は彼女との時間を持った。
 そして雅春は、理子が病院へ運ばれた日の夜の事も話した。
それを聞いた理子の顔に苦痛の色が浮かんだ。
「俺はその時に、はっきり目が醒めたんだ。霧が晴れたと言っても
いい。俺が愛しているのは理子だけだ。誰も理子の代わりにはなれない」
 そう言う雅春の目は、理子を激しく求めていた。
 沈黙が流れた。
 何て言ったらいいのかわからない。悲しかった。先生の唇が、
先生の指が、その女性に触れたんだ。そう思うと胸が痛かった。
だが、そうさせたのは自分だ。そこまで雅春を追い込んだのは
理子自身なのだ。そして、寂しさを紛らわせるために、自分に
好意を寄せる相手の気持ちを利用したのは理子も同じだ。
「それで、先生はどうするの?」
 長い沈黙を破って理子が言った。
「俺はもう、理子のそばを離れない」
 雅春は真っ直ぐ理子を見て言った。その目には何の躊躇(ためら)いも
見えなかった。
「その人の所へは帰らないの?」
「帰る、帰らないの関係じゃない。俺の帰る場所は、最初から
ずっと理子の所だ」
 雅春は言葉を続けた。
「理子。俺は君が許してくれなくても、君のそばを離れる気は
無いんだ。君が何と言おうが、俺はずっとそばにいる。最初から
そうしていれば、こんな事にはならなかった。だから、もうそばを
離れない。同じ過ちを繰り返すつもりはないからだ」
 理子は、ずっとこの言葉を待っていたような気がした。
 あの時に、どんなに理子が強く訴えても、絶対に手放さないで
いて欲しかったのかもしれない。枝本が言った通り、試して
いたのかもしれない。だから、自分から別居を頑固に通していながら、
いざ雅春がいなくなると激しい虚脱感に襲われたのだ。
矢張り全ての原因は自分にある。そのせいで、余計な人まで
巻き込んで悲しい思いをさせてしまった。
 枝本も紫も、自分の気持ちに正直になるように言った。自分の
正直な気持ち。それは今でも変わらずに雅春を愛していることだ。
しかし、以前のようにやっていけるのだろうか?
不安が理子の胸を過(よぎ)る。
「理子。愛してる。これからも君を愛し続けたい。君の気持ちを
聞かせてくれないか」
 雅春の熱い眼差しを受ける。
 駄目だ。この瞳だ。この瞳に見つめられると否やと言えない。
逆らえない。
 この瞳に最初に捕まったのはいつだったんだろう。初めて会った時か。
日本史の授業の時か。音楽準備室か。それとも個人面談の時か。
この人と視線を交わす度に惹かれてゆき、この人と言葉を交わす度に
距離が近づき、気づいた時には離れがたくなっていた。悩ましい存在。
「ごめんなさい。私が全部悪かったの。こんなふうになったのは、
全部私のせい」
「理子、やめてくれ。自分を責めないでくれ。自分を責めるだけでは、
いつまで経っても堂々めぐりだ。俺は前へ進みたいんだ。君と一緒に」
 理子は首を振った。
「先生。私は自分を責めずにはいられない。でも、私も先生と
同じように、同じ過ちを繰り返すつもりはないです。だって
そうしたら、また先生を傷つけてしまうから」
 雅春の表情に希望の色が浮かんだ。
「じゃぁ、理子」
「私は先生が好き。愛してる。先生がいなかったら、まともに
生きていけないって今度の事で気づいた。先生の、その素敵な
眼鏡の奥の瞳に捕らえられた時から、私は先生から逃げられないの。
私は先生に逆らえない・・・」
 理子は頬を赤らめて目を伏せた。こんな台詞を言いながら、
雅春の目をまともに見つめる事なんて恥ずかしくてできない。
「理子」
 雅春は理子の名を呼ぶと、理子の手を取り両手で包み込んだ。
そして、頬ずりした後に自分の唇に当てた。理子は胸がキュンと
高鳴った。
「理子、ありがとう。俺を許してくれるんだな」
「許すも許さないもないです。だって先生は何も悪い事は
していない。私に対しては」
 理子の言葉に引っかかった。
「それは、どういう意味だい?」
「身代わりにしようとした女性には、悪かったのでは?」
 その言葉を聞いて、雅春は俯いた。確かに理子の言う通りだ。
彼女を利用した。彼女にも謝らねばならない。
「先生は、その人と一緒にいる時、何を思ったの?」
 雅春は顔を上げて理子を見た。
「聞きたいのか?」
「聞きたいです」
 雅春は軽くため息をつくと、話しだした。
「最初は、歴史観に共鳴したんだ。なんだか、理子と初めて
歴史談義をした時の事を思い出してしまった。そのうち、笑顔が
魅力的だなと思った。だが、理子のように感情豊かではないんだな、
とも思った。常に優しいんだが、理子のようにむくれたり、天の邪鬼
だったり、ひねくれたりした所が無くて物足りないと思っていた」
「あらっ、それって何だか酷くないですか?もしかして私、
けなされてる?」
 理子が微かに笑みを浮かべて言った。
「褒めてるのさ。考えてみると、俺は手ごたえのない人間に興味を
抱かない。性別に関わりなく。彼女は歴史に関しては楽しく
語り合えたが、それ以外ではただ笑ってそばにいるだけの存在
だったと思う。心が病んでいたから、それが心地良かったが、
本来の自分を取り戻したらまるで手ごたえのない人だと気付いた。
彼女と一緒にいる時も、何かにつけて理子を思い出したし、
理子と比べていたと思う」
 雅春の話を聞いて、理子は残酷だと思った。自分がその人だったら
深く傷つくだろう。
「先生。残酷な事をしましたね」
「俺を、軽蔑するか?」
「いいえ。軽蔑なんてしません。例え先生が稀代のプレイボーイで
女性を泣かしまくるような人だったとしても」
「俺を愛してる?」
「ええ。誰よりも・・・。だから、相手の女性に同情はするけど、
先生は渡しません」
 理子ははっきりと言った。雅春は驚いた。理子がこんな事を
言うなんて。それと同時に、無上の喜びを感じた。雅春は、理子が
自責の念から、再び自分の元から去ろうとしているのではないかと
危惧していた。勿論、もしそうだったとしても雅春は理子を手放す
気はない。泣こうが喚こうが、絶対に離すまいと決意していた。
だが理子は自ら、渡さない、と言った。それが嬉しかった。
「理子。君にそんな事を言われるとはな」
 雅春は微笑んだ。
「迷惑、ですか?」
「何言ってるんだ。迷惑なわけがないだろう。俺は嬉しい。物凄くな」
 そう言うと、雅春は理子に口づけた。思い切り抱きしめたい
衝動を抑えながら。

 手術をしてから3日が経った。既に点滴は抜かれ、食事も普通に
摂れるようになった。
 雅春は学校へ通い出したので、昼間はいない。仕事が終わると
すぐに来て、理子と一緒に夕飯を食べ、2時間少々を理子のもとで
過ごして帰宅する。雅春の実家へ持ち出していた荷物は全て
2人の家へ再び戻ってきた。
 雅春がいない昼間、理子はずっと本を読んでいた。志水が毎日来て、
授業のノートのコピーを置いてゆく。授業が終わってから来るので
夕方だが、雅春が来る前に帰るのだった。
 理子は志水と逢って、胸が痛むのを感じた。彼の想いを利用して
しまった罪悪感に襲われる。志水は二人の間に何も無かったような
顔をしている。
「志水君。色々とありがとう。それから、ごめんね・・・」
 いつもの謎の微笑が少しだけ変化した。
「謝る事なんて、無いよ。今は余計な事は考えずに、
早く良くならないと」
「でも志水君・・・。私、あなたの心を弄ぶような事を」
「そんな事は無い」
 志水が強い口調でそう言った。
「僕が好きでした事だから。君のせいじゃない。ただ、僕達の事に
関しては、君が良くなってから話し合わないか?このままだと、
君もすっきりしないだろう?」
 微笑んでいる志水の顔を見て、理子は頷いた。
 彼とはよく話し合うべきだろう。そして、雅春にも報告しなければ。
 昼食が終わって、外の景色を時々見ながら本を読んでいた時、
ノックの音がした。
「はい・・・?」
 誰か見舞いに来てくれたのかな?
 静かにドアが開き、若い女が入ってきた。白のブラウスに
落ち着いた水色の丸首のベストを着て、ベージュのフレアースカトを
履いていた。20代半ばくらいで、栗色のロングヘアーには
緩いパーマがかかっていて、しとやかそうな雰囲気に似合っていた。
美人だ。理子は一目見て、この女性が誰だかわかった。


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~ Comment ~

Re: このままだと、君もすっきりしないだろう?>misia2009様 

misia2009さん♪

おっしゃる通りです。

志水君、大人過ぎて困っちゃう~(^_^;)
だけど、自分で書いておいてなんですが、
ここの人たちって、つくづく気持ちを語るのが
好きなんだなぁ……って。

あはは。作者が言ってどうするって感じですよね。

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

来ましたよ、とうとう……。
ここまでやって来るとは、いい度胸です。
理子は、どうするんでしょうね(^^)

お腹、大丈夫ですか?
お薬、処方しましょうね。
明日には直ると思いますよー

このままだと、君もすっきりしないだろう? 

君がスッキリできるなら、辛い気持ちも話し合おう。
どんだけ大人なのか、この男。
若いくせに大人なのは余計に傷が深いという紫ねぇの言葉、思い出されて突き刺さります。

NoTitle 

き、きた…。
緊張でお腹が痛いっす。
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