ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 11.もう一度 02

2010.10.08  *Edit 

 昼過ぎに理子は目を覚ました。
 一番最初に目に入ったのは紫の顔だった。
「お義姉さん・・・」
 紫は優しく微笑んだ。
「目が覚めたのね。気分はどうかしら?」
「随分、良くなった感じがします。頭痛はかなり楽に
なってきたみたいです」
「そう。良かったわ」
「あの・・・」
「マーならトイレよ。すぐに戻ってくるから心配しないで」
「そうですか」
 察しのいい義姉だった。
「あの、お義姉さん。どうもすみませんでした。色々とご迷惑と
ご心配をおかけして」
「そうね。本当に心配したし、迷惑だったわ」
 紫はそう言って笑った。笑うと雅春とそっくりだ。
「今朝、実家に連絡してくださったようで。ありがとうございました。
でも、こっちも迷惑かけちゃってますよね・・・?」
「そうねぇ。理子の苦労が偲ばれたわ」
 紫はそう言って笑った。
「すみません・・・」
 理子は恐縮した。あの母の事だ。酷い事を言ったに違いない。
「あなたのせいじゃないんだから、気にしない。子供の事は親の
責任だけど、親の事は子供には責任ないんだから」
 そう言って笑ってくれて理子は嬉しかった。
「お義姉さん・・・?」
「何かしら」
「先生は、いつまでここにいてくれるんでしょう?」
 紫は驚いた。
「何言ってるの。ずっとに決まってるじゃないの」
「でも・・・、先生には待ってる人がいるんじゃないんですか?」
 理子の言葉に紫は衝撃を受けた。
「理子。よく聞きなさい。これから何があっても、まずは自分の
気持ちに正直になりなさい。自分の気持ちに一番に従う事。
人生は一度しかないのよ。それもいつ死ぬかわからない。
そういう覚悟で臨みなさい」
 紫の眼差しは真剣だった。何かを暗示しているようだ。
理子は不安になった。
 紫は理子の頭を撫でると、じゃぁ、また来るから、と
言い残して帰って行った。
 矢張り雅春には女性がいるのか。
 そう言えば、初めて雅春に抱かれた、あのクリスマスの日。
「俺が浮気したらどうする?」って雅春に言われた時の事を
思い出した。仮定話であったにせよ、そんな事を言い出した
雅春が悲しかった。例え話であっても、そんな事は微塵も考えて
欲しくなかったのだ。
だけど今、それが現実となって理子を襲っているのか?
浮気なのか?浮気ならまだいい。所詮は遊びだから。でも、
浮気でないのなら・・・・。自分を一番に愛してくれているのは
わかる。でもそこに二番が存在したら?いや、一番とか二番とか、
そんなのは馬鹿げている。
 先生の本意はわからない。でも先生は今、ここにいる。私のもとに。
「あれ?姉貴は?」
 戻ってきた雅春が部屋を見渡しながら言った。
「ついさっき、帰られました」
「なーんだ。俺が戻らないうちに帰っちゃったのか」
 雅春は不満そうに言った。
「帰って欲しくなかったんですか?」 
 理子が笑って言うと、
「君をひとりにして欲しくなかっただけさ」
 と言って、理子の頭を撫でた。
 理子は姉弟揃って同じことをした事に不思議な感じがした。
「私はてっきり、先生シスコンだから、ずっとそばにいて
欲しいんじゃないかと思いましたけど」
「馬鹿なことを言うんじゃない」
 雅春はそう言って理子の髪を引っ張った。
「痛―いっ!病人にひどいじゃないですかぁ」
「病人なら病人らしくしてろ。変なことを言うからだぞ」
 理子は髪を掴んだままの雅春の手を取り見つめた。
 二人は視線を交わした。
 理子は、雅春の眼鏡の奥の優しい瞳に、僅かに翳りを見た。
 雅春は、理子の瞳に悲しみと不安の色を見た。
 二人とも見つめあったまま、言葉が出ない。
 どのくらい、そうしていたのだろう。
 ガラッと勢いよく病室の扉が開いた。
「はい、どうですかぁ?具合の方はっ!」
 看護師が勢いよく入ってきた。
 雅春は咄嗟に理子のそばから離れた。
「頭痛の方はどう?」
「はい。まだ少し痛いですけど、大分良くなりました」
「そう。じゃあ夜にはすっかり良くなってると思いますよ。
これから傷口の消毒とガーゼの交換をするので」
 と看護師は言うと、雅春の方へ視線を投げた。
「あの、その人はいいんです。・・・夫、なので」
 理子がそう言うと看護師は驚いた。
「ええっー?旦那さんだったの?あらーっ、お兄さんかと思ってた」
 羨ましいー、いい男でー、と言いながら、看護師は理子の
寝衣の前を開けた。
 下腹部にガーゼがテープで止めてある。思っていたより簡単な
処置だと雅春は思った。その止めてあるテープを剥がしてガーゼを
取ると、そこには小さな赤い横の線と、手術用のホチキスの針が
二つ縦にはまっていた。もっと大きな傷を想像していたのだが、
思いの外小さくて少しホッとした。
だが、染み一つない綺麗な理子の体に傷が付いてしまった事には
変わりはない。それに、腰骨が浮いている。その姿を見ると
痛々しくてたまらない気持ちになってくる。
 看護師は手早く消毒をすると、薬のついた新しいガーゼを当て、
その上に油紙を乗せてテープで止めた。
「はい、終わり。傷口は綺麗だから心配いらないからね。
それにしても、あなたちょっと痩せ過ぎじゃないの?ダイエットの
し過ぎは体を壊すわよ。それとも旦那さんがスレンダー好きとか?」
 あけすけな人のようだ。
「僕はスレンダー好きじゃないですよ。骨ばった女よりは、
肉付きのいい方が好みかな」
 と雅春が答えた。
「あらっ、そうなの~。そうよねぇ」
 少々ぽっちゃり系の看護師は気を良くしたようだった。
「明日から食事が始まるから、しっかり食べるようにね。
でないと旦那さんに嫌われちゃうぞ」
 そう言って、部屋を出て行った。
「面白い看護師さんですね」
 理子が笑顔でそう言った。
「そうかぁ~?」
「先生がぽっちゃり好きとは初めて知りました」
「別にぽっちゃり好きなわけじゃない。骨ばった女と二者択一
だとしたら、ぽっちゃりを選ぶだけだ。」
「そんなに、骨ばってるのはお好きじゃないんですか?」
「駄目だね。痩せ過ぎてるのは痛々しいし、ゴツゴツして抱き心地が
悪い。だから理子。しっかり食べて元に戻ってくれ。でないと、
俺は君を抱けないぞ」
「やだ、先生ったら。じゃぁ、私、このままの体型でいこうかな」
「理子―、茶化すのはやめてくれ。今のままじゃ、強く
抱きしめたら折れそうじゃないか」
 理子は笑った。だがその笑顔はどこか寂しげだった。

 
「先生、ベッドを少し起こしてもらってもいいですか?」
「大丈夫なのか?」
「はい。ずっとこのままなんで、逆に少し疲れてきました。
話もしにくいし」
 雅春はベッドを起こすと、椅子に座った。
 理子の顔が近くなった。改めて見つめる。
 雅春は手を伸ばして理子の頬に触れた。理子はピクっと僅かに
震えた。細くなった頬と顎。顔色が悪い。雅春は理子がどうしようも
なく愛しくて、その唇に唇を重ね合わせた。久し振りの理子の
唇だった。形も大きさもちょうど良く、弾力性がある。
ずっと口づけていたい思いに囚われる。
 理子は大きな雅春の手に頬を包まれ、薄くて柔らかい唇を
自分の唇に受けた時、わなないた。懐かしい唇。キスするだけで、
体の芯から熱くなる。今までと同じだ。雅春は何度も理子の唇を吸い、
舐め、啄ばんだ。
頬を包む手は大きくて温かく、触れる指は優しい。何故私は、
こんなにも先生が好きなのに、離れている事ができたのだろう?
この人のいない人生なんて、考えられないではないか。生きては
いても脱け殻だったではないか。理子の目から涙が流れた。
 雅春は、手に伝わった理子の涙に気づいて、唇を離し、
涙を指で拭った。
「理子・・・」
「先生、私・・・」
 次の言葉が出てこない。何を言ったらいいのだろう?考えて、
一番気になる事を訊いてみた。
「先生は、まだ私を、愛してくれているのかな?」
 理子は涙に濡れた瞳を雅春の方へ真っ直ぐに向けた。
「理子、何を言ってるんだ。当たり前じゃないかっ」
 雅春は突然の理子の言葉に強く答えた。何故そんな事を訊く。
愛しているから、ここにこうしているんじゃないか。愛しているから、
口づけずにはいられない。その思いを理子にぶつけた。
「でも、・・・先生には、待ってる人がいるんじゃないの?」
 理子の言葉に衝撃を受けた。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。