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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 10.混 沌 07

2010.10.06  *Edit 

 理子は目覚めた。
 頭が痛い・・・。お腹もちょっと痛い。・・・ここはどこ?
 目を開けると、どこかで見憶えのある天井が見えた。
 病院だ。
 私、一体どうしたんだろう?
 赤ちゃんは?
 そうだ。いなくなっちゃったんだ。
 先生は?
 先生もいなくなってしまったんだ。私を置いて・・・。
 涙が溢れてきた。
 私が悪いんだ。赤ちゃんも先生も、私が追い出したんだ。
 二人とも傷ついて、私の元から去って行ってしまった。
 枝本から雅春の話を聞いた時、理子は全てが終わったと思った。
 とうとう先生は、私の元から完全に離れていってしまった。
そうさせたのは自分なのに、言い知れぬ絶望が襲ってきた。
 枝本の言う通りだった。理子は雅春が自分の元から離れても、
自分以外の女の所へ行く事なんて絶対にないと思っていたのだった。
高を括っていたのだ。
 理子だって寂しかった。逢いたかった。逢いたくて逢いたくて
たまらなかった。でも逢えばまた同じことの繰り返しになる。
そうして互いに傷つけあうばかりになるのが嫌だった。だが、
一人でいる事がこんなに寂しくて辛いものだとは思っていなかった。
それを埋めてくれる人がそばにいたら、そちらへ流されてしまうのも
当然だろう。
 理子は、志水がそばにいてくれた事で何とかなった。理子を
慮(おもんぱか)って体を求めてこない付き合いに甘えていた。
だが先生は男だ。欲望がある。寂しさから恋に落ちて、そのまま
結ばれてしまっても不自然ではない。
 理子は昨日の事を思い出した。
 朝からお腹が痛かった。ここ最近、ずっと鈍痛が続いていたが、
時間の経過とともに治まっていた。だが昨日は一向に治まらず、
痛みが増すばかりだった。
 志水と別れる時、もうどうにも我慢できなくなって、しゃがみ
込んでしまった。激痛だった。
 救急車で運ばれている時、雅春の事ばかりが思い出された。
 どうして私は先生と別れてしまったんだろう?『後悔しても遅い』と
言った枝本の言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
 お腹が痛い。とっても痛い。死にそうな程に・・・。
 私、もしこのまま死んだらどうしよう?
 先生に逢えないまま、一人で死んでゆくのは嫌!
 先生に逢いたい。
 あの知的でクールな眼鏡の素敵な先生に、もう一度逢いたい。
 でも先生は他の女の人の所に・・・。
 深い後悔の念が理子を襲った。腹痛と共に、胸が痛むのを感じた。
 そんな、昨夜の感情が再び襲ってきて、理子はボロボロと涙を零した。
 それに母親の素子が気づいた。
「理子!どうしたの?目が覚めた?」
「お母さん・・・」
 理子は母がそばにいた事に初めて気付き驚いた。そのそばには
父が立っていた。
「大丈夫か、理子!」
 父も心配そうな顔をしていた。
「どこか痛いの?」
「頭が痛い。傷口もちょっと・・・」
「頭が痛いのは麻酔のせいよ。流産の手術で麻酔を使ったばかりだから、
少し強く打った影響だって、お医者さんが言ってたわよ。そのうち
治まるから心配はいらないって」
 理子は周囲を見渡した。
 雅春がいない。
 昨日、手術前に志水に聞いたら、こっちへ向かってるって言って
なかったか?私を慰めるための嘘だったのか?志水の姿もない。
「志水君は?」 
 理子は母に問うた。
「志水君?誰なの?それは」
「学校の友達よ。昨日一緒にいて、救急車を呼んでくれたんだけど・・・」
「私達が来た時はいなかったわよ」
「お母さんたちは、いつ来たの?」
「今朝よ」
「今朝?どうして知ったの?」
 理子の問いに、母は渋々といった顔で答えた。
「紫さんから連絡を受けたのよ」
 理子は目を見張った。
「紫さん?先生は?先生はいないの?」
「いたけど、私が追い出してやった」
 素子は憎々しげにそう言った。
「どうして?どうしてそんな事を?」
「だって、元はと言えば、あの男のせいでしょう。それに、離婚
するんだから、もう関係ないじゃないの」
「どうして勝手に決め付けるのよ。離婚するなんて言って
ないでしょう?」
 理子は激しく母親を詰(なじ)った。
「じゃあ、なんでいつまでも別居してるのよ。目を覚ましなさい。
あんたはまだ若いから夢中になってただけ。さっさと別れるのが
身の為よ」
 理子は叫んだ。
「私は、先生が好きなの。好きなのよっ。先生に逢いたいの。
先生・・・、先生!」
 その叫びに答えるように、病室のドアが勢い良く開いた。
 そこには長身の雅春が立っていた。
「理子」
「先生・・・」
 先生はいてくれたんだ。追い出されても帰らずにそこに。
「あなた、まだいたの?帰って下さい。もう理子とは会わないで」
 母が無情にも雅春を追い返そうとした。
「やめなさい」
 父が止めた。
「お母さん、やめて!」
 理子が叫んだ。
「理子、いい加減目を覚ましなさい」
「目なら覚めてる。お願いだから、先生と二人きりにさせて」
「理子!」
「お願いだからっ!」
 理子はそう言うと号泣した。
 そんな娘を見て、素子は苦い顔をした。
「わかった。あんたがそこまで言うなら、お母さんは帰ります。
また泣きを見ても知らないからね!」
 素子はそう言い捨てると、荷物をまとめて出て行った。
「理子、また来るからな」
 と、父はそう言い、素子の後を追って行った。
「理子」
 雅春は、立ち尽くしたまま理子を見ていた。優しくて
悲しい目をしている。
 理子は雅春を見つめた。
 逢いたかった。ずっと・・・。
「先生・・・、こっちに来て」
 理子は雅春に手を差し伸べた。
 雅春はベッドのそばに置いてある椅子に座ると、理子の手を取った。
 その手は骨が浮き出て薄かった。ぷっくりとした
可愛い手だったのに・・・。
 雅春は、その手にそっと口づけた。理子の頬に僅かに赤みがさした。
 やっぱり理子だ。手にキスしただけで、すぐに赤くなる、
いつもの俺の理子だ。
雅春は切なくて愛しくて、どうして理子を一人にしてしまったのか、
今更ながらに自分のした行為が信じられなかった。
 二人は見つめあった。それぞれの思いが交錯する。
 雅春は涙に濡れた理子の頬を拭った。
「随分、痩せた・・・」
 術後のせいか、顔色が酷く悪い。こんなになるまで、
放っておいたのだ、俺は。
そう思うと辛くなった。
「理子、ごめんな。俺のせいでこんな事に」
「ううん、先生のせいじゃない。私が全て悪かったの」
 理子はか細い声で言った。話すのが辛そうだ。
「理子、頭が痛いか?それとも傷口が痛むのか?」
 雅春は心配になった。
「うん・・・、両方」
「無理するな。もう少し良くなるまで安静にしてないと」
「私、何だったの?手術したのは覚えてるんだけど・・・何の病気?」
 とても不安げな表情をしている理子に、雅春は優しく微笑んで言った。
「腹膜炎だ。手遅れにならずにすんだから、一週間で退院できる筈だ」
 それを聞いた理子はホッとした。
「腹膜炎かぁ・・・。じゃぁ、盲腸ってことだよね。
昔、優ちゃんがなったのよ」
「ああ、さっき優子ちゃんから聞いたよ」
「優ちゃんも来てたの?」
「ああ。心配してた」
「そうだったんだ。会いたかったな」
 理子は少しの間、目をつむった。
 雅春はその顔を見て急に思い出した。医者に、理子が目覚めたら
呼ぶように言われていたのだった。雅春はナースコールを押した。
間もなく看護師がやってきた。
「すぐに先生が来ますからね。どうですか?具合は?」
 看護師はそう言うと、脈をとり、体温と血圧を計った。それから
すぐに医者がやってきた。
「具合はどうですか?」
 医者はそう言いながら聴診器を取り出した。理子の寝衣の前が
開かれる。鎖骨がくっきりと浮かんでいた。あばらも少し浮いて
見える。その様がとても痛々しい。そして首元には、見なれた
ペンダントが無かった。理子は外していたのか、と思って見ていたら、
その雅春の視線の意味を敏感に悟ったのか、理子は首元へ手をやった。
「手をどけてください」
と医者が言った。
 白い肌に丸い聴診器が当てられた。体まで青白くてまさに
病人のようだった。
「気持ち悪くはないですか?」
「はい。それより頭がとても痛いです」
 理子は眉根を寄せていた。
「麻酔の後遺症です。時間と共に薄れていきますから大丈夫ですよ。
昼になっても今と同じくらい痛いようなら看護師を呼んで下さい。
それと、ずいぶんと痩せて体力が消耗しているようなので、今日は
一日点滴です。食事は明日の朝からになります」
 医者はそう言って出て行った。
「先生・・・、ごめんなさい」
 扉が閉まると同時に理子が言った。
「私のせいで、先生を苦しめてしまった・・・」
「理子・・・」
「夕べ、救急車で運ばれている時に、このまま死んだら後悔するって
思ったの。先生に逢いたかった・・・。逢って、謝りたかった」
 苦悶の表情を浮かべて、理子はそう言った。
「理子。俺も後悔している。君を一人にしてしまった事を。君が
何と言おうとも、俺は折れるべきじゃなかったんだ」
 雅春は再び理子の手を握った。理子は弱弱しく握り返した。
「それは、先生のせいじゃない。私が、無理を言ったから・・・」
「いいや。それは確かにそうだが、それでも俺は、譲るべきじゃ
なかった。理子は俺がいなくなったら一人ぼっちだ。あの時は
お互いに冷静さを欠いていた。少なくとも、もっと冷静になる迄は、
そばにいるべきだったんだ」
「先生・・・」
 理子は雅春を見つめた。
 これから私達はどうなるんだろう?
 みんなには色んな事を言われた。みんなの言う事はどれも尤もだと
思った。そう思いながらも、考えまいとして逃げていた。もっと
早くに気づくべきだった。先生がまだ手の届くうちに・・・。
 頭が痛い。これ以上は何も考えられない。
「先生?」
「なんだ?」
「まだ、帰らない?いてくれる?」
 雅春は驚いたように言った。
「理子を置いて帰るわけがない。帰る時は一緒だ」
 理子は雅春の心の中を窺うような、そんな目をした後、
微かに微笑んだ。
「ありがとう。じゃぁ、私、もう少し眠ってもいいかな。
頭が痛くて・・・」
「ああ。ずっと付いてるから安心して眠るんだ」
 雅春の言葉に安心したように、理子はすぅっと眠りに入った。
 雅春は暫くの間、理子の手を握っていた。
 麻酔のせいなのだろうか?理子の話すことに違和感を覚えた。
理子の眼差しにも不安を覚える。頭痛のせいで思考がまとまらない
のかもしれない。もう少し意識がしっかりしてからじゃないと、
色々と話すのは難しいだろう。
 だが取りあえず、拒絶されることもなく、理子と話せて良かった。
 理子は母親に逆らってまで、必死に雅春を呼んでくれた。
求めてくれた。それが何より嬉しかった。
 もう、決して理子を手放すまい、と雅春は強く思うのだった。


       10.混沌  了  11.もう一度 へつづく。


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~ Comment ~

Re: その叫びに答えるように、病室のドアが勢い良く開いた。>misia2009様 

misia2009さん♪

 その叫びに答えるように、病室のドアが勢い良く開いた。

私、こんなセリフ、自分で書いたんですねぇ……。
見た瞬間、ピンと来なくて、本文読み返して、
あっ、あたし、こんな事書いてたんだ…って…(^_^;)

宗次さんは、忍耐強いお人ですねぇ。
よく、我慢できるなと、感心する事しきり。
素子母もね。基本的にはいい人なんですけど、
なんせ自分の感情中心で、人の気持ちにまで思いが
及ばないし、また理解できないんですよねぇ。。。
それに一番身近で大切な存在である家族が、振りまわされて
迷惑しているって事にも気づけない、哀れなお人です。

その叫びに答えるように、病室のドアが勢い良く開いた。 

ドラマチックですねえ。いい場面でした……

ある意味、この母としてつーより人としてダメな素子を見放さずにいる宗次パパも立派な男なんじゃないかと思います。
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