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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 10.混 沌 06

2010.10.05  *Edit 

「俺は、・・・別居なんてしたく無かったさ。別れようと
言い出したのは理子の方だ。勿論、そんな事を承知できるわけがない。
だがあいつは、思いもよらない妊娠に戸惑い、素直に喜べなかった為に
子供が出て行ってしまったんだと、自分を責めた。どんなに慰めても
自分を責めるばかりだ。俺はどうしたらいいのかわからなかった。
家族から、暫く見守るしかないと言われて、そうしていたのに、
突然、別れたいと言い出して。俺と一緒にいると辛いんだそうだ。
流産した事への罪悪感で、もう体の関係を持ちたくないって。
だが、俺のそばにいると我慢できなくなるから離れたいと言われて、
俺は納得できなかった。今だって、そう思う理子の気持ちを
理解できない。結局、一人になりたいって強く言われて、
俺はそれを受け入れるしかなかったんだ。取りあえず別居して、
互いにもう少し冷静になって考えようって・・・」
 それを聞いた志水は、
「あなた達はバカだ」
 と言った。
「特にあなたの方は手に負えないほどだ。大人のくせに、
どうかしている」
 志水は吐き捨てるように言った。
「僕があなたなら、理子が何と言おうと絶対に別居なんてしませんよ」
「それは結局、当事者じゃないから言えることだ」
 雅春は反論した。
「実際に、理子と一緒にいて日々肌身に感じる感情のやり取りが
無いから言えるんだ」
 流産した翌日からの二人の日々。愛する人と共にいながら、
心が通じ合わない寂しさ。日に日に心が渇いていくのを感じていた。
「いいえ。僕は理子の決意がどんなに固くても、譲りません」
 志水は強い口調でそう言った。
「どうしてだ?愛する者がそれを心から望んでいるのに?」
「それがいけないんだ。心から望んでいるなんて、それは錯覚ですよ」
「錯覚?」
「そうです。愛しているのに、そんな事を心から望んでいるわけが
ないじゃないですか。本当は一緒にいたいに決まっている。だから
辛いんだ。それに、自分の想いはどうなんです?僕があなたなら、
絶対に譲れない想いがある。それは理子とは絶対に別れないって事です。
愛されてないなら仕方ありません。でもまだ愛されてるのに離れる
なんて、どんな事があろうとも絶対にできない。譲れません」
 その力強さに、雅春は驚いて志水を見た。
「あなたはどんな事があろうとも、絶対に彼女を手放さない人だと
思っていました。実際、おっしゃってたじゃないですか。
『理子は俺のものだ。永遠にね』って。それが、こんな事に
なるとはね。あなたは僕が思っていたよりも子供だったんですね」
 志水の言葉は雅春の胸に響いた。
「じゃぁ、俺はどうするべきだったんだ。君なら、どうした?」
「僕なら別居なんてしません。取り乱した彼女が冷静さを
取り戻すまで、そばで見守ってます。一人になりたいなんて
言われて一人にしてどうするんです。彼女がまずは冷静になるまで、
付かず離れずでいきます。変に労わっても駄目なんだ。
労わるとそれが却って相手には苦痛になる。それから根気強く
話し合う努力をします。納得いくまでね。もしそれで、相手が
自分を愛さなくなったとしたら、それはそれで仕方がない。
何もしないでいるよりは遥かにマシだ。何も手を講じずに
離れていく事ほど愚かなことはないですよ。愚の骨頂だ。
愛しているから離れるなんて偽善だ。結局あなた達二人は
自分が一番可愛いだけなんだ」
 雅春は項垂(うなだ)れた。そんな雅春に志水は優しく言った。
「手術室へ運ばれる直前に、理子があなたの到着を気にしていましたよ」
「理子が?」
「ええ。もうすぐ来るよって僕が答えたら、『よかった』って。
この期に及んでまだあなたを求めているのを知って、僕は悲しかった」
 そう言うと、志水は寂しそうに笑った。 

 理子の手術は無事に終わった。
 手術室から運ばれてくる理子を見て、雅春は愕然とした。
 痩せた。それも酷く・・・。顔色は青ざめていてやつれていた。
 6月に流産の手術で麻酔を使っているので、効き目が悪くなる事も
想定して、麻酔は少し強めに打ってあり、明日の10時くらいまで
目覚めないかもしれないとの事だった。それと、目覚めた後も
麻酔の影響で暫く頭痛が続くかもしれないと医者は言った。
「理子・・・」
 こんなにも痩せて弱っていたとは。
 志水から、夏休み以降の理子の様子について聞かされた。小食に
なった事。毎日週6日、1日5時間、本屋でバイトをしていた事。
9月に入ってからはずっと勉強に没頭し、毎日志水と図書館で
勉強していた事。学校が始まってからは、何かと忙しくしていた事。
そして、今日の事。
「すみませんでした。理子の調子が悪い事に僕がもっと早く
気づいていれば、手術にまでは及ばなかったでしょうに」
 志水は頭を下げた。
「君のせいじゃない。君を疑って悪かった。君がいてくれなかったら、
理子は手遅れになっていたかもしれないからな。君がそばに
いてくれて良かった」
 雅春は心からそう思った。この男がそばで見守ってくれていたから、
この程度で済んだのかもしれない。元はと言えば、全て俺が悪い。
「理子には、あなたしかいない。あなたじゃなきゃ、駄目なんだ」
 志水が絞り出すような声で言った。
「ああ。わかってる。俺も同じなんだ。俺にとっても、理子しかいない。
理子じゃなきゃ駄目だ。今頃になって、それがよくわかった。曇って
いた目が醒めた時、携帯が鳴った。理子からの着信音だった。実際に
かけてきたのは君だったわけだが、運命を感じたよ」
「あなたは、・・・どこにいたんですか?」
「・・・女のところだ」
 雅春は正直に答えた。
「そうでしたか」
 志水には妙な予感があったのだが、それは見事に当たって
いたようだ。この人も、理子がいない事に耐えられなくなった
のだろう。救いを求めたに違いない。でも結局、自分も理子も
裏切ることが出来なかったのだ。
 志水は、間もなくやってきた紫の車に乗って帰宅した。
 雅春は、ずっと理子のそばに付いていた。
 流産した時も痩せてやつれていたが、今はその比では無かった。
二回りも小さくなったような感じだ。顎が尖っていた。可愛かった
頬も肉を削ぎ落としたようだった。
 志水が言った通り、別居なんてするのでは無かった。彼女が何と
言おうとも、一緒にいるべきだったのだ。一人になって、ろくに
食事もせずに、何かに打ち込まないと自分を保っては
いられなかったのだろう。あの部屋に一人でいるのが辛かったのかも
しれない。だから休み中はバイトで、それ以降は図書館で時間を
費やしていたのに違いない。
 理子の実家が温かく、理子の居場所のある所だったら実家へ帰した。
だが、実家へ帰っても彼女の居場所は無かっただろう。本人も
それが解っていたから実家へ帰ろうとはしなかった。だからと言って、
あの部屋に一人で住まわせていたのは矢張り失敗だった。悔やまれる。
 翌朝、理子の家族がやってきた。早朝、紫が連絡したからだった。
「理子!」
 母親の素子がベッドに横たわる理子に駆け寄った。
「まだ麻酔が効いていて、眠っています」
 雅春がそう言うと、素子は怒りに満ちた目で睨みつけた。
「あなたのせいでしょうっ!」
 素子の掴みかからんばかりの勢いに、父の宗次が止めに入った。
「やめるんだ」
「あなたは黙ってて。理子のこんな姿を見て平気なの?」
「だからと言って、先生のせいにするものじゃない」
「何を言ってるの。娘を傷ものにされて、黙ってなんていられる
わけがないでしょう。大体、女子高生相手に恋心を抱いてモノにして、
幸せにします、命をかけて守りますとか、偉そうな事を言って
結婚しておいて、何なの、この有り様は!」
「おかあさん、それはあんまりです」
 そばにいた紫が言った。素子はそんな紫を睨みつけた。
「あなたもグルでしょ。結婚式の時のあのドラマは何なの?
あなたが作ったって言うじゃないの。大勢の前で、秘密を暴露して。
親としてどんなに恥ずかしい思いをさせられたか。そんなあなたに、
娘をこんな風にされた親の気持ちがわかるもんかっ!」
 素子は烈しかった。その烈しさに誰も逆らえなかった。
「出ていってちょうだい!出てけっ!」
 素子は激しく叫びながら、雅春と紫を病室の外へと追いやった。
「なんて人なの?気持ちはわかるけど、それにしても、あんまりだわ」
 一緒に追い出された紫が憤慨していた。
「仕方が無いよ。お義母さんの言う事も尤もだ。俺が悪いんだから」
 雅春はそう言うと、取りあえず廊下の椅子へと腰を落ち着けた。
追い出されたからといって、帰るわけにはいかない。
 間もなく病室から、妹の優子が出てきた。
「先生、紫さん、すみません。母は気性が烈しくて・・・」
「いや、お義母さんが怒るのも当然だ。俺が悪いのには
違いないんだから」
 雅春の言葉に、優子は首を振った。
「ここへ来る前に、お医者さんから大体の事は聞きました。
所謂(いわゆる)、盲腸なんだそうですね。盲腸だったら、私、
小学生の時にやってるんです。だから、そんなに大騒ぎ
することでもないのに」
「お義母さんはきっと、理子の姿を見てショックを受けたんだ。
俺もそうだったから」
 そうだ。腹膜炎は手遅れになると危険だ。だが、その危険は
回避された。手術も成功したので、心配する必要はもう無い。
だが、何より理子の姿にショックを受けるのだ。その消耗
しきってやつれた姿に。
 そして、そんな姿にしたのは俺だ。手術だって、俺がずっと
そばに付いていたら、もっと早くに手当が出来て、理子の体に
傷をつけることなんて無かった筈だ。あの綺麗な体に傷を付けて
しまったのかと思うと悔しくて仕方が無い。
「マー。あなた、また自分を責めてるでしょ。もう、
いい加減止めたらどうなの?」
 紫は悲しげな顔をしていた。
「そんな事を言っても姉さん、俺のせいであることは事実だから
しょうがない」
「それで、どうなるってわけ?」
「償うよ」
「どうやって」
「これからゆっくり考える」
「マー・・・」
「大丈夫、心配はいらない。もう同じ過ちは犯さない。俺は、
理子のそばをもう決して離れない。愛されている限りは」
 雅春の言葉に紫は少し安心した。どうやら弟は自分を
取り戻したようだ。
「先生。お姉ちゃんはずっと苦しんでたんですよ」
 優子が言った。
「優子ちゃん、ごめんな」
「お母さんは、お姉ちゃんが来るたびに、厭味ばっかり言ってました。
あんな男とはさっさと別れろって、そればっかり。来る度に
お姉ちゃんは痩せてたし、暗い顔をしてた。お母さんはそれが
気に食わなくて文句ばっかり。流産して悲しんでる娘の気持ちなんて、
これっぽっちも考えもせずに。あまり食べずに痩せていく
お姉ちゃんの体を心配することもなく。なのに今更大騒ぎするなんて」
 優子は涙を零した。紫がそんな優子をそっと抱きしめた。
 その時、病室の中が騒がしくなった。
「先生・・・、先生!」
 理子の呼ぶ声が聞こえてきた。


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~ Comment ~

Re: 志水よ。>misia2009様 

misia2009さん♪

志水君と家族の関係は、理子の家庭よりもずっと複雑で
相当な修羅場の結果の別居でもあるので、彼の孤独は
想像を絶していると思います。
そんな彼だからこそ、理子の存在は大きく、別居してしまった
二人に対しても言い知れぬ感情があるようです。

最近、どうも、志水君が可哀想でならなくて…。
幸せにしてあげたいけど、第二部のうちは無理かなぁ…(^_^;)

みんなが、それぞれの立場で孤独をどっぷりと味わった
章でしたね。

志水よ。 

お前はどうなんだ、家族とよく話し合ったうえで別居してるのか。

……と、ちょっと思った私は天邪鬼。
でもそういう、自分に経験があるからこそ「よく分かる」とばかりに自分のことを棚に上げて他人に説教するってこと、ありますよね……

理子は実家で独りでがんばってたから、夫に気を遣いながら自分を慰めて暮らすというバランス技ができなかったでしょう。
志水くんが何と言おうと、雅春先生が後悔しようと、そのまま一緒にいてもやっぱり理子は辛くなったはずで、別居は必要だったでしょう。
そしてやっと彼女も、なんだかんだ親元に居たときと違う本当の独りの辛さが分かったのでしょう。

結果オーライに向かって大きく流れていくことを願いつつ、さあ次話^^

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

志水君、いい人ですよねぇ。
最初に登場してきた時には、なんてヤツ!!って
感じでしたが、実は……って感じで。

四部作…。
うーーーんe-351
検討しておきます……(^_^;)

NoTitle 

志水くん、イイやつでした。(今更…)
ぐっときちゃいました。
やっぱり、四部作にして
志水くんやゆきちゃんの事を掘り下げて欲しいなぁ。
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