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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 10.混 沌 05

2010.10.04  *Edit 

 理子が手術・・・。雅春は愕然とした。
 美鈴にタクシーを呼んでもらって慌てて乗り込んだ。
 志水に保険証の事を言われて、理子が保険証を持っていない事に
気づいた。なんて間抜けなんだと自分を責めた。冷静さを欠いて
いたのもあったが、必要最低限の事はもっとしっかりとチェック
しておくべきだった。
 雅春はタクシーに乗り込んでから姉に電話をして事情を話した。
詳細はわからないが、取りあえず姉にも病院へ来て欲しい旨を伝えた。
理子の両親へは、病院で詳細を知ってから連絡しよう。
 時計を見る。22時を少し回っていた。何故こんな時間まで
志水と・・・・。雅春の胸はざわめく。枝本から二人が付き合って
いる事を知らされた時、ショックだった。一人になりたいと
懇願するから一人にさせた。どうあっても引かない頑固さを
感じたからだ。
 雅春は、普段は理子に有無をも言わせぬ強引さを見せるが、
理子がどうあっても絶対に引かない抵抗を見せた時には、引いていた。
引くしかない。愛しているから。
 だから、自分の意に反して理子を尊重し、別居したのだった。
それは一人で冷静に考えさせる為であって、他の男の懐へ
逃げ込む為にしたのではない。
 いつまで経っても連絡してこない理子。雅春からは連絡は
取らない約束だった。約束した以上、守るしかない。律儀に
守った自分が馬鹿だったのか?
 だが、自分はどうだ?
 理子からの連絡を待ち切れずに、自分も他の女性の懐へ逃げ
込もうとしていたではないか。別居してから3か月近く経とうと
していた。限界だった。
 そう。
 限界だった。
 しかし、結局、駄目だった。逃げ込むことも出来なかった。
自分の愚かさを思い知らされただけだった。
 理子、無事でいてくれ。
 雅春は理子の無事を祈るしかなかった。

「手術の可能性があります。至急、ご家族の方に来てもらってください」
 志水はその言葉に途方にくれた。
 自宅まで送った別れ際に、理子は突然腹痛を訴えて、その場に
うずくまった。額に脂汗を浮かべ、酷く苦痛そうだった。志水は
すぐさま救急車を呼んだ。一緒に乗り込み、病院へと運ばれた。
 救急車の中で、理子はずっと痛みを訴え続けていた。かなり
痛そうだ。志水は不安だった。どうしたら良いのかわからない。
 病院に到着し、救急治療室へと運ばれた。これから至急、
超音波とCTの検査をするが、手術の可能性が高いと言われた。
家族を呼ぶように言われた時、志水は戸惑った。
 理子は今別居中だ。自宅へ電話しても誰もいない。実家の
連絡先なんて知りようもない。一体、誰に連絡すれば良いのか。
 そうだ、理子の携帯だ、と気付くのに少しの時間を要した。
いつも冷静な志水だったが、さすがにこの時はパニック気味で、
すぐに気付かなかった。
 理子のバッグを開けて携帯を探す。綺麗に整理されたバッグだったが、
何故か携帯は全ての荷物の一番下に入っていた。
 自分とは違う機種だったので、扱いに戸惑った。携帯を開くと、
待ち受け画面が現れた。そこにはあの人がいた。理子の夫だ。
一瞬凍りつく。別れた筈なのに、まだ待ち受け画面はあの人なんだ・・・。
携帯をバッグの底へ入れていたのは、その事に対する僅かな抵抗
なのだろうか?変えたくても変えられない自分自身への。
 志水は思いを振り切って、電話帳を開いた。
 グループ分けがしてあった。一番は「身内」となっていた。
多分、ここだろう。開けてみる。
 “1.まー 2.自宅 3.吉住 4.吉住宗次 5.真壁 6.紫さん”と
あった。志水は迷った。理子はいつもあの人の事を「先生」と
呼んでいる。だから登録名はフルネームだろうと思っていた。
フルネームであればすぐにわかる。だが・・・。見たところ、
それらしい名前が無い。3,4,5は知らない苗字だ。実家関係では
ないかと思った。6は女性だ。そうなると1しかない。だが、
本当にそうなんだろうか?ただ“まー”だけでは心許ない。まさか、
消去はしていないだろう。待ち受けから察すれば。
 念の為、前に戻って他のグループも探してみた。だが、あの人
らしい名前は無かった。やっぱりこれしかないだろう。何よりも、
一番最初にあるのだから。
 実家らしい、3,4,5へかけてみようか、との思いも生じた。
だが、健康保険証が必要だ。まだ離婚していないのだから、当然、
保険は夫であるあの人の扶養として入っているだろう。そう思って、
志水は矢張り“まー”へ電話する事にした。
 呼び出し音が鳴る。相手はすぐに出なかった。気持ちが焦る。
 やっと通じた時、「理子か?」と問う声があの人だったのでホッとした。
 雅春へ電話をした後、志水は待合室で祈るように待っていた。
 病院へ運ばれる時、理子の顔色は真っ青だった。そう言えば、
昼間から体調が悪そうだった。
 今日は放課後、クラスの集まりがあり、役員の理子は忙しそうに
していた。休み時間には教諭から呼び出されて資料の準備なども
していた。あまり体調が良さそうには見えなかったので志水は
手伝ったのだが、時々しんどそうにしていたのを思い出す。
 よくよく考えてみれば、理子は夏から随分痩せて、冬学期に
入ってからも活気を取り戻せずにいた。周囲の友人達もみんな
心配していた。結婚指輪は夏休みの間には外していたが、授業が
始まってからは再び身に着けている。周囲から詮索されるのが
嫌だったからだろう。だが、とても緩そうだった。
 ずっと理子のそばにいたのだから、もっと早くに変調に気づいて
やるべきだったと、志水は自分を責めた。きっともっと前から、
芳しくなかったに違いない。だが、渋谷で会った時から、顔色は
ずっと優れないままだったのだ。あの時点で、消耗しやつれていた。
 治療室から医者と共にストレッチャーに乗せられた理子が出てきた。
「理子!」
 志水が声をかけると、理子は薄らと目を開けた。汗だらけだ。
 医者がそばから言った。
「腹膜炎です。初期の段階なら今はいい薬があるのでそれで済んだん
ですが、かなり進行しているので手術は避けられません。随分前から
痛みはあった筈です。我慢していたんでしょう。それがいけなかった」
 矢張り前から我慢していたのか。
「それでちょっとお聞きしたいんですが、手術をするので麻酔をします。
見たところ、過去に手術等をされた形跡は無いようですが、
最近麻酔を使われた事は?」
 志水にはわからない。手術をした形跡が無いのなら、
多分無いのだろうとは思うが。
「いえ、僕にはちょっと・・・。歯科での麻酔とかは、
どうなんでしょう?」
「歯科治療で使うのは極微量なので問題はありません」
「あの・・・」
 と、理子が苦しげな声をかけてきた。
「どうしたの?」
 志水は心配した。
「あの・・・、麻酔ならあります。・・・6月に・・・」
 医者は驚いた
「6月?最近ですね。それは一体?」
 理子は一瞬志水を見た。目が合ったが、すぐにその視線を
宙へ逸らせた。
「流産の、手術で・・・、ここの病院です・・」
 志水は衝撃を受けた。
 6月。・・・6月か。理子が二日間大学を休んだ、あの時か!
あの時から、理子の様子が変わったのだった。そんな事が
あったからだったのか。
「じゃぁ、産婦人科ですね。カルテを調べましょう。
ご家族の方との連絡は?」
「さっきしたので、もうすぐ来ると思います」
「ではこのまま、手術に入ります」
 医者がそう言うと、理子は手術室へと運ばれた。
 志水は慌てて追いかけた。
「理子、大丈夫?」
 その問いかけに理子は目を開けた。
「ご、めん・・・ね。こんなことに、なって」
「何言ってるんだ。僕の方こそごめんよ。もっと早くに気づいて
あげられなくて」
 志水は切なげに理子を見た。
「せ、・・・せんせい、は?」
 その言葉に志水は打ちのめされた。
「もうすぐ来るよ」
 そう答えると、
「よかった・・・」
 と理子は言い、目を閉じた。
 志水は理子が運び込まれた手術室の扉の前で、立ち尽くしていた。

 理子が手術室へ入ってから約5分後に、雅春がやってきた。
「理子は?」
 と雅春が叫んだ時、志水は手術室の前の椅子に座っていた。
 雅春を見たその目は僅かに濡れていた。
「今、手術中です」
 志水が静かにそう言うと、
「それはわかっている。無事なのか?生命の危険性は?」
 興奮している様が窺われる。
「無事です。腹膜炎だそうです。かなり進行してますが、
命の危険性はないそうです」
そんな雅春を冷めた目で見ながら、志水がそう言った。
「そうか。良かった。・・・だけど一体これは、どういう事なんだ」
 雅春は志水を責めるように言った。
「何故君が、こんな遅い時間に理子の携帯から電話をしてくるんだ」
 志水は厭味な笑みを浮かべた。
「気になりますか?」
「当たり前だ」
 雅春は憤慨気味に言った。
「なら、何故放っておいたんです?」
 志水の言葉に雅春は怒りの顔を向けた。
「君には関係のないことだ。それは理子と俺の問題だ」
「そうかもしれません。だけど僕には理解できない。流産して
傷ついている妻を放っておくなんて」
 雅春は驚きの目を剥いた。
「理子が話したのか?」
「いいえ。ついさっき知ったんですよ。手術をするのに、最近
麻酔を使用したかどうかって医者に聞かれて」
 志水は尚も続けた。
「驚きました。そんな事があったなんて。同時に納得もした。
理子は僕には経緯を何も話してくれなかったし、僕もあえて
聞かずにいましたから。でも、彼女の変貌ぶりは信じられなかったし、
食も細くなって痩せていく彼女が心配でならなかった」
「今、君と付き合っていると聞いたが・・・」
「あの枝本とか言う彼氏から聞いたんでしょう。付き合っていると
言えば付き合っているのかもしれませんが、あなたが心配するような
関係ではないですから、ご心配なく」
「本当なのか?」 
 雅春は暗い目で訊ねた。志水はそんな雅春に厳しい目を向けて言った。
「理子を信じていないんですか?」
 その言葉に、雅春は詰まった。
「彼女から、あなたと別れたと聞いた時、僕は耳を疑った。
そんな事がある筈がないと信じられなかった。理由を訊ねましたが
言ってはくれなかった。言いたくない事を無理に言わせる気は
ありません。でも、ずっと何故なんだろうと思い続けていました。
彼女はいつも寂しげで悲しげで、常に自分を痛めつけているように
見えた。そんな彼女を見ている僕も辛くなってきて、彼女に
求愛しました。でも、自分は先生しか愛してないし、これからも
変わらないと言われて拒絶された。愛しているのに一緒にいる事を
拒否している事が、どうしてもわからなかった。さっき、彼女の
流産の話を聞いて少しは納得できましたが、それでもやっぱり
わからない。そんな時こそ一緒にいるべきじゃないかと思うのに。
本当に、どうしてなんです?何故彼女と別居なんてしたんです?」
 冷静な物言いだったが、その底には怒りが秘められているのを
雅春は感じた。
 そうだろう。理子を愛しているなら、怒っても当然だ。
枝本も怒っていた。
 雅春は志水の隣に腰掛けた。
この男に、事情を説明するべきか否か、迷った。隣に座る志水を
見ると、真剣な眼差しで雅春の答えを求めている。


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~ Comment ~

Re: 一筋の>misia2009様 

misia2009さん♪

章タイトルって、いっつも悩むんですよ。
どうにも、ピッタリくる言葉がなかなか浮かんで来なくって。
ボキャブラリーの蓄積は、年齢が年齢だけに、それなりに
かなり有るとは思うのですが、ボキャが増えるのに比例して
健忘も増して来てまして……。困ったものです。
それで、適当なところで妥協してるものですから、微妙に内容との
ズレを感じる事もあるのです。

余談ですが、次回作は章だてにせずに進んで行こうと思っております。

この第二部では、先生は情けなさを晒しまくる連続ですね。
愛を知った為に、情けなくなってしまうわけです。
自身でも気づかなかった弱さに気付き、成長していく…。
そんな愛の物語に、、、なるのかなぁ~?なればいいなぁ~(^_^;)

なぜ「まー」なのかは、近いうちに分かります。^^
たいした理由じゃぁ、ございませんが。ww

一筋の 

希望の光へ向かって、もがく混沌。
いいですね。
結局この緊急時にも、かなり冷静だった志水(と枝本)を前に、男としてのダメップリをサラすのは、かっこよく生きてきた先生には、辛い試練でしょう……(にやにや)

理子、がんばれ。
「まー」かい、「まー」www
「先生」じゃないんだ!

治ったら「まー」って口で呼んであげるんだよ~~

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