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小説・クロスステッチ第2部 <完>
10.混 沌 ~ 13.愛 欲


クロスステッチ 第二部 10.混 沌 02

2010.10.01  *Edit 

 大学の冬期が始まるのは10月からだった。9月に入って、
理子はバイトをやめて大学の図書館で毎日勉強に没頭した。
 理子は一人暮らしの食生活が乱れることを、身をもって知った。
自分一人だけだと、面倒くさくなる。昼は学内のカフェテリアで
軽く食べるが、朝は菓子パン1つだったりするし、夜はうどんだけ
だったり、パンとサラダだったりで、ご飯を炊いたことが無い。
 そもそも家の炊飯器は2合以上じゃないと炊けない。
 食べないと言うことはない。さすがに食べないと力が湧かないし、
頭も働かない。だが量は少なめだ。仕方なく食べているといった
感じか。以前よりも遥かに小食になった。
 夏の終わりころから、時々お腹が痛くなる。右の脇腹だ。時間が
経つと治まるので、そのままにしている。考えてみれば、
健康保険証を持っていない。慌ただしく別居したので、その辺は
おざなりのままだった。
 生活費は理子の口座に毎月振り込まれていた。理子はそれを
必要最低限しか使っていない。光熱費は雅春の口座から引き落とし
だから、それ以外では使う事などあまりない。
 志水とは、その後も変わらず付き合っている。毎日一緒に大学の
図書館で勉強し、一緒に帰る。マンションまで送ってくれていた。
彼の家へも時々行く。あそこは何故か落ち着く。たまに一緒に
出かけるが、一日彼の家に居る事もあった。そういう時は何を
するわけでもなく、互いに本を読んだりお喋りをして過ごすのだった。
 志水はあれ以来、理子にそっと寄り添うように、いつも理子の
そばにいた。理子が安心できるように、理子の嫌がる事は一切しない。
志水はそれでも十分だった。理子のそばにいて理子を見守って
いられるだけでも幸福だった。そんな志水の存在が、理子には
心地良かった。
 雅春はときめきと安心感を与えてくれる人だった。だが志水は、
安心感だけを与えてくれる。時々、彼の独特の眼差しにドキリと
する事はあるが、一緒にいるとホッとする。
 9月に入ってから、二人で海へ行った。由比ヶ浜である。鎌倉
時代好きの志水に、鎌倉へ行こうと誘われて出かけたのだった。
 鎌倉は、ゆきと何度か来ている。彼女の好きなシンガーソング
ライターの歌の舞台に出て来るからだ。そして、理子の好きな
作家の立原正秋が住んでいた所でもあり、小説の舞台としても
何度も出て来る。二人は彼の墓所がある東慶寺へ行った。俗に
言われている縁切り寺である。歌の舞台でもあった。
「僕、君と一緒にここへ来て良かったのかな・・・」
 眉をひそめるような表情で志水がそう言った。
「別にカップルじゃないんだから、いいじゃない」
 理子は笑って答える。
 「そうだけど、今の言葉、傷ついたなぁ」
 ふふふ、と理子は笑った。
 それから主だった寺や史跡を巡った後、海へ出たのだった。
 海は久しぶりだった。去年の夏以来だ。由比ヶ浜は3年ぶり
かもしれない。
「波が高いわね」
 風でたなびく髪を押さえながら、理子が少し大きな声で言った。
「9月の波は高いよ」
 二人は裸足になって、砂浜を歩いた。暖かい砂の感触が心地良いが、
時々、足の裏に色んな物が当たって少々痛い。
 こんな風に、砂浜を歩いたり、波と追いかけっこをしたり、座って
ぼーっと海を見ているだけだったりするのが好きだった。相手が
ゆきだったら、手を繋いでいるところだ。
 波の音が心地良い。次々に立って来る白い波。寄せては返す、
その繰り返しなのに、いくら見ていても飽きない。海の前では
無心でいられた。雅春の事も、隣にいる志水の存在ですらも、
忘れさせてくれる。
 ずっとこうしていたい・・・。
 だが、時は永遠では無い。無常であり無情だ。
 このまま時を止められたらと何度思った事だろう。どれも、
雅春と一緒にいた時だ。そう思う一方で、そう思える新たな一瞬の
再びの訪れを期待していた。
 今、隣に雅春はいない。
 いるのは志水だ。
 それが当たり前に感じ始めて来ている事に気付いて、
理子は驚くのだった。
 雅春ではなく、志水がそばにいる光景。
 一緒にいるとホッとする。
 顔を見ると、優しい微笑みを湛えた顔が安堵感を与えてくれる。
これから先、自分の隣にはずっと志水がいるのだろうか。そう
考えた時、それでも構わないと思う自分がいた。雅春との事は
夢だったのかもしれない。儚い夢・・・。そして、これが現実。
 だがそう思うと、言い知れぬ寂しさに襲われる。
 雅春の事を思い出すと、寂しくてたまらない。時が解決して
くれるかもしれないとの思いがあったが、それは無理みたいだ。
時間が経てば経つ程、寂しさは募る一方だった。一体どうしたら、
この寂しさは埋まるのだろうか。
 とりあえずの処置は、心から追い出す事だった。
 考えない。思い出さない。
 それしか無いのだった。

 その日もいつものように志水と図書館で勉強をして、
大学の門を出た。出たところで声をかけられた。
「理子!」
 ビクッとした。男の声だったからだ。
 恐る恐る声の方を見ると、そこには枝本が立っていた。
「枝本君!」
 予想外の人物に理子は驚いた。
「久し振り」
 枝本はそう言って手を上げると笑った。
 凄く久し振りに見る枝本の笑顔だった。会ったのは結婚式後の、
みんなと一緒に新居に来た時以来だ。
「どうしたの?」
「うん。久し振りに会いたくなった」
 枝本はそう言うと、志水に敵意のこもった眼差しを向けた。
「もしかして、ずっと待ってたの?」
「そう。最上さんに聞いたんだよ。9月に入ってからは、毎日大学の
図書館で勉強してるって。図書館は外部の人間は入れないし、
ここで待つのが一番かと思ってさ」
「それならメールしてくれたら良かったのに」
 何時に出てくるのかわからないのに、ずっとここで待っていたのか。
「驚かそうと思ったんだ。だから謝らなくていいよ。気にしないでくれ」
 枝本は理子にそう言いながら、志水の方を見ていた。志水の方は
敵意のこもった枝本の眼差しをまともには受けずに、すっと余所へ
視線を移した。
 理子は戸惑った。こういう時、どうしたらいいのだろう?
 その戸惑いを察したのか、志水が言った。
「じゃぁ僕はこれで帰るよ。今日は彼に送ってもらうといい。じゃぁ」
 そう言うと、さっさと立ち去って行った。理子はその去り際の
良さに呆気にとられた。
「あいつだな」
 志水の後ろ姿を見ながら、枝本が言った。
「えっ?」
 驚く理子に、
「理子の家へ行きたい」
 と枝本が言いだした。
「ゆっくり話ができる所って言ったら他にないだろ?どこかの
店とかじゃ、落ち着いて話せないし」
 理子は躊躇した。
「先生がいない事は知ってる。最上さんから聞いたんだ」
 やっぱりか。枝本を見た時、そういう予感はあった。ここで勉強
している事をゆきから聞いたと言ったから、私達の事を知って
来たのに違いない。
 だが、自分一人の部屋に、枝本とは言え男性を上げても
良いのだろうか。志水だって入れていないのに。
 理子の躊躇いを察したのか、
「先生がいないのを知っていて入るのは、やっぱりまずいかな」
 と言った。理子はその言葉に首を振る。
「ううん、そんなことないよ」
 ある意味、理子にとっては、枝本は特別な人とも言える。
 何を言われるのかは大体察しがついている。
 二人は青葉台にあるマンションへと向かった。
「枝本君、勉強の方はどう?」
「うん。思っていたよりは大変かな。化学式が複雑で」
 そう言うと笑った。
 その笑顔を見ていると、中学の時の頃を思い出す。そういう笑顔を、
いつも離れた所から見続けていた。眼鏡の奥の、ちょっとクリっと
した瞳は大学生になった今でもあの頃のままだ。大人っぽくなったのに、
そこだけがまだ少年のようだった。
 キラキラしたその瞳に恋をした。初恋は小学校の1年生の
時だったが、本当に恋と呼べるのは枝本が初めてだ。一途に思っていた。
彼女がいたのに。
 同じ班になって席が間近になってから、日々親しくなってゆくのが
夢のようだった。
 折角両想いになったのに、自分から離れてしまった。
好きだったのに・・・。
 枝本と二人でいると、どうしても昔の想いが蘇って来る。
センチメンタルな気分になって来る。幾ら時間が経っても
変わらないその現象を、理子は不思議に思う。
 マンションに着き、二人は部屋へ入った。
 先生との部屋に、男性が一人で入るのは初めてだ。相手が枝本だけに、
何となく雅春に後ろめたい気持ちが起こった。
「今お茶淹れるね」
「いや、いいよ。お茶はいらないから、座ってくれない?」
 枝本は二人掛けのソファに座った。理子は仕方なく、長ソファの
方へ腰をおろした。左斜め前で横顔を見せる枝本を見てふと思った。
「ねぇ、この位置って、中一の時の席と同じじゃない?」
 枝本は理子の方に顔を向けると、それに気づいたように笑った。
「そう言われればそうだ。真っすぐ前を見ると黒板があって先生がいて。
ちょっと顔を右に向けると、理子の顔が視界に入って来た」
 枝本にそう言われて、理子は顔が赤くなった。なんだか当時に
帰って恥ずかしくなってきたのだ。
 当時、そういうポジションにいる自分を、随分と意識していた。
枝本の目に映る自分の姿が気になってしょうがなかった。
「あの時理子は、俺の事が好きだった?」
 突然言われて戸惑った。
「うん。・・・とても」
「俺、色々考えたんだ。あの当時の事を」
「えっ?」
 思わぬ言葉に理子は枝本の意図を図りかねた。



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~ Comment ~

Re: 「ねぇ、この位置って、中一の時の席と同じじゃない?」misia2009様 

misia2009さん♪

そうですよねぇ。
枝本君の自分への気持ちを知ってるわけなんだから、
二人きりでもあるし、ちょっと考えなしな台詞ですよね。
あまりにも無防備過ぎて、襲うのが申し訳なく思うのかも(爆)
こういう女を彼女にしている先生の苦悩……。
みんなが遊びに来た時に先生がそう言って、みんな納得してたのを
思いだします。あははは……(^_^;)

だけど、サヤカの場合だと、わざと嫉妬を煽るような真似を
するような気もするのですが。。。(笑)

「ねぇ、この位置って、中一の時の席と同じじゃない?」 

……って、なに可愛いこと言ってんだよ、理子!! この状況で!!
それ言っちゃったら続いて出るのは、
「あの頃が懐かしいね~~あの頃に戻れればいいのに」
っていう展開しか、ないだろう!!

うっかり相手を刺激するってことが分かってねーな、っとに何時まで経ってもこの女は!!

……と、座っちゃいられなくなって、コーヒー飲んで来ました。
ある意味、半田サヤカのように、女としての振る舞いを知っている娘を彼女にしたほうが、結局つきあうほうも楽かもしれませんねwww
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