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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 9.試 練 08

2010.09.29  *Edit 

「あの・・・、寂しく無いの?」
 かろうじて、そう言った。
「寂しくは無いよ。一人でとても気楽だしね」
 本当にそうなんだろうか。
本当にひとりぼっちで寂しく無いの?
「一緒にいる方が、却って寂しく思う場合もあるよ。
そう思わないかい?」
 理子の心の声を聞いたかのように、志水はそう言った。
「そうね・・・」
 考えてみると、理子は家族と共に過ごしてきたが、心を通い合わす
事のできない母と一緒にいて、いつも寂しいと思っていた。幾ら
求めても得られない愛情。わかっているのに、つい求めてしまう
優しい言葉。
 志水と出会って親しくなっていくうちに、どこか深いところで
共鳴するものがあると感じるようになっていたが、もしかすると、
こういう事だったのか。
 理子は志水を見つめた。
 志水も理子を見つめ返す。
 笑っているようないつもの顔の志水を見て、理子はなんだか
悲しくなってきて、涙が込み上げて来るのを感じた。滲んできた
涙を押さえて「ごめんなさい」と言った。
「いや、いいよ。君は泣きたかったら泣けばいいんだ。その為に
ここへ連れて来たんだし。あそこじゃ、人目が多過ぎるからね」
「志水君・・・」
「今日はここへ泊まっていくといいよ」
「えっ?」
「だって、もう夜だし。遅くにあそこへ帰っても意味がないじゃ
ないか。今夜は一緒に過ごそう。君が寂しく無いように、
色んな話しをしてあげるよ」
「でも・・・」
 志水の好意は有難かったが、男一人の部屋へ泊まりこむ事には
矢張り抵抗がある。
「心配しなくてもいいよ。君の嫌がる事はしないから」
 それでも躊躇っている理子を見て、志水は笑って言った。
「なんなら、僕はどこかへ行ってもいいよ」
「駄目。それはやめて。一人にしないで」
 理子は思わずそう言って立ち上がった。
 そう。一人になりたくない。だから、付いて来た。
一人は寂しくてたまらない。
 志水は理子の言葉に静かに微笑むと、理子の傍へとやってきて、
理子の体を引き寄せた。そっと抱きしめられた。その温(ぬく)もりが
心地良い。志水は雅春よりも骨っぽい感じがした。肩幅も
それほど広くは無い。
 理子は志水の肩に頭を凭せ掛けた。志水はただ優しく、
抱きしめたままだった。ジッとしている。定期的に鳴っている
心臓の音が聞こえる。その音を聞いていると、とても安心するのだった。
志水自身が平静である事の証拠でもある。
 雅春以外の男性の胸で、こんなにも落ち着いたのは初めてだ。
 去年の渕田の事件の時、理子は枝本の胸の中で泣いた。あの時も、
枝本はこうして黙って理子を抱きしめてくれていた。理子の気持ちが
治まるまでずっと。あの時と今とでは状況が違う。
「志水君・・・」
「なんだい?」
「座ってもいい?足が疲れてきちゃった」
 理子の言葉に、志水は笑った。
「ごめん。気付かなくて」
 志水はそう言って、理子を離すと、一緒にソファへと座った。
「少しは落ち着いたかな」
「うん。ありがとう・・・」
 理子は頬を染めた。
「志水君。私、志水君の事を訊いてもいいのかな」
 理子の言葉に志水は両口角を少し上げた。
「訊きたい事があるならどうぞ。但し、訊かれた事に全て答えるかは
わからないけどね。それでいいなら」
「わかった。じゃぁ、兄弟はいるの?」
「いるよ。3人兄弟で、僕は長男なんだ」
「長男なの?」
 驚いた。こんな大邸宅の家の長男が、こうして一人で?
「こんな状況だから、僕が跡を継がないのはわかるよね」
 志水がそう言った。
 どうやら、何か深い事情があるようだ。理子はこれ以上、家族や
家の事を訊くのは止そうと思った。
「志水君は、海と川とどちらが好き?」
 そう理子が質問すると、志水は声を出して笑った。
「君は本当に優しい人だね」
 笑ってそう言う志水に、理子はキョトンとした。声を出して
志水が笑う事自体珍しい。
「これが加藤さんだったら、突っ込んであれこれと無神経に訊いて来る。
僕はそういう無神経で図々しい人間が嫌いなんだよ。君は僕の答えを
聞いて、これ以上質問したら悪いと思ったから、全然別の事を質問した」
 自分の意図が志水に伝わっている事を知って、理子は驚いた。
 そんな理子を見て、志水はフッと笑った。
「僕は、君と同じで、川より海が好きだよ。でも川も、上流の、
綺麗な湧水が豊富に流れている清流は好きだな。心が洗われる気がする」
 志水の答えに、理子は納得した。自分も同じだ。上流の豊かな川は
好きだった。それでも海には叶わないが。
「じゃぁ、僕からも質問させてもらってもいいかな」
「いいけど、私も全て答えるかどうかはわからないわよ?」
「了解しました。じゃあ、質問。君はどうして、鈴木修二と
お茶したんですか」
 志水の質問に、理子は驚いて目を見開いた。
「やだ。どうして今更?」
 5月の終わりころの事だから、もう3カ月近く経つ。
「訊きたくてもずっと訊けない間柄だったじゃないか」
 そう言われて納得した。
「確かに・・・。じゃぁ、お答えします。簡単に言えば、
気まぐれ、かな?」
「気まぐれ?」
「そうなの。彼、読書家だったんで、本の話しをしたいって言われて。
それで興味を覚えたから。でも、実際に話してみたら全然
面白く無いんでガッカリだったの」
「ふぅん・・・。本の話しならキャンパス内でもできたんじゃ?」
「そうね。でも、たまにはいいかなって思って。富樫君に色々と
言われたの。もっと気軽に構えて付き合ってみてもいいんじゃ
ないかって」
「富樫か。あいつもちょっと曲者だよ」
「曲者?」
「うん。僕も人のことは言えないけど、あいつは何ていうか、
傍観者だ。しかも、人をけしかけて、その様子を見て楽しんでる。
君は遊ばれたんだよ」
 志水の言葉に理子は目をパチクリとさせた。
「私、遊ばれたんだ・・・」
「まぁ、君が鈴木のようなヤツを真面目に相手にするとは
思って無かったけどね」
「あら、どうして?」
「どうしてって。合わないのは一目瞭然だもの。それに、
君にはあの人がいるし」
 志水の答えに理子は口を噤んだ。
 全く志水の言う通りだった。一体本当に自分は何であんな事を
したのだろう。馬鹿みたいだった。
「志水君。変な事を訊くようで悪いんだけど・・・」
「何?」
「志水君、もし結婚したら生活はどうするの?今のような
暮らしを続けるの?」
 志水はフッと笑った。
「ここには住まないよ。どこか手ごろな広さの一軒家を手に入れるか
借りるかして、そこに二人で住むかな。生計は自分の持っている
お金で成り立つけど、時々雑文を書いたり本に研究発表を
載せたりして僅かばかりの原稿料を貰うつもり。奥さんにも
好きな事をしてもらう。互いに好きな事をして、互いに語り合って、
色んな思いを共有したい。でも、結局僕は一生ここで一人で
暮らしてると思うけどね」
「どうして?」
 理子の問いに、志水は片頬だけで笑った。その顔がどこか寂しげだ。
「僕が女嫌いだから。今話した奥さんって言うのは君の事だよ。
だから土台無理な話しなんだ。わかるよね」
 理子は胸が抉(えぐ)られるような痛みを覚えた。なんだか
とっても悲しい。この人の魂は孤独だ。私と同じだ。そう思うと
言い知れぬ寂しさが襲ってくるのだった。
「君は、僕にこんな話しをされて引かないの?嫌悪しないのかい?」
「何故なのかな。全然そういう気持ちが湧いてこないの・・・」
 理子は志水を見つめた。心の震えを感じる。
 志水の手が伸びて来て、理子を引き寄せた。そして唇が重なった。
雅春とは違う、少しもったりした柔らかい唇の感触に理子は戸惑った。
 こんな風に唇のぬくもりを感じるキスは雅春以外とは初めてだ。
もし雅春と出会っていなければ、理子はもっと複数の唇の感触を
知る事になっていたのだろうか。
 志水の唇はすぐに離れた。だが、理子を引き寄せた手は、
そのまま理子を抱きしめた。
「君の寂しい心に付け込んでる僕は、最低だね・・・」
 志水は理子の耳元でそう囁いた。
「ごめん、志水君。私は志水君の気持ちに応えることはできない。
なのに・・・」
 それなのに、自分を抱きしめる志水を突っぱねる事ができない。
「いいんだよ。君は我慢する事は無い。君は君のしたいように
すればいいんだ。僕はそれで構わない。こんな風に君のそばに
いられるだけで満足だから」
 二人はこの晩、共に一夜を過ごしたのだった。


         9.試 練  了  10.混 沌 へつづく。

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