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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 9.試 練 07

2010.09.28  *Edit 

「理子、また痩せたんじゃない?」
「えっ?」
 志水の指摘に、顔を上げた。
 歴史ものの映画を二人で観た後に食事をし、駅からマンションまで
歩いている時だった。
 食事中、理子の箸があまり進んでいない事に志水は気付いていた。
 あれ以来、こうして時々会っては食事をしているが、いつも理子は
あまり食べない。熱い夏、肉体労働をしているのに食べないでいたら、
痩せるに決まっているし、体力だって落ちるだろう。夏バテしや
しないか。志水はそれが心配になってきた。
「まさか、ダイエットしてるとかって、言うんじゃないだろうね」
「そうかも・・・」
「だとしたら、やめなさいね。健康に悪いから」
 志水は不機嫌そうに言った。
「ごめん。心配してくれてるんだよね。大丈夫。暑いからちょっと
食欲不振なだけだから」
「理子。もうすぐ夏も終わるよ。この夏休みの間、僕にとっては
思いもよらない楽しい時間を得ることができたけど、理子は
どうだったんだろう。以前のようには笑わなくなったよね。僕に
笑顔を見せてくれるようになったのは嬉しいけど、その笑顔に
もどこか翳りがある」
「志水君・・・」
 志水のしんみりした口調に、思わず志水の方を見た。志水は
優しさの中にどこか寂しげな表情を浮かべて微笑んでいた。
 志水は理子との距離を詰めると、顔を寄せてきて、そっと理子の
唇に自分の唇を合わせた。あまりの急な出来事に理子は呆然としていた。
一瞬の出来事だった。志水の唇が離れるのが早かったので、
抵抗する間もなく、あっと言う間に終わっていた。理子はただ、
志水を見つめたままだった。目を閉じる間もなく…。
「今、キスしたの?」
 そう問いたださないと起こった事が飲み込めなかった。
「したよ」
 と志水は答えた。
「本当はもっと濃厚なのをしたかったんだけど、それじゃぁ
理子が嫌だろうと思って」
 志水は静かにそう言った。
「濃厚じゃなければいいって言うの?」
「怒ったかい?」
「あたし、あなたの恋人じゃない」
「わかってる」
 理子は自分自身がよくわからなかった。こんな事をされたのに、
何の感情も湧いてこないのだ。
「君があまりに寂しそうだったから、ついしてしまった」
 理子は俯いた。
「君の中に空いてしまった穴を、僕では埋められないのかな。
あの人と同じくらい、いや、あの人よりも君を愛してるんだよ」
 志水の声はせつなげだった。だが理子は淡々と言った。
「多分、無理だと思う」
「何故?あの人と僕は似ているけど、愛し方は違う筈だよ」
「私は先生しか愛してないし、これからもそれは変わらないから・・・」
 理子は小さい声で呟くようにそう言った。
「わかってる。わかってて言ってるんだ」
 志水の言葉に理子は驚いた。
「君があの人しか愛してないことは良くわかってる。だけど君は、
その事で一層傷ついてる。愛しているからこそ、傷つき、その傷を
深くしている。僕は、あの人を愛している君を、丸ごと愛してるんだ。
だから君があの人を愛していても構わない。僕が全部受け止める。
君の全てを」
 志水は真剣だった。
「そんなこと言われても・・・」
 理子は赤くなり横を向いた。
 こんな事を言われるとは。
 理子はあまりにも志水の好意に甘え過ぎていたと、今になって気づいた。
「君はあの人を愛していても、あの人の元へは戻れない。あの人の
そばにいると辛くて、益々傷が深くなるからだ。でも離れていても
つらい。君は拠り所を無くして彷徨ってる。だから、僕が君の拠り所に
なるよ。なりたいんだ。ならせてくれ」
 志水の言うことは半ば当たっていた。結局のところ、一緒にいるのが
辛くて別れたのに、離れていても辛いことには変わりなかった。
 夏ももう終わる。このひと月余り、よくも雅春と会わずに、声も
聞かずメールを交わすこともなく過ごせたものだ。出会ってから、
こんなに長く互いに音信不通でいた事などなかった。このまま
こんな日が続いていくのか。志水は痩せたと言ったが、理子は
体だけでなく、心まで痩せていく思いだった。先生は今何をし、
何を思っているんだろう?
 もうすぐ新学期が始まる。新学期の準備に追われているのだろうか?
 私の事など忘れて・・・・。
 そう思ったら、急に涙が溢れてきた。
「理子?」
 志水は戸惑った。そしてためらいがちに理子を抱き寄せた。
理子は逆らう力もなく、そのまま志水の腕の中で泣いた。寂しくて
寂しくて、泣かずにはいられなかった。
 だが、ここでは何時、人が通るかわからない。
 志水は理子を促して、駅まで戻ることにした。
「志水君?」
 理子は泣きベソを掻きながら、志水を見た。
「理子。ここじゃ、まずいよ。だからと言って、僕が君の家へ
上がりこむわけにもいかない。だから、ちょっと戻る事になるけど、
僕の家へ行かないか?」
「えっ?」
 志水の言葉に理子は躊躇した。どう受け止めたら良いのかわからない。
「君をこのまま一人にできない。あの部屋で一人ぼっちで
過ごさせたくない」
 志水の言葉が胸に沁みる。理子もこのまま、あそこで一人きりで
過ごしたく無かった。だから、志水に促されるまま一緒に電車に乗った。
 電車の中では、共に無言だった。理子は涙を拭った。しきりに鼻を
すするので、前に座ってる女性が不思議そうに理子をチラチラと見ていた。
 やがて二子玉川に到着し、志水に誘(いざな)われて電車を降りる。
 志水の家は、駅から徒歩15,6分の場所だった。とても広い
邸宅に驚く。一区画全部を占領しているのでないかと思うほどの
広さだった。増山の家も広いが、志水の家はその上をいっている。
 大きな門の隣に通用口がある。志水はそこをくぐった。通用門の
ある家なんて、実際にお目にかかるのは初めてだった。まるで
ドラマみたいだ。こんなお金持ちの家の息子だとは思って無かった。
確かに本人は、家が金持ちだと言うような事を言っていたが、
それでもこれ程とは思いもよらない。
 ここへ来たと言うことは、もしかして家族と挨拶をしなければ
ならないのか。
 その事に思いが及んだ理子は、及び腰になった。
「どうしたの?」
「うん。だって・・・」
 不安そうな顔をしている理子の手を取り、志水は「こっちだよ」と
言って、大きな屋敷とは別の方へと歩を進めた。
 理子は不審に思った。何故家へ入らないのか。もしかして、
勝手口から入るのだろうか。
 志水に引っ張られて向かった先に、小さな家が建っていた。
昔よく見た、受験生の為に急拵(こしら)えされたプレハブの
勉強部屋みたいな建物だが、プレハブでは無かった。
 志水は、ポケットから鍵を出すと、ドアの鍵を開けて扉を開いた。
理子を連れて中へと入る。理子は中へ入って驚いた。思っていたよりも
広い。まるで、ここで生活しているような部屋の様子である。
 机と椅子。オーディオ機器。パソコン。大型の本棚。クローゼット。
ソファにテーブル。それにベッド。小さな流しの横に小さな冷蔵庫が
置いてある。トイレと浴室もあるようだ。
 理子は出入り口に突っ立ったまま、茫然と部屋の様子を見ていた。
「さぁ、上がって」
 志水はそう言うと、靴を脱いで中へ入り、エアコンのスイッチを
入れてからソファに腰かけた。
「理子。驚くのはわかるけど、取りあえずは中へ入ってよ。
話しもできないじゃない」
 志水の言葉にはっとして、理子は躊躇いがちに靴を脱いで上がった。
「クーラーが効くまではちょっと暑いけど、我慢して」
 志水は冷蔵庫からお茶を出し、冷蔵庫の上にあるコップを取って
注ぐと、理子に渡した。
「とにかく、座って」
 そう言われて理子はソファに座り、目の前にあるテーブルに、
渡されたコップを置いた。
「志水君・・・、これってどういう事?」
「どういう事だと思う?」
 いつもの謎の微笑を浮かべながら、逆に問いかけて来た。
「もしかして、ここに一人でいるの?ここがあなたの部屋なの?」
 理子の問いに、志水は口元だけで笑った。
「僕の部屋と言うよりも、僕の家かな。僕はここで一人で暮らしてる」
 その言葉に理子は驚いた。広いワンルームのアパートのような、
生活感が漂うこの部屋を見た時に、そんな予感はしたものの、
信じられない思いだった。
「不思議に思ってるでしょ。そう思うのが当然だよ。詳しいことは
言えないけど、色々と事情があって、僕はここで一人で暮らしてる。
学費も生活費も、全て親が面倒見てくれてるけど、家族としての
コミュニケーションは全く取って無い」
 志水の表情はいつもと変わらない。理子は、どう受け答えを
したら良いのかわからなかった。


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