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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 9.試 練 04

2010.09.25  *Edit 

 理子はその言葉に驚いて目を丸くした。
「何それ?どういう意味?」
「言ったままの意味だよ。僕は働くのが嫌いなんだ。だから働かない」
 志水はびっくりするような事を当たり前のように言う。
「それって、まさか、一生?」
「そうだね」
 志水はそう言うと、多くの女性の心を掴んできた
謎の微笑みを浮かべた。
「でもそれじゃぁ、生きていけないじゃない」
「女の子ってみんな現実的だね」
「って、そんなの当たり前じゃない。生きてこそ、でしょうに」
「まぁ、厳密に言えば、稼がないと言うわけではないんだ。
人の下では働かないって事」
「使われたくないってこと?」
「そういう事だね」
「そんなの、みんな出来ればそうしたいものじゃないの?」
 理子の言葉を受けて、志水はゆっくりと瞬きをした。
「これはあまり大きな声じゃ言えないんだけど・・・」
「何かしら?」
「僕は高校生の時に、カクテルバーでアルバイトをしてたことが
あるんだ」
「ええー?」
 志水には驚かされることばかりだ。高校生でカクテルバー?
夜の仕事に高校生が?
「それって、やばくないの?」
「まぁ、ヤバイ。だから誰にも内緒ね」
 理子は大きく頷いた。
「そこでは色んな仕事をさせられてね。本当に色んな仕事。
勿論、カクテルの作り方も習って、カウンターでシェーカーを
振ったりもしてた」
 高校生がシェーカーを?
「世の中の闇の部分を色々と見せられたように思う。女もそこで覚えた」
 志水はそう言うと、下からねめ上げるように妖しい目で理子を見た。
 その目を見て、理子は何故か体に痺れを感じた。
危険で妖しい物を感じる。
 だがすぐに、志水の顔はいつもの柔和な微笑みに変わった。
「そこでの色々な経験で、もう人に使われるのは嫌になったんだ。
働きたくない。できれば、好きな歴史で食べていきたいなと
思ってるんだよね」
「学者になるってこと?」
「うーん・・・、別に学者になりたいわけじゃないんだけど、
結果的にそうなっても構わないってところかなぁ。でも、
だからと言って、大学で教鞭を取ろうとは思わない。あそこも
人間関係が鬱陶しい所だからね。まぁ、好きなことやって、
それで収入を得られればそれで良しって感じかな」
 大学の人間関係が鬱陶しいから大学には残らない。まるで雅春と
同じだ。雅春はその為に高校教師になったわけだが、志水は
そういう選択もしないようだ。
「それで生活は成り立つの?」
 当然の疑問である。
「多分ね。幸か不幸か、うちは金持ちなんだ。困った時には
助けてくれる」
 そう言って笑う志水を見て、何てお気楽なのか、この人には
人生の目的が無いのか?と理子は思った。
「気楽なヤツって思ってるでしょ」
 理子の考えを見透かしたように言った。
「そうね」
「そう言われても仕方ないね。世間的に見ればその通りだろうから。
だけど僕には少々株の心得があってね。それだけでも、結構な
収入を得てるんだ。既に」
 志水はにんまりと笑った。
 株の心得?雅春と同じだ。何だか、随分、雅春と共通点が
多いような気がする。
「あの人もそうなんじゃない?」
「えっ?」
 志水の指摘に理子は驚いた。
「一介の公立高校の若い教師が、あんな高いマンションなんて普通は
買えないよ。おまけに、暮らし向きも収入の割には良い感じだし。
高いスポーツカーにも乗っている。それなのにローンを抱えて
いるようには見えない」
 なんて鋭い人なのか。
「どうしてそんな事、あなたにわかるの?」
「だって、あの人は僕と同じ匂いがするからね。だから僕と同じように
株をやってるんじゃないかと思ったんだ。頭の良さそうな人だし」
 そう言って志水は謎の微笑を浮かべた。
「ついでに言えば、育ちも良さそうだ。実家は結構、お金持ち
なんじゃないの?」
 ふっ~、と理子は溜息をついた。どうしてそこまで解るのだろう。
「あの人と僕はよく似ている。同じ匂いがするのも、そのせいだ。
ただ決定的に違う点がある」
 志水の言葉に理子は顔を上げた。
「決定的に違う点?」
「あの人は苦労知らずだ、と言うことだ。勉強オタク、歴史オタクで、
自分を取り巻く周囲の状況には大した興味も抱かずに、自分の
道だけを進んできた人だと思う。僕の方があの人よりも遥かに若いけど、
あの人よりも僕の方が世の中の酸い辛いをよく知っている」
 雅春が聞いたら怒るだろう。だが、理子には何となく
わかるような気がした。
「この話はもう終わりにして、博物館へ行く日の事を話そうよ」
 明るい顔で志水は言った。
 理子は志水の深い洞察力に畏敬の念を抱いたのだった。

 4日後の木曜日の午後、理子は志水と共に国立科学博物館へと
出かけた。
 場所は上野だ。上野は雅春との思い出の場所でもある。
 愛を告白されたのが、上野の東京美術館へ2人で来た時だったからだ。
夢のような日だった。まさか先生が自分を好きだとは夢にも思って
いなかった。今から思うと、あれはやっぱり夢だったのではないか?
あれから2年近く経つ。
 だけど、どうして国立科学博物館なのだろう?日本史を志している
二人には、斜向かいにある国立博物館の方がピンとくるような
気がするのだが。
「ここって確か、上野忍岡遺跡の一角だったわね」
 理子は呟いた。
 上野忍岡遺跡とは、かつて江戸寛永寺があった場所で、維新の時、
戊辰戦争で旧幕府軍の彰義隊が立て籠もり、新政府軍によって殲滅
されて消失した場所である。地下にその遺構があるが、縄文・弥生の
古墳時代の遺跡も同時に眠っている。
 会津贔屓の理子にとっては、思い深い場所である。
 志水は理子の呟きを耳ざとく聞きつけて答えた。
「そうだよ。やっぱり気づいたね」
「それが目的だったの?」
「いや、そんなことはないよ。ただ単純に、科学博物館に
来たかっただけ」
「そっか」
「理子も好きでしょ。恐竜や天文や、その他科学の色々が」
「ええ、好きよ。とっても」
 理子はそう言うと笑った。
 子供の時から、科学的なものが好きだった。学校の理科がもっと
面白かったら、案外科学の方面へ進んでいたかもしれない。
 2人はゆっくりと時間をかけて見て回った。
 高校一年の夏休みに、妹と二人でここへ来たことがあった。妹も
こういうのが大好きだったので、二人でわくわくしながら見て
回ったのを思い出す。
 理子は特に恐竜が好きだった。恐竜を見ていると、何故か胸が
躍ってワクワクする。小さい時から、恐竜映画も好きだった。
 恐竜コーナーに入って、熱心度が増した理子に気付いた志水が言った。
「余程好きみたいだね。目が輝いてる」
「あら・・・」
「理子は草食と肉食と、どっちが好きなの?」
 志水の問いに、理子は首を傾げた。
「わからないかな。どっちとは決められない。ただ、好きだと思う
恐竜の多くは肉食みたい」
「そうなんだ。君は草食の方が多いと思ってた」
「あら、どうして?」
 理子は志水がそう思った事に興味を持った。
「君は平和主義者みたいだから。人と争うのが嫌いでしょ?」
 成る程。よく見てるし、よく解ってるな。
「世の中、平和主義者とそうでない人と、どちらが多いのかな。
日本人は、きっと平和主義者の方が多いんじゃない?好んで人と
争いたいと思ってる人がそんなにいるとは思えないけどな」
「そうだね。でも、普段そんな事を考えてはいないだろうし、人と
争いたいとは思っていなくても、争いはできるだけ避けようと意識
してる人も、そういないんじゃないかな。そういう点で、君は常に
争いを避けているように思うんだ」
「だから、草食系?」
「そう思った」
 志水は微笑んだ。
「私、動物でも、草食動物よりも、精悍で獰猛な虎とかが好きだったり
するの。実際に、本物と対峙したくは無いわよ。だけど、何ていうか、
生きる為のエネルギーの大きさに惹かれるのかな・・・。それに、
造詣も動きも美しいし」
「そうか。何となくわかる気がするよ」
 志水はそう言って、微笑する。
 楽しい時間が好き、全てを見終わる頃には閉館時間になっていた。
「良かったら食事して帰らない?」
 そう言われて、二人で食事をした。
 帰りは家まで送ってくれた。駅から近いマンションなので
「大丈夫だから」と何度も断ったのだが、
「それでは自分が心配でならないから」と譲らないので、
結局送ってもらったのだった。
 志水は最初から最後まで紳士的だった。
 過去の事から考えると、何かアクションを起こしてくるのでは
ないかと一抹の不安を抱えていたのだが、それは杞憂だったようだ。
「握手してもいいかな」
 志水が別れ際に言った。
 握手・・・・。
 枝本と初めてデートした時の事を思い出した。枝本と初めて
2人きりで会った時、別れ際に二人は握手したのだった。男の子と、
しかもやっと思いが叶った相手との握手に、理子は興奮した。
13歳の春の出来事だ。あの日の出来事は、理子にとっては
神聖な思い出だった。
 だから好きな人以外と、握手なんてできない。
「駄目よ・・・」
 理子がそう言うと、
「わかった。じゃぁ」
 と言って、手を上げて去って行った。
 何の未練も示さずに、さっぱりとしたその態度に、理子は意外な
思いがした。もっとしつこい人だと思っていた。そう思うほど、
理子に固執していたからだ。
 その後も度々、理子は志水と出かけた。美術館や歴史資料館、展示会。
 志水は時々理子のバイトが終わる頃にやってきては、一緒に夕飯を
取ったりするようになった。明るいうちに別れる時には家まで送ら
ないが、話しに夢中になって暗くなってしまった日には送ってくれる。
 バイト先にしょっちゅう来るわけではないし、日が高いうちは
送らない。そういう、しつこ過ぎない所に理子は好感を持った。
もっと粘着だろうと思っていたから余計だった。
 付き合うほどに、志水は不思議な男だった。意外性の宝庫みたいに
思えた。大学で最初に知り合った時から、何となく気が合って、
話していて楽しい相手ではあったが、おっとりとお上品で柔和な
その姿からは想像もつかないような妖しい魅力が垣間見えた。
 雅春は、そばにいると四肢の力が抜けて全てを委ねたくなるような
存在だ。その人の腕に包まれて、ずっと夢を見ていたくなる。
ずっと傍にいたいと思う。
 だが志水には底知れない深いものを感じる。計り知れない。
果てがない。こちらが引けば押してきて、こちらが押せば引く。
いつも一定の距離を保っているように感じるのだが、気づくと
いつの間にかすぐ近くにまで来ているような気がする。
 不思議な男だった。そして、その不思議な魅力に絡めとられて
しまうのではないかと、理子は微かな畏れを感じるのだった。


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~ Comment ~

Re: ふぅ…>OH林檎様 

OH林檎さん♪

コメントできる状況じゃなかったですものね。
自分が読者だったら、どうコメントしたものか、悩みますもん。
だから、お気になさらずに。

私も第二部の、こここら辺から先の話運びには、
深く心が沈んできて、書いていても気が重い連続でした。
この先、浮かんでは沈み…、を繰り返す事になるかと。

すみませんねぇ。。。。

そんなわけで、これが終わったら明るく楽しいのを
書きたいと思いつつも、果たして書けるのか……。
あははは…(^_^;)

ふぅ… 

何回か、コメントもせずに読み逃げしてしまいました。
おゆるしをーーー。
それというのも
最近の私の心、
クロスステッチに絡めとられておりまして…
正直、下降ぎみ。
悲しくて、さびしくて…、でもって、心配で…。
こんなによそ様の小説に感情移入してしまうなんて…。
私は根が単純に出来てるもんで
理子や志水の複雑な気持ちが予想できずにハラハラしっぱなしです。
最後に幸せな結末が待っている事を切に願ってます。
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