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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 9.試 練 02

2010.09.23  *Edit 

 夏休みも近付いてきたある休日の午後。
「先生、話があるの」
 珍しく理子の方から、自室にいる雅春に声を掛けてきた。
 改まって話とは何だろう?
 理子に呼ばれてリビングへと入る。
 理子は雅春の前に淹れたてのコーヒーを置いてから言った。
「先生。私色々考えたんだけど、私たちの結婚はやっぱり早すぎ
たんじゃないかなって思うの。結婚するって事がどういう事なのか、
私にはよくわかってなかったみたい。私はやっぱり子供過ぎた。
妊娠と流産は、その浅はかな私に対して罰が当たったんじゃ
ないのかなって・・・」
 あまりに唐突な理子の言葉に、雅春は驚いた。
「何を言ってるんだ、理子!君は俺達の結婚を否定するのか?」
 雅春は興奮した。だが理子は尚も続けた。
「可哀そうだったのは赤ちゃん。・・・快楽に溺れすぎた私達のせいで
犠牲になってしまった…。だから私、もうセックスはしたくない。
あなたとキスをすると抱かれたくなるからキスもしたくない。
あなたの顔を見ると、私はあなたに逆らえない。だから、なるべく
顔も見ないようにしてる。だけど、そんなの先生に失礼よね。
夫婦なのに、そばにいるのに、そんな状態をあなたに強いるのは。
だから、……だから私たち、別れた方がいいんじゃないのかな」
 理子の言葉に雅春は打ちのめされた。ずっと様子のおかしかった理子。
そんな事を考えていたのか。理子がそんな事を考えていようとは、
全く想像もできなかった。ただ流産した悲しみから抜けられずに
いるだけだと思っていた。
「理子は、理子は俺と別れて平気なのか?生きていけるのか?
俺は駄目だ。生きていけない。君のいない人生なんて考えられない」
 理子は俯いたまま答えなかった。
「理子、俺を見ろ。俺の顔をちゃんと見て話してくれ。君が俺の顔を、
俺の目をしっかり見て、尚そう言えるのか?」
 雅春は俯く理子の顔を自分の方へと向けさせた。理子は目を逸らせた。
「ずるいぞ、理子。俺を見るんだ」
 雅春の強い言葉に理子は雅春の目を見たが、正視できない。この人の
眼鏡の奥の瞳に捕えられてから、理子の心はずっと雅春のものだった。
今でもそれは変わらない。
「先生の方こそ、ずるい。先生の目を見たら私は逆らえないもの。
先生の言いなりになってしまう」
 理子の瞳から涙がこぼれた。
「何がずるいもんか。俺に逆らえないのは、君が俺を愛しているからだ。
愛している証拠じゃないか」
「愛しているから、・・・別れた方がいいのよ。このままじゃ、
お互いに傷つけ合うばかりだもの。そんなのは嫌なの」
「俺は君を傷つけているのか?一緒にいる事で、これからも傷つけると
思っているのか?」
「そうじゃない。先生が私を傷つけるんじゃなくて、先生と一緒に
いる事で、私が勝手に傷ついてるのよ。先生を満足させてあげられ
ないから。・・・私、一人になってみたい。一人になりたいのよっ!」
 それは悲痛な叫びだった。
 雅春は頭を抱えてその場に蹲(うずくま)り、理子は泣き崩れたのだった。

 二人は暫くの間、別居することした。
 何はともあれ冷却期間は必要だろう。その間に、お互いに先の事を
考えようということになった。雅春の方が荷物をまとめて実家へ帰った。
今の住まいの方が、理子が大学に通いやすいからだ。
 それに、母親との関係に心の傷を持っている理子にとって、実家の
敷居は高かった。理子にとっては有り難たかったが、雅春との新居に
一人で住むのも、あまり心地良いとは言えなかった。
 理子は妹の家庭教師の為に実家へ帰った時、親に事の次第を報告した。
あまりに突然の出来事に母親の素子は驚愕し、激怒し、娘をぶった。
「何言ってるのっ、あんたはっ!!」
 もの凄い形相だった。顔を真っ赤にして怒っている。
 理子が妊娠し、病院に行く前に流産した事さえ初めて聞くことだ。
何故、親にすぐに報告しないのか。
「あんたは何でいつも親に相談しないの。いつだって、そうやって
勝手なことばかりして。勝手に学校の先生とできちゃって、勝手に
結婚して、こんなにすぐに別れるって?」
「だって、話したってお母さんの答えはわかってるもの。お母さんは
いつも自分の考えを押し付けて、その通りにしないと怒るじゃない。
そんなの、相談なんかじゃない」
「お母さんはアドバイスしてるんじゃないの。決めるのは本人でしょう」
「そんな事を言ったって、結局自分の思う結論でないと満足しない
じゃない。それがわかってるから言わないのよ」
「ああ、そうですか。そんなんだから、こんな事になるのよ。
心も体も傷ついて。まぁ、どうせ駄目ならさっさと別れる事ね。
あっちが家を出てくれて良かったじゃない。あんたは未成年で
あっちは教師なんだし、慰謝料をたっぷり貰ってさっさと
離婚しなさいよ!」
 と、凄い剣幕で捲し立てた。
 それからと言うもの、実家へ行く度に母に厭味を言われて、
傷ついて帰る。なんて母親なんだろうと、その度に思う。
 だが素子にしてみれば、まず理子が妊娠した事が一番気に入らない。
散々、『妊娠は卒業してから』と言っていたのに、それを守らな
かったのだから。それ見たことかと言わんばかりだ。
 それでも、初めての妊娠で流産した娘の気持ちをもう少し思い
やってくれも良いのではないか?辛い選択をした娘を、少しは
慰めてくれたって・・・・。そんな思いを妹の優子にふと吐露したら、
「それは無理だよ、お姉ちゃん」
 と言われてしまった。
 妹もまた、自分の母親の性格を冷静に分析し、受け止め、受け
流していた。母親の事に関しては、妹の優子の方が大人だと理子は
いつも感じる。母と姉の確執を幼い時からずっと見てきているから
かもしれない。なんとなく、母への処世術のようなものを身に
つけてしまっていた。
 これでは矢張り、正式に別れたとしても実家へは戻れそうもない。
それにもう二度と母親と一緒に住みたくはなかった。大学を卒業する
までは自立できない自分がもどかしい。この先の生活の事を考えると
不安でたまらなくなる。
 結婚を急いだのも、先生が好きだったからではあるが、本当は早く
親元から離れたかったからなのかもしれない。そう思うと、やっぱり
自分は甘ちゃんだ。親や先生に依存して生きている。別居していながら、
生活の全ては雅春に依存している。
 夏休みに入ってから、理子は勉学とアルバイトに勤(いそ)しんだ。
疲れて何も考えられなくなるくらい、没頭した。本当は考えなきゃ
ならかったのだが、考えるほどに辛くなる。だから、考える時間を
無くしたかった。
 私は逃げている。
 自分で自覚していた。自覚していたが、どうにもできないでいた。
ただ、自分のお金が欲しかった。自分のお金を得ることで、
少しは依存度が減るような気になるからだった。


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