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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 8.嵐 08

2010.09.21  *Edit 

 雅春は考えた末、学校へ休む連絡をした後に姉に電話をした。
 夕方退院とは言え、事務上の手続きもあるし、着替えも取りに
戻らないと、理子は家へは帰れない。出血が酷かったので、着衣は
全て駄目になり病院で処分してもらっていた。女手があった方が助かる。
 連絡を受けた紫は、母と一緒にすぐに駆けつけてくれた。
「済まない、姉さん。会社を休ませて。母さんも・・・」
「いいのよ、そんな事は。それより理子はどうなの?」
「体の方は問題ない。ただ、精神的に酷く参っていて、自責の念に
かられている。食事を摂らせるのも一苦労だった・・・」
「マー、あなたも疲れてるわね。夕べは寝てないんでしょう?それに…」
 随分、泣いたみたいね。目の縁が赤い・・・。
 この弟は、悲しみに打ちひしがれ、それを必死にこらえながら涙を
流している姿が一番美しいかも、と紫は思った。そもそも、子供の時から
冷めていて、幼児の時以来、泣いている所を見たことがなかった。
どんな時でも泣かない。感情を露わにしたことも無かった。別に
押し隠していたわけでもなく、それほど感情を揺さぶられるような事が
無かっただけなんだろう。
 そんな弟に変化の兆しが現れたのは、高校教師になってからだ。
多分、理子に出会ったからだろう。弟にとってみれば何もかもが
初めての事で新鮮だったようだ。それにしても、この理子への
打ち込みようは凄いと思う。思いは深くなる一方のように感じられる。
これほど一人の女を深く愛する男も珍しいのではないか?少なくとも
紫は遭遇したこともないし、友人達の恋人や夫でもいない。
 特に、夫なんて酷いものだ。全部が全部とは言わないが、結婚前と
結婚後で変わる男が多いようだ。結婚した友人達の殆どは、変わり
ゆく夫への不満を口にする。勿論、口で言うほどではないのかも
しれないが、のろ気とは明らかに違うものを感じるのだった。
 実際、夫婦で一緒にいる時を見ても、恋人時代や結婚式の時の
ような眼差しとは違っていた。夫婦になれば自然とそうなるものなのか。
でも、弟は今でもはっきりと熱い。前にも増している。こんなに熱くて、
理子は息苦しくないのか。女の方が現実的だ。
 紫は病室へ入ると、理子に声をかけた。
「理子・・・、大丈夫?」
「あっ、お義姉さん。それにお義母さんも・・・」
 二人は心配そうな顔をしていた。
「理子ちゃん。気持ちは凄く解るわ。でも気を落としたら駄目よ」
 義母は椅子に座ると優しく理子の髪を撫でながら言った。
「まだ2か月に入ったばかりだったんでしょう?その頃って、
物凄く小さくて、まだ形もはっきりしてないし、不安定で
流れやすいものなのよ」
「お義母さんは、悲しくないですか?先生の子供ですよ。
お義母さんには初めての孫だし。流してしまった私に怒りを
覚えないんですか?」
 義母は溜息を吐いた。
「あなたの悲しみや辛さは解るわよ。私もね。初めての子が
流れちゃったから・・・」
「えっ?」
 俯いていた顔を義母へ向けると、優しさの中に僅かな悲しみの
表情があった。
「私も泣いたわ。私の場合は3か月に入っていたから胎児らしく
なってたし。ちゃんと注意してたのよ。安定期に入るまでは大事に
しなきゃって。だから凄く自分を責めた」
「お義母さん・・・」
「おまけに、なんとか立ち直って再び身ごもったのに、またその子も
流れちゃったの。流産癖がついて、この先妊娠しても流産ばかりして
子供が産めないんじゃないかって恐怖にも駆られた」
「・・・・」
「だから、あなたの気持ちがよく解るの。経験しないと本当の
辛さってわからないわよね」
 義母は優しく理子の手を握った。
「朝ご飯はちゃんと食べたの?」
 理子は頷いた。
「食べました。本当は食べたくなかったんです。でも、先生に
脅迫されて仕方なく・・・」
「脅迫?」
 義母は驚いた顔をして、後ろにいる雅春を振り返った。
雅春は苦笑していた。
「脅迫って?」
「・・・もう愛してないなら食べなくていい。君が死んだら俺も死ぬ。ま
だ愛しているなら食べてくれ、って・・・」
「まぁ・・・!」
 義母は呆れた顔をした。
 紫が言った。
「なんだかマーらしい。でも本気だから怖いわね」
「はい。だから、食べました」
 君が死んだら俺も死ぬ、か。殺し文句だな。本気で言ってるんだから・・・。
 雅春は壁に凭れて腕を組み、横を向いて俯いていた。
「お義母さん」
「何かしら?」
「お母さん、2人目のお子さんが流れてしまった後、
どうされたんですか?」
「2人目の時はね。あたなと同じで2か月に入ったばかりだったの。
まだしっかりと着床できてない時期だから流れやすいんだって
お医者さんに言われたけど納得できなくて、自分で医学書を紐解いて
調べたら同じことが書いてあった。可哀そうな子たち。あの子たちは
一体どんな子たちだったんだろう?無事に育って生まれていたら・・・
とかって、今でも時々思う事があるのよ」
「辛くないですか?」
「今はね。ちょっと悲しくなったりするけどね。その時は凄く
辛かったけど、主人との子供が欲しかったから。頑張って産むことが、
流れていってしまった子たちへの供養にもなると思ったの。
あの子たちの分まで一生懸命可愛がって育てようって。だから紫が
無事に産まれた時には、本当に嬉しかった。勿論、雅春の時もね」
 義母は少し照れたような優しい微笑を浮かべて娘と息子に目をやった。
 理子は、そんな義母を見て、強くて素敵な女性だと思った。
 でも自分は・・・・。
 やっぱり違う気がする。根本的に違うんだ。理子はそう思うのだった。
 


            8.嵐  了  9.試練 へつづく。


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