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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 8.嵐 06

2010.09.19  *Edit 

 眠りについた理子の様子を暫く見たのち紫がリビングに戻ると、
ソファに雅春が座っていた。
 膝の上に両肘を付き、頭を抱えていた。
「マー、廊下で理子との話を聞いていたわね?」
「ああ・・・」
 雅春は顔を上げた。目が赤かった。
 矢張り泣いていたか。
「俺を『酷い人だと思った』って言ってたな。ショックだった」
 紫は溜息を吐きながら、
「しょうがないでしょ。実際、酷いことを言ったんだから。でも理子、
あなたに『酷いことを言ってごめんなさい』って言ってたわよ」
 よくよく考えてみると、まるで子供の痴話喧嘩みたいだ。
「マー、だけどあなたもつくづく子供ね」
「子供?俺が?」
「そうよ。まぁ、男っていくつになっても子供みたいだけどね。
とにかく、明々後日(しあさって)の土曜日、理子を病院へ連れて
行きなさい。但し、女医さんの所へね」
「女医?何故女医さんなんだ?」
「あなたも鈍いわねぇ。あなた、産婦人科の診察がどんなだか、
少しは知ってるでしょ?いいの?男で?」
 雅春は急に顔色を変えて
「嫌だ!」
 と、憮然とした顔で答えた。
「いい?妊娠するって事は、女にとっては色んなリスクが付いてくるの。
好きな人の子供を産むのは確かに幸せな事だけど、一方で、子供が
出来ると女はいろんな面で制限される。苦痛も味わう。まだ高校を
卒業したばかりで、一生懸命頑張って東大へ入ったって言うのに、
やりたい事は山ほどあるのに、子供が出来ることで、全てが制限さ
れちゃうのよ?わかる?結婚して何年も経った夫婦じゃないのよ?
まだ十代なのよ?病院へ行くのも怖がってたわよ、理子は」
 つい、語調が強くなった。
 結婚したからと言って、理子の生活や人生を縛るつもりはない、
自分の手で大きく羽ばたかせてやりたい、って言っていたのは
何処のどいつだ。
 雅春はうなだれた。
「姉貴の言う通りだよ。冷静になって考えてみれば、俺が悪かったんだ。
いつも俺は気持ちが先走ってしまう。相手が理子だから、ってのも
あるんだが。今までまともな恋愛をした事が無かったからな。いつも
冷めていたから、熱くなった自分をどうしていいのか、わからないって
部分もあるんだ」
 誰も愛せなかった弟が、初めて全身全霊で、ただ一人の女性を
愛するようになった。
 愛ゆえの苦悩。
 そんな弟が羨ましい。
 そして、愛の苦悩を味わっている弟は悩ましいほどに美しい。
 私はやっぱり、誰も愛せないのだろうか。
 他人を愛せないのは、この弟の存在があるからなのか・・・・。
 自分が狂ってしまうのではないかと心配になる程、誰かを本気で
好きになってみたかった。こうして愛に悩んでいる弟を羨ましく
思う紫だった。
「仕方ないわ。人を愛すると誰もがそうなるのよ、きっと」
 そう言う紫の姿は、どこか寂しげだった。
 紫は評判の良い女医がいる産婦人科を調べて連れて行くように
言い置くと、弟の家を後にした。

 翌朝理子が目覚めると、隣に雅春の姿が無かった。時計を見ると
7時半だった。寝過してしまったようだ。はっとして、慌てて体を
起こした。こんな事は初めてだ。昨夜はいつもよりも早く寝たのに。
起き上がってみると、なんだかだるい。慌てたところでこの時間だ。
雅春は少し前に出勤した筈だ。そう思って、落ち着いた。
 季節は既に梅雨に入っていて、はっきりしない天気が続いていた。
今日も空は重苦しい。雨は降っていないようだたった。
 着替えるのも面倒な程にだるかったが、誰もいないからと言って、
いつまでもだらしのない格好をしているわけにもいかない。着替えを
済ませてリビングへ行くと、ダイニングテーブルの上に食事の支度が
整っていて、書き置きがあった。

 “おはよう、理子。
  夕べはごめんな。俺が悪かった。
  また帰ってからゆっくり話そう。
  病院、調べておくから明後日一緒に行こう。
  朝食、ちゃんと食べるように。昼飯もな。“
 
 文末にはキスマークが書かれてあった。
 それを見て、僅かに頬が緩む。
 『先生なんて大嫌い』、そう言ってしまった事を後悔していた。
 どうしてあんなに感情的になってしまったんだろう。
 先生の言ったことは当然の事なのに。ただ、もっと話を聞いて
欲しかった。気持ちを酌んで欲しかった。感情をそのまま受け止めて
欲しかった・・・。
 雅春が作ってくれた朝食に目をやる。簡単な物だった。でも食欲の
無い理子には丁度良いように思えた。多分配慮してくれたのだろう。
ご飯をよそって、一人で静かにゆっくりと食べる。なんだか
とても寂しい。
先生も、一人で朝食を食べて出勤したんだ。
 そう思うと少し悲しくなった。
 何やってるんだろう、私。
 わかってもらえなかったら、わかってもらえるようにもっと
訴えれば良かったのだ。泣いて喚いて逃げたって、何にもならないのに。
 先生からしてみれば、ただただ理解不能な行動にしか見えなかった
だろう。その相手に更に追い討ちをかけるように
『大嫌い、顔も見たくない』なんて言うとは。
 理子は雅春に、昨日の事を詫びたメールを送った。
 雅春からの返事のメールは、昼休みの時間帯に来た。
 そこには“理子は悪くない。悪いのは俺だ。今日はなるべく早く
帰るから”とあった。
 先生が帰ってきたら、真っ先に謝ろう。
 そう固く決意した。

 理子からのメールを見て、雅春は取りあえずホッとした。
 朝起きて、隣で寝ている理子の顔を見た時、切ない気持ちに襲われた。
 ここのところ食欲が無かった理子は、少し痩せていた。妊娠した事で
ホルモンのバランスも崩れ、自律神経も乱れて精神的なストレスも
溜まっていたのだろう。通常の健康な状態では無かったのだ。だから、
あれ程感情的になったのだろうと、今になってわかる。
 大人の自分が、もっと冷静になるべきだった。自己嫌悪に駆られた。
きっと、心身ともに疲れているのだろうと思い、メモ紙を残して
静かに出勤したが、理子の事が気になって仕方がなかった。だから
理子からのメールを見た時、心の底からホッとした。
 今日は早く帰ろう。早く理子に会いたい。
 そろそろ期末テストへ向けての準備もあったが、定刻になった途端、
カバンを持って急ぎ足で学校を後にした。幸い、急な会議もなく、
誰に引き留められる事もなかった。
「ただいま」
 雅春が玄関に入ると、理子が駆け寄ってきた。
「先生・・・」
 理子は靴を脱いだばかりの雅春に抱きついた。
 雅春は理子を抱きしめた。ふんわりと、髪の匂いが鼻をくすぐる。
「先生、昨日はごめんなさい」
「理子、俺の方こそごめん。君の気持ちをわかってやれなくて」
 二人は強く抱きしめあった。
 理子は激しく頭を振った。
「ううん。私がいけなかったの。ちゃんと自分の気持ちを
伝えなかったから」
「そうさせたのは俺だ。傷つけて悪かった」
「私も先生を傷つけたわ。『大嫌い』なんて嘘。嘘なのよ?」
 理子は雅春の胸に埋めていた顔を上げて、雅春を見た。
「理子・・・。良かった」
 雅春は安心したように言うと、理子の唇に唇を重ねた。
 啄ばむように、何度も繰り返し甘噛みをする。
 その口からは、甘い吐息が流れてくる。
 理子はそれだけで、狂おしい気持ちになってくる。
 雅春の方は欲望が溢れ出そうになる。
 キスだけで、エクスタシーに達してしまいそうな勢いを感じる。
 理子にとっては、雅春の存在自体がいつも悩ましい。
 彼を見るだけで、体の芯から熱いものが湧いてくる。
 最初に会った時は、悩ましい程美しい存在ではあったが、所詮、
担任と生徒。身近な存在ではなかった。離れた所から憧れて
いるだけで良かった。
 しかし、その存在が近づく程に胸の奥が熱くなり、至近距離に
なった時から、そばにいると立っていられなくなるくらい、
頭も体も痺れてくるようになった。
 この人には勝てない。逆らえない。そういう気持ちになる。
 一方、雅春の方はと言えば、理子を知れば知るほど愛おしくなる。
一体それはいつまで続くのか、雅春にも皆目見当がつかなかった。
まるで底なし沼のように、理子にはまっていく。愛おしくてたまらない。
その姿を見ると触れたくなる。触れたら抱きしめたくなる。
抱きしめたら口づけたくなる。口づけたら、その体の隅々まで味わい
尽くしたくなる・・・・。その欲求にどうにも堪えられなくなって、
まだ17歳だった理子を犯してしまった。卒業してからと決めていたのに。
しかも、そのセックスは濃厚だった。理子はヴァージンだったのに。
 雅春は名残惜しげに唇を離すと、理子を誘(いざな)って、
リビングへと足を運んだ。
「ごめんなさい。なんだか気持ち悪くって食事の支度がまだなの」
 理子が申し訳なさそうに言った。
「いや、いいよ。俺が作るから」
 雅春は微笑んだ。その笑顔が堪らなく優しく素敵だった。
 雅春は着替えるとエプロンを付けて夕食の準備を始めた。理子は
そんな雅春を椅子に座って見つめていた。エプロン姿がよく似合う。
料理をしている姿も。いい男が料理をしている姿は、なんて
色っぽいんだろう、と理子は思った。しかも、自分の為に作って
くれている。これほどの幸せがあろうか。
 私はこの素敵な人の子供をこの身に宿したんだ。そして産み、
育てる。新しい家族ができる。今はそれがとても嬉しい。なのに
昨日はどうしてあんなに不安に駆られたのか。
「あんまり見られると緊張して指を切りそうだな」
 雅春が笑いながら理子を見た。
「ええー?先生でも緊張するんですか?」
「当たり前だろうが」
「人前でも平気でキスする人なのに?」
「緊張するのは理子に見つめられた時だけさ」
 白い歯を見せて笑う雅春が眩しかった。理子の胸はキューンとした。
「そろそろ出来上がるぞ」
「はーい」
 そう言って立ち上がった時だった。
 急に腹部に激痛が走った。
「痛いっ!」
 理子はお腹を押さえてその場に蹲(うずくま)った。
「理子!!」
 雅春が慌てて駆け寄ると、理子は出血していた。かなりの量だった。
「先生、・・・お腹がとっても痛い、どうしよう?お腹が・・・っ」
 理子は自分の足許から流れ出る大量の血を見て怖くなった。
「理子、しっかりしろ。今救急車を呼ぶから」
 雅春は急いで家の電話を取ると119番へ電話をした。


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~ Comment ~

Re: この時期の出血は……>misia2009様 

misia2009さん♪

そうですね。
非常に心配です…(-_-)

せっかく、気持も落ち着いてイイ感じに
なっていたと言うのに……。

この時期の出血は…… 

皮肉でもなんでもなく、ふつうに心配です……明日が怖いです……
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