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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 8.嵐 05

2010.09.18  *Edit 

「もしもし・・・、姉さん?」
 雅春は姉の紫に思い余って電話をした。
 最早、自分ではどうしたら良いのか分からなかったからだ。
 紫はまだ税理士事務所にいた。書類の整理をしていたところだった。
「えっ?理子が妊娠?」
 弟の雅春から事の次第を聞いて、紫は愕然とした。
「あんた、なんて事を言ったのよ!」
 紫の口から溜息が漏れた。
 男だからなのか・・・。あまりにも短絡的だ。
「あんた、もっと理子の事を分かってると思ってたのに」
 本来なら色んな恋愛を経験し、青春を謳歌し、社会に揉まれてから
結婚すべきところを、17歳でいきなり大人の男性と本気の恋に落ち、
大人のセックスを知り、高校卒業と同時に結婚してしまった。
おまけに、大学生活との両立。
 まだ十代でありながら、僅か二年のうちに生活が、人生が大きく
変化した中での、いきなりの妊娠。いくら結婚したからと言っても、
ついこの間高校を卒業し、大学へ入学したばかりだ。まさにこれから、
と言う時なのだから激しく動揺しないわけがない。
 子供ができれば女は否が応でも縛られる事になる。所詮は雅春も男。
それが理解できないのか。否、話せばわかる男だ。だが雅春は、
理子の気持ちをしっかり聞く前に、無神経な言葉を口にしてしまった。
軽率としか思えない。
「とにかく、私、これからそっちへ行くわ。待ってなさい」
 紫は携帯のスイッチを切ると、窓の外に目をやった。
 多くのビルの明かりが美しく瞬いている。いつもと変わらぬ光景だ。
 変わり映えのない、いつもの光景。
 だが、紫の胸の中はざわめいていた。
 あの娘は大丈夫よね?いつも前向きなあの娘なら・・・。
 そう自分に言い聞かせて、紫は事務所を後にした。

 インターホンが鳴った。
 誰かが訪ねてきたようだ。
 もう夜なのに、一体誰だろう。
 感情の昂りがいつまで経っても治まらない。
 どうしてわかってくれないんだろう?
 理子を理解し包んでくれる、全てを委ねられる人だったのに。
 どうしてあんな酷いことを?
 涙が次々と零れ落ちてくる。
「理子、私よ。紫。・・・大丈夫?」
 訪問者は義姉だったのか。きっと雅春が呼んだのだろう。
弟思いの姉だ。話を聞いて、飛んできたのに違いない。理子は
立ち上がると、そっとドアを開いた。
 ドアの外には紫が静かに微笑んで立っていた。
 雅春の姿は見受けられなかった。
「お義姉さん!」
 理子は紫の哀愁を帯びた顔を見て、その胸に飛び込んだ。
「理子・・・・」
 紫は優しく理子を抱きとめると、部屋の中へと移動した。勉強机の
前にある椅子に理子を座らせると、その手を優しく包み込んだ。
「マーから大体の話は聞いたわ。ごめんね、理子。マーがどれだけ
あなたを傷つけたか・・・」
「お義姉さんが謝ることなんてないのに・・・」
 鼻をすすりながら理子は言った。
「そうかもしれないけれど、弟だから。電話をもらって駆けつけて
来たんだけど、マーの馬鹿さ加減に腹が立って、顔を見た途端、
思わずひっぱたいてしまったわ」
 そういう紫に驚いて顔を見やると、雅春と何処となく似ている
その美しい顔には怒気が浮かび、蒸気していた。
本気で怒っていることが伝わってきた。
 理子はこの義姉が好きだった。
 美しい人。頭も良く、優しくて、情の濃い人だ。それに飾らない。
美しいから飾る必要なんて無いのかもしれない。雅春が飾る女性を
好まないのは、この義姉の存在が大きいからだろう。
 花に例えるなら、大輪の白百合か。
 清く気高く、ひとりでしっかりと立って咲いている。
「ねぇ、理子」
 紫の声は優しかった。
「私はまだ結婚も妊娠も経験が無いけど、同じ女として理子の
気持ちは良くわかるわ。いろんな事が一度に押し寄せてきて、
不安でたまらなかったんでしょう?」
 理子は頷いた。
「私、まさか、こんなに早くに子供ができるなんて、思って
なかったんです・・・。避妊していなかったから当然の結果では
あるんですけど・・・。甘かったんです、私。だけど、無条件に
喜べないからと言って、中絶なんて全く考えもしてなかったのに、
先生にあんな事を言われて・・・。あの時初めて先生のことを、
なんて酷い人なんだろう、って思いました」
 理子の閉じた瞼の濡れた睫毛が震えていた。目尻から涙の粒が
零れ落ちた。
紫は理子の手を軽く握り締めながら言った。
「それで『大嫌い』って言ったのね。『顔も見たくない』とも」
「はい・・・」
「マーも、それで深く傷ついたみたいよ」
「先生が?」
 顔を上げて紫を見ると、悲しそうな表情をしていた。
「あなたの気持ちはよくわかるわ。マーから言われた事に対する
悲しい気持ちも。でもね、理子。結局は男と女なのよ。男と女は
別の生き物と言ってもいいくらい、身体だけでなく心も違うのよ。
思考回路の作りが全く違うの」
「思考回路の作りが違う?」
「そうよ。どんなに分かり合えているようでも、どうしても分からない、
理解できない部分があるの。それが男と女なのよ。大事なのは、
少しでも理解しようと努力することじゃないかしら?マーが
悪かったのは、理解できないからこそ、もっとよく理子の話を
聞いてあげるべきところを、極端な論理に先走って、軽率な事
を口に出してしまった事だと思うの」
 紫は更に続けた。
「マーを許してあげることは、できないかしら?単純だから、極端な
部分があるのよ。いつもなら冷静なマーだけど、事が事だけに、
自分を見失っていたんだと思うわ。あなたを愛するが故に」
 愛するが故に・・・・。
 その言葉が胸に沁みた。
「明々後日(しあさって)は土曜日よね。マーと二人で病院へ
行ってきたら?」
「病院?」
 その言葉を聞いて、理子は再び不安と恐怖に襲われた。
「私、怖い!とっても不安。産婦人科へ行くのが・・・」
 その気持ちは紫にも理解できた。
 若い女が、夫や恋人でもない男の前で下半身をむき出しにして
足を開くのだ。出来れば避けて通りたいのも尤もな話だ。
しかもまだ十代だ。
「理子の気持ち、私もわかる。すごーく、よくわかる。でも、
病院へは行かないと。最近は女の先生も増えたから、女の先生が
やっている産婦人科へ行くといいわ。マーに調べさせておくから。
・・・ねっ?」
「お義姉さん・・・」
 理子は優しい紫の顔を見て、黙って頷いた。
 やっと少し気持ちが落ち着いてきた。
 雅春も自分も、あまりに冷静さを欠いていたんだと、わかってきた。
「疲れているんじゃない?まだ時間は早いけど、もう休んだら?」
 紫にそう言われて、自分がかなり疲労していることに気づいた理子は、
言われた通り休むことにした。紫に付き添われて寝室へと移動したが、
廊下にもリビングにも、勿論寝室にも雅春の姿は無かった。
自分の部屋にいるのだろうか?
「あの、・・・先生は?」
「自分の部屋で泣いてるんじゃない?」
「先生が?」
 紫は少し笑った。
「私が来た時は、泣いてたわよ」
 理子の胸が痛んだ。
「今夜は、放っておきなさい。あなたもマーも、もっと冷静に
なってから話し合うといいわ」
「・・・わかりました。でも、酷いことを言ってごめんなさいって
伝えてもらえますか?」
「ええ、わかったわ。でも、明日直接自分からも言うのよ」
「はい、勿論です」
 理子はベッドに入ると、すぐに眠りについた。

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