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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 8.嵐 04

2010.09.17  *Edit 

「最近、あまり食べないな。どこか悪いのか?」
 雅春が心配気に訊ねてきた。綺麗な顔に憂いが浮かぶ。
その顔を恥ずかし気に見ながら理子は答えた。
「大丈夫。どこも悪くはないの。でも、ちょっと食欲がなくて・・・」
 最近理子は食欲がない。
 ご飯の匂いが気になる。油の匂いが気になる。元々アレルギー気味で
匂いには敏感な理子だったが、ここ最近、やたらと匂いに敏感だ。
なんとなく胸がムカムカして食欲が湧かない。
 今日も昼に学食に入った途端、様々な食べ物と煙草と
デオドラントの匂いにあたって、急に気持ちが悪くなり、
思わず外へと飛び出したのだった。
「生理、ちゃんと来てる?」
「えっ?」
 雅春の言葉に一瞬戸惑う。
 生理・・・。そう言えば先月の予定日から2週間ほど遅れている。
 普段、大抵は予定通りに来るのだが、たまに大幅に遅れる時も
あるので気にしていなかった。特に先月は、雅春の学校での騒動や
志水の事などで精神的に不安定だった。
 だが・・・。
「言われてみれば遅れてるけど・・・」
「もしかして妊娠じゃないか?」
 雅春にそう言われて、理子は顔が引きつった。 
「まさか!」
「なぜ、そう言いきれる?」
「・・・・・」
 答えられずに雅春の顔を見ると、彼はおもむろに立ち上がった。
「妊娠検査薬を買ってくる」
 そう言うと、雅春は財布と鍵を持って急いで出ていこうとした。
 理子はそんな雅春を慌てて止めた。
「先生、待って!まだ早くてわからないんじゃないのかな」
「早くても構わないさ。とにかく調べてみよう」
 雅春はそう言うと、理子を振り切り出て行った。
 1人取り残された理子は、茫然と立ちすくむ。 
まさか、妊娠?
 まさか・・・!
 でも考えてみれば、おかしくはない。
 毎晩のように濃厚な夜を重ねてきた二人。
 しかも、避妊をしてはいなかった。
 妊娠しない方が逆に不自然だ。
 だが、そうは言っても矢張り想像もしていなかった。
 ちょっと考えればわかりそうな事なのに、生理が遅れていて、
胸がムカついて食欲がない事を妊娠と結びつけられなかった自分。
そんな自分が不思議だった。いや、どこかで予感していたのかも
しれない。ただその予感が現実になるとは夢思ってはいなかった。
思いたく無かった。
微かな不安が胸をよぎる。
 なぜ不安なのか・・・・?
 食卓の椅子に、落ち着かない気持ちで腰を下ろす。
 もし妊娠していたら、これからどうしよう?
 学校は?
 勉強は?
 果たして続けられるのか。
 そんな事をぼんやりと考えていたら雅春が戻ってきた。
 顔が薄らと蒸気している。
「先生・・・」
 立ち上がる理子に、雅春は買ってきた物を手渡した。
「トイレに行ってきなさい」
 有無をも言わさぬ強さがある。
 雅春のこういう物言いに理子は逆らえない。
 黙って頷いてトイレへと足を運んだ。
 トイレへ入ると、雅春が買ってきた物を開ける。
 ピンクの細長い箱の中に、体温計に似た形の、蓋付きの物が
入っていた。
 箱に書かれている説明書きを読んでみた。
 蓋を外すと中は細長い棒状になっていて、そこへ尿をかけて
30秒ほど待つと、陽性、つまり妊娠していたら、右側にある
窓の中に印が出るらしい。
 陰性なら、何も変わらず白いままのようだ。
 果たしてここに印が本当に出るのか?
疑心暗鬼な気持ちで、理子は説明書きにあるようにやってみた。
尿で濡れた棒から、湿り気が隣へと移動していくのがわかった。
30秒も待つまでもなく、窓の部分が濡れるに従い、はっきりと
縦線の印が現れた。
陽性。
 私、妊娠してる?
 なんだか、ピンとこない。でも、どうやら妊娠していることは
明らかのようだ。
 どうしよう?どうしたらいいの?私これから。
 理子はトイレの中で茫然としていた。望んでいない結果だった。
「理子!どうしたんだ?」
なかなか出てこない理子を心配して、雅春が外から声をかけてきた。
このままトイレにこもっているわけにもいかない。
不安な面持ちで理子はトイレから出た。
出てきた理子の持っている物に気づいた雅春は、彼女の手から
そっとそれを取り、現われている印を確認した。
「矢張り妊娠していたか!」
嬉しげに理子を見やると、理子は俯いたままだ。その表情はどこか暗い。
「どうしたんだ、理子・・・」
「先生・・・、私・・・、どうしよう?」
理子はそう言いながら雅春にしがみついた。不安でたまらなかった。
だがその理子の様子が、雅春には理解できなかった。
「どうしよう?」とはどういう事だ。頼りなげに寄り添う理子を
抱きかかえ、取りあえずリビングのソファへと座らせる。
理子の顔は真っ青だ。
「どうしたんだ、理子。嬉しくないのか?」
 理子は震えた。
 なんなんだろう、この気持ちは?
 愛する人の子供を宿したと言うのに、何故か素直に喜べない。
 色んな感情が一挙に押し寄せてくる。
 結婚した時の母親の言葉が蘇る。
『まだ学生なんだから、子供は卒業してからね』
 自分もそう思っていた。
 勉強したい事が山ほどある。読みたい本も後を絶たない。
 既に忙しい毎日。
 雅春との甘い夜の生活で、勉強や読書の時間が減り、ずっと
抱かれていたい気持ちと思い切り勉強したい気持ちの狭間で揺れる日々。
そこへ今度は子育てが入ってくるのか。
 先生の子供は欲しい。
 でも、それは今じゃない。
 だからと言って、じゃあ産まない選択をするのか?と言ったら、
それも違う。
 こんな風に、無条件に喜べない自分が嫌だ。
「理子」
 雅春が呼ぶ。
 その顔に恐々と視線を向ける。
「先生、私・・・・」
「理子は、嬉しくないのか?」
「そうじゃないの。・・・そうじゃないんだけど、何だか不安なの」
「不安?」
「だって私、まだ学生だし。大学に入ったばかりなのに妊娠なんて…。
どうしたらいいのか、わからないの」
「理子が大学に入ったばかりなのは俺だってわかってる。だから、
できれば子供は卒業してからの方が良かったってことも」
雅春の顔がどことなく怖い。いつもはもっと優しい顔をしているのに。
「だけど、俺達は結婚したんだ。結婚すれば子供が出来るのは自然の
流れだ。しかも、理子の方から、避妊を拒んだんじゃなかったか?」
「そうだけど・・・・」
 そうなのだ。
 高校在学中、雅春は大抵が外に出していた。それが理子には
なんだか切なかった。雅春の全てを、残らず受け止めたかった。
だから入籍してからは、中へ出してくれるようせがんだ。それに
対して雅春は最初は拒んだが、結局は出してしまい、
以来その状態が続いている。
 男からすれば、妊娠も覚悟しての行為と受け止めるのも自然だろう。
全ては自分の軽率さの結果だ。
 それはわかっている。頭では十分過ぎる程にわかっている。
 だが…。
「理子。君が不安に思うのもわかる。だけど、出来てしまった以上、
選択肢は2つしかない。産むか産まないか、だ。」
 雅春の、理子が好きな眼鏡の奥の瞳がいつになく厳しくなった。
 怖い・・・。
 得体の知れない恐怖が湧いてきた。
「理子は産みたくないのか?妊娠を喜べないと言うことは、
そういう事なのか?産まないと言う事は中絶するってことなんだぞ。
わかってるのか?」
 雅治の言葉に理子は思いきり首を振った。
「違う!そうじゃない!」
 たまらなくなって叫んだ。
「そういう事じゃないのっ!中絶なんてそんな事、これっぽっちも
考えてなんかいないのに。どうしてそんな事を言うの?」
 理子は雅春の腕を振り払うと立ち上がった。
「先生は、・・・先生はなんにもわかってない。産むのが不安な事と
中絶がどうして結びつくのか、私には理解できないっ!!」
 理子は悲しくなった。深い悲しみの感情に支配され、雅春と
向きあっているのが耐えられなくなった。
 誰よりも自分を理解し守ってくれていると信じていたのに、
そんな事を言われるなんて思ってもみなかった。その場に一緒に
いるのが辛くて悲しくて、理子は自分の勉強部屋へと駆け込んで
号泣した。
「理子っ!」
 泣きながら自分の部屋へと駆け込んだ理子を追いかけて、雅春は
ドアを開けようとしたが、中から力が加わっていて動かない。
「理子っ!開けるんだ!開けれくれ」
「イヤ!先生なんて、大っ嫌い!顔も見たくない、あっちへ行って!」
 そう言うと、理子は号泣した。
 雅春は深く傷ついた。
 他人から「大嫌い」だなんて言われたことは未だかつて無かった。
それを最愛の女性から言われて、胸に大きな痛みを感じた。
そんなに自分は、理子を傷つけたのか?
 彼女をいきなり犯してしまった時は、理子の痛みや悲しみが
理解できた。だが、今回の場合、どうしてここまで理子が怒るのか
理解できない雅春だった。だが、自分の不用意な言葉が彼女を
傷つけてしまったらしい事は分かった。
「理子っ!傷つけたのなら謝る。俺が悪かった。だから、出てきてくれ」
 だが、理子は扉の向こうで泣き続けるだけだった。


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~ Comment ~

Re: ふむふむ。>misia2009様 

misia2009さん♪

嵐と言っても、本当の所はまだ序の口なのです。

先生の事、よくお分かりになってくださいました。
選択肢を与えて選ばせるって事、何度かしてますよね。
大体が二者択一で有無をも言わせぬ強引さがあって。
今回は特に、産むか産まないかの二択しか無いのは当然の事なので、
こういう事になったわけですが、全くデリカシーに欠けてますねww

最終的にはどちらかなんだけど、その間にある気持ち、にまでは
まだまだ思いが及ばないようです。
なんせ、まともな付き合いの経験が無い人ですし。

理子も理子で、まだ若くて男の事なんて、よくわかってないしね^^

こうした、二人の習性(?)が、後の物語に大きく影響するのです。

ふむふむ。 

こういう嵐もあるか…

先生、あれですね。
「あれか、これか」っていう、結論はすでに出てる、どっちか決める、それしか選択肢はないって言い方よくしますね。
論理的に考えるにあたって研究者(タイプ)として正しいんですが…

女に慣れてないなあ!

「男とはそういうものだ」ということに理子は理子で慣れてないわけですが。
いかにも若いふたり、明日も楽しみです。
(人が悪い)

Re: NoTitle>水聖様 

水聖さん♪

まぁ、当然の結果ですね。
避妊してなかったんだから。
若気の至りかな。
でもまぁ、結婚してるんだから、いいんじゃないのかな。
人生設計が崩れても、また新しい状況に応じて作り直せば
いいわけですし。

ただその辺の捉え方は個々によって違うし、受けた打撃も
個々によって違うので、二人がどうするのかは、二人次第ですね。

そう言えば、この間、東大大学院卒業生のインタビューの中に、
在学中に結婚・出産をされたご夫婦のお話があって読んだんですが、
学生中の方が、妊娠・出産は楽だっておっしゃってまして。
保育園に預けるわけですが、普段のお迎えも病気になった時の
急な対応も、学生だから自由が利くってお話に、へぇ~、なるほど、と
目からウロコな思いがしました。
やっぱり物は考えようなんだな、と勉強になりました^^

NoTitle 

あららら・・・
妊娠ですか。
どっちの気持ちもわかりますが、どっちも配慮が足りない気がします。情熱のままに振舞うんじゃなくて、ちゃんと話し合うべきでしたね。子供は計画的に作らないと人生設計が崩れます。
でも、こうなった以上、後戻りはできないわけで。
ふたりの今後が気になります。
「中出ししたいのなら、ピル飲むか基礎体温つけましょうw」
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