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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 7.終 息 09

2010.09.13  *Edit 

「志水君と喧嘩でもしたの?」
 二人が一緒の席に座っていない事にすぐに気付いた愛理に、
そう言われた。
「喧嘩ってわけでもないんだけど・・・」
 理子はどう話したら良いのかわからなかった。まさか、
告白されたとは言えない。
「じゃぁ、どうしたの?」
 そう突っ込まれて、うーん・・・、と言葉を濁す。
「もしかして、噂が原因?」
 美香が言った。
「まぁ、そうだね」
「そんなの、言わせておけばいいじゃん!」
「でも、やっぱり、ね。他人から誤解を受けるような事は
したくないと言うか。一応、結婚してるわけだし」
「理子って、案外お堅いんだね」
 愛理の言葉に力無く笑った。
 志水が自分をただの友人だとしか思っていないのであるならば、
理子は噂なんて気にしない。人が何と言おうと関係ない。だが実際には
そうでは無かった。相手の気持ちに応える事が出来ないのに、
親しくはできない。
 しかも相手は、枝本達のように、これからも友人でいてくれと
言っている訳ではなく、理子の心が志水へ向くのを期待している。
今以上に親しくなるのを期待している相手と、毎日を一緒には過ごせない。
 あの日の翌日。
 いつもの席に座っていた理子の隣の席に、志水がやってきた。
その気配に気づいて顔を上げた理子に、志水は笑いかけた。
「昨日はごめんよ。だから、傍にいさせてくれないか」
 彼はそう言った。
「昨日言った筈よ。傍に座らないでって。謝られても、
その気持ちは変わらない」
 理子は冷たく言い放った。それを受けて志水の顔から笑顔が消え、
寂しそうな顔をした。初めて見る志水のそんな顔に、理子の胸は僅かに
痛んだ。だが、もう一緒にいるわけにはいかない。
 そのまま立ちつくす志水に、理子は立ち上がって自ら席を移動した。
志水はそんな理子を茫然と見ていた。
 それ以来、二人は別々に座っている。次の授業から志水は理子から
少し離れた席に座るようになった。だが、理子は志水が自分を
見ている事を感じる。その視線が痛い。
 昼休みも、クラスメイト達との団欒の席に志水はいるが、理子からは
距離を置いている。いつも傍にいたのだから、初日からすぐに周囲は
二人の様子に疑問を持った。
「どうしたの?彼氏は一緒じゃないの?」
 翌日、他のクラスの男子がそう言って隣に座って来た。
理子はその問いかけを無視した。
「俺さ、山口って言うんだ。ヨロシク」
 その様子に、他の男子達も寄って来た。そして、あれこれと理子に
話しかけては色々と詮索してくる。お茶に映画にサークルにと、
誘ってこられて理子はうんざりした。こんなに男子に誘われるのは
初めてだった。これまで理子の周囲は男子の方が多かったが、
こんな事は無かった。
「私、結婚してるんですけど」
 と、理子は無愛想に言った。
「知ってるよ。だけど、お茶とかちょっとデートするくらいはいいじゃん。
まだ大学生になったばかりなのに、旦那さん以外の男とは
付き合わないってのも勿体なく無い?」
 と、一人が言った。
「勿体なくなんか無いけど。それに、私と付き合っても面白く
ないと思うし」
 理子の言葉に、笑いが起こった。
「面白いか否かを判断するのは、君じゃ無くてこっちだよ。
付き合ってみなきゃ、わからない事じゃん」
「そう言われても、その気無いから」
 理子はそう言うと、後は無視した。間もなく教師が入って来たので、
ホッとした。何でこんなに興味を持たれるのだろう?理子は不思議で
しょうがない。あんな風にこれからも付き纏われるとしたら、
鬱陶しい事甚だしい。
 愛理や美香と一緒の時には、彼女達目当ての男子が周囲を囲む。
彼らもこれまでは理子の傍に志水がいたので遠慮していたが、志水が
いなくなった途端、理子にも声を掛けるようになった。
 ああ、鬱陶しい!
 雅春の学校でのトラブルで、理子自身の精神状態も少し乱れている。
毎日雅春から学校での様子を聞いていて、少しずつ良い方向へ向かって
いるようには感じられるものの、晴れやかな気持ちではいられない。
だから、せめて学校では落ち着いていたかった。
「どうしたんだよ。なんか苛ついてないかぁ?」
 クラスメイトの富樫が隣に座って言った。これまでも同じ授業の
時には比較的近くに座っていた男子だ。富樫も3年時に日本史へ
進学する予定でいる。背が高くスラッとしていて色黒で、
理子好みの眼鏡だ。
「そう見える?」
「見える。男どもに声を掛けられるのが嫌なのか?」
「ただの友達としてならいいけど、何ていうか、みんな下心
ありありなんだもん」
「それはお前、自意識過剰じゃないのか」
 富樫の言葉に、理子は少しムッとした。
「お前が人妻だから興味あんだよ。だから適当にいなしてりゃぁ
いいのさ。ちょっとは愛理を見習ったらどうだ?」
「愛理はそういうの馴れてるから。私は馴れて無いもん。
こんな事、初めてだし」
 富樫は目を見開いて驚いた。
「馬鹿言うなよ。結婚してて初めてってのは無いだろう」
「結婚してたって、初めては初めてなの。男友達は多かったわよ。
みんな、私を女の子としてじゃなくて、まるで普通の男友達と
話すような口ぶりや内容だったし。アプローチされた事って、
皆無に等しいの」
「げー、信じらんねぇ」
 富樫は不信そうに、理子を眺め回した。
「信じらんなくったって、本当だもん」
「ならお前、結婚早まったな」
「どうしてよ」
「まともに男と付き合った事が無いんだろ。そんなんで、よく結婚
するよな。お前の旦那さん、確かにいい男だから好きになるのも
わかるけどさ。他の男を知らなくて、この若さで一人に決めるのは
早計だよ」
「だから、何でよ」
 理子の口調が少し強くなった。
「男はこの世に沢山いるんだぜ。たった一人しか知らなかったら、
比較のしようもないじゃないか。色んな男と付き合って、男ってもんを
ある程度知った上でいい男を選ぶもんだよ」
 なんだか、どこかで聞いたようなセリフって気がする・・・。
「その様子じゃ、セックスの方も旦那さんが初めてか」
 理子は黙ったまま富樫を見つめた。
「ふーん。やっぱ、勿体ない。それじゃぁ、相手がいいのかどうか、
本当にわからないな。お前、セックスだって相性があるんだぞ。
イッた事、あるのか?」
「あのさぁ。教室で話す内容じゃないんじゃない?それに、イッた事が
あるか否かなんて、富樫君には関係ない事じゃない」
 理子に言われて富樫は笑った。
「それはそうだ。俺には関係ない。ただ、イッた事が無いんだったら、
旦那さんに頼んでイカせて貰えよ。お前の旦那さん、この間の話しじゃ
経験豊富みたいだもんな」
「頼めばイカせて貰えるものなの?」
 理子は単純に疑問に思ったので訊いてみた。
「テクニシャンならできるだろ」
「因みに富樫君は?」
「俺は、相手によるな。お前のような経験の少ない女は俺には無理だ」
「と言う事は、富樫君もそれなりに経験豊富って事なんだ」
 理子はそう言って笑った。
「お前って変わってるな」
 富樫が呆れ顔で言った。
「そうでしょう。中高の時は、男友達とこんな話し平気でしてたわよ」
「成る程な。だから女扱いされなかったってわけか。まぁ、
中高の時はガキだからだ。だけどお前、それならそんな調子で他の
連中とも話せばいいじゃんか。適当に扱って、深入りして
きそうだったら突っぱねる。とは言っても、多分みんな深入りは
しないぞ。適当にデートして楽しめればそれでいい。深入りして、
お前が離婚とかになって、慰謝料とか請求されたら大変だからな。
折角東大に入ったのに将来を棒に振りかねない。だから深刻に
考える必要なんて無い。心配いらない」
「ふーん」
 と、理子は感心したように富樫を見た。この人はこの人なりに、
もしかして励ましてくれてるのか?
「それに、そうした方が、あいつも諦めるんじゃないか?」
「あいつ?」
「志水だよ」
 理子は驚いた。何故いきなり志水の名前が出てくるのか。
「あいつと何かあったんだろう」
「みんな、同じ事言うね」
「そりゃそうだろう。ずっと一緒だったからな。もしかして、
コクられたとか」
 理子は富樫を見つめる。何を思ってそんな事を言うのだろう。
「図星だな。でも、それならあいつを遠ざけたのは正解だ」
「どうして?」
「お前に興味を持ってる男は結構いる。人妻だからって理由だけの
ヤツもいれば、普通に女としてお前に惹かれてるヤツもいる。だが、
結局は人妻だ。深入りして不倫しようとか、旦那さんから奪おうとか、
そこまで思ってるヤツはいない。唯一人を除いては」
「どうして富樫君にそれがわかるの?」
「あいつを見てればわかるよ。履修科目が全部一緒だから、ずっと
一緒なのはわかる。だけど、何ていうか、あいつは普段から女子には
全く興味を示さないじゃないか。大体が冷たい。なのに、お前に対して
だけは違う。だから、妙な噂がたったんだ。どう見たって、志水は
お前を特別視してる。お前が結婚してるとわかった時、あいつ以外の
男子はみんな引いた。他のクラスの連中だって、本気で言い寄ってる
ヤツはいない。なのに、あいつは変わらない。あいつだけが変わらず
お前を本気で好きなんだ。だけどそれじゃ、お前は困るよな。だから、
遠ざけたんだろ?」
「他のみんなも、富樫君と同じように思ってるのかな。
志水君がコクったとか・・・」
「さあな。ただ、志水のお前への気持ちは、みんな気付いてると思うぜ」
 そうか。結局、気付かなかったのは自分だけだったのか。やっぱり、
相変わらず自分は鈍いんだ、と理子は思った。
「富樫君って、結構鋭いのね。だけど、その事は誰にも
言わないでくれる?」
「わかった。俺はお喋りじゃないから、安心しろ」
 その日から、富樫は授業が一緒の時には隣に座って来るようになった。
これまでも、同じクラスの男子達は、授業が同じ時には傍に座っている
事が多かった。だから、志水の席が空いた所へ、誰かしらが座るように
なった。そこへ愛理達が加わると、一気に場が明るくなる。
 段々、志水が隣にいない事に馴れてゆく。
 最初は寂しかった。ふと隣に視線をやると、別の人間が座っている。
毎日毎日ずっと一緒にいたから、そこにいるのが当たり前的な感覚に
なっていたようだ。だが、いなきゃいないで、それもまた当たり前に
なってゆくのだな、と思うと、それがまたちょっと寂しかったりする。
 とは言っても、志水は遠巻きな感じで、常に理子の様子を窺っている。
帰る時も、一定の距離を保ちながら、ずっと理子の後を付いて来る。
電車も同じ車両の離れた所に乗る。見られているのを感じて、
息が詰まる。二子玉で彼が下りると、解放感で一杯になるのだった。
一緒にいる時はホッとする相手だったが、今の状況は非常に鬱陶しい。
 富樫は、他の連中と適当に付き合っていれば、そのうちに志水も
諦めるだろうと言った。八方美人にしていれば、愛想を尽かすだろうか。
帰る時もずっと後を付いて来る志水だが、他の男子とデートに
向かったらどうするのだろう?付いてくるのだろうか?ふと、
そんな疑問が湧いた。
 そんな時、他のクラスの男子からお茶に誘われた。鈴木脩一と言う、
中肉中背の眼鏡を掛けた男子だった。
「増山さんって、よく本を読んでるよね。俺も好きなんだよね」
 と、話しかけて来た。そこで本の話題で少し花が咲き、もっと色々
話したいから放課後にお茶しないかと誘われたのだった。理子は
富樫の言葉を思い出し、鈴木と言う名字は気に入らないが、
まぁお茶くらいならいいかと思って、了解した。
 放課後、駅で待ち合わせた。志水はいつものように距離を保ちながら
後にいる。理子は先に来ていた鈴木と合流し、一緒に電車に乗った。
電車の中では、たわいもない話ししかしなかった。
 渋谷で降りて外へ出る。それから後は、鈴木の案内で道玄坂の途中に
ある喫茶店へ入った。途中、背後を窺ったが、志水がいる気配は
感じられなかった。店へ入った後も、志水が中へ入って来る事は
無かったし、窓際の席だったからずっと外を見ていたが、それらしい
人間は見当たらなかった。
 理子と鈴木が一緒に渋谷の街へ出たのを見て、後を追うのを諦めたに
違いない。理子はホッとした。
鈴木との時間は、理子にとっては期待外れだった。色々と話してみると
好みが違うし、互いに読んだ事のある本でも、感じ方がまるで違う。
感じ方が違っても、新しい発見をしたような気持ちになる場合と、
全く共鳴しない場合があるが、鈴木の場合は後者だった。意見を
交わし合っても、違和感を感じる。きっと話を続けていても
平行線だろうと思ったから、理子は相槌を打つばかりで話さなくなった。
「私そろそろ帰るね」
 30分ほどして理子は席を立った。
「えっ?もう?」
「うん。夕飯の支度があるから」
 理子はそう言って笑うと、すたすたと店を出て駅へ向かった。
 なんだか、時間の無駄だった気がする……。雅春に対して
後ろめたいような気持ちが湧いてきた。
 田園都市線のホームに入ると、電車が間もなく発車するところ
だったので慌てて飛び乗った。ホッと溜息を吐く。鞄から本を出すと、
吊革に掴まって読みだした。最近気に入っている作家の歴史小説だ。
 柳生十兵衛が新陰流を習得していくまでの話しだ。冒険譚風の話しの
運びになっていて、読みだすとすぐにその世界に入り込んでしまう。
 電車がもうすぐ二子玉川へ到着する頃、自分の隣に人が立った気配に
気づいた。それと同時に、「理子、あんな奴と付き合うべきじゃないよ」と、
少し鼻に掛った落ち着いた声が自分の耳元で囁いた。
 理子はびっくりして隣を見上げたら、志水が立っていた。志水が
理子を見下ろして、いつもの謎の微笑を浮かべている。
 信じられない思いだった。何故ここに志水がいる。
 すぐに電車は二子玉川に到着し、茫然としている理子を尻目に
志水は降りて行った。理子は信じられない思いで、読みかけの本を
開いたまま立ちつくした。


    7.終 息  了  8.嵐  へつづく。。。


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~ Comment ~

Re: し、しみずくん…>OH林檎様 

OH林檎さん♪

> とうとうストーカーデビュー?

ははは…、確かにストーカーみたいだよね、これじゃ。
そばに来ないで、って言われて、
そばには行かないけど、一定の距離を保って
結局は周囲にいるんだから、ストーカーと変わらないのかしら。

この後、エスカレートするのか否か?
お楽しみに^^

し、しみずくん… 

とうとうストーカーデビュー?
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