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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 7.終 息 04

2010.09.08  *Edit 

 生徒達から聴取した結果は、大体が雅春が思っていた通りだった。
 一番多かったのは、本当に在学中に恋愛していたのか、と言う
質問だった。次に多かったのが、相手が本当に東大合格者の
女生徒なのか、と言う事。
 あとは、在学中から肉体関係にあったのかどうか、相手は
女子高生なのに何故手を出したのか、東大に合格する為に
つきっきりで勉強を教えたのか、他の女生徒には冷たいのに彼女だけ
贔屓ではないのか、校内で密会していたのか、何処で逢っていたのか、
などに大別できた。
 雅春は思う。一体、だから何だと言うのだろう。二人は真剣に
愛し合い結婚した。恋愛も結婚も自由の筈だ。法に抵触するような事は
していない。誰に迷惑をかけたわけでもない。結局は受け手側の
気持ちの問題だろう。不愉快に思うのは自由だ。気に入らない人間が
いても当たり前だ。だが、だからと言って、それで責められても
迷惑なだけだ。
 そもそも、教師とは言っても私人だ。恋愛や結婚と言う個人的な
事柄を、詳細に他人に語る義務は無い筈だ。訊く権利があると言うなら、
こちらには言わない権利がある。容疑者であっても、黙秘権は
法律で保障されている。
 しかも、雅春の相手は未成年だ。彼女のプライベートも保護される
べきではないのか。二人だけが共有した多くの出来事や想いを他人に
明かす義務はない。彼らはそんな事などまるでお構いなしだ。
自分達の知る権利ばかりを主張している。
 まともに相手にする事自体、馬鹿馬鹿しい。だが、最低限の事には
答えてやろうとは思った。あとは、生徒達がどう思い、どう判断し、
どう行動しようと、彼らの自由である。その後の事は生徒達の
自主性に任せるしかない。変わらぬ批判の嵐が続いたとしても、
もうそれに雅春は関知しないと決めていた。また、授業をまともに
受けなくても、雅春の知った事ではない。
 目的がしっかりしている者、頭のいい者は既に今回の騒動から
距離を置き始めている。所詮は自分の人生だ。他人の事にかまけていては
損をするだけだ。それがわからない者は放っておくしかない。
 雅春は回答文書を作り、全生徒に配布した。そして、更に質問の
ある者は、日本史の最初の授業の時のみ受け付けると書き添えた。
一年生に関しては、どうしても納得できないなら職員室まで来て
直接訊くようにとも書いた。
 こうして各クラスで、似たような問答が繰り返された。自ら進んで
始めた事だが、流石に同じ事の繰り返しにうんざりする。だが、
一通り終わった頃には、事態は終息へと向かい始めていると感じた。
感情論ばかりを振りかざし、未だに納得せずに文句を言っている者も
少なからずいる。だが、多くは引いた。
 雅春との問答で、噂の内容は殆どが出鱈目だった事が明らかになった。
事実は、東大に合格した女生徒と在学中から恋愛関係になり、卒業後に
結婚した、と言うことだけだ。それだけの事だ。その事実を生理的に
好まないと言う事はあっても、問題視するような事柄では無い。
 二人の恋愛と結婚により、実害を被った者は誰もいない。むしろ、
雅春の頑張りにより、多くの生徒が志望校へ合格できたのだから、
感謝されても文句を言われる筋合いは無い。その事を雅春本人から
言われて、生徒達は反論できなかった。
 二人の秘め事を他人に語るつもりは無い。お前達にはそこまで知る
権利は無い。犯罪を犯した訳でもないのに責められる謂われは無い。
雅春の言葉はいちいち尤もだった。
 そうして直接色々と話してみると、生徒達は自分達が如何に不毛な
事をしていたかを悟るようになってきた。噂し合うのはいい。だが、
勉強を疎かにしてきた事は馬鹿だったとしか言いようが無かった。
 雅春への批判はまだ鎮火したとは言えないが、生活態度、学習態度は
明らかに変わりつつあった。生徒達も徐々に冷静になってきた。
 この生徒達の様子に、職員達も胸を撫で下ろした。
「増山先生。取りあえず良かったな」
 諸星にそう言われ、笑顔を返す。
「そうですね。まぁ、僕としては殆ど開き直って強く出たんですけどね。
或る意味、捨て身ですよ。辞めてもいいんだと思ったら、気が楽に
なりました。逆に、進路指導でまた大忙しになるのかと思うと
憂鬱だったりします」
「それはやっぱり、理子との時間が減るからか?」
「そうですよ。折角一緒になれたと言うのに、二人の時間が
短いのが不満ですね」
諸星は爆笑した。
「それはまぁ、仕方ないね。君の職分だ。君が忙しいなら、俺が
変わりに理子を慰めてやろうか?」
 冗談とは知りながらも、雅春はつい諸星を睨んだ。
「やめて下さいよ、僕の留守中に上がりこんだりとかは」
「はっはっはっ。俺はジジイだから、心配いらんよ」
「ジジイであっても、男はみんな狼だっておっしゃったのは
諸星先生でしょう」
「そうだったかなぁ~?」
 と、諸星はすっと呆(ぼ)けるのだった。
「そう言えば、上がりこむで思い出したんが、物理の牧田先生
なんだがな。今年卒業した女生徒が頻繁に牧田先生のアパートに
上がりこんでたそうでな」
「はぁ?何ですかそれは」
 諸星がその話しを始めた時、二人は校長から声を掛けられ、
校長室へ来るように言われた。何事かと思い、二人で出向くと
そこには牧田と熊田がいた。
「増山先生。取りあえず、事態は収束に向かい出したようで
良かったですね。私もホッとしましたよ」
 と校長が言った。
「校長先生には色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
それと何かと擁護して頂き、感謝に堪えません。妻も校長先生には
とても感謝しています」
 雅春は深く頭を下げた。
「私は当たり前の事をしたまでです。在学中から交際を始めて
しまった事は、まぁ、教師と生徒と言う間柄ですから周囲から不純な
目で見られるのも仕方ないとは思います。ですが、負い目を感じる
ような事柄でもない。君が彼女を弄んだと言うならば、これは大問題だが
真面目に付き合って結婚したんだからね。そんな事で処分を受けるのは
理不尽ですよ。今回、増山先生に殊更辛く当った職員もいましたが、
それはそれ。今後も気にせず頑張って下さい」
「ありがとうございます」
「理子君からも、君の事を宜しく頼むと言われてるしね。自分と
結婚した事で周囲の君への風当たりが強くなるかもしれないからと
心配していましたが、その通りになってしまった感じだね。
彼女も随分、気に病んだ事でしょうね」
「校長。理子のヤツ、朝霧なんて辞めたらいいって増山先生に言った
そうですよ。大した奴だよ、彼女は」
「いえ、それは、そう言えば僕が奮起するだろうと思って、
わざと言ったんですよ」
この件に関しては、夫婦の間で色々とあっただけに、雅春としては
避けて通りたかった。
「そうですか。まぁ、それはいいとして、こうしてここへ来て頂いた
本題に入りましょう。実はですね。牧田先生が困惑されてましてね」
 校長の言葉に、全員が牧田を見た。牧田は恐縮したように
縮こまっている。
「もしかして、アレか?卒業生が君のアパートにって話しか」
 諸星が言った。それに対し、牧田は驚いて、
「ご存じなんですか?」
 と言った。
「いや、ご存じじゃない。チラっと小耳に挟んだだけだ」
 牧田は気まずそうな顔をした。
「あの、それで僕も何か関係があるんですか?」
 雅春は訊いた。物理も日本史も2年生の必修科目だが、雅春は
3年の担任を受け持っている為、牧田と普段関わる事は少ない。
「牧田先生の話しを窺ったら、増山先生にも関係のある
話しだったんですよ」
 校長にそう言われ、雅春は一体何なんだろうと思った。
「牧田先生の話しによりますと、春休みに入ってから、今年卒業した
或る女生徒が牧田先生のアパートに訪ねてくるようになったそうなんです。
初めて訪問してきた時は、他の生徒達と一緒だったので部屋へ
上げたそうです。それから暫くして、彼女一人だけがやってきて、
躊躇している牧田先生を尻目に勝手に上がりこんだそうです。
上がりこんで、散らかっている部屋を片付けて、お茶を淹れて、
愚痴や噂話をしきりにして帰ったそうです。そして、4月に入って
からは毎週のようにやってきては、同じように勝手に上がりこんで、
同じように掃除をしてお茶を淹れ、お喋りをして帰って行く。
その繰り返しだったそうなんです」
「なんだ、それはぁ?」
 校長の話に諸星が言った。
「なんだか、訳がわからんぞ。その女生徒も女生徒だが、上げる
牧田先生もおかしいぞ。何か下心でもあったのか?」
 諸星の言葉に牧田はムッとした顔をした。
「とんでもありません。はっきり言って、僕は迷惑してたんですよ。
僕だって、彼女が毎週やってくる訳がわからない。おまけに、人を
押しのけるようにして、勝手に上がりこんで来るんですよ。それを
とっ捕まえて強引に外へ追い出す訳にもいかないでしょう」
 大人しい牧田にしては珍しく興奮した口ぶりだ。
「それでですね。その女生徒と言うのが、熊田先生が担任をしていた、
鈴木綾子なんですよ」
「綾子ぉ?」
 と、熊田と諸星は同時に驚いた。雅春も、内心驚いていた。
何故なら、つい昨日、理子からその名前を聞いたばかりだったからだ。


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